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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1844/2805

作戦会議

「さて、誰から来る?」


 戦闘狂……違った、国王陛下がどこか楽しそうにそう言った。


「一人ずつか? 三人まとめてか?」

「畏れながら、陛下。何故、私まで数に入っているのでしょうか?」


 自然に「三人」と頭数に入れられていたたためか、兄貴が抗議する。


「どうせ、ここには誰も来ない。扉の()りなど、不要だ」


 陛下はあっさり言い切った。


 尤も、この部屋に入る前に兄貴は扉に結界を張っていた。

 誰かが近付くだけで分かるように。


 その時点で、こうなることを予測していたとしか思えないが、それでも、言わずにはいられなかったのだろう。


「お相手に関しては、できれば、陛下の御希望に添いたいと思います」


 栞は二人の会話を聞きながら、そう答えた。


 今回は国王陛下の要請でこの城に来ている。

 だから、できる限りその要望を叶えるのは当然だが……。


「それでは、三人まとめてだな」


 それに対して、笑顔で豪胆な答えを即決する我らが国王陛下。


 その迷いのない強さが恨めしい。


 普通ならば、「なめるな! 」と叫びたいところではあるのだが、これまで対峙してきたことで、王族たちの出鱈目さはよく分かっている。


 実際、オレたちを三人まとめて相手をしても、この方には余裕で捌かれることだろう。


 だが、ここで、見た目に反して好戦的な思考を持つ我が主人の何かを刺激してしまったらしい。


 その顔つきが明らかに変わった。


「少し、お時間をください」


 栞はそう言いながら、オレと兄貴の手を引き、国王陛下から距離を取ると……。


「雄也さん、陛下に勝つ方法を教えてください」


 強い瞳を兄貴に向けてそう言った。


「なかなか無茶を言うね」


 そんな栞の言葉に流石に兄貴が苦笑する。


 セントポーリア国王陛下と言えば、この国で最強の魔法の遣い手であり、最強の魔力所持者であり、最高の権力者でもあるのだ。


 そして、それが分からないような女でもない。


 だが、それでも……。


「わたしはともかく、()()()()()()()()()()()()()()()のです」


 オレたちの主人はその愛らしい桜色の唇を突き出して素直な意見を口にする。


「俺たちは陛下に無能と思われない程度に侮られているぐらいが丁度いいんだよ」


 兄貴が栞を窘めるが、それで納得するような主人なら苦労はない。


 栞は兄貴を睨みつけるようにこう言った。


「何を言っているんですか、雄也。わたしの護衛はどちらも有能です。それなのに、侮られて良いはずがないでしょう?」


 その言葉に兄貴はその涼しい表情を変えなかったけれど、オレの方は情けないことに、頬と口元を緩ませないようにするのが精いっぱいだった。


「まあ、今回は国王陛下に魔法を使わせることが目的だ。だから、攻撃よりも防御を固めるべきかな」

「なるほど」


 そのまま、二人は会話を続ける。


「それにせっかく、三人でとの仰せだ。それならば、お望み通り、多くの魔法を使わせたうえで、少しぐらいあのお顔の色を変えていただこうか」


 兄貴が笑いながらも、勝ち気な台詞を口にした。


 何かに火が付いたらしい。


 だが、これは国王陛下の煽りよりも、先ほどの栞の言葉だろう。


 その辺の女たちに言われても価値はないが、自分が認めている女に誇られて、喜ばない男はいないよな?


「そうなると、九十九が攻撃、俺が補助かな」


 妥当な考えだろう。


 兄貴が栞を守るなら、オレは攻撃に専念できる。

 栞は補助も防護もできる、何気に万能だ。


 しかも、状況判断も鈍くはない。

 後、足りていないのは経験ぐらいか。


 それも、今回、また積もっていく。


「わたしは?」


 だが、指定がなかった栞は兄貴に確認した。


「栞ちゃんには『守護』を任せても良いかい?」

「「守護? 」」


 その言葉にオレと栞が同時に問い返した。

 補助でも防護ではなく、守護?


「今の栞ちゃんは攻守ともに優れている。だから、臨機応変な対応ができるだろう? だから、俺たちの背後からバックアップをお願いしたい」


 バックアップ?

 この場合、支援か?


「分かりました! 後方カバーですね!!」


 後方カバー?

 栞には伝わっているようだが、これはどういう意味だ?


「無知なお前にも分かるように言えば、守備の失策を想定して、その後ろに回って備えることだな。主に悪送球の備えが多い」


 守備の失策、悪送球……。


 つまり……。


()()()()じゃねえか!!」

「そうだが? お前に伝わらずとも、栞ちゃんに伝われば問題ない」

「つまり、九十九や雄也がミスした時に、その背後からフォローしろってことだね」


 この野球馬鹿どもが!!


 違うな。

 片方はソフトボール馬鹿だった。


 だが、その役目は分かりやすい。


 それならば、栞は守りやすくなる。


 だが、オレが提案した時と違って、兄貴からの指示なら、素直に従うんだなと少しだけ悔しく思った。


「オレが攻撃ってことだが……」


 この様子だとそれ以外もあるのか?


特攻(突っ込め)

「雑過ぎる!!」


 いくらなんでも、そんな指示はねえだろう?


「『下手の考え休むに似たり』という言葉があってだな。お前は変に考えない方がマシな動きをする」

「お、おお?」


 それは褒めてるのか?

 馬鹿にしてるのか?


 まあ、結局のところ、自分(てめえ)の頭で考えろってことなのは分かったけどな。


「無駄に考えるより、手数を増やせ」

「おお」


 今の指示は分かりやすい。


「雄也、『聖女の守護』は使って良い?」


 その言葉で、少し身体が反応した。

 いや、腕がピクリと動いたぐらいで、深い意味はないからな。


 だが、アレは……。


「歌は当然厳禁。でも、『守護』の方は、いただけるなら、使って欲しいかな」


 ちょっと待て!?


「それは手からでも良いでしょうか?」

「勿論」


 ……オレはかなり疲れているらしい。


 そういえば、栞から、口付けなしでも、抱き付かれなくても、それなりに効果が出るものをもらったこともあったことを思い出す。


「でも、魔法勝負ってことは、始まってからですね」

「そうだね。そちらの方が、陛下も喜ばれることだろう」


 兄貴が国王陛下の方を向く。


「栞ちゃんの成長をかなり見たがっていたからね」

「そうですか」


 栞も国王陛下の方に顔を向けた。


「それでは無様な姿を見せるわけにはいきませんね」


 栞は笑った。


 黒髪、黒い瞳の一番、見慣れた姿で。


 ああ、やはり、オレはこの栞が一番好きだな。

 一番、「高田栞」らしい。


 「聖女の卵」でも、「歌姫」でも、「大神官の遣いの従者」でもないこの姿。


 どんな姿でも栞は栞だが、それでも、一番彼女らしい姿はやはりこの色と顔だ。


「じゃあ、行きますか」

「承知」

「おお」


 栞の言葉に、兄貴とオレはそれぞれ言葉を返す。


「お待たせしました」


 栞が一礼すると……。


「随分、待たせてくれたな」


 国王陛下が皮肉気な笑みを見せた。


「はい。陛下が待ちくたびれて油断されたなら、こちらの勝ち目も増えますから」


 だけど、栞も怯まない。

 分かりやすい強敵を前にしても、栞はそれぐらいで諦めすはずがないのだ。


「ほう? 勝つつもりか?」


 分かりやすく挑発的な問いかけに対しても……。


「始めから負けるつもりで戦っていては、良い結果を得られるはずがないでしょう?」


 笑顔で返す。

 それは王族に対する言葉としては、かなり高慢な返答だろう。


「確かにそうだ」


 だが、それを見て国王陛下は笑った。


「さあ、三人とも。我が相手を願おうか」


 そう言いながら、片手を差し出す。

 それは、まるで何かを誘うかのように。


「承知いたしました、陛下」


 それに応えるオレの主人も負けてはいない。


「この身は未熟ではありますが、その胸をお借りいたしましょう」


 優雅に一礼する。


 その姿はどう見ても、一般人とは違うものだ。

 伊達に、法力国家の王女殿下から仕込まれてはいない。


 それを見た国王陛下は満足そうに笑った。


「さあ、始めようか」


 そして、その言葉で、周囲の大気魔気は一気に変化したのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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