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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~
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報告と連絡

 兄貴から通信珠の呼びかけがあったので、オレは反応する。


「おう。今ならオレ一人だ。周囲も人気(ひとけ)はない」


 神経を集中しても、周囲には魔獣の気配すらなかった。


 ちょっとした小動物ぐらいはいる気がするけど、問題になるほどではない。


『ようやく時間がとれた。確認するが、どこまで進んだ?』

「昨日のうちに東の街道から外れた。城下からは35キロほどは進んだんじゃねえかな」

『思ったより、進んだな』

「そうなのか?」


 高田の「参勤交代」発言がなんとく頭に蘇る。


『栞ちゃんにかなり無理させただろ? 街道ではない森の中を魔力が封印されている彼女の足でそんなに歩けるとは思えんのだが』

「……アイツが意地っ張りなんだよ」


 水尾さんも高田に気を使って何度か理由をつけて休ませようとしていた。

 オレもできるだけ休憩をさせようとしたのだ。


 それなのに……、すぐに進もうとする。


『なるほど……。彼女自身が早く離れたかったということか……。無理もない話だ』

「まあ、追われているからな」

 いくら呑気な人間でも、その身に危険が迫っていれば、のんびりはしていないだろう。


『たわけ。ずっと一緒にいた母親と別れたばかりなんだ。戻りたくならないように必死で歩みを止めなかったんだろう』

「…………は?」

『それに何かをしていた方が気も紛れるからな』


 言われてみれば、あいつは一度も後ろを振り返ろうとはしなかった。


 前だけを見て、息を弾ませながらも必死で足を進めていたのだ。


「……なんで、言いきれる?」


 断言口調だったことが気になった。


『あの子は頑張り屋だから。泣きたい時に素直に泣く子でもないし。哀しみや淋しさを断ち切るために別のことに気を逸らすだろうと考えたわけだが……』

「そうですか」


 言われてみれば母親を気にしていたのは分かっていたが、高田の行動の意味についてはあまり深く考えなかった。


 またいつもの頑固が出ているのだろうと……。


「兄貴の方は?」

『話を逸らしたな。まあ、いい。千歳さまは送り届けた。その時の陛下のお顔をお前にも見せてやりたかったよ』


 少し笑いを我慢したような兄貴の声。


 どうやら、本当に面白かったらしい。


「締まりのない顔だったか?」

『……目と口は開いていたな。何せ、相手の声だけで姿が見えない状態だったのだから』

「……あ」


 そう言われて思い出す。


 オレたちが城下から出る時に使った薬と違って、敵陣に乗り込む千歳さんが飲んだのは、人間界から来る時に使ったヤツだった。


 あの薬の効果は丸一日だったはず。

 それでは、感動の再会も何もあったもんじゃない。


『まあ、俺がいないところでやり直すだろう』

「……それも感動が薄れそうだな」

『それでも、嬉しそうな陛下の顔を見たのは一週間ぶりだ』

「……結構、近いな」

『先に娘に会っているからな。それも千歳さまの悪戯込みで』

「……どんな悪戯か考えたくもないんだが」


 千歳さんの悪戯は、過去のオレも何度か被害に遭っている。


 最近あったのは、人間界。

 うっかり眠りこけてしまった時、高田と一緒の布団に放り込まれた。


 心臓に悪すぎる悪戯である。


 いや、確かにあんな所でうっかり寝ちまったオレも悪かったんだけどな!


 しかし、ふと思った。

 あれから10年経っているのだ。


「陛下は……、今の千歳さんでも受け入れることができるかな?」

『外見の話か? あの方が見た目で選ぶタイプだと思うか?』

「いや……、でも……」

『何より……千歳さまが一般的な人間の歳の重ね方に見えたか?』

「…………いや、あの人、どんな魔法を使っていたんだ?」


 兄貴の言うとおり、千歳さんは、昔から変わらない外見を保っていた。


 10年間、あの人は魔法を使えなかったはずなのに。


 魔界人なら分かる。

 人間と違って外見に加齢が見える時期が異なるのだ。


 だが……、あの人は間違いなく人間だったはず……だよな?

 確かにそう言ってたよな?


『女性は謎が多いものだ』

「謎過ぎだろ? あの人」

『その謎の一部に救われているのだ。何も言えんだろう?』

「確かに……。で、今度は何を企てているかは聞いたのか?」

『直接、伺ってはないな。だが、なんとなくは分かる。わざわざ栞ちゃんを手元から遠ざけ、これまでのように彼女を護りながらの戦いから、攻めに集中する戦いに転じたわけだからな』


 兄貴の言葉で、やはり、あの人は国王陛下に護られるために城へ戻ったわけではないと確信する。


 そんなお姫さま的な思考の持ち主であれば、オレや兄貴はここにいなかっただろう。


「高田が……、魔法を封印されていなければ、もっと楽だったんだろうけど……」


 思わず口から零れる。


『そうでもない。寧ろ、今の状態は都合が良かったかもしれないぐらいだ』

「どういうことだ?」

『強い魔力を持った娘が傍にいれば、確実に誰かが利用しようとするからな。千歳さまは昔から、娘を政争の種にしたくはないと言っておられた』


 それはオレも知っている。

 だが……。


「……それなら、一緒に逃げれば良かったのに。高田はともかく、千歳さんはその気になれば身を護れる。正直な話、兄貴ならそれもできないことはなかっただろ?」

『あの方がセントポーリアに未練がなければ、それができただろう。だが、そう割り切るにはこの国に思い入れが深すぎる』

「……容赦ないくせに非情になりきれないんだよな」

『人の心があると言え。人心が分からずして、他人の理解は得られまい』

「その人の心とやらで、足元(すく)われなければ良いんだがな」

『知った口を……』


 なんだか説教コースに突入しそうなので、この辺でぶった切ろう。

 オレも精神を壊されたくはない。


「ところで、兄貴の合流はいつ頃になるんだ? 高田が気にしていたぞ」

『2,3日後と考えていたが、思ったより私兵の扱いが面倒だ。もう少し遅くなると思う。どうやら……、妃殿下は、かなり彼女にご執心だと見えるな』

「……王子じゃなくて?」


 そんな気はしていたが、やはり王妃の方が主体となって動いていたか。


『王妃殿下だな。後、厄介なことに、探している娘が千歳さまの娘であろうとなかろうと、王子殿下の慰み者にするつもりだそうだ』

「はあ!?」


 一瞬、聞き間違えたかと思った。


 だが、兄貴がそれ以上何も言わないところをみると、誤りではないようだ。


「慰み者って……、その……、男側から見て遊び相手……、下手すりゃ玩具扱いみたいなもんだろ? あんなガキ相手に?」


 あんなちんちくりんな女にその気になれるものなんだろうか?


 それに同じ遊ぶにしても、王子ならその身分上、もっとマシな……、色気ある人間を差し出した方が良いと思うんだが……。


『その行為も欲望の捌け口としてではなく、単に対象を傷つけるための手段でしかないようだ。そして……、お前に見る目がないのはよく分かった。だが、問題はそこではないな。万一、捕まって王子殿下の前に引き摺りだされたらアウトってことだ』

「もしかして、オレに対する脅しか?」


 油断するな、と?


『たわけ。少しばかり危険を冒してまで手に入れた情報だ。嘘は言わん。言ったところで意味もない』


 ……ってことは、本当なのか。


 それにしてもやり方がえぐい。

 それを考えた人間が真っ当ではないことを伺わせるような方法だ。


 相手を……、傷つけるためだけの行為?

 それに賛同させられる王子もある意味、災難だな。


 まあ、万一、乗り気だったら趣味を疑うが。


「千歳さんに関係なくても……って辺りが王妃らしいな。無関係な人間を巻き込むことをなんとも思ってねえのか?」


 本当に変わらない……。

 胸糞悪いままだ。


 いや、昔よりその意味が分かる分だけ醜悪さが増したようにも思える。


『まあ、確信はしているようだな。あの方は元々、こういった勘が鋭い。自分の障害になる人間を的確に見分ける』

「その論なら、兄貴は真っ先に排除されてもおかしくねえんじゃねえのか?」


 それが以前から不思議だった。

 兄貴は、ずっと城に顔を出している。


 千歳さんと繋がりがあったのは王妃だって、王子だって知っているはずなのに。


『利用価値がある間は利用するってことだろう。俺に価値がなくなれば……、そうだな。あのミヤドリードと同じように城下の隅で冷たくなるかもしれないな』

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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