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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1821/2811

納得

「キャッチボール相手のことは俺の誤解だと分かったが、何故、よりにもよって、セントポーリアなんかにいるんだ?」


 目の前にいる紅い髪の青年は、そんなことを言った。


「なんでだろう?」


 そこがわたしにも分からない。


「弟の方が、セントポーリア城下に行きたがったからじゃないかな?」


 きっかけはそんな話だった。

 わたしはそれに乗っただけだ。


「どちらが主人だ?」

「わたしのはずだけどね」


 本当に何故、九十九がセントポーリア城下に行きたいと言ったのかは本当の意味では分かっていないのだと思う。


 確かに意外なほど、わたしたちは出身国のことを知らない。

 わたしの方は、覚えていないと言う方が正しいのかもしれないのだけど。


 多分、記憶を封印する前の方が、セントポーリアという国については知っていたことだろう。


 だから、知りたいと思うこと自体は不思議ではない。


「知らないことがあって、それが自分の興味を引くことならば、知りたいと思う気持ちが止められなくなるからじゃないかな?」

「どこの情報国家の人間だ?」

「情報国家の人間ってそうなの?」


 確かに知りたいと思えばとことん追求するイメージが強い。

 情報国家の国王陛下だって、かなり執拗な性格っぽかったし。


「情報国家の……、特に王族はそういった気質が多いらしいな」

「詳しいね」

「各国の動向を調べるのは当然のことだろう?」

「いや、王族の気質は各国の動向とは違うと思うよ?」


 国としての方向性を調べるのは分かる。

 ただ、個人的な性質となれば、全然違う話ではないだろうか?


「この世界は、王族が全てを差配する。それならば、王族の気性が国の行く末を左右するとは思わないか?」

「なるほど」


 そう説明されれば、納得はできる。


 それだけ、この世界は王族の力が強いのだ。

 強すぎると言ってしまっても過言ではない。


 だから、勘違いしてしまうのだ。

 この世界では、王族が絶対だと。


 そんなわけがないのに。


「魔力のない王族など、意味もないのにな」

「どこの王族の話?」


 なんとなく、セントポーリア王子殿下のことかなと思って、確認してみると……。


()()()()()()()だ」


 別方向から意外過ぎる国の話が出てきた。


「今のフレイミアム大陸の中心国だっけ? そんなに魔力がないの?」


 わたしはクリサンセマムという国については、よく知らない。

 せいぜい、あの中心国の会合での国王陛下の道化っぷりを見たぐらいだろうか?


「アリッサムに比べたら、雲泥の差だな」

「比べる基準がおかしい!!」


 そして、その()()()()()()()()()()が言うのも良くない!!


「何を言う? フレイミアム大陸は、もともと魔力の強い人間が生まれやすいんだ。それなのに、魔力に関することは、アリッサムに全てを押し付けて、それ以外の4国はぬくぬくと過ごしていた。それは、どの大陸でもありえない」


 またも、思わぬ方向からの話だった。


「そうなの?」


 アリッサム以外のフレイミアム大陸の4国は、クリサンセマム、ピラカンサ、グロリオサ、ヒューゲラだっけ?


「不勉強なお嬢ちゃんにも分かるように説明するならば、シルヴァーレン大陸の大気魔気調整は、確かにセントポーリアが一番負担しているが、ユーチャリス、ジギタリスも支えている。そうでなければ、シルヴァーレン大陸が真っ先に荒れていただろう」


 まあ、最近は、ユーチャリスが少しずつ、荒れてきているけどなと、付け加えられる。


 ユーチャリスは国王の唯一の娘である王女殿下が家出中だ。

 そのために、国が荒れているとは聞いていた。


 尤も、モレナさまの話を聞いた今、その王女殿下は簡単に見つからないとは思っている。


 例の「神のご執心」から逃れるために、人間界まで逃げたらしいから。


「ライファス大陸は、イースターカクタスの王族が、アストロメリア、オルニトガラムにそれぞれ婚姻策を用いている。その結果、アストロメリアが百年前ほどに荒れていたが、持ち直し、何故か、食事の可能性を追求するようになった」

「へ~」


 アストロメリアは珍味国家だっけ?


 あれ?

 ちょっと違う気がする。


「グランフィルト大陸はストレリチア一強だ。だが、アリッサム聖騎士を育てられなくなった今は別の手を打つ必要があるな。まあ、その辺はあのシスコン王子がなんとかするだろう。魔力の強い妹を国外に出さなくて良くなったからな。時間は稼げる」

「ほへ?」


 何故、アリッサム聖騎士の話?


「お前は、本当に他国の情勢に興味がないんだな」


 紅い髪の青年は心底呆れた目でわたしを見た。


「ごく普通の一般国民(ぴ~ぽ~)に何を求める?」

「『people』な。いい加減、その奇妙な発音も治せ。救急車か?」

「救急車なら、ピーポーでしょう?」

「そんな所だけ、変なこだわりを持つな!!」


 この人は九十九並みに見事な突っ込みをしてくれる時がある。

 そして、今日は付き合いが良い日らしい。


「アリッサム聖騎士の法力を磨かせるために受け入れることが、大陸内の大気魔気の調整に一役買っていたんだ」

「属性が違うのに?」


 アリッサムは火属性、グランフィルト大陸は地属性だ。

 それでも、調整できるものだろうか?


「アリッサムの属性は確かに火が強いが、それ以外の属性持ちもいる。世界各地にいる魔力に自信がある人間(魔法馬鹿)たちが集う国だったのだからな」


 その中には地属性を持つ人間たちもいたということか。


 数は力だ。

 ワカが言っていたのは、そういった意味もあるのかもしれない。


「加えて言えば、お前のような一般人(commoner)がいるか。魔力を抑え込む装飾品をいくつ付けて生活してるんだ?」

「最近、一つ増えて、16個かな?」


 彼が言う「コモナー」というのが何かは分からないけれど、多分、一般ぴ~ぽ~に似たような意味だろう。


 相変わらず、無駄に発音が良い。

 九十九みたいだ。


 それはさておき、わたしには楓夜兄ちゃんと恭哉兄ちゃんの共同作業による「御守り(アミュレット)」がついている左手首にはないけれど、首に3個、右手首に3個、靴を含めた履物で隠しやすい両足首に5個ずつある。


 その全ては銀製品となっている。


 増えたのは、首だ。

 これも細い銀製のもの。


 その理由は言うまでもない。


「……付けすぎだろ。もう少し、自分でも押さえろよ」


 彼は先ほどと別種類の呆れた声を出す。


「アリッサムの王族たちほどは付けていないよ?」


 水尾先輩は20個。

 真央先輩は25個。


 彼女たちは魔力の暴走防止のためらしい。


「それらの人間が比較対象に上がるほどの異常さに気づけと言って良いか?」

「影響は大きいよね」


 彼女たちが近くにいることによって、引き起こされている魔力の感応症。

 それが、当人たちも意識しないうちに、魔力を底上げしている。


「まあ、もともと、フレイミアム大陸の王族と、シルヴァーレン大陸の王族の魔力は相性が良いからな」

「そうなのか」


 そんな気はしていた。


 水尾先輩や真央先輩の近くにいると、本当に僅かだけど、魔力が上がっている気がするのだ。

 特に水尾先輩は三年近く一緒にいる。


 その影響は計り知れない。


「知ってるか?」

「何を?」


 意味深な笑みを浮かべる紅い髪の青年。

 なんとなく、その笑みに少しだけ嫌な予感がして身構える。


「フレイミアム大陸王族の祖となる火の神子アルズヴェールと、シルヴァーレン大陸王族の祖となる風の神子ラシアレスは()()()()()()()()ぞ?」

「はい?」


 あれ?


 そのお二人は「救いの神子」……、「救国の聖女」と呼ばれる()()でしたよね?

 どちらも女性。


 いや、神さまなら女性同士で子供を作った例もある。


 だけど、「救いの神子」は……。


「本当かは分からん。そんな伝説が残っているだけだ」


 伝説。

 伝承。

 言い伝え。


 昔から語り継がれてきた話。

 しかも、救いの神子時代となれば、かなり古い話だ。


 それこそ、「封印の聖女」すら、霞んでしまうほど遠い昔の物語。


「そんなものがどこに?」

「俺の国」

「おおう」


 盲点過ぎた。

 そして、それは、一種の機密文書ではないだろうか?


 あれ?

 でも、彼の国であるミラージュは、ダーミタージュ大陸で……?


「なんで、火の神子と風の神子の伝説が残っているの?」


 確か、ダーミタージュ大陸は闇の神子「リアンズ=ミカゲ=ダーミタージュ」さまが担当だったはずだ。


 いや、「救いの神子」繋がりとは言えなくもないけれど。


「世の中には物好きというやつもいるものだ」

「なるほど」


 その筆頭が目の前にいるわけだ。

 わたしは手を叩いて頷く。


「おい?」

「なんでしょうか?」

「今、俺を見て納得しなかったか?」

「今の流れはそうじゃないの?」


 寧ろ、身をもって説得力アピールされたのかと思ったのだけど、違ったのかな?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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