それぞれの務め
本来、朱雀、鳳凰、不死鳥は似ているけど違うモノである。
それらが火の鳥ではあるためか、同一視している作品も結構あるけれど、その成り立ちから、別の種類の神獣、霊鳥であることをわたしは知っている。
だから、わたしは自分のイメージを強く持つ。
古くからの神獣に対して不敬かもしれないが、想像するだけなら自由だろう。
朱雀は「火の鳥」。
古来より「朱鳥」とも言われる吉兆の神鳥。
天の南方を司る守護神。
そして、何度逃げても逃げても、運よく倒せても、しつこく現れて襲い掛かってくる無敵の四神!!
「甦れ!! 朱雀!!」
そんなわたしの言葉に応えるかのように、一度、羽を舞い散らせ、消えてしまったはずの火の鳥は、その身に炎を纏って再び、形作る。
「よし!!」
わたしは拳を握りしめる。
やはり、わたしの魔法は想像が大事。
復活すると信じれば、魔法の再利用すら可能のようだ。
実際、先ほど朱雀を出した時よりも、使った魔法力は少ない気がした。
リサイクルは大事だね。
「いっけ~!!」
『クケ―――――ッ!!』
わたしの呼びかけに返答してくれる火の鳥。
まるで本当に意思があるかのようだ。
そのことに思わず、笑いが出る。
魔法って、本当に凄い。
考えただけで、思うだけで、願うだけで、祈るだけで、不可能なことなど何もない気がしてくるのだから。
陛下が再び身構えた。
先ほどは氷系の魔法で対処された。
火には氷。
それは分かりやすい考え方だ。
九十九も、あの朱雀には氷で対応している。
その後に、あの雷撃魔法で作った剣を出されたけれど、最初の対応方法は、氷魔法だった。
では、その考えの意表を突こうか。
大きな火の鳥が……。
「分裂!!」
いきなり、別々の存在に分かれたらどう思う?
「「「は? 」」」
その場にいたわたし以外の全ての声が重なった。
それと同時に、鳥を模したような火が細かく分かれ、さらに小さな鳥の姿となって、国王陛下に向かって行く。
その数は……、いくつ?
大きな火の鳥に対して、小さな火の鳥たちになれと願っただけだから、そこまで深くは考えていなかったけど、数十羽にはなったかな?
大きさはかなりまちまち。
一番、大きな火の鳥は、成人男性ぐらいの大きさ。
一番、小さな火の鳥は、わたしの小指の先ぐらい。
それらが一斉に国王陛下に向かって、突如、発生した風圧によってその全てが掻き消された。
陛下が風魔法を使ったわけではない。
それならばもっとちゃんとした風の形をしているはずだ。
「良し!!」
狙い通り、「魔気の護り」を使わせた。
それに気付いた九十九と雄也さんが別方向からすかさず魔法を叩き込んでいく。
自動防御は連発できない。
今がチャンスだ!!
それでも、即座に国王陛下は二方向の魔法に対応する。
造られたのは氷の壁。
それらが左右に生えていて、手数重視にしている九十九と雄也さんの魔法ではすぐに破壊できない。
だが、ここで半端な大技を繰り出せば、そこを狙われる気がひしひしとしている。
今、九十九と雄也さんのどちらが欠けても、この戦況はひっくり返ってしまうだろう。
実際、国王陛下は先ほどから攻撃する時は、迷わず九十九を狙っている。
雄也さんが距離を取っていることもあるみたいだけど、九十九の方が、国王陛下に攻撃する回数が多いこともあると思う。
普通に考えれば、何を企んでいるか予測しがたい頭脳の方を狙う気がするのに。
「ならば……」
わたしは手を前に突き出す。
「竜巻、大量発生!!」
次々と、竜巻が九十九に向かって発生した。
「おいこら!!」
流石に九十九がわたしに対して叫ぶが……。
「わたしの魔法ぐらいであなたがどうにかなるはずがないでしょう?」
実際、九十九はその竜巻に巻き込まれても、その身体は動かない。
流石に身に着けていた銀髪の鬘が飛んだり、服も一部めくれ上がったりしたが、それぐらいしか影響がないのだ。
先ほど風魔法の耐性強化をしたとはいえ、それだけ、彼はわたしの風魔法に耐性が強すぎるということだろう。
そこは悔しい。
次は九十九をふっ飛ばすほどのイメージをしてやる。
だが、今、考えるのは次のことではない。
九十九を巻き込みながらも竜巻の行列は、彼を通り過ぎて、その先にいる国王陛下に向かっていく。
カルガモの親子かな?
そう考えてしまうほど、綺麗に並んでいた。
「なるほど」
国王陛下はわたしの狙いに気付いたようだ。
風属性魔法に耐性があっても、まったく影響がないなんてことはない。
魔法に対して防御を固める必要が出てくる。
あれほどの竜巻すら余裕なんて、そんなの、九十九ぐらいだよ。
「魔気の護り」するほどでもないが、あの数に対してその間、意識的に防御を固めれば、その分、彼らから目を離す形になる。
そして、九十九の真逆……、陛下の背中には、この場で最も油断ならない人が次の魔法を準備する気配があった。
先ほどから氷魔法でほとんどの魔法を対処しているようだが、その氷を砕く術を雄也さんは絶対に持っている。
さらには九十九も竜巻に巻き込まれながらも、魔法の準備をしている。
わたしがするのは、竜巻の維持だ。
先ほどから国王陛下の身体を通り過ぎていくが、その形は消えず、威力も落ちていない。
「全てを消す必要はないか」
国王陛下がそう呟くのが聞こえた気がした。
その形は維持されているが、風力だけで、何かを傷つけるようなイメージをしていないために、国王陛下の衣装をはためかせる程度ではある。
そのために、陛下はそう判断したらしい。
だが、違う。
そんな甘い竜巻を作った覚えはない。
「Uターン!!」
わたしがそう叫ぶと、国王陛下を巻き込んだ竜巻がさらに動きを変えた。
台風で怖いのはその勢力の維持もだが、進路が予想通りにいかない時だ。
迷走するような動きをされたら、気象予報士たちも大変だろうなと思うが、今回はそれをあの竜巻たちにしてもらう。
そして、国王陛下の身体は、再び竜巻に呑み込まれる。
傷つけることが目的ではないし、わたしの風属性魔法程度では、傷付くことすらないだろう。
そんなわたしの魔法でもできることはある。
それは足止めだ。
国王陛下が風属性魔法に耐性があっても、いや、あるからこそ、わたしの魔法を無視できない。
自分が最も自信のあるもので、逃げることはしないだろう。
だから、その場で耐えようとすると思う。
それは言い換えれば、陛下の魔法力を消費させることに繋がるのだ。
「魔気の護り」であっても、意識的に魔法耐性を強めて防御に徹しても、何もしなくても、自分の魔法以外の攻撃魔法に触れれば、魔法力が消費される。
そして、魔法力の消費量は毎回、違う。
この世界では、同じ人間が同じ魔法を使っても、その状況によって、魔法の威力や魔法力の消費量は異なるという特徴がある。
その辺り、魔法に対して消耗する魔法力が一定数値で決められているRPGのようなゲームとは全く違うが、体力、筋力、体調、環境、気分などで考えればそれは納得できるものではあるだろう。
体調不良の時や、イライラしている時に、心の準備もなく長距離を走れと指示されても良い結果が出ないと思う。
「面白い」
竜巻の轟音の中、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。
「まさか、魔法力の枯渇狙いとはな」
自分の背中を突き抜けるような寒気。
何か、来る!?
そう思うと同時だった。
―――― 絡め捕る蔓
そんな言葉が耳に届く。
その言葉の意味なんてよく分からなかったけれど、咄嗟に、逃げなければ!! と、そう思った時には既に遅かった。
床から突如、現れた紐のようなものが、自分の身体を瞬く間に拘束していく。
そして、わたしの「魔気の護り」は発動しなかった。
「栞!!」
「栞ちゃん!!」
この契約の間で、一度もわたしの名を呼ばなかった護衛たちの叫び。
だが、わたしはそれに応えることが、できなくなってしまったのだった。
とあるRPGに出てくる朱雀のしつこさにうんざりした作者です。
一、二歩でのエンカウントとか酷過ぎませんか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




