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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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新たな魔法

「『識別魔法』?」


 夕食の後、九十九からそんな話をされた。


 九十九が言うには、その魔法があれば、様々な面での調べ物がかなり楽になるらしい。


「おお。意味は分かるか?」


 識別……、物事の種類や性質などを見分けること……、だよね?


 確か、好きなゲームでは道具の効果を見るために、「識別」という言葉を使っていた。


「あのテレビに出てきた『いい仕事……」

「『鑑定』と『識別』は違う」

「ほぎょ?」


 言い終わるよりも前に突っ込みが入った。

 九十九もあの番組は知っているらしい。


「『鑑定』は、その領域における専門家が、科学的、統計学的、感覚的な分析に基づいて行う評価や判別することだな。それに対して、『識別』は、特徴を見極め、物事の種類や性質などを見分けること。『鑑定』の方が、感覚的な部分もあるが、その基本は専門家による行為だ」

「ふむ」


 だが、説明されても違いは分からない。


 でも、経験による勘が伴うのが「鑑定」で、それ以外の判別する手段が「識別」って感じなのは、なんとなく理解した。


「その『識別魔法』とやらは、あなたは使えないの?」

「使えねえな」


 あら、珍しい。

 変わった魔法を契約してきた九十九が使えないのか。


「魔法書自体が兄貴でも手に入れられないほど稀少なんだよ」

「へ~」


 それは凄い。


 あの雄也さんなら、そんな鑑定士みたいな魔法はかなり好きだろうに、それでも手に入れることができないのか。


「情報国家が大事にしていそうな魔法だね」


 雄也さんは情報国家を避けている。

 実際、足を踏み入れたこともないほどに。


 それならば、雄也さんが手に入れることができないけれど、知られている魔法というのは、情報国家にあるのではないだろうか?


「あ? ああ、あ?」


 九十九は不思議そうな声と顔をして、首を捻っている。


「その可能性はあるかもな。いや、もしかしたら存在しない魔法をそれっぽく、情報として流した?」


 さらにはそんなことまで口にする。


「情報国家は、嘘を言わないんじゃないっけ? 情報が疑われるようになるから」

「阿呆。嘘にならない程度の情報を匂わせ程度に流して、噂を広める段階で少しずつ歪めていくことができるのも、情報国家の性質だ」

「おおう」


 それは知らなかった。

 そして、かなり気の長い話だね。


 嘘が言えない国というのはある意味、本当に大変そうだと思う。


「それで、その『識別魔法』とやらがどうしたの?」

「お前は、使えそうか?」

「どうだろう?」


 識別……。

 識別ねえ……。


「九十九はこんな虫眼鏡みたいな道具、持ってる?」

「あ?」


 近くにあった紙と筆記具を借りて、さらさらと描いてみる。


 遮光眼鏡を持っていた九十九なら、似たような物を持っている気がしたのだ。


「虫眼鏡……、拡大鏡か? 一般的な手持ち型ではなく、折り畳み式に似ているけど、ちょっと違うな」


 わたしの描いた絵でも伝わったらしい。


 しかし、虫眼鏡をルーペと言う人がいるのは珍しくないけど、拡大鏡という言葉はなかなか聞かない気がする。


「なんとなく、そんなイメージなんだよね」


 識別……、道具の鑑定には虫眼鏡。


 わたしが知っているゲームでは識別する時に使うアイテムを「レンズ」と表記されていたが、道具を見るならこれが必要な気がしたのだ。


 どこかの鑑定番組でも、骨董品を取り扱った少年漫画でも、描かれていたためだろう。


「こんなのでも良いか?」


 そう言って取り出されたのは、銀色の縁の折り畳み式ルーペ。


 握り手がある拡大鏡だと「虫眼鏡」と言いたくなるけど、こんな風にちょっとお洒落なデザインになると「ルーペ」と言いたくなるのは何故だろう?


「オレは身体強化で視覚強化もできるからあまり使わんが」


 視覚まで強化できるのか。

 そうなると聴覚や嗅覚、味覚まで強化が可能かもしれない。


 いや、今更驚くほどのことでもないか。

 九十九だからね。


 差し出された銀色のルーペを受け取る。


 ふむ。

 割とイメージに近い。


 シンプルで装飾も少なく、機能的なデザイン。


「試してみるか」

「あ?」


 何にしても、やってみなければ始まらないだろう。


 そう思ったわたしは、近くにあったコップ入りの水を手に取って……。


「識別」


 それにルーペのレンズを合わせて口にしてみた。


「ほぎょ!?」

「どうした!?」


 わたしの叫びに九十九が反応する。


「これ……」


 レンズに映ったのは、水だけではなく、漫画のふきだしのような形の青い枠に、白い変な文字。


 しかも、見覚えのある()()()で書かれていた。


「…………」


 九十九がわたしの横から同じように覗き込む。


「どう思う?」

「栞には何が見える?」


 わたしの問いかけに対して、九十九はレンズを見たまま、問い返す。


「え? なんか、青いふきだしっぽいもの?」

「内容は?」

「え? 内容?」


 青い枠には白い文字で……。


「水。ただの水」


 口にすればこんな感じだが、実際はふきだし内に「【水】ただの水」と書かれている。


「あ~~~~~~~~~~~~っ!!」


 わたしが書かれた通りの言葉を口にすると、九十九が天を仰ぎながら突然、叫んだ。


「やりやがった!!」

「ふぎょ?」

「稀少な魔法すらあっさりと使いやがった」


 そんな九十九の言葉で理解する。


「あ~、さっきの『識別』のこと?」

「そうだよ。契約も無しにたった一言だった」

「だから、手抜きっぽい表示なんだね」


 もっとこうファンタジー観溢れる表示だったら、いや、あのゲーム内での道具の説明ってこんな感じだった。


 黒い画面に白い文字ではないのは、わたしの「識別」という言葉を参考にしたゲームがそんな画面表示だったからだろう。


「手抜きでもなんでも、お前が『識別魔法』を使ったのは事実だ」

「まあ、そうだね」


 もっと細かく、原産地とかいろいろあっても良いと思うけど。


 でも、参考にしたゲームもこんな感じだったか。

 アイテムや魔法陣の名称と、どんなものか、どんな効果かぐらいだった。


 そして、(モンスター)相手には使えない。


 いや、あのゲームはモンスターの名前が始めから分かっていたから、特に必要なかったというのもあるけど。


「でも、水って見たままだよ」


 しかもただの水。

 セントポーリア国内で湧いた水とかもっと表現があるだろうに。


「それなら、これはどうだ?」


 そう言って、九十九が出したのは、「薬物判定植物(パーシチョプス)」。


 なるほど。

 今度は植物だし、特殊能力あるし、良いかもしれない。


 先ほどと同じようにルーペのレンズを覗き込んで……。


「識別」


 そう唱えた。


「パーシチョプス。被子植物、真正双子葉類、クンプ目サトカク科パーシチョプス属の植物。害のあるものが近付くと警戒棘(けいかいし)を出し、養分となるものが近付くと紅く性質を持つ」


 書かれた文字をそのまま読む。

 今度は特殊能力を持つ植物だったためか、水と違って、表記も長い。


 そして、カタカナ表記で良かった。

 実際、各大陸言語で表示されたら、今のようには読めないだろう。


 でも、九十九はなんか、変な顔をしている。


 難しいことを考え込んでいるようなそんな顔。


「どうしたの? なんか、違った?」

「いや、思ったよりも詳細な識別だったなと」

「そうだね」


 この表示の仕方なら、水も「ただの水」というのは不思議だ。


「水も『水素と酸素の化合物』ぐらいの表示がされても良いと思うのだけど」

「お前の知識を基に『識別』しているわけではないってことだな」


 それなら、先ほどの「パーシチョプス」がおかしい。


 わたしは、「クンプ目」も「サトカク科」も知らないのだから。


「その『識別』は、拡大鏡が必要か?」

「うん。多分、わたしだけだと失敗しやすいと思う」


 あのゲームは識別レベルなるものがあった。


 あれと同じような原理なら、その識別レベルってものが上がるまで経験を積まないと、失敗する確率が高いのだ。


「今回は何故、道具を使おうと思った?」

「え? 参考にしたのがゲームだから?」

「ゲームかよ!?」

「ゲームじゃなければ、『識別』なんて言葉、普段は使わなくない?」


 九十九は少し考えて……。


「因みにそのゲームの識別の結果もお前が口にしたような結果だったのか?」

「いや~? 名前、特徴、効能ぐらいだったはずだよ?」


 流石に三年も前の話だ。

 記憶も曖昧になっている。


「でも、そのゲームでりんごや薬草は出てきたけど、こんな風に鉢植えで生きている植物は出てこなかった気がする」


 覚えているのはりんごと草。

 ああ、草はいろいろな効果があった気がする。


「多分、オレはやったことがないゲームだな。そして、お前の識別結果はそのゲームと、少し前にオレがした話が混ざっている可能性がある」


 まあ、あのゲームはとある落ち物パズルゲームが好きじゃなければ、手を出さないだろうからね。


「因みに、あなたにはどう見えるの?」

「普通の拡大鏡のままだ。お前の言う、その青いふきだしのようなものは見えん」

「ほえっ!?」

「お前の目だけ、レンズを通して結果が出るようだな」

「わ、わたしの目だけ!?」


 それはどんな異常事態なの!?


「普通にそのまま拡大鏡を見たらどうなる?」

「えっと……」


 九十九に言われるまま、もう一度、ルーペを使ってパーシチョプスを見ると……。


「あれ?」


 文字が……というよりもふきだしがそのものが消えていた。


「消えたな?」

「うん」

「つまり、見た直後だけなのか。単純に時間制なのか。これだけでは分からんな」


 あのゲームでは道具を使って「識別」できるのは一回だけだった。

 そして、識別のスキルを使った時も、一度だけ。


 まあ、スキルは何度も連続して使えたけれど、消費魔法力が始めは結構、多かった。


 でも、幸い、わたしが使う「識別」ではそこまで魔法力が減った気がしない。

 気付かないほど微々たるものだ。


 わたしの知識と、実際の魔法が混ざっている気がするけど、魔法力が減っていないなら、ありがたい話である。


「いろいろ試すか」

「そうだね」


 その時のわたしは、深く考えなかったのだけど、よく考えたら、とんでもないことを承知してしまった。


 九十九は雄也さんほどではないけれど、検証好きな青年である。


 しかも、興味のあること、好きなものに関しては貪欲なまでに知識などを追い求める性質がある。


 そこに思い至らなかったことを後悔……、したような、しないような結果になるのである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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