表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1912/2805

視線を意識せざるを得ない

「う~む」


 わたしは腕を組みながら、袋から取り出した数種類の布を見ていた。


 ここは城下の森。

 そこに護衛である九十九によって出された簡易更衣室の中にいる。


 こんな風に、服屋にある試着室のようなものを外に出すなんて、わたしの護衛はどのような事態を想定していたのか、毎回謎である。


 だが、どうしてこうなったのか?

 話せば長いことながら、聞けば短すぎる話である。


 この森の中にある湖を識別結果の表示を確認するために、湖の中央まで行く必要があった。


 本当にただそれだけのことである。

 だが、そこに一つの問題があるのだ。


 わたしは、護衛の九十九のように空中浮遊することができない。


 だから、そのためには湖の中央まで泳ぐか、九十九に抱えられてその場所まで行くか、湖の中央に行くのを諦めるかのどれかを選ぶしかないのだ。


 諦めるなら始めから悩んでいない。


 この湖はちょっと変わった識別結果が現れるだろう。

 そんな気がするから、諦めるという選択はまず、したくない。


 九十九に抱えられてその場所まで行くというのが、いつもなら最善なのだが、今回はそれを選ぶことができないのだ。


 何故なら、今回の目的は湖の中央に行って、そこに表示される識別結果を確認することなのである。


 そして、試しに行った識別で表示されたふきだしは、距離もあったためか、かなり小さく見えた。


 さらにそのふきだしの中に書かれている文字を読む必要があるのだ。

 つまり、割と近い距離で見る必要がある。


 九十九に抱えられて浮いている状態で、湖の上に表示されるその文字を読むことはかなり難しい。


 文字をみるために身を乗り出せば、かなり不安定な体勢になってしまう。

 そんな状態で、識別魔法を上手く使える気もしない。


 そうなると、残りの選択肢である湖の中央まで泳ぐしかなくなる。


 だが、それはそれで様々な問題があることに今、気付いた。


 泳ぐためには水着にならなければならない。

 着衣遊泳できるような技術は、九十九にはあっても、わたしにはないのだ。


 つまり、わたしは水着にならなければ泳げない。


 一体、何を言いたいのか?

 異性(九十九)の前で水着になるって結構、恥ずかしいよね!?


 これが、学校のプールなら仕方ない。


 それは授業の一環で、水着はその時に着なければならない制服(ユニフォーム)のようなものだ。


 それに自分だけではなく周囲も同じ格好なので目立たない。


 異性(男子生徒)から注目されるような同性(女子生徒)は大抵、胸が大きかったり、スタイルが良かったり、お顔が良かったりと、女のわたしでもその全身図を見て、思わず絵にしたくなるような子たちばかりだった。


 だから、わたしのように背が低くて、普通の顔した女を見るような物好きはいなかったことだろう。


 だが、今回は違う。


 一対一だ。

 マンツーマンだ。

 九十九とわたししかいないのだ。


 否が応でも、彼から見られてしまう。

 いや、割と今更な話だよ。


 あの状態の彼がどれだけ覚えているか分からないけれど、「発情期」の時に、半裸姿までは見られてますし?


 だから、いつもよりも手足の露出があったって気にするほどのことではないのかもしれないとも思う。


 だけど、アレは薄暗い部屋だった。


 屋内だった。

 室内だった。

 今回のように森の中とは言え、昼間の屋外ではなかった。


 しかも、この城下の森は、全体的に薄暗いのだけど、湖部分は当然ながら、空が見える。


 日の光に照らされているのだ。

 そんな場所で、九十九の前で、この短い手足を晒すだと?


 意識しすぎって言うのは分かっているのだけど、それでも、この羞恥心ってやつは簡単には消えないのだ!!


 分かるか?

 全世界の男子諸君よ!!


 女の子はいつだって、自身や相手の好意の有無に関係なく、キミたちの視線を意識せざるを得ないのだ!!


 ―――― 女の()


 なんか、今、聞き覚えのある殿方の不思議そうな声が脳裏に蘇った。


 彼はいつも、わたしを興奮させたり、落ち着かせたりする。

 その場にいても、いなくとも。


 うん。

 落ち着いた。


 わたしがどれほど、オタオタ、ワタワタしていても、九十九はそれを意識しない。

 今のこんなわたしの状態も、健康的な意味で心配されるぐらいだろう。


「ふむ……」


 まずは、水着を選ぼう。


 候補は幾つかある。

 ワカがわたしに着てみて欲しいと押し付けらた水着が数枚。


 そして、「聖女の卵」の衣装を着る時に、一番に下に身に着ける「神衣(カンギ)」と呼ばれる物が数枚。


 この「神衣」は肌に直接身に着けるのだから、下着とも言えるが、水着だって同じようにして着ている。


 それに、神事等で水浸しになったとしても、肌が全く透けないことは聞いていたし、実際、自分でも確認している。


 以前、雄也さんと共に入浴した時も、大丈夫だった。


 アレは「聖女の卵」が神事等で着る「神子装束」ではなく、儀式を行う専用の「神装(しんそう)」であったが、下に「神衣」を着る点は同じだ。


 そして、たまに神子装束の着付けを手伝ってくれていたワカも、「神衣は肌着であり、水着でもある」とは言っていた。


 だから、水着枠に入れても問題ないだろう。

 それに、ワカがくれた水着は可愛いけど、ちょっと布地が少ない。


 これなんか、セクシー系とは違うし、上もひらひらしているから胸の小ささを誤魔化せるし、何よりも可愛いのだけど、お腹が見える。


 ハイネックみたいなワンピースタイプもあるけど、これは背中が結構、開いている。


 まあ、ワカの目的は「無粋な笹さんを悩殺しちゃえ」って、わたしを揶揄う意図があったために、こんな路線なのだろう。


 いつ、着ろというのだ? と、その時は言ったけど、まさか、そんな機会が本当に訪れるなんて思ってもいなかったよ。


 それでも、下着と変わらない布面積のビキニや、切れ込みの深いハイレグではないだけマシなのだろう。


 ストレリチア城下にある店の中には、これは隠すつもりはないだろうと思うような下着も結構あった。


 アレらを見た後では、ビキニもマシに思えるから不思議だよね?


 本来、ビキニって衝撃的な意味合いで付けられた名前だったはずなのだけど、Tバッグのようにもっとセクシー路線が出るなんて、当時の人たちも思わなかっただろうな。


 そうなると、ワカには悪いけど「神衣」から選ぶべきか。

 今回は誰かを悩殺することが目的ではないため、実用的な方が良い。


 神子装束系の服は、肉体的には動きやすく、精神を落ち着かせる効果もあると恭哉兄ちゃんはいっていた覚えがある。


 つまり、その一部である神衣も同じ効果があるということだろう。


 まあ、わたしが持つ神子装束のほとんどは、恭哉兄ちゃんの法力……、いや、神力が籠っている。


 その気配が漂う「聖女の卵」に対して、何か邪なことを考えられるような神官は少ない。

 それでも、いないと言い切れない辺り、いろいろと業が深いと思う。


 これらを受け取った時は、そこまで深く考えなかった。

 単純に立場的な護りとしか思っていなかったのだ。


 だが、神官の世界を覗き見る機会が増えるたびに、別の意味を知っていく。


 神官、神女、神子と性別や立場に関係なく、あらゆる意味で、危険が多い世界。


 だから、「聖女の卵」は、それを庇護する大神官が念入りに「神力」を込めている「神子装束」や「神装」を渡されている。


 この気配に気付かないような相手は神官に在っても、神官に非ずと。


 まあ、つまりは、わたしの護衛たちがどんなに過剰な報復をしたとしても、大聖堂は罪に問わないってことになるらしい。


 そんな大仰なモノを身に着けるのに抵抗がないわけではないのだけど、ワカから渡された水着よりは布地が多い。


 これも結構、背中は開いているけど、ワカが渡してくれたものほどではない。

 ワカが渡してくれた水着は上下が分かれていた。


 お腹と腰を同時に見せるよりは、お腹を隠して背中の開きが腰椎上部で止まっているだけ「神衣」はまだマシだと思う。


 恭哉兄ちゃんの話では、「神衣」の背中が大きく開いているのは、「神子装束」や「神装」の最上衣、一番上に着るべき「神御衣(しんぎょい)」ができるだけ肌に触れた方が良いためにそんな形になっているらしい。


 なんでも、神力を伝えやすくするとか。


 恭哉兄ちゃんはちょっと複雑な顔をしながら言っていたから、それ以外の理由もあるのだろう。


 でも、大神官とはいえ、簡単に「神子装束」の意匠を極端に変えることはできないらしい。


 貴国の王女殿下は「神子装束」をひざ丈にしちゃうなど、かなり大胆なアレンジをされていますが、それは神官たちから受け入れられたから問題ないそうだ。


 どこの国も闇が深い。

 とりあえず、今の髪の色に合わせた水着の色を選んだ。


 九十九の反応が気になるけど、わたしが気にするほどは、彼は気にしないんだろうな。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ