表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1851/2804

限界まで試される

 ―――― 布団に包まれた愛らしい女が現れた。


 どうする?


「持ち帰り一択だな」

「へ?」

「いや、こっちの話」


 オレは自分の失言を誤魔化すかのようにそう言った。


 入室の合図をして、中から返事があったから扉を開けてもその姿はなかった。


 だから、奥まで来たのだが……?


「なんだ? その恰好」


 目の前の女は寝台の上で、布団にくるまれて顔だけ出していた。

 見ようによっては布団に食われているようにも見える。


 栞が回復したからと千歳さんに言われたので迎えに来たが、この状況は一体?


「いや、服が無くて」


 顔を赤らめながら、とんでもないことを口にされた。


「着ていた服は?」


 確か兄貴が吸水性の良い服に着替えさせたはずだが?


「母が持って行っちゃったみたいで困っている」

「千歳さ~~~~~~~んっ!?」


 なんで、あの方は時々、そんなことをするのか?


「まあ、叫ぶしかないよね」


 妙に冷めた返事。

 いや、当事者はもっと慌てろ?


 なんだ?

 つまり、その布団の中は……?


「確認するが、服がないってどういうことだ?」

「素っ裸」

「もっと言葉を飾れ!?」


 いや、真っ裸に言葉を飾るも何もないわけだが、あまりにも直接的な表現だとオレが物凄く困る。


 寝台の上で、何も身に纏っていない女が自分を待っているとか、これはもうギャルゲーを超えたエロゲーの世界だろ!?


「ちょっと待て」


 なんで、この母娘(おやこ)はオレの理性を試そうとするのか?

 それも、限界まで。


「そんなわけで、服を出してくれると嬉しいんだけど」

「そうだな」


 オレは慌てて、栞の服と、肌着系が入っていると思われる袋を取り出した。


「ほれ」

「ありがとう」


 布団から白い腕が伸ばされる。


 その隙間から、見えそうで見えない。


 いや、見たら駄目だろう。


 だが、見えないからこそ、見たいと思ってしまうのが悲しい男のサガである。


「あっち見ててね」


 布団に身を包んだまま、栞はそう言った。


 確かにジロジロ見ているのは護衛ではない。

 ただの危険人物だ。


 だが、衣擦れの音とか、毎度気になる。


 どうして、この女はオレを部屋から出さずに着替えることに抵抗がないのか?

 何かの勢いで、うっかり見るとか考えないのか?


 考えてねえな!!


「ふぐぐ……」


 何やら苦戦している声がするが、振り向かない。


 これは罠だ。


 時間的にまだそんなに着替えが終わってない。


 だから、これは罠だ。


 罠でしかない。


 絶対に罠だ!!


「あれ?」


 何やら気になる声がするが耐えろ。


 罠だ。

 天然の罠だ。


「雄也は?」

「ああ、兄貴なら……」


 その呼びかけにうっかり振り返って、固まってしまった。


 そこには布団しかない。

 いや、動いているから布団の中にいる。


 完全に布団の中で着替えているらしい。

 大きな布団に小柄な栞だからできることだ。


 いや、右足だけが膝の上まで見えているけど、残念ながらそこまでしか見えない。


 えっと、拝むべきか?


 違う。


「兄貴なら、リプテラに戻っているぞ。この城に留まっているのはオレだけだ」

「そっか」


 特に気にした様子もなく、着替えが続けられる。


 えっと、右足が何度も魅力的な太ももを見せてくれているのだが、これは、どうすれば良いんだ?


 オレは今、何を試されてる?


 理性だな。

 だが、心の中でしっかり拝ませていただく。


 流石にこれぐらいで襲い掛かるほどではない。


 男として、素直に美味しそうだとは思うけれど、それだけで理性が吹っ切れてしまうほどではなかった。


 幸い、顔が見えていないからだと思う。


 布団から足が生えただけではオレはそこまで欲情しないらしい。


「あなたはずっとこの城にいてくれたの?」

「ああ」


 離れる理由がなかったからな。

 まあ、その分、任された書類仕事が多かったが。


「それは悪かったね」

「いや、収穫もあったから良い」


 書類仕事から得られるものもあったが、一番は、書物庫を使う権利をもらったことが大きい。


 兄貴も持っていただろうが、オレも存分に本を複製させてもらった。


 これで、暫くは調べ物に困らないだろう。


「収穫?」

「本をいっぱい頂いた」

「わたしも読んで大丈夫なもの?」

「ああ」

「それは楽しみだ」


 そう言って、栞は顔を出した。


「およ?」


 そして、みるみる顔を赤くすると……。


「えっち~~~~~~~っ!!」


 そう叫ばれた。


「馬鹿言え。布団に魅力を感じるような性癖はねえ」


 どちらかといえば、今のその顔の方がヤベエ。


「布団?」

「振り向いても布団しか見えてねえよ」


 顔を出したせいか、布団の位置が下がり、先ほどまで見えていた右足はしっかり収まってしまった。


 残念だ。


「それでも、え? ずっと見ていた?」

「兄貴の話題をした時からだな」

「うわっ!?」


 どうやら、この女にも羞恥心はあるようだ。


「布団しか見えねえんだから問題ないだろ?」

「問題しかない!! だって、この下、その話題中はまだ下着姿だったんだよ!?」


 その発言こそ問題しかない。


 想像しちまうだろうが。

 あの下に下着姿の栞とか!!


 どう考えても御馳走でしかない。


「見えてねえ」

「ほ、ほんとに?」

「見えていたら、オレの方が騒いでいる」

「そ、そうか……」


 そこで納得して安心するのはどうなのか?


 オレの方は内心、心臓がバクバクしている。


 それよりもっと下の方は、まあ、それこそ落ち着いていられるはずがねえな。


 身体に付いていても、別の生き物のようなものだし、オレも健全な思考と健康な身体を持った青年なんだ。


 この生理的な反応だけはどうしようもない。


 幸い今日も身体のラインが分かりにくい格好をしているので、服が誤魔化してくれると信じよう。


「着替えは終わったか?」

「あ? えっと……、下がまだ」


 赤らめた顔のまま、栞はそう返事をした。


「とっとと着替えろ」


 そう言ってオレは背を向ける。


 あっぶね~。

 つまり、下はまだ下着姿ってことだよな?


 それはそれで、要らん妄想が捗るので、勘弁してほしい。

 先ほどから見えていた太ももよりも、さらに奥……とか。


 移動前にト……、いや洗面所を借りたい。

 ここは客室だからあるだろう。


 そこでいろいろなモノを発散させないと多分、マズい。


 書類仕事の疲れもある。


 ああ、陛下がストレスをため込んで暴れたくなる気持ちがよく分かった。


 あの仕事量を毎日繰り返していたら、思考がおかしくなるだろう。


 客室でなにやってるんだと言われそうだが、これはそう仕向けた人たちが悪い。


 なんだこれ?

 陛下はともかく、千歳さんは自分の娘に手を出して欲しいのか!?


「着替え完了~」

「そうか」


 だが、三日ぶりの笑顔に少しだけ癒された気がした。


 少しだけ欲が浄化された気もするが、同時に別の欲も増す。


 先ほどまで抱いていたのは、男の情欲だが、今、オレに浮かんでいるのは抱き締めたいと言うものだった。


「随分、疲れてない?」

「お前が寝ている間に、これ幸いとばかりに仕事を手伝わされたからな」

「おおう」

「兄貴は早々に逃げた」

「流石だね」


 正しくは時間切れだ。


 また一週間後に姿を見せるらしい。


 陛下は書類仕事を準備して待っていると声を掛けていた。


 高熱を出した栞が目覚めるまで、オレだけが残って、書類仕事をすることになった。


 まあ、栞を置いて城下の森に戻るわけもいかないし、その間、ここで無為に過ごすこともできないので、仕事が与えられる分には良い。


 量は多いが、単純な仕事ばかりである。


 寧ろ、この城の文官たちはどうしてこれに手古摺るのかが分からない。


「着替えをした直後にいうのもあれだけど……、お風呂入りたい」

「ぶっ!?」


 この状況でなんてことを言いやがる?


「いや、三日三晩寝こけていたってことは、三日もお風呂に入ってないってことだよ? ちょっと、それは嫌かなって……」

「ああ」


 その気持ちは分からなくない。


 栞は風呂好きだ。

 入る時も出た時も毎回、機嫌良さそうにしている。


 それなら……。


「ここの風呂が使用できるか、千歳さんに確認する」

「ありがとう」


 幸い、この城で使うための通信珠は持っている。


 備え付けのものは使う気になれなかった。

 どこかで傍受される気がして。


 だが、風呂。

 風呂か~。


 どうして、この女はオレの理性を試すような行動しかとらないんだろうな?


 オレは溜息しか出ないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ