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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1818/2804

結果

「さて、困った」


 目の前の状況に、わたしはそう言うしかなった。


「今回はオレが悪かった」

「いや、九十九だけが悪いとは言わないけど……」


 九十九が頭を下げて、わたしにそう言ったのには理由がある。


 わたしが、この部屋に飾ろうとしたミタマレイルと呼ばれる花があった。


 そのミタマレイルの花は、冠毛柄(かんもうへい)部分を摘まんで引っこ抜くと、何故か花火のように光が飛び散って、さらに大きな光の玉を放出することが分かったのだ。


 先っぽの綿毛のような部分を摘まんで引っこ抜いた時は、光の玉は出ない。

 そこが不思議。


 そして、ミタマレイルの花から飛び出てきた光の玉はその場に留まる。

 そう、消えないまま、留まっちゃうのだ。


 つまり……。


「わたしはこの光に包まれて眠るのね」

「言いたいことは分かるけど、その言い方はどうなんだ?」


 今、わたしの部屋には無数の光の玉が周囲に浮いていた。


 まるで、雄也さんや九十九の光球魔法のようだ。


 でも、触っても熱くもないし、何らかの現象は起きない。

 ただ光っているだけだった。


 それでも光が数多くあるのだから、この部屋が無駄に眩しいことには変わりない。


「今日はオレと部屋を変われ」


 なんか、それは昨日も聞いた気がする。

 昨日は結局、変わらなかったけれど。


「変わってくれるのは良いけど、そうなると、九十九が寝る時、眩しいんじゃない?」


 今回のことは、九十九も初めて見た現象らしい。


 そして、それ自体、昨日と同じような言葉ではあるが、そこはそれ。

 同じ言葉だけど、昨日と違うのは、わたしでも九十九でも全く同じことが起きたという点だろうか。


 だが、ここで問題となるのは、ミタマレイルの花は一つに見えるけど、タンポポと同じように花の集合体である。


 そして、その花は、一つにつき、100個以上あるわけで……。


「最終的に、光の玉はいくつ出来上がった?」

「135個」


 数えていた九十九にも驚きだけど、そんなにたくさんあった花の全て抜ききった自分たちにもびっくりだ。


 特に最後の一つを抜いた瞬間が一番、眩しく大きな光の玉が出来上がった。


 そして、引っこ抜いた先、花の本体? だった方は、みるみるうちに萎れて、そのまま枯れてしまった。


 種子すら残さずに。

 ちょっと申し訳ない気分になる。


 自分たちがトドメをさしたようで。


 九十九の話ではミタマレイルの花は、七日咲き、七晩光り、最終日の朝を迎えるとともに、種子を残して、また発芽するらしい。


 つまり、今回はその植物の一生というサイクルを壊してしまったことになるのではないだろうか?


「この光球全てに影が見えたな」

「その全部を確認した九十九が凄いよ」

「遮光眼鏡があるからな」


 そう言う問題ではないと思う。

 そのサングラスのようなものがあっても、その全てを普通は確認しないだろう。


「兄貴への手土産が増えそうだな」

「ああ、雄也は喜びそうだね」


 九十九が知らなかった現象だ。


 それを雄也さんが知っているかは分からないけれど、知っていたとしても別視点の検証は喜ぶだろう。


「暫くは報告書を記録するから明るくても大丈夫だ」

「これは明るいと言うよりも眩しいって言うんだよ」


 中には直視できないほど強い光もある。


 太陽を直接見た時みたいに、黒のような緑のような変な影が瞼に焼き付くような気がした。


「遮光眼鏡もあるから大丈夫だ」

「寝る時に眼鏡は危ないと思うよ」


 寝返りうった時に危険だと思う。

 九十九は治癒魔法が使えるけれど、防げる事故は防ぐべきだろう。


「いつまで光っているのかを確認したいんだよな。ミタマレイルの花のように、朝になったら、消えるのかどうか」

「うぬう……。検証したいのね?」

「そういうことだな。だから、悪いが、今度こそオレの部屋を使ってくれ」


 九十九の部屋。


 今いるのはコンテナハウスだし、実質、使用したのは昨日ぐらいなのに、それでも、その響きだけで少し胸が騒ぐのは何故だろうか?


 これまでに何度も彼が使用している部屋には入っているのにね。


 いつもと違う銀髪のせいだ。

 碧眼のせいだ。

 暗い赤紫色の遮光眼鏡のせいだ。


 いつもの黒髪、黒い瞳を見ていないせいだ。

 だから、落ち着かないだけだ。


「どうした?」

「九十九は……」


 ―――― いつものわたしと今のわたしのどちらが良い?


 そう問いかけて、口を閉じる。


 何を聞こうとしているんだ?


 今の九十九は銀髪碧眼だけど、今のわたしは紺藍の髪、翡翠の瞳。


 これで、「いつものわたし」と言われてもいろいろ困るし、かと言って、「今のわたし」と答えられても嫌だ。


 だから……。


「なんで、そんなにミタマレイルの花について調べたいの?」


 無難な質問に変えた。


「目の前でこれだけいろいろ起きて、興味を持つなという方が無理じゃないか?」

「……確かに」


 九十九ほど興味は持てないけれど、わたしも気になったから、花を引っこ抜いたりしたわけだし。


「この花のことを意外と知っているようで、知らなかったってことだからな。原点回帰ってやつだ」


 九十九は光の玉を見ながらそう言った。

 銀髪碧眼の青年が、光に囲まれる図。


 それは昨日も見た。

 そして、昨日も思ったのだ。


 ―――― ああ、なんて……。


「ちょっ!?」


 何故か、九十九がその顔色を変えた。


「どうした!?」

「ふえ?」


 血相を変えた九十九から迫られて気付く。


 わたしの頬に、何か、伝わっている?

 それに触れると、少しだけ熱い液体だと分かった。


「ああ、もう!!」


 九十九はそう言いながら、わたしの顔にタオルを投げかける。


「抱えるぞ!!」


 有無を言わさず、わたしはいつものように抱き上げられた。


 そして、そのまま、隣室に連れ込まれ、寝台に寝かされる。


 寝台に乗せられた瞬間、九十九の匂いがした気がするけれど、それ以上に九十九本体が間近にあったので、それを気にするどころではなかった。


「熱は、ない。頭痛、吐き気は?」

「……ない」


 額に手を当てられ、いつものように自分の状態を確認される。


「目やそれ以外の場所に痛みは?」

「ないよ」

「光に目をやられたか?」


 そう言って、考え込む。


 どうやら、九十九はわたしの目から涙が流れていたのを見て、具合が悪いと判断したらしい。


 まあ、確かに先ほどのやりとりの中で泣く要素は一つもなかった。


「とりあえず、ホットタオルを当てるか」


 そう言って、この前のようにほっこりしたタオルを目に当ててくれる。


「温かい……」

「ホットタオルだからな」


 そう言いながら、九十九の手がわたしの額……、いや、髪に触れているっぽい。

 曖昧な表現なのが、目が隠れているから、感覚で判断するしかない。


 今のわたしの髪は(かつら)だ。

 だから、自分の髪とは違う。


 それがなんだか、不思議な気分だった。


「目にゴミは?」

「入ってないよ」

「痛みはないって言ったからな……」


 さらに考え込んでしまった。


「光を見てたら、勝手に零れたんだよ」

「栞にも遮光眼鏡を使わせるべきだったか……」


 そう言いながら、真面目に考え込んでしまう、わたしの護衛。

 髪や瞳の色、装備が変わっても、本人は本当に何一つとして変わらない。


「このまま、ここで寝て良い?」

「お? ああ、その方が良いかもな」


 午後からのキャッチボール後に、既に汗は流している。

 だから、このまま寝ても問題はないだろう。


「だが、本当に大丈夫か?」


 声だけで、どれだけ心配されているのか分かる。

 これ以上、彼に心配をかけたくなかった。


「具合が悪いわけではないから大丈夫だよ」


 実際、具合が悪くて涙が落ちたわけではない。


 自分でも涙が零れていたことに気付かなかったけれど、それに対しての心当たりはあった。


 先ほどの九十九の姿を見てわたしが思ったこと。


 それは……。


 ―――― ()()()()


 そんな懐古の念だったから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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