表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1856/2804

眠りに落ちたその先で

久しぶり(?)に阿呆な話。

 世の中には不可抗力という言葉がある。


 だから、今回も言おう、「オレは何も悪くない!! 」と。


 顔に軟らかく温かい何かが当たり、その重さと息苦しさで目を開けた時、世界は闇に閉ざされていた。


 いや、違う。

 自分の顔に何かが覆いかぶさっていたのだ。


 暫し……、熟考。


 寝る直前に自分の近くにあった柔らかくも温かいものはなんだ?


 ……?

 …………??

 ………………!?


「ちょっと、待てええええええええええええええええっ!?」


 その正体に思い当って、思わず絶叫した。


「はうっ!?」


 聞き覚えのある叫びと共に、一瞬だが、柔らかいものがさらにオレの顔に押し付けられる。


「ちょっ!? やだっ!? ごめっ!?」


 そんな慌てた声と共に視界が開け、天井が見えた。


「信じられねえ~~~~」


 オレは顔を押さえるしかない。


 流石に、こればかりは予想外過ぎて、まともな反応はできなかった。


 いや、()()()()()()()()()


 だが、それを当人が意識していないのだから、これはただの事故で、不可抗力で、どうしようもない話だ。


「ご、ごめ……」


 ある意味、加害者でもあり、被害者でもある女は顔を真っ赤にして、泣きそうな顔してオレを見ている。


 ああ、本当にただの事故だ。


 栞が厚意から、疲れを見せていたオレに膝枕をしてくれた。

 彼女の前で疲労を出したオレが悪い。


 そして、同じく疲れていた彼女もオレに膝枕をしてくれたまま、共に寝てしまったのだろう。


 そこまでは割とオレたちの間ではよくある話。

 だが、いつもと状況が違ったために、いつもと同じようにはいかなかったらしい。


 栞は壁を背もたれにしていた。

 その時点で、後ろに倒れることはない。


 倒れるとしたら、前か左右だ。

 そして、オレに膝枕してくれていた。


 足に重しがあるその時点で、ずれることができない。

 本来なら苦しい体勢だろうが、栞は身体が柔らかい。


 そのまま、前に倒れて寝てしまったらしい。


 状況は分かっていただけただろうか?


 つまり、栞は前のめりに倒れて、同じく寝ていたオレの顔を圧し潰していたのだ。


 はっきり言ってしまうと、寝ているオレは、栞の太ももと胸に挟まれた形となったわけだ。


 もう一度言う。

 男のオレからすれば、それは天国だ。


 膝枕だけでもそうなのに、その上………………、胸だ。


 叫ばなければもっと長く接していたかもしれないが、当人の意識のない状態でそれを悦んでしまったら、オレは最低だよな!?


 いや、意識のある状態でそんな幸運に巡り合えるはずもないのだが。


 しかし、前にも思ったが手で触れるのと顔に当たるのでは随分、感覚が違う。

 自分の感覚では、手で触れるよりも顔に当てる方が柔らかい気がする。


 今回は「ゆめの郷」で、栞の胸に顔を当てて頭を撫でられた時とも当たり方が全然違うこともあっただろう。


 あの時は頬だけだったが、今回は顔面だ。

 全面だ。


 だが、それを今、思い出している場合じゃない。


 どう見ても、栞の方がダメージは大きいだろう。

 好きでもない男の顔に自分の胸を押し付ける行為なんて、痴女じゃない限り喜べないことだと思う。


 もしくは「ゆめ」とか。


 だが、栞はそんな女じゃない。

 その羞恥心とか、嫌悪感とかは計り知れないだろう。


 しかも、その相手は「発情期」で襲い掛かったこともあるこのオレだ。


 それでも今回の件に関して、悪くないと言い切れるが、栞が悪いかと言われたらそこまで悪くもない。


 強いて言えば、もう少し考えろと言いたいが、それでも栞の方が傷は大きいだろう。


 オレ?


 ご褒美だよ。

 当然だ。


 事故であっても、好きな女から胸を顔に押し付けられて喜ばない男はいない!!


 だが、オレにとっては幸運な出来事でも、栞にとっては不運な事故でしかないのだ。


 せめて相手が栞の好きなヤツだったら良かったのに……。


 いや、良くねえ。

 それはそれでオレは腹立たしい。


「お前が謝るな」


 少しだけ苛立ちを含めてそう言った。


「で、でも……」


 だが、オレがそう言っても、栞は退かない。


「さっきのは不可抗力だろ? わざとやったならムカつくが、事故なら仕方ねえ」


 男心を弄ぶような揶揄い目的でされたなら、そんな女だったのかと幻滅する可能性もあるが、栞に限ってそれは絶対にない。


 それに、そんな行為なら寝ている時にする理由もないだろう。


「や、やっぱり……、ムカつく?」

「あ?」


 栞の目がさらに潤んだ気がした。

 こんな栞は珍しい。


 基本的に泣き顔を見せない女だから。


「嫌だったよね? 本当にごめんなさい」

「嫌? 何が?」

「いや、その……、胸…………、気持ち悪かったよね?」

「あ?」


 途切れがちだったためか、栞が何を言っているか分からない。


 だが……。


「いや、気持ちよかったぞ?」


 思わず本音が零れ落ちた。


「んなっ!?」


 何故か、驚愕する栞。


「女の胸で喜ばない男なんているのか?」


 好意の有無に関係なく、よっぽど、生理的に受け付けない相手でない限り、基本的には喜んでしまうだろう。


 男というのは悲しい生き物である。


「え? でも……、今、ムカつくって……」

「意図的っていうか、揶揄われたならムカつくだろ?」

「そ、そっかあ……」


 栞はホッとしたように胸を撫で下ろすが……。


「え? でも、今、あなたは喜んだの?」

「ふっ!?」


 そんな余計なことに気付かれてしまった。


「オレだって、男なんだよ!!」

「いや、それは知ってるけど……」


 栞は顔を赤らめて戸惑っている。


「男の人ってやっぱり、胸は大きい方が良いでしょう? わたし、その……、あまり大きくないから……。あなたは、前、拘らないって言っていたけど、それでも……」

「何を言ってるんだ?」

「ほへ?」


 栞が何を気にしているか分からないけど……。


「前にも言ったが、その辺りは人による。そして、オレは大きくない方が好きだ」

「あなたこそ真面目な顔して、何、言ってるの!?」


 オレがそう言ったら、栞は顔を紅玉(ルビー)のように赤らめて、叫ばれた。


 まあ、確かに好きな女に向かって言っても良い台詞ではないな。


 でも、仕方ないじゃないか。

 栞が胸のこと、妙に気にしているみたいだから。


 前にも言ってたよな?

 男って胸が大きい女の方が良いんじゃないかって。


 だが、本当にオレは大きくない方が好きなんだ。

 ないよりはある方が良いかもしれないが、大きすぎるのは嫌だ。


 それは「発情期」の時に、嫌というほど自覚した。


 最悪な形だったけどな!!


「お前が気にしてるからだろうが!?」

「それでも、もっと言葉選んでよ!! あなたのドえっち!!」


 とうとう「ド級」になってしまった。


 だけど、顔を真っ赤にしてそんな台詞を叫ぶ栞が、いつも以上に可愛いから、オレとしてはご褒美でしかない。


 思わず、顔がにやけそうになるが、これでは罵られて喜んでいるようにしか見えなくなってしまうので我慢する。


 そしてオレを罵りながらも、ちゃんと名前は伏せている辺り、栞は冷静だとも思う。


「ほう? どう言葉を選べと?」

「ほ?」


 だが、オレの問いかけに思考が停止したのはよく分かった。


「オレが気にしねえって言っているのに、お前が余計なことまで気にしたんじゃねえか」

「え? でも……」

「オレは怒れば良かったのか? 一方的なセクハラ行為を受けたって」


 いや、オレ自身が全く嫌がってはいないのだから、セクハラではないのだが、そこは置いておく。


 これ以上、藪をつついて蛇を出す気はない。


「……嫌だった?」

「不可抗力だろ? それに嫌じゃねえよ」


 オレは喜んじまったぐらいだ。

 叫ばなければ、いろいろ大変なことになっていたかもしれない。


「どちらかと言えば、お前の方が嫌だっただろ?」


 栞は膝枕をしながら寝てしまっただけだ。

 オレにそんなことをする気もなかっただろう。


 なまじ、身体が柔らかかったために、本来、きついはずの体勢も平気だったことも彼女にとっては不運に繋がっている。


「いや、正直、ビックリして、何がなんだか? あなたの叫びで飛び起きたぐらいだったから」


 眠ってしまったから、状況が分かっていなかったらしい。


「胸元が滅茶苦茶熱かったなとは思ったけど」


 オレもびっくりして、思いっきり息を吐き出したからな。

 鼻血を出さなかっただけマシだろう。


 ……だが、その表現はどうなのか?


 そして、その場所に手を当てるな。

 その部分にオレの息が当たったと意識してしまうじゃねえか。


「とりあえず、嫌というよりは驚いた」

「オレも驚いたよ」


 そして、栞が不快に思っていなかったならそれで良い。


「お互い、忘れよう。さっきのは事故だ」

「そうだね。それが一番だ」


 忘れようとして、忘れられる話ではないが、それでもお互いのためにそう結論付けたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ