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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1826/2808

調査

「あなたは、あのモレナさまとは付き合いは長いの?」

「俺は覚えてないが、あの女が言うには、襁褓(おしめ)時代かららしいから、期間だけ見れば、短くはねえな」


 この世界の襁褓(おしめ)時代というやつが、いつまでなのかは分からないけれど、かなり昔からではあるだろう。


「尤も、物心ついてからあの女に実際に会ったのは一回だけだ」

「そうなのか」


 それはちょっと意外だった。


「あの女は基本的に夢でしか俺に会おうとしない」

「おおう」


 言われてみれば、わたしもモレナさまと会って会話したのは、一度だけだ。

 あれも現実味のない時間ではあったが、実に濃い時間だった。


 そして、それ以後は、夢の中で会っている。

 今回で、確か、()度目だ。


 現実の自分は覚えていないけれど、転寝の時でも気軽に現れる。


「まあ、会うだけで、その相手に気配を覚えられるからな。あの占術師の立場上、分からなくもない」


 モレナさまの居所は、情報国家ですら掴むことは難しいと聞いている。


 雄也さんも言っていた。

 わたしと会うというそれだけのことでも、あの方にとっては危険を冒すような行為だと。


 それだけ、徹底的に姿を隠すためのことをしているのだろう。

 それだけ、名前が広がり過ぎているのだ。


 ―――― 盲いた占術師


 そんな通り名が。


「本人は占術師ではないと言っているよ?」

「確かに職業は占術師じゃねえよ。だが、言っていることも、やっていることも立派に占術師だ。そして、当人もそれは自覚している」

「ぬう」


 確かに職業は占術師ではない。


 だが、この紅い髪の青年が言うように、告げられる言葉も、その行動も、占術師であることを裏付ける行為としか思えないのも確かだ。


 だからこそ、「盲いた占術師」の名だけが独り歩きしている。


「しかも、聖女認定は、大聖堂ではなく情報国家イースターカクタスでこっそり、ひっそりとやっている。だから、『盲いた占術師』が聖女だと知る人間は少ない」

「まあ、その大聖堂に行くために聖女認定されたらしいからね」


 しかも、大神官を驚かせたいと言うのが理由だったと本人が言っていた。


 その当時の大神官である現聖爵さまと、現大神官である恭哉兄ちゃんは、今もあの方に振り回されているみたいだから本当に大変だよね。


「お前はいつ知った?」

「どの話?」

「新旧大神官とあの女の繋がり」


 その言い方は分かりやすいけど、苦笑したくなる。


「モレナさまとお会いした時。さっきモレナさまが言ったように一応、恋バナの一環?」

「一方的な猥談の間違いだろ?」

「モレナさまからは、そこまで露骨な表現はなかったよ。当時の大神官さまが『発情期』になるタイミングに合わせてお会いした……とか、そのぐらい?」


 それ以外にも余計な言葉が追加されていたような気もするが、それでも、そこまで極端に卑猥な言葉は使われなかったと思う。


「恋バナってことは、お前の方からもしたのか?」

「恋バナをしたというか、いろいろなことを根掘り葉掘り聞かれたと言うか?」


 恋バナではなくあれは尋問だったと思う。


「身近にいる殿方のことをどう思っているか? って質問形式だったよ」

「ふ~ん」


 そんな興味あるんだか、ないんだか、よく分からない反応をされた。


「つまりは護衛兄弟のことか」

「ん? いや、あの二人だけでなく、わたし自身が触れることを拒まなかった異性で、なおかつ、既に定められた配偶者や番いを持たない相手だったはず」


 あれ?

 そこで、ちょっと思ったんだけど……。


「イースターカクタス国王陛下って、今、正妃がいないの?」


 定められた配偶者がいないってそういうことだよね?


「今の流れから、なんで、あの国王の話になるのかはなんとなく予想できてムカつくが、今は、いないな」

「でも、あの会合時点ではいたはずだよね?」


 わたしに対して「寵姫にならないか? 」と言ったのはそういうことだと思う。

 いや、年齢的な話もあるだろうけどね。


「お前が言うあの『会合』というのが、十カ月ほど前にストレリチア城にて行われたカルセオラリアの中心国としての処遇を決めるような集まりのことだと思うが、あの時点ではいた。だが、五カ月ほど前に亡くなっている」

「ふわっ!?」


 な、なんで!?


「あの国の妃の座を狙う輩は多い。特に、今の国王は側室を持たないと公言していた。そうなれば、蹴落とすためにとれる手段は決まっているだろ?」

「ちょっ!?」


 さらに明かされる事実。

 その口ぶりから、正妃……、王妃殿下は普通の病死とかではないと言うことだろう。


 そんな人が冗談でもわたしに「寵姫にならないか? 」って言ったってこと?


 それって、凄く怖いんですけど!!


「そんなこともあって、あのクソ色欲王子は、婚約者など不要だと言い切っている。まあ、詭弁(こじつけ)だな」


 でも、その王子殿下は母親が亡くなったわけだ。

 その人がそう言いたくなるのも分かるだろう。


「言っておくが、あのクソ色欲に同情するのは心底アホらしくなるぞ」

「え?」

「母親が死んだその日のうちに、女の元へ行っているからな」


 えっと、それは母親が亡くなった淋しさを紛らわすためとか、そんなやつではないだろうか?


「そこから、七日七晩、別の女たちの元を渡り歩いている」

「うわあ」


 その行動もいろいろどうかと思うが、それを調べている方もなんというか、お疲れさま?


 でも、情報国家がそんな王族の醜聞を他国に調べられているというのもどうなのだろうか?


「それに対して、あの国王はそれ以来、女の影はほとんどない。精々、他国の国王が囲っている女に手紙を送りつけることぐらいしかしていないようだな」


 それって、どこの女性のことでしょうか?


 もう、嫌な予感しかしない。

 このパターンは前にもあった。


「お前の母親、情報国家の国王にまで愛されてるな」

「……知ってる」


 もう、そう言うしかない。

 どれだけ、この人は他国のことを調べ上げているのだろうか?


 情報国家の極秘情報も、だだ漏れてますよ!?


「それも驚かないんだな」

「母に関しては、もうその会合時点で驚きすぎたから」


 いや、あの母に関しては、その後もいろいろあったよ?


 事務処理能力の早さとか。


 実は九十九の父親や母親とも旧知だったとか。


 九十九の乳母もやっていたとか。


「同時に、あなたが何を知っていても、驚かないとも思っている」

「ほう?」

「それでも、今回のモレナさまとの関係はちょっとビックリしたかな」


 年齢相応の彼を見るのはちょっと久しぶりだったから。


「俺も驚いた。いつの間に、あの女と接触していたのかと」

「あなたも、何でも知っているわけじゃないんだね」


 いつも見張られていたわけではないのは知っているけど、モレナさまと出会ったことぐらいは知っているかと思っていた。


 それだけ、わたしにとっては印象強すぎることだったから。


「俺も暇じゃねえ。特に最近は、どこかの阿呆どもの後始末もあったからな」

「ああ、アリッサム城?」

「それと、『音を聞く島』だな。隷属させられる精霊族がいなくなったのは痛い」


 その言葉に少しだけ、背中がざわりとした。


 感覚ではない。

 精神的なものだ。


「その隷属って、あの島の惨状を知っていてそんなことを言ってるの?」

「あ? ああ、お前も酷い目に遭ったらしいな」

「わたしじゃない!!」


 思わずそう叫んでいた。


「確かに怖い思いはしたよ。でも、わたし以上に酷い目に遭った人たちがいたんだ。あなたはそれを知っていたんでしょう!?」


 わたしたちがあの島に流れ着いた時、既に多くの出来事が起こってしまった後だった。


 麻薬のような効果のある植物の栽培とか、家畜のような扱いをされていた精霊族たちとか。


 それを引き起こしたのは、彼の国ミラージュだったらしい。


 その国の王族である彼は知っていただろうし、実際、あの島で、「紫の王子」という言葉も聞いていた。


 何も知らなかったはずがない。


「お前は神にでもなったつもりか?」


 ひやりとした声。


「理想だけで全てを救えると思うなよ?」


 そこにかなりの怒気を孕んでいることをわたしは嫌でも理解させられたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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