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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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成長確認

「始め」


 雄也さんの声によってゴングが鳴った気がした。


 先ほどと同じようにセントポーリア国王陛下は風魔法を繰り出す。


 その数は……、13個。

 何故、増やしたのか?


 九十九はそれを自ら突撃することで消してくれた。


 だが、今のわたしに望まれているのは、そんな肉弾戦のような行動ではないだろう。


 それに、国王陛下は護りのためにアレを出したわけではない。


 単に九十九の動きが予想より早かっただけの話。

 本来のアレは、攻撃魔法だ。


 国王陛下はゆっくりと手をかざすと……。


「さて、どれぐらい成長したか?」


 そんな我が子の成長を確かめるかのような言葉を口にした。

 風魔法で娘の成長度合いを確かめる父親って何か違うと思うけどね?!


 そんな突っ込みを口にする間もなく、次々に向かってくる竜巻。


 あれぐらいなら、「魔気の護り(自動防御)」で十分、払える気がするけど、これがわたしの成長確認なら、ちょっと違うことをしたい。


「よいしょっと」


 手のひらを上に向けるとそこに現れるのは小さな光の球。


「外したらごめんなさいっと」


 そう言いながら、竜巻に向かって、その球を投げていく。


 少し前に九十九とキャッチボールをしたせいか。

 それとも、これは自分のイメージで出した魔法のせいか。


 思った所にちゃんと飛んでくれたのは嬉しい。


「む?」


 わたしが出した光球が命中すると、竜巻が爆風と言えるような凄まじい風を放った。


 実際、爆発音のような大きな音はないが、それでも、その激しい風圧で服や髪がはためく。


 先に鬘を外したのは正解だったかもしれない。


 わたしは九十九のように身に着けているものが吹っ飛んでも気にせずに前のことに集中するなんてできないから。


 だが、これは有効だ。


 次々と、光球魔法を投げて、風魔法を消していく。


 この世界の魔法は、瞬間的なものと継続的なものがある。


 補助魔法は継続的なものが多いが、攻撃魔法のほとんどは、対象物に到達してその効果を発揮すれば終わりというものばかりである。


 それは攻撃失敗を想定しないと言うのもあるし、使い手の性格的なものもあるだろう。


 ずっとその場に留まってその相手に対して攻撃し続けるって結構いい性格をしている人の発想だから。


 そんな性質があるから、人間界にいた頃、わたしは魔法が使えない状態だったけど、魔法に抵抗できたのだと思う。


 耐火マントに巻き込んで炎を消すとか、向かってくる炎に対して椅子をぶん投げて消失させるとか。


 まあ、そのために手首がかなり痛かったけど。


「面白い防ぎ方をするが、これはどうだ?」


 国王陛下が笑った。


 攻撃手段を切り替えるらしい。

 大気魔気の変動の仕方から、風属性魔法ではあるのだろう。


暴風(Wind)魔法(storm)


 放たれたのは、暴力的な風。

 全てを巻き込み弾き飛ばす理不尽なまでの嵐。


 大聖堂では、「風盾魔法」で防御した。


 そして、この城でお世話になっていた時は、風属性の基本的な魔法である「風魔法(Wind)」が多かった。


 それでもふっ飛ばされまくったけど。


 だが、それでも、今回、風魔法の段階は上げられたらしい。


 風の上って強風とか突風とかもっといろいろあるんじゃないかな?


 でも、コレも耐えてみせろってことだよね?


 それならば……。


「ぬん!!」


 九十九のようにかっこよく飛翔魔法で突っ込むとかはできない。


 それに、これは成長確認だ。

 それなら、前回、耐えられなかったことに耐えてこそ! ……だよね!?


 そのまま、暴風に巻き込まれた。


 でも、暴風に呑み込まれる瞬間も「魔気の護り(自動防御)」が出なかったということは、わたしはコレに耐えられる!!


 思い込め、思い込め!

 風属性魔法でわたしを傷つけることなどできないと!!


 でも、なんとなく苦しい。

 もしかして、この中って酸素が薄い!?


 風のせい?


「酸素」


 思わずそう言っていた。


 でも、酸素って何?!

 O₂!?


 落ち着け、自分。

 さっきより、マシっぽい。


 やっぱり、この中って酸素濃度が薄くなっているのかも?

 長時間いると酸欠になるかもしれないね。


 考えてみれば、人間、酸素がなければ死ぬのだ。

 それはどんなに頑強な魔界人でも例外ではないだろう。


 今のところ、首を絞められる系のことはされていないけど、溺れた時など酸素が薄くなると苦しいってことは窒息の概念はあるわけだし。


「およ?」


 考え事をしている間に、周囲の暴風が消える。


「無傷か」


 怪我をさせる気だったんですか? 国王陛下。


 これでも嫁入り前の大事な身体なんですけどね?


 この世界の人たちって、治癒魔法である程度は治せるからって、相手に怪我をさせることに躊躇がない時がある。


 でも、物を壊しても直せるからって、それを壊しても良いって考え方はおかしいよね?


 そう考えると、治せるからって、わたしが身体に傷を負って欲しくないと考えられる九十九のような人間は稀有なのかもしれない。


 単にわたしの周囲がやるからには全力を尽くすという好戦的な人が多いだけって気もするけど。


「あれから成長しましたので」


 あの後、どれだけわたしが魔法に晒されてきたことか。


 流石に、ここまでの風魔法はなかったけど、それ以外の、特に火属性とか、光属性とかの魔法は周囲に溢れているんですよ?


「若いと言うのは良いな」


 ああ、そういう意味に取りましたか。


「陛下にもあった時代です」


 なかったとは言わせない。

 その時に努力したから、今のこの方があるのでしょう?


「では、これならどうだ?」

「へ?」


 自分の周囲の気配が変わる。

 これまでは、国王陛下の周囲だったのに?


 これって……。


大旋風魔法(Tornado)


 その言葉と共に、わたしの周囲の何もかもが一気に上昇する。


 なんというピンポイント攻撃!?


 スカートに履き替えなくて良かった。

 髪とか酷いことになっているけど。


 そして、流石に服の袖とか裾とかが風の勢いで裂けそうな感じがしている。


 体内魔気の防護膜が少しだけ負けているってことか。


 なんとなく、「暴風(Wind)魔法(storm)」の方が強そうだけど、一発の破壊力ではこちらが強いってことかな?


 そして、効果時間が短い。


 「風嵐(Wind)魔法(storm)」は数分ぐらいだったけど、さっきの「竜巻魔法(Tornado)」は1分もなかった。


「ふう……」

「今の魔法でも身体が浮き上がらなくなったか」


 重くなったってことですか?


 違いますね。

 分かっています。


 我ながら、魔法耐性の上がりっぷりが凄い。


「それなら、これはどうだ?」


 ぬ?

 いよいよ「大暴風魔法(Tempest)」?


「ふぐっ?!」


 流石に声が出た。


 重い?!

 空気が……、なんか……、上から押さえつけてくる?


 しかも、今、無詠唱だった。


「うぐぐ……」


 ああ、そうか。


 セントポーリア国王陛下は風魔法の遣い手というよりも、大気魔法の遣い手だ。

 空気を使った攻撃を得意としている。


 この異常なまでの重さも、その一種だろう。


 前に城に来た時も、「風魔法」とコレに何度もやられていたことを思い出す。


 自分の体重が重くなったわけではなく、重力変化したわけでもなく、単に上から重い空気の圧力が押さえつけくるだけのこと。


 そして、わたしの周囲にそんな大気系の魔法を使う人がいない。

 使えるかもしれないけど、見せてもらったことがなかった。


 だから、対処法も分からない。


 それにしても……、重い。


 空気を軽くするには、ギャグ?


 違う。

 えっと空気が重いのは高気圧だから、低気圧にする?


 どうやって?

 分からない。


 わたしが知る限り最も低い気圧って……。


「台風」


 我ながら、安易だったと思う。


 せめて、もっと他に言葉を選べばよかったと思う。


 そして、セントポーリア国王陛下が「台風魔法」というのを使ったことがない理由も理解した。


 この世界に「台風」と呼ばれている熱帯低気圧の気象現象がない可能性はあるけれど、気候上、「嵐」と呼ばれるものはあるのだ。


「このドあほおおおおおおおおっ!!」


 そんな聞き覚えのある言葉と共に、わたしは自分の意識を手放すことになったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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