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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1892/2805

お酒の効果

 結論から言うと、出来上がった直後の酒の効果は、どれも、はっきりと分からなかった。


 人体にとって無害か、有害かの判定については、いつものように、「薬物判定植物(パーシチョプス)」の結果で判明している。


 白い濁り酒、「淡黄(ウァルトス)麦酒(ルガール)」にミタマレイルの花を溶かした時にできたものは、淡い紅色に変化している。


 だが、その見た目に反してえぐみのある苦みがあるものが出来上がった。


 その上、飲んで数分経っても、酒精を口にした時の効果とそこまで大差はなく、普通の苦い酒だった。


 この「淡黄(ウァルトス)麦酒(ルガール)」に関しては、ほとんどの植物に相性が良いとされているが、そのほとんどは酒の効能を脱しないことの方が多いとされている。


 逆に言えば、失敗の少ない酒で、果実を漬け込んで果実酒にしやすい酒だ。


 以前、セントポーリアの国境近くにあるグロッティ村でオレが作っていたのが、この酒だった。


 その時の味は、甘みのある果実を漬け込んだこともあって、甘くて口当たりがよく、先に話してしまったこともあって、すぐに水尾さんの腹に収まってしまった。


 彼女には甘すぎたのか、「ジュースと変わらん」と言っていたが。


 そして、今回作ったのは好みの味ではなかったが、これはミタマレイルの花自体が苦味の強いものだから仕方ない。


 予想外の変化を起こしたのは琥珀色の液体、「業火酒(スチリプス)」と呼ばれる、ほぼ酒精だろうと言われている蒸留酒にミタマレイルの花を溶かした時だった。


 オレの予想では、花も残る予定だったが、消えてしまった。


 そして、本当に完全に、その痕跡すら消えているため効果以前の話である。


 ノイアイダンドで試した時は、「業火酒(スチリプス)」は人類が飲める物に変化していた。


 消毒用エタノール代わりに購入している酒だ。

 この世界では、消毒用に酒精を使うことはほとんどない。


 医療知識がないということもあるし、洗浄魔法などが存在しているためもあるだろうが、一番の理由は、この世界の住人にとって、()()()()()()()()()()だからだと思っている。


 勿論、かなり薄めた上で殺菌効果を高め、さらに無色透明化に改良したものだ。


 そのノイアイダンドのような変化を期待したのだが、「薬物判定植物(パーシチョプス)」の結果は、警戒棘(けいかいし)が出た。


 つまり、人体には害がある確率が高いらしい。


 ある程度、覚えのある毒の成分ならば良いが、思いもよらぬ成分、効果があるものだと、流石に影響があるし、解毒、中和が難しくもなる。


 今、栞を守るのはオレだけだ。

 兄貴もすぐにはこの場所に来ることができない。


 そんな状況で好奇心から無理をする理由などなかった。


 そして、最後の「暗黒酒(シンクァーディクス)」。


 栞は黒すぎるこの酒の色に驚いていたようだが、人間界でも黒い酒はある。


 黒ビールは、日本では歴史が浅い酒だが、海外には数百年以上の歴史があるものも存在している。


 それに、カクテルなどを入れたら、人間界で黒い酒は意外にも多い。


 ウィスキーをコーラで割るだけで簡単に黒い酒(コークハイ)もできるような世界だからな。


 そして、正直、オレはこれの反応が一番、気になっていたのだ。


 この「暗黒酒(シンクァーディクス)」。


 単体で口にしても、かなり、身体能力が向上しやすく、身体強化が苦手な行商人が、長旅をする時に飲むことも多いと聞いている。


 薬草との相性も良いのか、これまで何種類か試したが、今のところ、マイナスの効果は出たことがない。


 料理に使っても変質しにくいので、常備しているような酒だ。


 だが、ミタマレイルの花を溶かし込むと、その色を変えた。


 薄い黄金色。

 人間界で見たラガービールの一般的な色だとも言える。


 だが、泡はない。

 酒精の独特な匂いすら。


 そして、「薬物判定植物(パーシチョプス)」にかけると、色は真紅へと変わった。

 まるで、どこかの男の髪を思い出すような色。


 つまりは、人体に害はないと判定されたが、どうするか。


 「暗黒酒(シンクァーディクス)」に、とある薬草を漬け込んで一日置くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことは知っている。


 つまりは精力剤だ。


 機能不全を快癒するクエン酸シルデナフィルよりも、薬用ハーブであるマカに近い効果があるらしい。


 但し、オレが知っているその薬用酒は、かなり効果が強く、十回連続で吐き出しても収まらないと聞いている。


 ナニを? とはいうまでもないだろう。


 薬の調合の話を聞くと、例に出されるほど有名な話なのだ。


 そして、流石にその効果が恐ろしくて、試しに作ったことはあっても、服用したことはない。


 そういった時、オレが使って有効だと思われる魔法は二種類ある。


 一つは身体に有害な物質が入り込んだ時に対する一般的な「解毒魔法」。


 これは、他者に対しても使えるが、明らかな「有毒」ではなく、身体が害と判断しないような「薬」に対しては効果がない。


 だから、その「暗黒酒(シンクァーディクス)」にある薬草を漬け込んだ薬用酒を飲用して現れた効果に対しては全く意味がないだろう。


 機能の大幅向上……、元気が良くなりすぎる状態を「有毒」とは判定しない。


もう一つの魔法は、自分の服用経験がある成分に対して中和……、いや、無効化する「中和魔法」。


 身体に害がないはずの薬効成分すら無効化するものだが、その薬用酒の成分が、オレが服用したことがなければ使えないのだ。


 勿論、「暗黒酒(シンクァーディクス)」自体は飲んだことはあるが、ミタマレイルの花を溶かし込んだ状態では、成分判定が変わる可能性がある。


 確実に大丈夫と思える状況でなければ、流石に、オレも薬の試飲はしたくなかった。


 今回、ミタマレイルの花が溶け込んだ状態の「暗黒酒(シンクァーディクス)」が、件の薬草が溶けた状態の効能と、似たような効果が出ないとも限らないのだ。


 いや、ミタマレイルが一部で霊草と呼ばれている以上、同じ種類の効果でも、その効能が上昇する可能性が高い。


 少なくとも、今は()めておこう。


 オレが「識別魔法」を使えれば話は早いのだが、その「識別魔法」は、魔法書が手に入りにくいらしい。


 兄貴も話に聞いたことはあるけれど、見たことがないそうだ。

 恐らく、一部の人間たちが隠し持っているのだろう。


 「識別魔法」とは、その名前の通り、いろいろな物の種類や性質などを見分けることである。

 残念ながら、人間に対しては使えないらしい。


 まあ、オレたちのように周囲を誤魔化して生活しているような人間にとってはありがたい話だけどな。


「ん……?」


 そう言えばここに、魔法の契約をしなくても、魔法を使える特殊能力を持つ人間がいる。


 その女にさせてみるか?

 識別……、のイメージはできるか?


 人間界で使うことはあまりない言葉だ。

 でも、後で試させても良いか。


 今は、他にも考えられることを試していくか。


 ノイアイダンドに似ているから、似た性質だと考えるのは早計だったらしい。


 だが、これまで同じ系統に属する植物は、酒に関しては割と同じような変化を起こしやすかった。


 そう考えると、ミタマレイルはノイアイダンドと同じ、ママスラシーク科ではない可能性が高い。


 そもそも、なんでオレがミタマレイルを酒に漬け込もうと思ったのかも、その辺りにある。


 料理では無理だ。

 科、属、種どころか、同じ食材を使った時すら、状態変化が激しすぎる。


 この世界で一番、変化を起こしにくいのは酒だ。


 酒精が入っているだけで、混成酒(リキュール)にしても、混合酒(カクテル)にしても、その配分さえ間違えなければ、作り手が異なっても、別のものが出来上がることは少ないらしい。


 全ての物を試したわけではないが、酒に関しては失敗事例の報告が少ないため、そこまで誤りではないだろう。


 何より、料理が苦手なフレイミアム大陸出身の王族たちですら、酒に果実を漬け込むことはできるのだ。


 そのことが、何よりの証明だとオレは思っている。


 尤も、あの二人が作る果実酒は、ほとんど果実成分のない酒だと、機械国家の王子殿下は言っていた気がするが、そこは思い出さなかったことにしよう。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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