戦闘開始
「さあ、始めようか」
その言葉が開始の合図となった。
セントポーリア国王陛下の周囲にいくつもの竜巻が起こる。
無詠唱で繰り出された風魔法が全部で7つ。
国王陛下を守るように配置された。
以前、大聖堂で見た国王陛下の戦闘スタイルは、以前の栞と同じ、相手に手を出させた後からの反撃。
だが、あの頃の栞は魔法を自在に使えなかったからその形になっていただけで、実際は、攻撃する時の彼女は先手必勝型である。
「簡単には負けません!!」
そんな言葉と共に、栞は腕まくりをした。
白くて細く、そして眩しい腕が目に入る。
「行きます!!」
そう気合を入れて、横にいる兄貴とオレの腕を同時に掴んだ。
「『魔法攻撃耐性強化』! 『物理攻撃耐性強化』! 『魔法攻撃力上昇』! 『物理攻撃力上昇』! 『治癒効果上昇』! 『行動速度上昇』! 『状態異常無効化』! 『魔法力回復上昇』! 『疲労軽減』! 『風属性魔法耐性大幅強化』!!」
まるで、俺たちの腕ごと抱き込むような姿勢で続けざまに叫んでいく。
その文言は、以前聞いたものとは少し違ったが、柔らかくて温かい何かがオレたちを包んでいくのが分かった。
いや、栞の腕とかそれ以外も柔らかくて温かいけど、今はそんなところに気を散らしている状況ではない。
「では、行け」
「おお」
指示が出され、オレは国王陛下の周囲にある竜巻に向かって行く。
まずは、様子見だ。
何も考えずに突っ込む!!
もともとオレは風属性魔法の耐性は高い。
さらには、栞の「守護」で風属性魔法に対する耐性が引き上げられている。
それなら、これぐらいの風魔法なら、耐えられる!!
「ほう」
竜巻を切り抜けた先、すぐ近くで声が聞こえた。
さらに……。
「よくぞ来たな」
そんな言葉と不敵な笑み。
ああ、この顔は自信がある時の栞の顔に似ている。
さらに、背中から突き抜けるような寒気。
「暴風魔法」
それ、至近距離で放つ魔法ではないですね、陛下。
いや、今のオレなら防げますけどね。
以前、大聖堂で栞に放ったのを見たことある魔法だったが、ここはセントポーリア城であるため、その威力はさらに増している。
流石に距離が近すぎて、その全ての暴風の勢いが殺しきれない。
だが、無様に宙を舞うことは避けられた。
「耐えたか。ならば、『大気錐魔法』
それ、空気ドリルってやつですね?
オレが知っている種類のものとは違いすぎる。
人間界の空気ドリルは空気作用を利用した穴あけ工具だが、陛下が使っている魔法は、空気を圧縮させて、そのままそれを尖らせてオレの身体を貫こうとする。
見えない槍が高速でオレの真横を通過した。
どれだけ空気に圧力をかければ、そんな凶悪な魔法になるんだよ!?
あれ、直撃したら、オレの身体は四散するんじゃねえか!?
「一本じゃ足りないか」
さらに追加しようとする。
だが、オレもやられっぱなしではいられない。
攻撃担当が一度も攻撃しないのはありえないだろう?
「ご無礼致します」
そう断りを入れた上で……。
「閃光魔法」
「ぐっ!?」
至近距離で放たれる目晦まし。
これは視覚を奪うためのものだ。
そして、身を護るための「魔気の護り」でオレの身体を浮かせたところで、一度発動してしまった以上、その効果は暫く残る。
「行け!!」
真正面の竜巻はオレが消した。
視界も奪った。
この身体は宙を浮いているが、国王陛下までの道は開けている。
「いっけ~!! 朱雀!!」
背後から聞き覚えのある声。
さて、これがどうなるか?
まあ、こんなので簡単に勝てたら苦労はないんだけどな。
****
「さあ、始めようか」
その言葉と共に、セントポーリア国王陛下の周囲からいくつもの竜巻が巻き起こる。
それは、セントポーリア国王陛下が一番得意とする風魔法だった。
「簡単には負けません!!」
数カ月前はあの魔法を耐えるだけだった。
だけど、今のわたしは違う。
それをお見せしなければならない!!
わたしは気合を入れて腕まくりをする。
「行きます!!」
横で待機してくれていた九十九と雄也さんの腕を同時に掴んで抱き込む。
できるだけ強く固く、そして深く祈るように!!
「『魔法攻撃耐性強化』! 『物理攻撃耐性強化』! 『魔法攻撃力上昇』! 『物理攻撃力上昇』! 『治癒効果上昇』! 『行動速度上昇』! 『状態異常無効化』! 『魔法力回復上昇』! 『疲労軽減』! 『風属性魔法耐性大幅強化』!!」
この祈りにどれだけの力があるかは分からない。
だけど、怪我をして欲しくないから一生懸命に願う。
「では、行け」
「おお」
雄也さんの言葉に九十九が、セントポーリア国王陛下の出した竜巻に向かって飛び出していく。
飛翔魔法の勢いもあって、彼は一気に距離を詰める。
しかも、そのまま竜巻に突っ込んで、竜巻を二つばかり消失させた!?
わたし、アレに耐えるの、結構、大変だったんだけど……?
「栞ちゃん」
「はい!!」
雄也さんに声を掛けられ、わたしは我に返る。
今は九十九を見ている場合ではない。
彼が、国王陛下を引きつけてくれている間に、わたしはわたしで準備しなければ!!
「九十九が活路を開くから、栞ちゃんは最大級の魅せ魔法を頼んで良いかい?」
今のところ、わたしがイメージする最大級の魅せ魔法と言えば……。
「花火ですか?」
「確かに花火は綺麗だけど、室内ではその良さが半減するかな」
確かに。
あれは、夜空だからこその大きさで、魅力なのだ。
「そうなると、朱雀ですか?」
「そうだね。今のところ、俺が見た中では、アレが一番かな」
あれは見た目にも分かりやすく派手な魔法だ。
だが、魅せ魔法?
「魔法国家の王女殿下と対等の魔法だ。十分に魅せ付けられる」
「了解しました」
爆風が巻き起こるような音と、九十九の身体が、宙に舞うのが見えた。
いや、あれは、凧のように風に乗ったように見える。
セントポーリア国王陛下が「暴風魔法」を使ったようだ。
それをよく涼しい顔で耐えられるな~。
わたしは、歯を食いしばってなんとか留まったのに。
さらに、九十九を貫こうとする見えない杭のような何か。
空気を裂く気配だけしか分からなかったが、九十九は器用に空中で回避する。
「まだだよ」
雄也さんがタイミングを計ってくれているらしい。
そう言う雄也さんの指先も仄かに光っている。
……また何か企んでますね?
そう思った直後、部屋いっぱいに広がる眩しい光。
九十九が目晦ましをしたようだ。
でも、これじゃあ、わたしも見えない!?
「九十九を狙って、放って」
「はい!! え……?」
今、何と?
だが、迷う間もなく……。
「行け!!」
聞き覚えのある声に反応してしまう。
「いっけ~!! 朱雀!!」
わたしは火に包まれた大鳥を出した。
わたしのイメージによって形作られた大きな火の鳥は、いつものように、「クケ―――――ッ」と一鳴きして、九十九に向かって行く。
雄也さんが九十九を狙えと言った。
つまり、今回の的は九十九で良いのだ。
目が眩んでも、わたしは九十九の気配はよく分かる。
ん?
でも、九十九ほどじゃなくても、セントポーリア国王陛下の気配だってわたしは分かるよ?
流石にあれだけ大きな体内魔気の気配が分からないほど鈍くはない。
では、何故、雄也さんは九十九を狙えと言ったのだろう?
思わず、雄也さんを見ると、右手で銃を構えるかのような姿勢となっていて……。
「神 速の光 弾」
どこかで聞いたことがあるような台詞を口にする。
だが、その人差し指から、光が数発発射されたことぐらいしか分からなかった。
多分、光弾魔法だとは思うけれど、いつもよりもずっと早い。
そして、左手も同じように構え……。
「神 速の空 弾」
さらに見えない何かを数発発射する。
二丁拳銃とな!?
そんなわたしの驚きをよそに、朱雀の炎が飛び散り、雄也さんの魔法が吸い込まれるようにその中に消えていくと……。
「栞ちゃん、前を見て。反撃が来るよ」
「はい!!」
雄也さんの言葉に応え、前を見ると、魔力の塊が大きく膨れ上がる。
そして―――――――。
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