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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1933/2806

【第102章― 再会を前にして ―】この世界の鉱物

この話から102章です。

よろしくお願いいたします。

「識別」


 今日も今日とて「識別魔法」。


 レンズを通して、九十九が次々と出していく物を識別していく。

 これは昨日と同じだった。


 昨日と違うのは、たまにルーペを使わずに識別魔法を使う点だろう。


 なるほど。

 確かに道具を使わない方が自分の記憶に残りやすい気がする。


 少なくとも、識別した物の名称を忘れることはない。

 でも、細かい分類や、その効果などについてはちょっと自信がなかった。


 カタカナばかりの言葉はもともとわたしの頭に残りにくいのだ。


 そして、道具を使わないわたしの識別魔法は、結構な確率で失敗する。

 さらに、失敗すると分かりやすく魔法力が減る。


 こんな所も、わたしの識別魔法の元になったゲームに似ていた。


 どれだけの再現度だ?


「この様子だと、道具を使った方が良い気がするな」


 これらの様子をずっと見ていた九十九が溜息を吐きながら言った。


「でも、元となったゲームも識別能力のレベルが上がれば、失敗しにくくなったよ?」


 識別能力の経験値みたいなのがあって、道具を識別するとその能力が少しずつ上がっていくのだ。


「単に効率の問題だ。記録すれば問題ないのだから、無駄なことをする理由はねえ」


 うぬう。

 確かに正論だ。


 だが、あのゲームが好きだった人間としては、識別能力を極めたいという気持ちもある。


 こっそりと九十九がいないところで経験値を重ねれば……。


「そこまで魔法力に変動があるのだから、()()()()()使()()()()()()()よ?」

「ふげっ!?」


 そんなわたしの浅知恵は有能な護衛にしっかりと読まれていた。


「お前が気付いていないだけで、失敗するたびに、結構な魔法力が目に見えて減っているんだからな?」

「いや、流石にわたしにも分かるよ」


 識別魔法自体はそんなに魔法力を消費していないみたいだけど、失敗すると、普通の風魔法の何発分かが消費される。


 しかも識別した物によっては、失敗すると、水尾先輩曰く、無駄が多すぎると辛口評価の「魔気の護り乱れ撃ち」並の消費量だった。


「でも、経験を重ねたいのって駄目かな?」

「せめて、オレがいるところでやれ。さっきの状態を見ていると、魔石は特に消費量が激しいみたいだからな」


 九十九が持っていた植物は昨日、ある程度識別し終わったようなので、今日の識別は魔石が中心だった。


 彼は、一体、いくつ魔石を持っているのでしょうか?

 鉱石に詳しくないわたしでも、聞き覚えのある鉱物名称があれば、反応する。


 具体的には、金剛石。

 人間界で言うダイヤモンド。


 透明だったから玻璃(ガラス)とか、水晶(クリスタル)かと思えば、金剛石(ダイヤモンド)


 地球上の天然素材で硬度が最高と言われているアレですよ!!


 それが人差し指に載るようなサイズならともかく、手でわっしりと掴めるような大きさだったのだ。


 それが金剛石(ダイヤモンド)と分かった瞬間、自分が持っていたルーペをぶん投げたくなった。


『【金剛石の原石】元素鉱物。炭素のみからなる鉱物。等軸晶系。無色。火属性。フレイミアム大陸産出』


 やはり覚えていないけれど、こんな風に結果が出たらしい。


 だけど、それを記録しながら、九十九は「やっぱりフレイミアム大陸産で間違いなかったか」などと呑気なことを言ったことについては、よく覚えている。


 この世界の資源事情が人間界と違うことが分かっていても、同じ名称、同じ鉱物が出てくるなら話が別だろう。


 資産家か?

 いえ、護衛です。


 でも、少なくとも一介の護衛青年が持つような物ではないと思う。

 人間界だって、王家に献上されるようなものではないだろうか?


 それ以外にも、翠玉(エメラルド)とか、紅玉(ルビー)とか、青玉(サファイア)とか、黄玉(トパーズ)とか、蛋白石(オパール)とか、一体、彼は何種類持ってるんだ!?


 心臓に悪い。

 それでも、水晶は落ち着く。


 やはり、人間界でも天然石の代表だけあるよね。


「結構な数の魔石を識別してもらったが、大丈夫か?」

「あなたが結構な数の魔石を保有していた事実にびっくりしている」


 本当に、多かった。

 流石に植物ほどの種類や量ではなかったが、多かったのだ。


 最初にごろごろと出された魔石の輝きに、目が眩しくて潰れるかと思ったぐらいだった。


「兄貴ほどは持ってねえ」


 わたしの言葉に九十九は少し唇を尖らせた。


「比較対象がおかしい」


 確かに雄也さんはいっぱい持っている気がする。


 わたしが持っている魔石って、体内魔気を押さえる抑制石で作られた装飾品ぐらいだ。


 いや、これらも結構な個人資産だとは思う。


「あ~、だが、兄貴が持っている『魔法弾きの矢(プファイル)』、『魔法弾きの盾(シルト)』は識別させてみたいな」


 それはカルセオラリアによる魔法国家対策だっけ?


 違う。

 カルセオラリア製の魔法の使い手対策の道具だったか。


「あなたはそれらを持っていないの?」

「……個人で持てるような代物じゃねえ」

「ほ?」

「調べたら、()()()()()()()()()だった」


 一時期、九十九が憧れた短距離移動最速艇(スクーター)

 それらはかなり高額だった覚えがある。


 普段、耳にすることのない通貨単位だったはずだ。


「国によるとは思うけどな」


 そう言いながら、九十九は肩を竦める。


「どこで調べたの?」


 つまりは市場調査か価格調査をしたってことだろう。


 流石にそんな高額商品の価格が書物庫や書店にあるような図鑑に記されているとは思えない。


「カルセオラリア」

「製造国じゃないか」


 雄也さんが持つ「魔法弾きの矢(プファイル)」、「魔法弾きの盾(シルト)」も、九十九が欲しがっていた「短距離移動最速艇(スクーター)」も、カルセオラリア製だと何度も聞いている。


 そうなると、恐らく、そこが最安値ではないだろうか?

 他国だとどうしても値上がりせざるを得ない気がする。


 カルセオラリアだって、それらの商品を出荷する時に、いろいろな手数料を取るだろう。


 移動魔法があるこの世界で、「短距離移動最速艇(スクーター)」にそこまでの商品価値を見出せない。


 だが、「魔法弾きの矢(プファイル)」、「魔法弾きの盾(シルト)」という商品に関しては、どの国でも利用価値が高いはずだ。


 そうなると、天井知らずの価格となっていても驚かない。


「あ……」


 ふと気付いた。


「どうした?」


 そこまで大きな呟きを漏らしたわけではなかった。


 だが、そんな小さな声に気付いた九十九が問いかける。


「えっと、通信珠って識別できるかな?」

「それは、やってみないと分からないな」


 彼がわたしの胸元を見る。

 そこはいつも、通信珠がぶら下がっているはずの位置だ。


 だが……。


「今、部屋にあるんだよね」

「何故、持ち歩かない?」


 そんなわたしの言葉に九十九は冷えた声で問いかける。


「いや、このコンテナハウスにいる限りは安全だと思って」


 彼が言うには攻撃は最大の防御を体現した過剰防衛システムが施された住居だ。

 そして、内部には有能な護衛。


 そんな場所にいて、どんな危険があるというのか?


 わたしが料理を爆発させるぐらいだろう。


「必ず身に着けてろ。あの通信珠があれば、オレの脳内に直接、声が届く。万一、血迷っても正気には返るはずだ」

「血迷う?」


 何の話?


「このコンテナハウスには、泳ぐ時間でもないのに、水着姿でオレの前に立つ女がいるんだが?」

「あれはごめん!!」


 九十九の冷えた視線に対して、わたしは頭を下げることしかできない。


「そんな危機感が薄すぎる無防備な女を見て、正常な思考を保てる男がこの世界にどれだけいると思うんだ?」

「少なくとも、目の前に一人」


 既に実績持ちがいる。


「ふざけるな?」

「ふぎゃ!?」


 わたしは自分の護衛に側頭部をわしっと掴まれた。


「あの時は、平常時だったが、少しでも気が昂っている時にあんなの見せつけられてみろ? オレに限らず大多数の男は種族維持本能に従うぞ?」


 少しだけ色気が漂う笑みを見せながら、彼はわたしに顔を近づけてくる。


 銀色の髪がさらりと揺れ、わたしを捉えている青い瞳がどこか不思議な熱を持っている気がして……。


「分かった! 気を付ける!! ……って、痛い、痛い、いたぁ~~~~~~~い!!」


 叫ぶことになった。


 どうやら、わたしが熱を持っていると感じたのは、怒りだったようだ。


 確かに怒りはある種の熱だ。


 でも、その迫力に対して、弁解をしようとしたのに、九十九はさらに笑みを深めた上で、わたしの側頭部に圧力をかけた。


 有能な護衛は今日も力強い。

 わたしの頭は、片頭痛で割れそうになったかのように痛みを訴えた。


「とりあえず、通信珠を取ってこい。オレも気になる」


 九十九の手から解放される。


「ううっ……」


 解放されても、頭が結構、痛い。


 どれだけの力でわたしの頭は圧縮されかけたのか?


 だが、通信珠のことはわたしも気になったので、部屋に置いてある通信珠を取りに向かったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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