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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1895/2805

心配症で過保護な護衛

 全世界の!

 年頃の娘さんたちに!

 大至急、回答を乞う!!


 銀髪、碧眼、自分の好み顔の殿方から……。


「オレに一晩、付き合ってくれないか?」


 そう問われて、断れる度胸ある娘さんはいますか!?


 いませんよね?

 そうですよね?

 絶対に無理ですよね?


 そこに()()()()()()()()()()()()()()()()から、尚のこと。


 そうなんだよ。

 そこに、特別えっちぃ目的があるわけではないと、はっきり分かっているから、余計に困るんだよ!!


 何故、そんな確信を持って言えるのかって?


 もし、僅かでもそんな目的があったら、部屋に入った瞬間、わたしは彼から足払いされて、そのまま寝台に押し倒されている!!


 そして、この九十九は、それが容易くできることをわたしはこの身をもって知っているのだ。


 別に知りたくはなかったけど。


「えっと、あなたに他意はないってことは分かっているけどさ。流石に、その申し出は、異性にするもんじゃないと思うよ?」

「え? あ? ああ!? いや、オレにそんな気はねえ!!」


 顔の良い男は混乱して慌てふためく顔すら良いから困る。


「分かってるって、言ってるでしょう? でも、一晩な無理だよ。わたし、多分、途中で寝ちゃうから、あなたの望みは叶えられないと思う」

「いや、寝るなよ。その前にちゃんと部屋に戻れよ」


 不意に真顔になってそう答えた。


「うっかり寝ちゃっても、いつものようにあなたが運んでくれるでしょう?」

「そこに期待するな!! それを当然だと思うな!! オレが万一、邪なことを考えたらどうする!?」


 毎回こんな問答をするたびに思う。

 そんなことを口にする人は、逆に大丈夫なんじゃないかな?


 でも、そう言っても九十九は納得しないだろう。


 だから……。


「わたしの『魔気の護り(自動防御)』が発動する」


 ()()()()()()()()を口にする。


「……そうだな」


 少なくとも、国王陛下にすら有効だったのだ。


 わたしが意識せず、咄嗟に出るふっ飛ばし攻撃というのは、かなりの威力があるということになる。


 この国で一番魔力が強い人間すら弾き飛ばすことができるのは、何よりの分かりやすい力の証明だろう。


「だが、それを過信するなよ」

「分かっているよ」

「絶対だからな」

「分かってるってば」


 心配性で過保護な護衛は、もう何度目か分からないほど念を押す。


 でも、そこまで心配しなくても大丈夫だよ。

 九十九が本気でその気になってしまったら、わたしは抗えないから。


 それはあの「発情期」の時に嫌というほど分かってしまった。


 全力で抵抗すれば逃げることはできるだろうけど、そうなれば、今度こそもう戻れないから。


 だから、わたしは彼の理性に頼るしかないのだ。


 他力本願な考え方だと分かってはいるけれど、こればかりはわたしの意思ではどうにもならないことはもう分かっている。


「それで? わたしはこれからあなたに一晩、お付き合いすればよろしいのでしょうか?」


 溜息交じりに返答すると、変な顔をされた。


 そんな顔をされても、今回の申し出は九十九からだ。

 そして、わたしは彼と同じ言葉を返しただけだ。


 ここでふざけて、九十九の男心を刺激するような言い方をしなかっただけマシだろう。


 まあ、わたしがちょっと頑張った程度で、簡単に彼を刺激できるとは思っていない。


 でも、時々、自分は男だと主張しなければならないほどにはわたしのことを女と意識してくれるようになったからね。


 まあ、わたしが女性として自覚の薄い言動をしすぎているというのも悪いとは思っている。


 あれ?

 これって、実は九十九って、わたしのことを父親目線みたいな感じで心配している?


 そんな言動に心当たりがある辺りがちょっと悲しい。


「あ~、今回はお前の性別を考慮してなかったオレが悪い。確かに一晩、付き合わせるのは問題だな」

「いや、寝るまでぐらいは付き合うけど」


 わたしがそう答えると、九十九はまたも不服そうだった。


「できる限り、眠くなったら部屋に戻るよ」

「眠くなる前に戻れよ」

「一晩、付き合えと言った人の台詞とは思えませんな」


 あ、ちょっと嫌味っぽくなっちゃった。


「それは悪かったって」


 そのためか、九十九はちょっとばつが悪そうな顔をしながらそう言った。


 そんな顔をさせたいわけじゃなかった。

 今のはわたしも悪い。


 大きく息を吐く。


「眠くなるまでは付き合うよ。わたしも自分の魔法については知っておきたいから」


 わたしがそう言えば、彼はちょっとだけ安心したように笑った。


 でも、そんな笑顔が見たいわけでもない。


 できれば、いつもみたいに自然な笑顔が見たいのだけど、今は、笑ってくれただけ良いことにしよう。


「そんなわけで、協力よろしく!!」


 わたしはできるだけ明るくそう言った。


「あ?」

「わたしの魔法の検証がメインでしょう?」

「いや、今回はオレの探求心の方がメインかもしれん」


 わたしの問いかけに九十九が苦笑する。


 彼は本当に正直だ。

 そこは嘘でも、「主人であるわたしのためだ」と言えば良いのに。


 無理か。

 九十九は嘘が吐けない。


 だから、わたしの問いかけに対しても、素直に答えてくれる。


 それが、彼の中に流れている情報国家の血なのか、彼自身の性格によるものなのかは分からない。


「でも、わたしにとっても大事なことだから、問題ないよ」


 実際、「識別魔法」って使い方次第では面白いことができそうだ。

 試しに行った植物も、恐らくは九十九が知らない効果を持っていたのだと思う。


 九十九は、その植物を薬草というよりも調味料として見ていたようだし。


 でも、九十九は「植物図鑑」とトルクスタン王子から呼ばれるほどの知識がある。


 そんな彼でも知らない効果だったというのはちょっと意外だった。


「ねえ?」

「なんだ?」

「先ほどのカリサクチェインは、実際の植物図鑑ではどう記されているの?」

「植物図鑑の大半は、お前が言ったように名称と分類。後は、自生地域、生育環境、特徴……だな」


 内容については、わたしよりもやはり詳しいらしい。


「だが、図鑑によってその詳細内容がいろいろ異なったりするから、精査する必要はある」

「ほ?」

「分類も名称すらその編纂者によって違うんだ。それに特徴は詳細に書いているが、絵が入っているものはほとんどない」

「図鑑なのに絵がないの?」


 人間界には子供向けの図鑑すら絵や写真が載っていることが普通だった。


 この世界では、「複製魔法」があるから、印刷もそこまで難しくはない。


 まあ、普通の人が使う「複製魔法」はタダではなく、事前に紙とか、その材料になるものの準備をしておく必要があるらしいけど。


 尤も、九十九が主に使っているのは古代魔法。

 現代魔法ではないため、その原理は異なると聞いている。


「人間界基準で考えると驚きだよな。だが、この世界ではそれが普通だ。だから、トルクは、お前に絵を描いて欲しいとスカウトしただろ?」

「言われてみれば、確かにそうだったね」


 カルセオラリア城でトルクスタン王子はわたしに植物の絵を描いて欲しいと言った。


 自分の従者では植物の特徴に逆らう色遣いをしてくれるから、意味がない、と。


 だが、今にして思えば、トルクスタン王子の従者もやっていた湊川くんが、特徴に逆らうような彩色をしていたのは、それぐらいやったところで、トルクスタン王子が植物の種類を覚えられるとは思えないと判断していた気がする。


 現物を目の前にして、その特徴を見せているというのに、それでも、薬草と毒草を混同してしまうのはいかがなものか?


 地頭は良いのだ。

 変な薬品を作り出す才はあるけれど、成分の分析は得意である。


 但し、成分が分かってもその効能が分からない。

 正しくは、成分の副作用が分からないのだ。


 そして、厄介なことに、トルクスタン王子が作り出す薬のほとんどは、その副作用の方こそ、使い道があるらしい。


 代表例を挙げるなら、人間界からこの世界に来る時や、セントポーリアとジギタリスの国境でも使った魔力と姿、気配すら完璧に消す薬。


 アレは、本来、魔力を増強させる薬だった……らしい。


 雄也さんの話では、確かにあの不味い薬を服用後、魔力の強化された感覚が瞬間的にあったそうな。


 だけど、その薬のあまりの不味さのため、口直しをしている間に、その気配すら消えてしまった。


 さらに、九十九の別観点からの話でも、後に使われた薬草を聞いたけれど、それには魔力を一時的に爆上げする可能性がある成分は入っていることは確からしい。


 だけど、それ以上に、体内魔気と混ざって幻影を起こす成分と、体内魔気を抑制する成分が目立ちすぎる……とのこと。


「何より、お前は植物の分類も知らない状態で識別している。もしかしたら、図鑑より確実かもしれん」

「でも、読み間違いもあるかもよ?」


 わたしの「識別魔法」で例のふきだしが表示されている時間はそんなに長くない。


 全てを読み終わる前に消えてしまうかもしれないし、単純に、わたしが読み間違うことだってある。


 何より、見慣れない、聞き慣れない、読み慣れない、カタカナの言葉って、結構、難しいよね?


「その時はその時だ。もともと人間のやることに間違いはある。オレが作っている図鑑で補完するから問題ない」

「図鑑、作ってるの?」

「おお。カルセオラリア城で作っていたヤツを、そのまま続けている」


 日々の鍛錬。

 日中のほとんどは護衛任務。

 そして、夜には詳細な報告書作成。


 一体、そんなどこに時間があるのだろう?


 でも……。


「絵が必要な時は言ってよ」

「お? おお、頼んだ」


 そんなわたしの言葉に、心から嬉しそうな笑顔を見せてくれるなら、主人として……、というよりも、友人として協力したくなっちゃうのはおかしな話ではないよね?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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