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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1926/2805

浮かれ過ぎていた

 たった7分半。

 されど、7分半。


 それだけの時間で、わたしは九十九から一生分の「可愛い」を言われた気がした。


 彼は嘘を言わない。

 つまり、九十九は、本当にわたしのことを「可愛い」とは思っているのだろう。


 でも、なんとなく、女性として言われていると言うよりも、小動物を愛でるような感覚に聞こえるのは、わたしの気のせいか?


 こう、ハムスターに向かって「可愛い」を連呼するような感じ?


 恐らく、短時間で何度も言われたせいだと思う。

 いや、あれはお説教に近かったからかもしれない。

 

 それでも、わたしは九十九から「可愛い」と言われるのは素直に嬉しいのだ。

 扱いとしては小動物枠であっても。


 それに、彼から見て、女性として範囲外でもないようだ。


 少なくとも、知らない人からたまに見られる「少女」としての枠に入れられていないことは確かだろう。


 まあ、「発情期」の際に、襲われてしまうぐらいには女性として見られているし、扱われてもいる。


 女性として、それを喜んではいけないのだろうけど、九十九から嫌われていないだけ良いとも思っている。


 嫌いな相手を護るって多分、辛いことだから。

 それよりは少しでも好ましい相手でいられたら、と思うのだ。


 それは九十九だけでなく、同じ護衛である雄也さんにも言えるわけで。


 わたしとしては、護衛たちから愛想をつかされないように頑張るしかないのだろう。


「そろそろ落ち着いたか?」


 わたしを慌てさせる原因となったその当事者は、そんなことを聞いてくる。


「うん。もう大丈夫」


 わたしは白いパーカーを羽織りながらそう言った。


 流石に、あれから時間も経った。

 落ち着いて考えれば、九十九の言っていることは間違っていないのだ。


 非日常な時間が楽しくて、ちょっと浮かれすぎていたかな、と反省もした。


「もう泳がなくて良いのか?」

「うん。もう十分、癒されたよ」


 湖で浮くのは楽しかったけれど、もともと、ここには遊びに来たわけではない。

 それを忘れちゃいけなかったのだ。


 これ以上、九十九の邪魔をしちゃいけない。

 彼はこの城下に、何か、目的があって来たのだから。


「あなたはもう泳がないの?」


 同じようにパーカーを羽織った九十九に声をかける。


「さっき、結構、泳いだからな。また泳ぎたくなったら、夜にでも泳ぐ」

「夜って危なくない?」


 夜の遊泳ってかなり危険だと思うのだけど。


「この周囲は、夜の方が明るいからな」


 言われてみればそうかもしれない。

 この周辺には、ミタマレイルという夜に光る霊草が存在する。


 その中で泳ぐのは面白いかもしれない。


「それにガキの頃、眠っている状態で水の中に放り込まれたこともあった。それに比べたらマシだろう」

「誰に?」

「ミヤドリード」


 5歳以下の幼児になんて危険なことをしているんですか!? ミヤドリードさん!!


「まあ、そのおかげで、海に投げ出されるような事態でも、慌てずにすんだわけだが……」


 そして、それが役に立つような雇用状況で本当に申し訳ない。

 でも、ミヤドリードさんが生きていた時って、そんな状況になるはずがないよね?


 本当にどんなことを想定していたのだろうか?


「あなたのお師匠さんっていろいろ凄いね」

「ああ、凄かったよ」


 九十九はそう笑った。


 そこにあるのは、ミヤドリードさんへの揺るぎない信頼と親愛。


 何度も酷い目に遭ったと言っているのに、それでも彼は嬉しそうに自分の師のことを語るのだ。


 わたしも九十九からこれだけの信頼と親愛を得ているだろうか?


 分からない。

 大事にされているとは思うけれど、信頼は得ていない気がする。


 さっきも、長々とお説教を食らったぐらいだし、まだまだ駄目だね。


「なんたって、ミヤは、あの兄貴の師だぞ?」

「それは凄い」


 それだけで凄さが分かるほどに。


「ミヤはガキ相手にも容赦がなかったからな」

「それも凄い」


 話を聞いているだけでも、彼らがこの周辺でミヤドリードさんから教えを受けている図が思い浮かぶのは何故だろうか?


「ああ、そう言えば……」


 先ほど、湖を見ながら思い出したことがあった。


「この湖の浅い所に、なんかキラキラしたものが見えたんだけど、あれって魔石かな?」

「何? どの辺だ?」

「わたしが浮いていた辺り」


 そう指を差す。


 九十九が泳いでいる間、わたしは浮いていたのだ。

 背泳ぎみたいに仰向けになったり、ひっくり返って、水の底を見たり。


 その時にキラキラした色の付いた石が沈んでいたのを見た。


 それが気になって、一つ、拾おうと思ったけれど、何故か、上手く掴めなかったのだ。

 目に見えているのに、触れようとしても触れられなかった。


 だから、拾うのを諦めて、再び浮いているうちにすっかり忘れてしまったのだった。

 わたしがそう伝えると、九十九は考え込んだ。


 そして……。


「オレも見てみる」


 そう言って、パーカーを脱ぎ、再び湖に入って泳ぎ出す。


 早いな~。

 わたしのクロールとは比べ物にならない。


 そして、潜った。

 さらにまた出てこない。


 さっきもあったね、こんなこと。

 だから、さっきほど慌てない。


 あの時は飛び込み直後だったしね。


 息が苦しくなったら出てくるだろうと思って、そのまま、湖の観察を続ける。

 あ……、九十九の顔が水面から出てきた。


 そして、どこからか、水中ゴーグルっぽいものを取り出した。


 やっぱり持っていたのか。

 なんとなく、そんな気はしてた。


 ソレを装着した後、また潜っていく。


 確認作業だろうね。

 やっぱり、あの場所に何かあったらしい。


 だけど、思ったよりも早く浮上した。


 てっきり、そのまま留まって、もう少しいろいろと調べるかと思ったけど、違ったようだ。


 こちらに向かって泳いでくる。


「お帰り」

「ただいま」


 水も滴る良い男とはこのことか。

 ゴーグルを外す瞬間とか、かなり絵になっているよね。


「どうした?」

「紙と筆記具が欲しい」

「絵かよ」


 そんなわたしを見て、九十九が苦笑する。


「何があった?」

「魔石だ。しかも魔法で固定されていた」

「固定?」


 だから、石を拾うことができなかったのか。


「その魔石で作られた魔法陣があった。恐らく、何かの魔法契約のために作られた感じだったな」

「ほへ~」


 こんな所で魔法の契約とは不思議だ。


「あれ? でも、この湖って神さまの加護が強くないと近付けないんじゃなかったっけ?」


 なんか、さっき、九十九がそんなことを言っていた気がする。


 でも、そうなると一体、誰がそんなことを?

 しかも、わざわざ、人目を避けて?


「お前の識別結果だとそうだったな。だが……」


 そこで、九十九が考え込む。


「どうしたの?」

「お前は、魔法陣の識別はできると思うか?」

「多分、できると思う」


 わたしの識別魔法の参考にさせてもらっているゲームは、魔法陣の識別もしていた。

 だから、できるはずだ。


 尤も、あのゲームの魔法陣は全て五芒星に円があるだけの簡単魔法陣ばかりだったけどね。


 識別するまで何の魔法陣かは分からないままだったのだ。

 そして、失敗した時はごっそり魔法力を奪われていた覚えがある。


「あの魔法陣を識別してもらえるか?」

「おっけ~」


 わたしも上着を脱ぐ。


「そこまで連れて行く」

「ほへ?」

「その方が早い」


 九十九はそう言うなり、わたしの返事も待たずに手を握って、移動魔法を使った。


「いきなり、水に落とされた気分だ」

「悪い」


 なんだろう?

 心構えもなくいきなり水の中に入っている違和感が酷い。


 しかも、水しぶき一つ上がらなく、いきなり湖に入っていたのだ。

 驚きのあまり、心臓発作を起こさなくて良かったと思う。


 そんなことになったら、応急処置も頭に入っている九十九から、救命行動をされ……、なくて本当に良かった。


 こんな状況で、人工呼吸も心臓マッサージもされたくはない!!


「ちょっと慌てた」

「見れば分かる」


 泳いでも行けるような場所で移動魔法を使うとか。

 それだけ急いだと言うことだろう。


「その魔法陣に何かあったの?」

「知っている人間の魔力を感じたんだ」

「知っている人間って、ミヤドリードさん?」


 こんな場所でそんなことをしそうな人間の心当たりなんてそれぐらいだ。


 九十九が知らなかったなら、彼自身ではないだろうし、雄也さんの魔力ならこんなに慌てる反応はしないだろう。


「いや……」


 九十九は少し戸惑いがちに……。


「オレたちの、()()()


 そう言ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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