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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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道は遠い

「ふ~」


 わたしはお茶を飲んで一息ついた。


 ずっと落ち着かない環境でお茶を飲んでいたせいか、自分で淹れてもそれなりに美味しく感じる。


 それでも、九十九の味と比べれば、まだまだなのだけど。


 さて、わたしは今、契約の間に出されたテーブルセットで一人寂しくお茶をしていた。


 そのすぐ近くには、この国の国王陛下が寝ている寝台があり、なんとも不思議な状況である。


 セントポーリア国王陛下はかなりお疲れのご様子だった。


 わたしの魔法がきっかけとはいえ、休める時に休んでいただきたいと思うのは当然だろう。


 幸い、時間はまだあるのだ。

 その時間いっぱいは眠っていただきたいと言うのは雄也さんの弁。


 そして、その陛下がわたしの近くで眠らされているのは、感応症の効果を期待して……らしい。


 実の娘であるわたしが近くにいれば、感応症の効果によって魔法力の回復が早くなる。


 尤も、感応症の効果を期待するなら、できるだけ近くに、より細かく言えば、密着、抱き合っての共寝が一番ではあるようだが、流石にそれはいろいろな意味で無理があるだろう。


 わたしも血が繋がっている父親と分かっていても、流石に見た目がかなり若い殿方と同じ寝台に収まるのは抵抗がある。


 これが、その相手が九十九なら慣れているし、もう今更だ。


 それだけ、九十九との距離は近く、セントポーリア国王陛下との距離は遠いってことなのだろう。


 いや、普通に考えれば、18歳にもなる娘が、父親と一緒の布団で寝るって、どんなにずっと一緒に暮らしているような仲良し親子でも、聞かない話だと思うのですよ?


 だから、妥協案として近くでじっとしていることになったわけだ。


 その間、日頃、魔力を抑制している装飾品を全て外していれば、わたしの体内魔気の強さなら、近くにいるだけでも相当な効果を発揮する。


 わたしは周囲を見ながらお茶をしているだけの時間。


 ここでお茶の提案をされた時、読書でもしようかと思ったけれど、とてもではないけれど、すぐに読書ができる環境ではなくなった。


 ここは「契約の間」と呼ばれる特殊な結界が張られている部屋。


 それも、中心国の城内にあるものとなれば、王族が集団で大きな魔法を使っても耐えられるほどの強度を誇る壁や床であるばかりでなく、外に一切の魔力の気配が漏れないのだ。


 そんな所が使い放題。

 そして、わたしは動けない。


 そうなれば、わたしの護衛たちがどうするか?


 わたしはお茶を口に含みながら、目の前の光景をぼんやりと眺めている。


「毎度、毎度えげつない魔法を使いやがって!!」

「お前が力押し過ぎるのだ」


 そんな日常会話に混ざって、非日常的な爆発音、破裂音、打撃音、破壊音、衝突音などが室内に轟く。


 わたしの目の前で、黒髪の護衛たちが、飛ぶように、舞うように、次々と魔法を繰り出し、繰り広げていた。


 書類仕事でストレスを溜め込んでいたのは、どうやら国王陛下だけではなかったらしい。


 これって、書類仕事に埋もれていた文官さんたちも、定期的にここに来て模擬戦闘をやるべきではないだろうか?


 そんな暇はないか。


 でも、国王陛下は睡眠時間を削って書類仕事しているけど、文官さんたちはもっと眠っているみたいなんだよね。


 わたしや九十九がいる時間帯から政務室の隣室で仮眠に入る人もいるみたいだし。


 もっと効率的に仕事や休憩はできないものかな?


 そんなことを考えていた時、わたしは彼らの魔法に目を奪われることになった。


 ……うわあ。

 光球魔法が、まるで雪崩のような勢いで、九十九に向かって次々に襲い掛かっている。


 本来、あれだけの量と速さが出せる魔法なのか。

 わたしの時は、かなり手加減されていたことがよく分かる。


 それに対する九十九は、氷結魔法?


 セントポーリア国王陛下が使っていたような氷の壁を出して、同じような勢いで跳ね返した!?


 ああ、うん。

 この世界の魔法バトルって本来、あんな感じなんだね。


 自分はまだまだなんだなと改めて思い知らされる。

 彼らの魔法は多岐に渡っていた。


 属性も6属性全て使いこなしているが、中でも多いのは光属性魔法。

 風属性魔法は時折、足止めなどの牽制に使う程度っぽい感じがする。


 互いに耐性が強いためだろう。


 そして、誰が見ても派手で大きな魔法を使うのではなく、明らかに質より量の手数勝負のようだ。


 まあ、手数勝負の魔法でも、魔力が強い彼らが使えばかなり派手な魔法になっているのだけど。


 光球魔法も一つ二つではなく、三桁ぐらいの数を出した上で、一気に相手にぶつけるのだ。


 多分、本来はあそこまで量はないと思う。

 魔法力もだけど、それを維持する集中力が持たないだろう。


 今度は九十九から、雷撃魔法だ。


 上から、なんだろう?

 天変地異かな?


 次々と、恐ろしいほどの光の槍が、雄也さんに向かって落ちていく。


 漫画とかで見る、世界の終わりのような光景を、かなり広いとは言え、屋内で出さないで欲しい。


 そして、思わぬ大音量のために思わず耳を塞いだ。

 それでも、耳を貫かんばかりの轟音。


 落雷の音をこんな近くで聞くなんて、誰も思わないよね?

 しかもかなり反響しているため、音量は増している気がする。


 いや、もしかして、これを狙った?


 雄也さんの動きが少し鈍った。


 そこを好機とみて、九十九は炎弾魔法を撃ち込んでいくが、その背後に忍び寄った、植物がにょきっと立ち上がり、弾丸のように種を吐いた!?


 なんだっけ?


 人間界で見たことがある名前は思い出せないけど、あちこちに生えていて、触ると種を飛ばす植物によく似ていた。


 でも、その大きさは全く違う。


 あの植物と同じように、上から見ると、星形……、オクラのような形なのだけど、人の頭が三つぐらい並ぶような大きさなのだ。


 1メートルはない気がするけど、それに近そうな大きさの星形の柱から赤茶色の種が噴出されていく。


 大きさ的に品種改良なのかな?


 それとも、この世界の植物だからあの大きさが普通?

 いや、魔法だから?


 だが、大きいということは、その分、種も大きくなる。


 背後から、九十九は頭にその種を撃ち込まれる形となるが、魔気の護り(自動防御)が働いたらしい。


 九十九から突風が吹き出て、その種たちは、ごとごとと落ちていく。


 薬莢かな?

 銃を撃った後に落ちるのがそんな名前だったよね?


「ふむ。流石に攻撃判定されるのか」


 雄也さんはそう言うが、今の種飛ばしが攻撃じゃなければ、なんだというのでしょうか?

 かなりの速度で噴出されたよ!?


「なんだ!? 今の魔法は!?」


 九十九も見たことがない魔法だったらしい。


「植物魔法だな。ロールクスを少々、大きくしてみた」


 つまりは、品種改良ですね?

 そして、魔法ってそんなこともできちゃうんですね?


 しかし、植物の品種改良って、どこの少年漫画の妖狐かな?


「どこが少々だ!? 蒴果(さくか)も種子も20倍近くでけえじゃねえか!!」


 もともとわたしが知る植物よりは大きいらしい。

 でも、蒴果(さくか)って何?


「後でいくつか株を寄越せ。ロールクスの葉は血止め効果がある」

「治癒魔法が使えるお前には不要だろう?」

「いつでも治癒魔法が使えるとは限らん」


 薬師志望の青年はこんな時でも薬効成分を気にするらしい。


 そして、その間も魔法の応酬は続いている。


 それにしても、セントポーリア国王陛下の相手をしている時よりも、多彩だし、多種だし、多様な魔法の数々。


 しかも、心なしか、二人とも生き生きとしている。


 やはり、国王陛下の相手はやりにくいのだろう。

 ある意味、全力を出しにくい相手だからね。


 考えてみれば、二人の模擬戦闘をまともに見るのって多分、初めてだと思う。


 「ゆめの郷」でも、二人の共闘という形でしか見ていない。


 でも、九十九の話では、定期的に魔法の模擬戦闘や剣の模擬戦闘などいろいろやっているとは聞いている。


 それでも、互いに初めて見せ合う魔法があるようだ。


 見覚えのない魔法が出ると、どちらも、一瞬だけ動きが止まって観察状態になっているから。


 わたしのように魔法が発動する前に狙わない辺り、発動しても対応できると言う自信と余裕があるのだと思う。


 つまり、わたしはまだまだ彼らに敵わないってことなんだろうね。


「道は遠いなあ……」


 風刃魔法を繰り出す黒髪の青年と、氷矢魔法を繰り出す黒髪の青年の姿を見ながら、ぼんやりと呟くのだった。

作中、主人公が思い出していた植物は「カタバミ」です。

種が飛ぶ勢いが凄いですよね。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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