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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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感情

久しぶりに(?)R-15的な発言があります。

ご注意ください。

 目が覚めれば、相手はここで起きた全てのことを忘れてしまう。

 そんな都合が良い世界があれば、どうするか?


「俺は、『高田栞』を愛している」


 相手の姿が薄れ始めた時、俺はその言葉を口にする。

 恐らく、現実では一生、()()()()()()()()()()()


 その言葉を受けて、相手は……。


「このタイミングでそれはズルくない?」


 困ったような顔をしながら、なんとも色気のない言葉を返してきやがった。


 いや、その言い分は分かる。

 確かに俺はズルい。


「やっぱりな」

「え……?」

「お前が『高田栞』なら、()()()()()()()()()

「ほほう?」


 ある意味、予想通りだ。


「『高田栞』には、()()()()()()()()()からな」


 見知った男から、突然された真面目な告白に、全く動揺しないなんてことはありえない。


 そんなに異性慣れしているような女ではないのだ。

 確かに冗談と思えば、茶化すこともあるだろう。


 それでも、「高田栞」は相手からの言葉を吟味する。

 そして、その上で自分の感情を乗せて応えるのだ。


「まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()だね」


 目の前の黒髪の女は笑う。


「外面だけの感情は予想しやすい」


 その状況に応じて、その感情の仮面を被るだけだ。


「だが、『高田栞』の思考と言動、その表情は酷く予想しにくいんだ」


 確かに目の前の女はよく似ている。


 だが、その表情や言動は「高田栞」なら、こうするだろう、こう反応するだろうという予測からほとんどズレることはなかった。


「だが、今のお前はまるで、『高田栞』の行動や表情をプログラムされただけのように見える」

「まあ、間違ってない」


 黒髪の女は肩を竦めた。


「夢の中の自分なんて、誰でも現実とは違うものだからね」


 そう皮肉気に笑った。


「それは単純に魂が肉体に護られず剥き出しになっているだけだ」


 夢の中では姿も本音も偽ることができない。

 だから、ある意味、現実の人間とは違うように見える。


 いろいろな見栄や矜持、立場などによって、巧妙に隠されているものを全て剥ぎ取った、当人すら意識しない本心。


 だが、普段の言動と異なったとしても、結局は本人であることは変わりない。

 それでも、世の中には例外、特殊事例というものが存在する。


 「高田栞」の場合は、その特殊事例なのだろう。

 一つの身体に複数の意識が混在している。


 だから、夢の中でもその魂が安定しない。


 会うたびに、状況に応じてその意識が切り替わっているようにも見えていた。


 過去に「シオリ」と呼ばれた女がいて、現在、「高田栞」と呼ばれる女がいる。


 単独でも我が強いそれらの意識が同じ肉体に納まっているのだから、多少の(ひず)みは仕方がないのだろう。


「それらを探るために、愛の告白をしてくれたの?」

「俺はズルい男だからな」

「酷い。あなたはわたしの気持ちを弄ぼうとしたのね?」

「笑顔で言うことかよ」


 俺の狙いも知った上で、黒髪の女は満面の笑みで応える。

 その輪郭も少しずつ薄れているのに、そこに悲愴感はない。


「それに、お前の方がいつも俺の気持ちを弄んでいる」

「そうかな?」

「そうだよ」


 思い通りにならない面倒な女。

 いつだって、予想できない方向に突き進もうとする我儘な女。


 この世界に来て、本当はこの女を傷付けようと思った。


 俺以外にこの世界に来ることができる護衛はいるが、既に、昨夜、この女の夢の中に入る魔法を使っていた。


 どんなに膨大な魔力、魔法力を持っていたとしても、何度も連発できる魔法ではない。

 それができるのは、王族と呼ばれる血筋ぐらいだ。


 だから、()()()()()()()()()()


 どこかの占術師が言っていたように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。


 それは、本人が意識しないほどの小さな傷。

 それでも、ふとした瞬間に、思い出す。


 あれは夢で、()()()()()()()()()()()()()()という安心感とともに。


 だが、気が変わった。


 あの占術師が既に接触していたという事実を知ったこともある。


 この女の魂に対して、中途半端な悪さをしようとすれば、また「夢渡り」を使われることだろう。


 一度、縁を繋いだ魂に触れることができる能力というのは、随分と便利と都合が良いものだと思うが、種族的な能力に対して不平不満を言ったところで仕方ない。


 単純にあの女に恩はある。


 腹立たしい事実ではあるが、あの女がいなければ、俺は既にこの世界にはなかっただろう。


 本来、普通の人間が来ることなどできない幻の大陸ダーミタージュ。


 だが、そこにあの占術師が現れた。


 誰に知られることもなくひっそりと、王宮の片隅で顧みられることもなかったクソガキを、何の気まぐれか、延命させやがったのは、あの女だ。


 後日、恩着せがましく何度も夢の中で語られた。

 拒否しても、頭の中に無理矢理割り込ませるような証拠(胸くそ)映像と共に。


 現実世界で俺と会ったのは3歳の時だけ。


 だが、1歳までメシとシモの世話をして、それ以降は何度も夢の中で接触してきた厄介な女。


 恩を刷り込まれたとはいえ、勝てる気は今でもしない。


 そんな女が言った。

 

 ―――― この世界での出来事は、今代の聖女はほとんど覚えていないだろう


 ―――― だけど、確実にこの魂には刻まれている


 ―――― それを努々忘れないことだね


 それは、俺に対する分かりやすい警告。

 その行動の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 分かっている。

 この魂を傷つけて、後悔するのは自分の方だと。


 相手が覚えていなくても、罪悪感はどこかに残るだろう。


 それならば……。


(お前)に刻むなら、()()()()()()()()()()


 誰も触れられない部分に強く、深く、残す。


 あの護衛たちすら触れられないほどの心の奥底に。


 どんなものかは知らんが、「首輪(呪い)」が課せられているなら、あいつらにはそれができないだろう?


「あなたも意外とロマンチストだよね」

「さらりと流すなよ」


 感情は知っていて、その通りに言動と表情は作れても、それは感情を持って動いているわけではない。


 結局は夢の中である。


 頭で思考し、反射に近いほど自動的に当人の姿と振る舞いをしているだけで、本当の意味で本物とは違う。


「いやいや、結構、刻まれるみたいだよ」


 そう言って、黒髪の女は片手を自分の胸元に当てる。


「わたしに感情はよく分からない。それでも、この部分は確かに震えた」

「どれ、()()()()()()

「…………」


 俺も手を伸ばすと、氷のような視線を突き刺してきやがった。


「感覚はないんだろ? 少しぐらい良いじゃねえか」

「感覚はなくても、脳が『不快』って信号を送ってくるんだよ」

不快(ふか)っ!?」


 思ったよりも心を抉るような言葉が返ってきた。


 相手は夢の中の住人だが、こちらは本人だ。

 隠さない本音(一撃)に、容赦なく傷つけられることもある。


「知り合いとはいえ、いきなり殿方に触られかけたら、大半の女性はそうなるよ」

「あの護衛どもが相手でも?」

「わたしの護衛たちはそんな品のないことをしません」


 かなりの即答だった。

 それが少々腹立たしい。


「それが分かるかよ。ヤツらだって男だ。そういった種類の肉体的な欲求不満は真っ当な男にはどうしたって存在する」


 イライラした時とか、落ち着かないときとか、変にストレスが溜まった時もそうだが、ヤツらは護衛だ。


 戦闘時の高揚感の後は、どうしても、ヤりたくはなるだろう。


 手近な女で済ませることが普通だが、その時に目の前に美味しそうで無防備過ぎる極上の女(御馳走)が居たら?


 相手が護衛対象とは言え、よく我慢できているなと感心している。


「そうなの?」

「理解したら、たまには解消してやれ」


 俺が揶揄うようにそう口にすると……。


「どうやって?」


 まさか問い返されるとは思っていなかった。


 そこにあるのは純粋な疑問。

 本当にタチが悪い。


 だが、今回の場合、具体的な方法というと……。


「あ~、手や口?」


 まさか、身体を使えとは言いにくい。


 いや、ヤツらの方はこの上なく、喜ぶかもしれんが、それは俺もいろいろな意味で嫌だった。


「手って、触れることだよね? 口は……、会話ってこと? それで殿方の欲求不満って解消されるの?」

「あ~、しかも、通じてねえ」

「? ? ? ?」


 いや、通じるとも思っていなかった。

 この女はそういった方面の知識が本当に乏しい。


 下手すれば、人間界の保健体育の教本が唯一でも俺は驚かない。


「なんだ? これ。結局、俺が調教しろってことか?」

「まさかの動物扱い!?」

「あ~、でも、時間がねえな」


 周囲の白い霧と、彼女の存在が混ざり合っていく。


「仕方ねえ。断腸の思いで我慢してやる」

「よく分からないけれど、ありがとう?」

「礼かよ」


 よく分からないままに紡ぎ出された言葉は、謝罪(ごめんなさい)ではなく、御礼(ありがとう)


 それは、どこまでも、今の俺にとっては、皮肉の利いた言葉だった。

注意書きするほどのことは話していないと思いますが、苦手な方はいることでしょう。

そして、意味が分からないという方はそのままでお願いします。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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