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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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検証

『九十九―――――――――――――っ!!』


 そんな久しぶりに脳内に叩き込まれるような叫びに、深く考えることもなく、オレは移動魔法を使って、栞の部屋に飛び込んだ。


「あ……?」


 だが、そこにはミタマレイルの花を握って座り込んでいる栞の姿。


 そして、目の前に、()()()()()()()()()()()()が浮いていた。


 怪我はしていない。

 誰かが侵入したわけでもなさそうだ。


 もしかして、昨日のように歌ったのか?

 だが、あの叫びは一体?


「どうした?」

「ミタマレイルの花が……」

「あ?」


 栞が手に持っているミタマレイルの花は、キャッチボールをした後、光り出したのを一輪、摘んだものだったと思う。


 摘む時に、「ごめんね」と言っていたのが如何にも栞らしいと思ってしまった。


 オレなら、もっと乱暴に毟り取るか、刃物を使って切っていただろう。


 勿論、言葉なんかかけない。


「急に弾けて、光って……?」

「あ?」


 そう言いながら、よろよろと立ち上がる。


 だが、栞の手にはミタマレイルの花がちゃんとあった。

 栞が摘んだのは一輪だったのも間違いない。


 飾るなら、「もっと摘むか? 」と、尋ねたオレに対して、「一輪挿しというのも乙なもんだよ」と返事をしたのだ。


 だが、弾けて、光った?

 その浮いている光球と何か関係あるのか?


「光が、生まれた?」


 栞はどこか茫然としながらもそう言った。


 昨日見た光景が蘇る。

 栞が歌った後、花から光が吐き出され、その光が宙に浮くと、花は光らなくなったのだ。


 だが、今回は、花も栞の手にある。


 仮に昨日のように急成長して種子に変わったとしても、根がない状態で生え替わったとは思えない。


 つまり、状況が分からない。


「今度は何をやらかした?」


 確認の意味でそう尋ねるが、どこか栞は心ここに在らずというような顔をしていた。


「おいこら、聞いてるのか?」

「あ、ごめん」


 栞の顔がオレを見て……。


「えっと、ミタマレイルの花を触ったら、こうなりました!!」

「あ?」


 そう言いながら、視線を下に向ける。

 そこには浮いたままの光球がある。


「いや、本当なんだよ」


 栞はなおもそう言う。

 ミタマレイルの花が、この光球を生み出したことは分かった。


 状況からそれ以外考えられない。


 だが、触っただけで?


 それも考えられない。


「オレも今まで何度か触ったし、毟ったし、食ったことすらあるけど、こんなことになったことはねえぞ」


 昨日、歌って花を咲かせたことが、初めてこれまでと違った現象だったぐらいだ。


 だが、この女は二日連続で何か起こしたらしい。


「食ったって綿毛部分?」

「根も葉も茎も、花も……、だからほぼ全部だな」

「それは夜も?」

「朝も昼も夜もだな」


 栞に問われるまま、記憶を掘り起こしていく。


「光っている花をよく食べる気になるね?」

「食ってみろって言われたんだよ。ミヤから」


 尤も、今なら自分から食おうと考えるだろう。


 あの当時よりも毒の耐性は上がっているし、今なら「薬物判定植物(パーシチョプス)」も持っている。


「あの湖まで上るまで、花の存在を知らなかったからな」


 頭上でずっと光っていたのだろうけど、あの頃は、暗くなっていた夜に、小屋の外へ出ようと思ったことがない。


 何より、父親や兄貴から、この周辺から動くことを止められていたのだ。


 今よりも年長者に従順だったオレが逆らうという発想もなかった。


「なんで、ミヤドリードさんはそんなことを言ったんだろうね?」

「あ? あ~? 不味いけど、その光を食ってみろって……?」


 そう言えば、なんであんなことをミヤは言ったんだ?


 あの頃は、毒耐性を付けるために結構、無茶なことはされた覚えはあるが、理由は覚えていない。


「いや、そんな思い出話はどうでもいい」


 思い出せないので、深く考えることを止めた。

 兄貴なら覚えているかもしれないからな。


「これは、お前が触ったからってことか?」


 光球を指差しながら確認する。


 今回は、歌ったわけではないらしい。


「でも、わたしもこれまでに何度か触っているよ? さっきも何度か埋もれたし……」


 確かに栞もシオリも、あのミタマレイルの花に埋もれて何度か、寝ている。


 それを触ったというかは微妙だが、少なくとも手やそれ以外の場所が触れていることは間違いない。


「これまでと何か違ったことは?」

「ああ、花を一本だけ抜こうとしたかな」

「一本だけ?」


 この場合、この一輪から、花の一つを抜こうとしたのだろうが、単位は「本」で良いのだろうか?


「そう、こうやって……」


 栞はそう言いながら、自分の手に持っていたミタマレイルの花を一つだけ摘まんで引っ張ろうとした。


 すると……。


「ふぎゃっ!?」

「なっ!?」


 音もなく、栞が指で摘まみ取った花から、火花のような物が飛び散り始めた。


 咄嗟に栞の腕を引いたが、よく考えれば、その火花は栞の指先にある。


 混乱するにも程があるだろう、オレ!?


 だが、魅入られるように栞はその小さな火花を見つめたまま、放そうともしない。


 栞の「魔気の護り(自動防御)」が働かなかったということは、危険はないということなのか?


 そして、一際激しい火花を散らした後、そこから、一つの光が生まれた。

 栞の指からは、ミタマレイルの小花が消え、種子すら残っていない。


 これは、なんだ?

 こんな現象は初めて見る。


 ミタマレイルの花を全て毟り取った時も、こんな現象は見なかった。


 その生まれたばかりの光球は栞の胸の高さで空中静止している。

 その光度は先に出ていた光球よりも明るい。


「熱くはねえな」


 栞の近くにある光球の周囲に手を伸ばした。


「光の中に影……」


 光球に顔を近づけると、影のようなものが揺れ動いたように見える。

 だが、周囲の光が邪魔だ。


 視界が狭くなる気がしてあまり好きではないが、アレを使うか。


「ふわっ!?」


 だが、真横から驚きの声が上がった。


「どうした?」

「びっくりしただけ」

「いや、それは分かるが……」


 逆に今の声で何もなかったとも思えない。


「ああ、コレが似合わないか?」


 栞の前で使うのは初めてだからな。

 自分でも似合ってないと思っている。


 だが、栞はこちらが心配になるほどの勢いで首を横に何度も振り……。


「似合ってる!」


 両拳を力強く握った。


 その瞳はキラキラとしていて、オレを見ている。

 この瞳に覚えがあった。


「思わず絵を描きたいぐらいに?」

「ふわっ!?」


 図星だったらしい。


「そんな顔をしてた」

「うあ~」


 栞は顔を真っ赤にして、自分の両頬を手で挟み込んでマッサージしている。


「ただの遮光眼鏡なんだけどな」


 人間界で言うサングラスのようなものだ。

 兄貴には似合わないと言われた。


 だが、この様子だと栞は嫌いじゃないらしい。

 それなら、良いか。


 口元の緩みを懸命に抑えながら、再び、光球を見つめる。


 遮光眼鏡のおかげで、眩しさはなくなった。

 影は、当然ながら黒いままか。


 だが、人の形をしているようにも見える。

 規則的に動いているような気がするが、影絵を見ているようでよく分からない。


 せめて、音があれば……。

 耳を澄ましても駄目か。


「栞」

「はい!!」


 オレが呼びかけると、元気の良い返事。


「もう一本、頼めるか?」

「へ?」

「ミタマレイルの花。もう一本、毟れるか?」

「毟るって……」


 栞は苦笑しながらも、またミタマレイルのよく見ると、冠毛柄(かんもうへい)部分を握って、引っ張った。


「うわ」


 同じ現象。


 だが、今度は火花もすぐに収まり、飛び出た光球は足元に辛うじて浮いているといった状態になった。


()()()()()()()()な」

「そうだね」


 お互いに床に、正しくは三つ目の光球に目を落とす。


「九十九もやってみる?」

「おお」


 誘われるまま、冠毛の一つを掴んで引っ張った。


 だが、普通に抜け、抜いた花の光も消えて、手元に残る。


「ぬ?」

「これは栞だけってことか?」


 歌と同じではないらしい。


「いや、これって……」


 そう言いながら、栞は手に持っていたミタマレイルの花の冠毛を掴んで引っ張る。

 すると、オレと同じように、花の光が消え、その形は残った。


「今度は九十九、冠毛柄(かんもうへい)を摘まめる?」

「ああ」


 差し出されるミタマレイルの花に少し指を滑り込ませ、冠毛柄(かんもうへい)を一本だけ摘まもうとするが、なかなか難しい。


 冠毛部分なら摘まみやすかったが、何故か、コイツらオレの指から逃げるぞ!?


「九十九の手はわたしよりも大きいからね」


 そう言って、栞は冠毛柄(かんもうへい)から逃げられているオレを見て楽しそうに笑った。


 その笑みに胸が弾むが、現状、かなりカッコ悪い。


「ええい、めんどくせえ!!」


 そう言って、二、三本纏めて、冠毛柄(かんもうへい)を摘まんで毟り取ると……。


「うわっ!?」

「うおっ!?」


 オレの指から火花が激しく飛び散った。

 まるで、静電気みたいだったが、音はならない。


「オレでも、なった?」

「飛び散ったね」


 指で摘まんだはずの花も全てなくなっている。


「どういうことだ?」

「分かんないね」


 オレと栞は互いに顔を見合わせるしかないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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