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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1835/2805

王配候補

祝・四周年

今後ともよろしくお願いいたします。

 ―――― 王配候補


 九十九が言った熟語の意味が解らなかった。


 いや、言葉そのものは聞いたことがある。

 水尾先輩と真央先輩のお父さんが「候補」という単語が付かないその立場だし。


 だけど……。


「その候補さんとわたしが何故、顔合わせを?」


 そこが分からない。


 王配って、女王の配偶者だったはずだ。

 そして、ここセントポーリアは男性である国王陛下が治める国。


 何も関係なくない?


「陛下に聞いてみろ」

「ほげ?」

「オレの勘違いかもしれん。だが、可能性はある」

「先ほどのあの人は、どこかの国に、婿入りされる予定なの?」

「…………」


 あれ?

 九十九の目がなんか冷たいよ?


「現在、この世界で女王になれそうな人間は二人存在する」

「ほう?」


 二人も?


「一人はカルセオラリア。『メルリクアン=リーシャス=カルセオラリア』王女殿下だ。第二王子殿下が王位に固執していないから、可能性はゼロではない」

「あ~。でも、メルリクアン王女殿下には婚約者さまがいらっしゃるよね?」


 その人がわたしの同級生だったりする。


 あの中学校は本当におかしいと言わざるをえない。

 この世界の高貴な方々が通い過ぎている。


「メルリクアン王女殿下が即位されたら、お前を嵌めた男が王配殿下になるってことだな」

「嵌めた男って……」

「事実だ」


 九十九はまだ湊川くんを許していないらしい。


 まあ、彼に誘われた結果、わたしはウィルクス王子殿下の元に送られて、さらにカルセオラリア城は崩壊、カルセオラリア城下は半壊した。


 さらに、九十九はカルセオラリア城下で攫われかけたらしいし、兄である雄也さんは大怪我した後、数カ月の病床生活を余儀なくされたのだ。


 わたしよりも、九十九の方が思うところはあるだろう。


 さて、そのカルセオラリアの王位継承権第一位となったトルクスタン王子は、その権利を放棄していない。


 それに、即位できる25歳までに戻ることを条件に、城から出ることを許されたというのだから、王位を継承するつもりはあるのだと思う。


 もともと王族としての意識は高い人だ。


 だから、メルリクアン王女殿下が女王になる確率は低いんじゃないかな?


「それ以外の女王候補は?」

「…………」


 また九十九の冷えた視線。

 何故!?


「陛下に確認しろ」


 そして、教えてくれないらしい。


 なんだろう?

 怒らせたと言うより、呆れられている?


 でも、その理由が分からない。


 「女王候補」って知っていなければ駄目な知識?


 頭の中には、中学生の頃にワカから借りてPLAYした女性向け恋愛ゲームのタイトルがぐるぐる回る。


 あのゲームは主人公も良いけど、努力家のライバルも堂々として好きだったな~なんて、ちょっとだけ現実逃避。


「着いたぞ」

「はっ!!」


 考え事をしていたために、妙な返事になった。


「今回は武士か? 騎士か?」


 九十九が苦笑する。

 どちらも違う。


「今回はあなたの従者だよ」

「そうだったな」


 さらに九十九が笑った。


 さっきまでの不機嫌さはどこに行った?

 わたしは首を捻る。


 でも、九十九の機嫌が直ったなら、良いか。

 わたしは考えることを放棄するのだった。


****


「ある意味、王配候補だ」


 そうオレが告げた時、栞は分かりやすく「意味不明」だと言った顔をした。


 まあ、気付いていないのだから、仕方がない話だ。

 オレたち兄弟も、それとなく、避け気味な話題だというのも大きいだろう。


「その候補さんとわたしが何故、顔合わせを?」

「陛下に聞いてみろ」

「ほげ?」


 それが一番、間違いはないと思う。


「オレの勘違いかもしれん。だが、可能性はある」

「先ほどのあの人は、どこかの国に……、婿入りされる予定なの?」

「…………」


 だが、ここまで眼中にないのもどうなのか。


 先ほど会った「イルザール=シャパル=フガニア」は、この国の王族の中では陛下に次いで()()()だと兄貴が言っていた。


 実際、会話もごく普通の王族の範囲内だった。

 ちょっと腹黒い印象はあるけれど、兄貴ほどでもない。


 それに、アッシュゴールドの髪、鮮やかな藍色の瞳を持つあの男は、顔も悪くない。

 年齢も26歳で、今後、活躍する世代だ。


 それでも、この女には響かない。


「現在、この世界で女王になれそうな人間は二人存在する」

「ほう?」


 興味深そうな顔をしているが、この女は分かってないんだろうな。

 そのどちらも知っている人間だってことは。


「一人はカルセオラリア。『メルリクアン=リーシャス=カルセオラリア』王女殿下だ。第二王子殿下が王位に固執していないから、可能性はゼロではない」


 カルセオラリア城が崩壊した直後は五分五分ぐらいだった。


 あの頃は、トルクスタン王子殿下が王位に拘っていなかったばかりか、面倒だと言っていたぐらいだ。


 だが、メルリクアン王女殿下が王位を継ぐ可能性は今ではほぼないとオレは思っている。


 流石にあそこまで不器用な人間を、機械国家カルセオラリアの女王陛下に据えるのは難しいだろう。


「あ~。でも、メルリクアン王女殿下には婚約者さまがいらっしゃるよね?」


 栞がそんなことを口にするが……。


「メルリクアン王女殿下が即位されたら、お前を嵌めた男が王配殿下になるってことだな」

「嵌めた男って……」

「事実だ」


 メルリクアン王女殿下が王位を継げば、そうなる。


 だが、間接的とはいえ、カルセオラリア城を崩壊させた一因でもある男だ。

 それも、栞を利用して、ウィルクス王子殿下の暴走をさらに加速させた。


 そのことは、トルクスタン王子殿下によって伝聞ではあるが、カルセオラリア国王陛下やその側近たちも知ることとなっている。


 だから、それを簡単に認めるとも思えない。


 尤も、トルクスタン王子殿下が何らかの形で王位を継げなくなれば、あの男とメルリクアン王女殿下の婚約解消の話が浮上すると思っている。


「それ以外の女王候補は?」

「…………」


 本当に気付いていないらしい。

 前後の話題から気付くとは思うが、本当に頭にないということか。


「陛下に確認しろ」


 オレがそう言うと、栞は頬を膨らます。

 不服らしい。


 だが、オレはその答えを口にしたくなかった。


 セントポーリアの王族たちはその血を護るために、血族婚が基本だ。


 流石に実の兄弟姉妹間は少し前に無くなったらしいが、それでも親戚同士の結婚ばかりである。


 実際、セントポーリア国王陛下とあの王妃は従姉弟同士だ。

 つまり、数少ない女性王族を野郎王族たちが取り合う結果となっている。


 現在、公式的にセントポーリアの未婚の女性王族は二人とされている。


 そして、国王陛下に近い血筋が当然ながら優先されることになるため、クソ王子がそのどちらかに決めない以上、男どもは選べないし、選ばれない。


 だが、そこに、国王陛下に近しいどころか直系の血筋である年頃の女性王族の存在が発覚したらどうなるか?


 そんなの考えるまでもないよな?


 つまり、オレが考えているもう一人の女王候補は、オレの後ろを歩く女だ。


 セントポーリア国王陛下の血を引き、魔力、魔法力、魔法の才も申し分ない。


 政にはもともと関わっていなかったためにやや鈍い部分はあるが、基本的に努力家で、学びを苦としていない。


 だから、相応の教育を受ければモノになると思っている。


 何より、今、セントポーリア国王陛下の後継とされている男は、国王陛下の直系血族ではないのだ。


 それを知れば、今いるクソ王子に(おもね)っている人間たちは波が引くように一斉に立ち去るだろう。


 セントポーリアの王族は血族主義なのだから。


 そして、セントポーリア国王陛下と栞の親子証明は、当人たちが承知すれば簡単にできる。


 体内魔気だけでも分かりやすいが、もっと客観的なものとして、親子判定薬(ジァラネーゼ)と呼ばれる液体に互いが血液を落とすと、親子とそれ以外で反応が違うという単純な検査方法があるのだ。


 尤も、わざわざそんなことをしなくても、契約者の直系血族以外に抜けないとされる神剣ドラオウスを抜かせるだけでも十分だろうけどな。


 いずれにしても、あのクソ王子が失脚し、栞がこの国の女王になる未来があれば、その配偶者はこの国の王族となる可能性が高いことだけは確かだ。


「着いたぞ」


 そんなことを考えている間に、目的地に着いた。


「はっ!!」


 妙に切れの良い返事。


 オレの気も知らないで、暢気なものだと思う反面、そんなことは考えないで欲しいとも思う。


 ある意味、護衛失格だ。


「今回は武士か? 騎士か?」

「今回はあなたの従者だよ」

「そうだったな」


 真面目に答える栞が可愛くて、オレは思わず笑みがこぼれてしまうのだった。

とうとう、毎日投稿五年目に入ります。


毎年、ストックが割とギリギリとなっており、毎日投稿がかなり大変となりつつありますが、今年もなんとか頑張ろうと思います。


ここまでずっとお読みいただき、ありがとうございました。

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