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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1941/2805

コスプレ衣装

 ストレリチアでは生活していた期間が長いため、それなりに城下で衣服の購入もしている。


 しかも、ちょうど成長期だったためにサイズも大きく変わった時期だったために、それなりの量を買い揃えた。


 だが、それらの服には「法力」に関する識別結果は残念ながら付いてこなかった。


 考えてみれば、「法力国家」が、法力の強化を城下の人間や神官たちに推奨したり、その対策となる「法力耐性」を付ける服を身に着けさせることがあるはずもないのだ。


 だが……。


「ここに、若宮から渡されたオレ用の『コスプレ衣装』があるんだが……」


 それを栞の前に差し出す気になったのは、ほんの出来心としか言いようがなかった。


「ああ、情報国家の国王陛下と初対面時に着ていた服だね」


 栞は一目見て、ソレに気付く。


「何故、覚えている?」

「印象強かったからだよ」


 妙に嬉しそうな顔でそう言われた。


「これを、識別する気はあるか?」

「あなたは嫌そうだね」

「おお。若宮の悪ふざけの一部だからな」


 城内で、いきなりとっ捕まって、「笹さん! これを着て高田を喜ばせなさい!! 」などと言われたら、一般庶民であるオレに逆らうことなどできるはずがない。


 相手は、曲がりなりにもその国の王族なのだから。


 衣装と共に銀髪碧眼にされたが、オレはコレが何のキャラかは分からない。

 だから、この衣装で本当に栞が喜んだかどうかは謎だった。


「まあ、識別魔法の練習として、使わせてもらうね」


 そう言いながら、栞は受け取った。


 さらに……。


「せっかくだから、着てみる?」

「もう着ない!!」


 揶揄うようにそう言われたら、反発したくもなるだろう。


 だが、特に栞は気にした様子もなく、黒い服に加えて、銀色の胸当て、篭手、臑当を一つずつ、楽しそうに見ている。


 絵の資料か?


 そう言えば、以前、努力の神ティオフェが着るイメージとして、こんな感じの軽鎧をさらさらと描いていた覚えがある。


 栞の好きなキャラか?

 だが、心当たりはない。


 有名なRPGにシルバー系の装備品名称としてあった気がするが、それらは、イメージイラストが付いているわけではなかった。


「どうしよう? 一つずついく?」

「そうだな。その方が良いだろう」


 その過程で何のキャラクターなのかが表示される可能性はあるだろう。

 オレはそんな軽い気持ちで、栞に識別を頼んだ。


 だが、そこに驚愕の事実が記されることになる。


「防護服上衣〔黒色〕。リアダカルクの皮にルウの毛をキルティングした防護ジャケット。ストレリチア製。衝撃吸収、大。魔法耐性、法力耐性、大。物理耐性、中。神力耐性、極小。笹ヶ谷九十九のために作られている」


 栞は書かれている文字を読んだだけだが、俄かには信じられない事実があった。


 法力耐性や神力耐性については、そこまで驚くべきところではない。


 かの国は法力国家だ。

 だから、それを施すのは大神官の手を借りればなんとかなるだろう。


 大神官の無駄使いだとは思うが。


 それよりも……。


「リアダカルク、だと?」


 その事実に驚いた。


 確かに手渡された時、高級品っぽいと呆れたが、まさか、そこまでのものだとは思っていたなかったのだ。


「リアダカルクって?」

「人間界で言うワニみたいな魔獣だ。その皮は魔法耐性、物理耐性が高く、レザーメイルとして好まれているが、必要以上に乱獲することは禁止されている」


 しかも物理耐性が高いため、キルティング加工するのは相当難しいはずだ。


 さらに、衝撃吸収用に、ルウの毛を中に詰め込んでいるとかおかしいだろ?


 ルウは人間界で言う毛玉の塊、違った、メリノ種と呼ばれる羊によく似た魔獣だが、その性質は、自分の身体よりも大きな落石すら跳ね返すほどの強靭な毛を持っているのが特徴だ。


 つまり頑丈すぎる毛を持つ魔獣と考えれば間違いない。


「これって、布に見えるけど、魔獣(ワニ)の皮なの?」

「お前の識別結果を信じるなら、そうだな」


 あの王女殿下は、一体、何を考えているんだ?

 悪ふざけに全力を尽くすにも程があるだろう。


「えっと、次はズボンの方だね」


 そう言いながら、栞はまた識別する。


「防護服下衣〔黒色〕。リアダカルクの皮にルウとスイルフの混合毛をキルティングした防護ズボン。ストレリチア製。衝撃吸収、大。魔法耐性、法力耐性、大。物理耐性、中。神力耐性、極小。()()()()、大。笹ヶ谷九十九のために作られている」


 待て?


「上着と違うのは、毛の種類と、鎮静効果が追加されたね」


 栞は笑顔だが、オレは笑えない。


 何故、上半身には何もなかったのに、()()()()()()()()()()に対して、そんな効果が追加付与されている?


 ()()()()()ってか!?

 あの腐れ王女!!


 因みにスイルフは、人間界で言うコリデール種に似た羊っぽい魔獣である。


 穏やかで環境適応能力が高く、どの大陸でも見かけるが、一度、戦闘に入ると、群れを呼び寄せ、集団で誘眠の術を使うという嫌がらせのような性質を持っている。


 さらに、栞は外套(クローク)を識別する。


「防護用外套〔黒色〕。リアダカルクの皮にルウの毛をキルティングした防護用外套。ストレリチア製。衝撃吸収、大。魔法耐性、法力耐性、大。物理耐性、中。神力耐性、極小。笹ヶ谷九十九のために作られている」


 こちらは、最初に視た防護服(ギャンベゾン)とほとんど変わらない。


 やはり、下履きだけに鎮静効果があるのは深読みしろと言うことだな?


「今度は、軽鎧セットを視ても良い?」

「おお」


 いろいろ噴出しそうになっている感情を押さえて、栞に応える。


 栞は、オレの様子を気にせず、拡大鏡を覗き込んで、「識別」と唱えた。


()()()()()()()を受けた銀合金製胸甲。ストレリチア製。胸部を護る鎧。法力耐性、神力耐性、極小。物理耐性、魔法耐性、中。笹ヶ谷九十九のために作られている」


 服で十分、驚いたからこれ以上、驚くことはないと信じたかった。


 だが、あの王女殿下は、どうあっても、オレを叫ばせたいらしい。


「守護の神の加護を持つ胸甲(ブレストプレート)ってなんだ!?」

「守護の神なら……、ノシュケルテプさまかな? 自分の護りに閉じこもって、神々からの嫌がらせに耐えようとした話があった気がする」


 そんなところで「聖女の卵」っぽく豆知識を披露されても困る。


「神の加護って、そんなに簡単に受けれるものか?」


 少なくとも、こんなお遊びのような服に付与できるものなのか?


「精霊の祝福よりも難しいはずなんだけどね……」


 そして、オレの言葉に戸惑いを見せる「聖女の卵」。


 その時点で、これが普通ではないことがよく分かる。


「他のも、同じだろうな」

「視てみるよ」


 栞はそう言いながら、腕に付ける篭手(ガンレット)も識別する。


()()()()()()()を受けた銀合金製篭手。ストレリチア製。上腕部から手の甲を護る鎧。法力耐性、神力耐性、極小。物理耐性、魔法耐性、中。敏捷性の強化。笹ヶ谷九十九のために作られている」

「これにも守護の神とか……」

「凄いね~」


 そして、最後に足の下部を護る脛当て(グリーブ)


 これも、同じように守護の神とやらから加護を賜っているらしい。


「マジかよ……」


 思わずそう言いたくもなる。


「これは凄い」


 栞も感心したように言うが、凄いと言う言葉に押し込められる代物ではない。


「あの女は何、考えてやがる!?」


 少なくとも、一介の他国の護衛に対して、ジョーク用品として渡して良い物でもないだろう。


「ただの悪ふざけにしてはお金がかかり過ぎだよね」


 栞が言うように、あの女はどれだけの大金を動かしたんだ?


「この全てに『法力耐性・大』に、『神力耐性・極小』だと?」

「まさか、こんなコスプレセットにそんな機能が付いているなんて、普通は思わないよね?」


 栞の言葉から、やはり、何かのコスプレ衣装であることは確からしい。


 だが、それについては、一切、識別結果には付いてこなかった。


 つまり、識別結果から考えれば、若宮はオレのために、大金を使って、これらを渡したことになる。


 それがたまたま、コスプレ衣装に似ていた?

 いやいやいや、そんなはずはない。


 これらについても、何か、意味があるはずだ。


 だが、オレがその理由を知るのは少しだけ先の話となるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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