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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1831/2805

未来予想図

「これは、良いのだろうか?」

「この国の()()()()()()()()()()()()()ぞ?」


 それはそうなのだろう。

 だが、ちょっと納得できないものはあるのだ。


()()()……」

「それは人間界の法律だから、何の問題もないな」


 わたしたちは図書館から、コンテナハウスに戻っていた。

 それも、大量の本を手にして。


 借りたわけではない。

 図書館で借りたわけではないのだ。


「ファクシミリ~」

「『完全複製魔法(facsimile)』な」


 なんと九十九は、図書館で「複製魔法」を使いまくったのだ。


 これって、本来なら、窃盗罪になるのではないだろうか?


「書物館で複製系の魔法を使ったらいけないという法はないんだぞ?」


 寧ろ、保存の観点からは推奨されているらしい。

 人が読めば、その分、本は傷むからね。


 だけど、こうモヤッとしてしまうのだ。


「書物館の本は書店の本と違う。多くの人間に読まれることが前提の本だからな」

「うぐぐぐ……」

「それに、古い書物は一点物も少なくない。今のように複製、複写魔法がなかった時代もあるからな」


 そして、ちゃんと九十九は図書館……、書物館側に「複製魔法」を使う許可も取っている。


 無許可ではないのだ。

 いかにも真面目な彼らしい。


 それでも……。


「一千冊を超える量を複製するのって、絶対何か違う~」

「書物館での複製魔法に回数制限はないからな」


 それだけの量の本を複製できる魔法力がおかしいのだ。


 書物館にいた人たちは、まず、九十九によって机に重ねられた本の量に驚き、次にその本たちに対して使用されていく複製魔法に驚き、さらには、その複製された本の量にも驚くことになった。


 わたし?

 机に並べられた本を片付けるだけの簡単なお仕事を任されました。


 一定時間、本を開かずに机に置いているだけで、自動返却されるらしいのだけど、複製魔法を使うために、九十九の魔力が通っている。


 だから、ちゃんと書棚に片付けて、すぐに書棚に込められている魔力を通した方が良いと思ったのだ。


 それでも、魔法国家の人間ならば、九十九の魔力の残滓に気付くだろう。

 それも数日間の話だとは思うけれど。


「本はね。財産なのです」

「だから、ちゃんと読んで有効活用しないとな」


 そう言って、古い本を手渡された。


 先ほど出来立てほやほやの本であるはずなのに、随分と古く感じる。

 近年の紙ではなく、分厚くて妙に重い。


「本当に完全に再現されているんだね」


 パラパラと本のページを捲ってみても、本の質、匂い、そして、手書き独特の紙の変化とかまではっきりと分かる。


「念のため、後で、普通の『複製(repro)魔法(duction)』も使うけどな。オレ、そっちはちょっと苦手なんだよ」


 さらに業を深める予定らしい。

 いや、法に触れていないし、文化の保存も大事だとは思うけど……。


()せぬ!!」

「いや、そろそろ()せよ。もう持ち帰っているんだからさ」


 呆れたように九十九は言う。

 確かにそうだ。


 今更、ぐだぐだ言っても仕方ない。


「久しぶりに異世界感を味わった気がする」

「いや、ここ数日、この城下に来てから、オレは既に何度も体感しているが?」


 あれ?

 ここ数日で異世界体験?


「お前と一緒にいると、()()()()()()()()だよ」

「…………」


 褒めてない。

 これは、絶対に褒めてない。


 それだけわたしに振り回されているってことだよね?


「それで、明日の登城だが、午前中から来いと連絡があった」

「午前中……」


 一週間前、九十九は国王陛下にご挨拶をした。


 その結果、仕事を手伝わされた上、さらに一週間後にわたしを連れて来いと厳命されたそうな。


「つまり、早く来て仕事を手伝えってことかな?」

「オレもそう解釈した」


 九十九が肩を落とす。


「なんであんなに書類が溜まるんだろうね?」


 確かに国王陛下は国の頂点だけあって、仕事が多くなるのは仕方ないと思う。

 でも、国王陛下に全ての仕事が行くのって何か違う気がするのだ。


 いや、わたしが知らないだけで、もしかしたら日本の内閣、国会、裁判所の頂点に立っている人たちは忙しかったかもしれないけど。


 ぬ?

 裁判や内閣はともかく、国会の頂点って誰だっけ?


 最高裁判所長官や内閣総理大臣は分かる。

 国会議長?


 いや、確か国会は衆議院と参議院から成っていたはずだから、衆参議員長?

 そんな役職、聞いたことない。


 それに衆議院と参議院は任期も違う。

 選挙権はまだ持っていなかったけれど、それぐらいは知っている。


 でも、衆議院長と参議院長の二人ってことはないよね?

 四権分立になってしまう。


 ぐぬう……。

 公民は苦手だ。


「書類に慣れていない文官が多すぎるんだよ」

「文官なのに?」


 その言葉の響きで書類仕事に強そうなんだけど違うのかな?

 文官の「文」の文字には書類、書物の意味もあったはずだ。


 いや、自動翻訳の仕事がどうなっているか分からないけれど。


「あ~、最近の書類に慣れてないというのが正しいな」

「ああ、書式が変わったってことか」


 学級日誌とかでも、担任の先生ごとに書かせたいことが違ったので、前の日直が書いたものを参考にしていた覚えがある。


 中学では毎日の記録付けのために「生活ノート」という毎日の学習記録兼日誌のようなものがあったが、あれは学年が変わっても、その様式が変わらなかったので、コツを掴めば楽だった。


「いや、定型書式がなかったらしい」

「ぬ?」

「これまでの報告書は、それぞれの担当者たちが好き勝手書いたものが各部署に持ち込まれて、歴代の国王陛下は決裁印を押すだけの簡単なお仕事をしていたそうだ」


 それはそれで見る人が大変そうだけど……。


「なんで変わったの?」

「書類仕事に強い人間が頂点に立ったから」

「あ~」


 つまり、今の国王陛下か。


「仕事の合間の雑談で聞いた話だが、即位して、最初に持ち込まれた書類の束を見て、ブチ切れたらしい」

「へ……?」


 あの国王陛下がブチ切れた?

 いや、あの方、かなり温厚そうでしたよ?


「もともと陛下は、兄王子殿下を支えるために文官を志していたらしい」

「それは聞いている」


 法力を持っていないから「神務官」は無理だけど、それ以外の「政務官」、「財務官」、「外務官」は目指せたと。


 物心ついた頃から、兄王子がこの国を背負うと思っていた。

 それがある日、突然、その兄が亡くなった。


 そして、当時第二王子であった今の国王陛下が、国を背負うしかなくなったのだ。


 その不安定な時期を支えたのが、まあ、母だったらしい。

 母が叱咤激励をして、国を背負う覚悟を決めたそうな。


 惚気にも似たその話を聞かされた娘は、その立場上、どんな顔をすれば良かったのだろうか?


 そして、その頃から国王陛下に寄り添っていたはずの現在の王妃殿下は何をされていたのか?


「だから、持ち込まれた書類の誤字や不備、誤算、遺漏の数々が瞬時に分かって、全部の書類のやり直しを要請したそうだ」

「瞬時に分かるほどの間違いって言うのもどうなの?」


 相当分かりやすい間違いだったか、間違いの量が多かったということだろう。


「それで、あまりにも決裁が滞るものだから、今度は文官たちの方が切れた」

「へ?」


 間違いを突き返したら、なんで文官が切れるの?


「新たな国王陛下は政というものが何も分かっていないと、他の王族たちに泣き付いたらしい」

「……何故に?」


 間違いを指摘したら、政が分かっていない?

 どんな責任転嫁だ?


「そんなに一つ一つを細かく精査していたら、全然、国が回らなくなるから、今まで通り、国王陛下は押印するだけにしろだとさ」

「はあああああああ?」


 なんじゃそりゃ?


「そこで間違いのない書類に作り替えて持っていくのが、文官のお仕事ではないの?」

「この国では違うらしいぞ」


 駄目だ。

 この国の文官たちの仕事意識が低すぎる。


「それで、王族たちが陛下の政務室に殴り込んだ。その結果、王族……、つまりは親族どもに書類を投げつけて、『不満があるなら文官たちに仕事をさせろ』、『上官の言う通りに動くだけなら自分の元では使わないからお前たちが引き取れ』と()()()()()()()()()()()した」

「うわあ」


 結構、あの国王陛下は過激だった。

 いや、戦闘狂な部分もあるからそれ自体は想像できる。


「その頃の陛下は、徹夜続きで苛立っていたらしい。体内魔気の制御ができなかったそうだ」

「徹夜で制御できなくなるってどこかで聞いた話だね?」

「うるせえ」


 わたしの言葉に心当たりのある九十九は唇を尖らせる。


 この国を出て暫くした時、九十九は徹夜しながら、わたしと水尾先輩を守ってくれていた。

 それに気付いた水尾先輩は、わたしを使って九十九を眠らせた後で、お説教したのだ。


 今となっては懐かしくも笑える話である。


「その様子に怯えた王族たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。放置していては自分たちの身が危険だと判断したらしい。その結果、文官たちの人手不足に繋がっている」

「まあ、自分が改善するより、相手に折れてもらおうって考え方の文官なら、いない方がマシじゃない?」


 いつまで経っても改善できないわけだしね。


「時々、お前も割り切るよな」

「そう? 普通でしょう?」


 やる気があって、仕事が遅くても正確性があれば良い。

 もしくは、間違えたことを指摘されて、それを真摯に受け止めるなら改善の余地がある。


 でも、話に聞いた文官たちは、それを選ばなかった。

 自分ではなく国王陛下が悪いと。


 その考え方は、「不敬」ってやつではないでしょうか?


「だから、今、いろいろと方法を模索中だってことだな」

「なるほどね」


 少なくとも、今、残っている文官たちは、国王陛下が大丈夫だと判断した人間たちってことなのだろう。


 しかし、この様子だと、また城に行った時のお手伝いは決定かな?

 未来予知の能力はないけれど、そんな気がするのだった。

ご存じだとは思いますが、一応補足として、我が国の国会の頂点は衆議院議長と参議院議長です。

その二人で立法府を司る三権の長となります。

これは、国会が二院制となっているためで、四権分立とはなりません。

もっと公民を頑張れ、中卒主人公!!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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