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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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疑問符だらけの結果

 さて、湖である。


 そこには、相変わらず、ふわふわした綿毛のような花を揺らすミタマレイルが咲き誇っていた。


「ふわふわ~」

「呑気だな、お前は……」


 わたしの言葉に九十九が呆れたように息を吐く。


「えっと、まずは生えている状態を『識別』ってことで良い?」

「そうしてくれ」


 考えてみれば、野生の植物が根付いている状態で「識別」するのは初めてだ。

 ついでに周囲の木や草を「識別」してみるのも面白いかもしれない。


「では、早速!!」


 わたしは、首から紐を付けて下げている銀色の金属で形作られたルーペを取り出して……。


「識別」


 そう口にすると、ミタマレイルから現れたふきだしがレンズを通して視えたのだが……。


「え? あれ?」

「どうした!?」

「いや、ちょっといつもと表示がちょっと違うんだけど、まあいいや」


 ちょっとびっくりしたけど、失敗したわけでもないようだし、続けようか。


 ミタマレイルの識別結果に関しては、文字が読めない可能性も考えていたから、それに比べれば、読みにくいけど読めなくはない。


()()()()()()()()()()。被子植物。真正双子葉類。ミタマレイル目ミタマレイル科ミタマレイル属の植物。人類の魂の欠片を吸収しカンモウ? に蓄え、正しき所へ返還する性質を持つ。トウチ? のカミミズ? によって自生する」

「珍しく疑問符が多いな。それにダイダイ?」


 わたしの言葉を聞いて九十九が不思議そうな顔をするが……。


「実際の表記はこうだったよ」


 そう言いながら、わたしは視えた言葉を紙に書いた。

 こればかりは、実際の表記を見てもらわなければ分からないだろう。


「【橙御魂戻留】。被子植物。真正双子葉類。御魂戻留目御魂戻留科御魂戻留属ノ植物。人類ノ魂ノ欠片ヲ吸収シ感毛ニ蓄エ正シキ所ヘ返還する性質ヲ持ツ。橙地ノ神水ニ依ツテ自生スル」


「ちょっと待て?」

「うん。そう言いたくなる気持ちは凄くよく分かる」


 まず、漢字多すぎ。


 古事記や日本書紀で使われるような万葉(まんよう)仮名(がな)のように、全て、漢字ではなく、辛うじてカタカナで表示してくれたのは、()()()()()()()()()()か?


 それにまだ意味が分かる。


 日本神話の祝詞(のりと)で使われるような古い言い回しではなかったこともありがたい。


 でも、ミタマレイルという言葉を知らなかったら、始めの方で躓いた気がする。


 「御魂(みたま)」ぐらいは読めるけど、「戻留(れいる)」部分は、普通の熟語ではなく、どこか当て字っぽい。


 いつものわたしなら、「みたまレイリュウ」か、「ゴコンレイリュウ」って読んでいると思う。


 それに「橙」も「ダイダイ」なのか「トウ」なのか、いつもなら悩むけど、今回は、自然と、こう読んだ。


「日本語表記については今更、ツッコミをいれるつもりはなかったが、これは……」


 九十九はわたしが手渡した紙を見て、震えている。


「因みにいつもは青いふきだしが、今回に限り、向こうが透ける橙色で、白い文字は黒字表記でした」


 まず、そこに驚いて、さらに書かれている内容に驚くという二段構えっぷりでした。


「お前の魔法力の方は?」

「ん~? 減った感覚はなかったから、消費量は他の植物を識別する時と、そんなに変わらないと思う」


 まあ、この場所がそれだけ魔法力の回復量が凄いだけかもしれないのだけど。


 九十九はまだ紙を見つめている。


 彼は、わたしが気付かないようなことにも彼は気付いているかもしれない。


「じゃあ、次は、ミタマレイルを根っこごと引っこ抜こうか?」


 わたしがそう提案すると……。


「いや、ミタマレイルよりも先に……視てもらいたいモノができた」


 九十九は少し悩みながらもそう言った。


「ほへ?」


 なんだろう?

 この場にあるもの……、かな?


「そこの湖だ」

「ああ、なるほど」


 先ほどの識別結果の中に「神水」という言葉が出てきた。

 そして、ミタマレイルの花はこの湖の傍でしか見ない。


 だから、それはその湖の水のことなんじゃないかって九十九は考えたらしい。


「湖ごと? 掬ってから?」


 そして、わたしは水も識別できることは分かっている。


 最初に識別したのはコップに入った水だったし、うっかり自分が入浴中のお風呂のお湯すら識別してしまったぐらいだ。


「できるなら、湖そのもので」

「りょ~かい」


 これだけ大きなモノを識別するのは初めてだ。

 わたしは気合を入れる。


 そして、一言。


「識別」


 そう唱えると、湖に()()()()()()()()()()()()()()が見えた。


「ありゃ?」

「どうした?」


 わたしの反応に、九十九がまたも何かあったことに気付いてくれる。


「えっと、わたしの『識別魔法』って、識別した対象物の上にふきだしが浮かび上がるシステムみたいなんだけど、その中央の上に表示されるみたいなんだよね」

「中央の上、ああ、なるほど」


 その言葉だけで理解してくれる九十九は凄いと思う。


 わたしが今回、識別したのは湖だ。


 池や沼よりも広く深い存在。

 その中央に表示されるふきだし。


 ご理解いただけただろうか?


「文字が見えないんだな?」

「うん。小さい。そして、遠い」


 森の中にあるとは思えないほど広い水場は、決して小さいものではないのだ。


 そして、その中央に、ピコンと表示されたふきだしなど、わたしの視力で見えるはずがない。


「お前を抱えて飛べば良いか?」

「それはどうだろう?」


 それは、体勢的にかなり辛いものになる気がする。


 あの湖の中央まで九十九に抱えられて浮いていても、表示されるふきだしを覗き込むとすれば、かなり不安定な状態になるだろう。


「それよりも泳ぐ方が、現実的だと思う」


 上から覗き込む体勢よりも、水に入って近付いた方が良い気がする。

 だが、九十九は、奇妙な顔をした。


「着衣水泳は、この湖の深さではすすめたくねえ」

「いや、水着に着替えるよ」


 深さに関係なく、服を着たまま、泳ぐとかはわたしには無理だろう。

 それは、あの「音を聞く島」で、九十九に助けられていたことからもよく分かる。


「……なんで、持っているんだ?」

「ワカからもらった」


 ストレリチア城にいた時や、雄也さんの静養のために大聖堂でお世話になっている時に、ワカが何種類か贈ってくれたのだ。


 なんでも「これで笹さんを悩殺しろ」とかなんとか言っていた気がする。


 まさか、本当に九十九の前で着る機会があるとは思っていなかったけど。


「あまり着てないけど、サイズは大丈夫だと思う」


 悲しいかな、わたしの身長はあれから伸びてないし。


「…………」


 九十九はさらに難しい顔をする。

 そんなにこの湖は危険なのだろうか?


「泳ぎは?」

「浮くだけなら。進むのは遅い」


 つまり、泳げるけど、得意ではない。


「足が付かない所でも大丈夫か?」

「浮くだけなら。でも万一のことを考えると、浮き輪があると助かるかな」


 浮き輪があれば、沈むことはないだろう。


「この湖は、下の崖に流れ落ちているから、一定の場所に行くと、結構、流れが早くなるぞ」

「あ~、それなら浮き輪は流されちゃうね」


 さて、どうしよう?


「湖の識別は諦めよう」


 だが、九十九はあっさりとそう結論付けた。


「え? でも、識別結果が表示されることは分かっているのに?」


 ちょっと遠くて、少しばかり文字の表示が小さくて、わたしの目では読みにくいだけだ。


「お前の安全の方が大事だ。それに水を視るだけなら、汲めば良いだけの話だろ?」


 ぬう。


 でも、わたしの識別結果は、その物の状態や状況が変化することによって、変わることが多い。


 汲んだ状態と、湖状態ではまた微妙に違う結果が出る気がする。


「あなたは泳げるよね?」


 あの「音を聞く島」に流れ着いた時も、九十九のおかげで、わたしは助かっているわけだし。


「オレも、お前と一緒に水に入れと?」


 何故か、戸惑いがちに尋ねられる。


「水、苦手?」

「苦手じゃねえけど」


 そうだろう。

 九十九が水が苦手だったら、「音を聞く島」に行く時、もっと大変だったと思う。


「わたしが単体で泳ぐよりは、一緒に水に入った方が、生存確率上がると思うんだよね」

「それは、そうだが、その言い方はどうなんだ?」


 九十九は苦笑する。


「あと、単純に、わたしがあなたの水着姿を見たい」

「ばっ!?」


 九十九が一瞬にして顔を真っ赤にしたかと思うと……。


「絵の資料(モデル)か?」


 すぐに表情が怪訝そうに変化した。


「うん」


 自分の脳内にしっかり焼き付けようと思っている。


「お前は、そういう女だよな」


 何故か大きな息を吐かれた。


 でも、銀髪碧眼の美形の半裸姿を間近で拝みたいって、そんなに変なことかな?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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