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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1839/2806

宿泊決定

 さて、既に夕方である。


 おかしい。

 わたしと九十九は午前中に来たはずなのに。


 しかも……。


「泊っていけ」


 そんな国王陛下の要望……、いや、命令。


 ギリギリまで扱き使うことが分かる台詞である。


「あなたはどこまで予想していた?」

「流石に、これは予想してねえよ!!」


 九十九がそう叫びたくなるのは当然だろう。


 実際、わたしも叫びたい。

 どうしてこうなった!? と。


 わたしたちは国王陛下から招かれた客人……、もとい、助っ人である。


 だが、そのために、わたしは母によく似た容姿を誤魔化すために、髪や目を変えて、なんなら、性別すらも偽って、この城に来た。


 そして、名目上は、便利に使える「大神官の遣い」と「その従者」。

 さらに、この国では神官は下賤なものとして軽視されている。


 わたしたちが案内された客室は一か所。

 まあ、つまり、九十九とわたしは同室で一晩過ごせと言うことらしい。


「お風呂、お手洗いだけでなく、三室あるのが救いだね」


 そして、寝台もちゃんと二台、別々の部屋に置かれていた。


 軽く扱われているけれど、この城の客室は、これよりも質素な部屋がないってことなのだと思う。


 女中、従僕たちのような身分の低い使用人たちの住み込み部屋や通いの使用人たちが利用する仮眠室もこの城にはあるはずだが、今は空きがないのか、そちらには案内されなかった。


(仕切り)はあっても、()()()()!! 実質、一室も同然だ!!」

「広い一室だね」


 九十九が言うように、扉はフルオープンだった。

 衝立のような仕切りではなく、ちゃんと壁であるだけマシだと思う。


「お前はどうして、そうも危機感がないんだ?」

「叫んだところで何も変わらないからじゃないかな」


 流石にこの部屋を、わたしの本来の性別を知っている国王陛下が指定したわけではないと思う。


 そして、当然ながら母でもないだろう。


 だが、ここで案内してくれた人たちに食って掛かっても仕方ないし、差配したであろう執事さんたちに恨み言を言ったところで、わたしが男装している以上、「何か問題でも? 」と不思議そうに返されるだけだと思う。


「それ以外の理由なら、敵陣に等しいこの場所で、あなたから引き離されるよりは安全だとも思うからね」


 このセントポーリア城には見える敵も見えない敵もいる。

 王妃殿下や王子殿下は明確にわたしに害を与える者だろう。


 そうでなければ、王子殿下は世界中にわたしを捉えるような手配書を送りつけないだろうし、王妃殿下はそれを止めずに見守るとは思えない。


 それ以外でも、わたしがこの国の王族の血を引くと知れるだけで、一気に危険度は増すことが予想できる。


 だから、まだ自衛に自信がないわたしは、頼りになる九十九が近くにいてくれるのは本当に心強いことなのだ。


「それは、そうだが……」


 わたしの言葉に九十九も一応の納得はしてくれた。

 でも、まだ迷いはあるらしい。


「それでも、わたしが気にかかるならさらに部屋の中に防護結界でも張ってくれる?」


 ちょっと過剰だとは思うけど、九十九の判断に任せよう。


「そうだな。それなら、お前も護られるか。()()()()()()()()()は……」

「ちょっと待って?」


 今、何か不思議な言葉が聞こえた気がする。


「あ?」


 九十九がいくつか魔石を手に持っている。


 それが結界用だとは思うのだけど……。


「あなたにも有効なモノって何!?」


 なんでそんなことを口にするのか?


「…………」


 あれ?

 九十九の目がひんやりとしたものに変わる。


 今の九十九は青い目だから、余計に冷えを覚えるのは気のせいか?


「お前の性別は?」

「女」


 迷いもなく答える。


 九十九はこの部屋に入るなり、盗聴系の魔石や道具は既に叩き壊してくれていた。

 その場所がすぐに分かるのは凄いと思う。


 そして、それについてその仕掛け人から何か言われることはないだろう。


 そもそも、客室内を盗み聞きや覗き見しようというのが間違いなのだ。


 万一、弁償となっても、九十九はそれを支払うだけの財力はあるし、さらにその請求書を国王陛下に回すほどのこともできる立場にある。


「オレの性別は?」

「男だねえ」


 そして、九十九の言いたいことはなんとなく理解した。


 毎回、同じことを確認されていれば、彼が何を気にしているのかも分かるというものだ。


「でも、それがどうしたの?」

「どうしたって、お前……」

「わたしはあなたが公私を分けることができる人だって知っている。殿方としての健康的な思考があっても、それで血迷ったりはしないことも」


 だから、わたしは信用している。


 そんな邪なことを考える人が、いちいちその部分を気にして警告するなんてことをするはずがないだろう。


 無駄に警戒心を高めてしまう。


 そして、これまで同室どころか同じ寝台で休んだことすらあっても、彼は必要以上のことはしない。


 それらの実績から、彼は大丈夫だと胸を張って言える。


 だが、それでも九十九は不服そうな顔をしていた。


「何より、城内の招待された客室でそんなことをしようとするほどの愚かな人間とも思っていない」


 だから、さらにわたしは根拠となる考えを口にする。


 そもそも、わたしと九十九は既に一つ屋根の下で生活中なのだ。


 本当にそんなことをしたいというのなら、わざわざこんな場所に来なくてもできるほどの位置に彼はいる。


 それでも、何も起こらない。

 おかげさまでわたしは毎晩、ぐっすりと眠らせてもらっている。


「それに、わたしが自分の護衛を信じている」


 九十九は「発情期」という本能的な欲求に抗ってくれた。


 それがどれだけ苦痛を伴うものかはわたしには分からないけれど、他の人の話を聞く限り、並の精神力ではないらしい。


 そんな精神的な強さを含めて、わたしは彼を信じている。

 いや、信じたいのだ。


「オレはそこまで自分を信じていない」


 それでも、この護衛はそんなことを言ってくれる。

 万一の事故すら起こらぬように。


「それでも、気になるなら結界をお願いするよ」


 ここが妥協点だろう。

 わたしが九十九を信じるのと、彼が自分を信じるのでは意味が違う。


 わたしが大丈夫だと思っても、彼が自分の理性を信じられないというのも仕方がない話なのだ。


「尤も、()()()()()()()()()にそんな欲を抱くのって問題だとは思うけどね」


 我ながらよく扮装したものだと感心している。

 九十九の化粧技術もあるのだけど、この少年にしか見えない体型が素晴らしい。


 ちょっとだけ泣きたくなってきた。


「阿呆」


 九十九が改めて魔石の準備を始めながら言った。


「そんな(なり)でも、オレの目には女にしか見えないから困ってるんだよ」


 赤面していいですか?

 叫ばなかった自分、偉い!!


 いや、それってこの場合、九十九の目にはわたしがそういった対象に見えるってことですよね?


 しかも男装しているのに?


 もしかして、九十九の周囲に女性の気配がないのって、彼が中性的な女性の方が好みってことかな?


 それなら水尾先輩や真央先輩も、いや、年下少年に見える女性の方が良いってことか?


「男除けの結界を準備する」

「鳥除けみたいだね」


 なんとなく、人間界で見た鳥除けの目玉風船を思い出す。


「奥の部屋の寝台に、男が近付けば電撃が作動するようにする」


 どうやらこっちの部屋で九十九が寝て、わたしは奥の部屋で眠れと言うことらしい。


 奥の部屋には窓がない。

 そして、城内は転移防止措置が取られている。


 それでも侵入するとしたら、この部屋を通り抜けるしかないのだ。


 今回はわたしが従者なのだから、その配置は逆の方が良いとは思うけど、護衛上譲れないということだろう。


「その場合の殿方はあなたも含めて?」

「勿論」


 即答。

 本当に九十九自身も含めて対象になる結界らしい。


「九十九は除いても大丈夫だと思うのだけど……」

「例外はない」

「じゃあ、()()()()()()()()()()()

「…………」


 わたしは寝起きがあまりよろしくない。

 多少、大きな物音がしたぐらいでは起きないのだ。


 だが、こんな場所に来ているのだから、いつものようにマイペースに起床ということはできないと思う。


「今回は自力で起きろ!」

「御無体な!!」


 無情な九十九の言葉に、わたしは叫ぶしかないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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