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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1800/2806

【第97章― 過去から芽吹くもの ―】翌日

祝・1800話。


そして、この話から97章です。

よろしくお願いいたします。

「九十九、なんかご機嫌だね?」


 目の前にいる銀髪碧眼の青年にそう声をかける。


「そうか?」

「うん。妙にウキウキしている感じがする」


 表情はいつも通り。

 口調も昨日までと大差はない。


 そして、自分が銀髪碧眼になっていることで、やや不機嫌そうな顔をしていたのが、昨日の話。


 だけど、今日はそれを感じさせなくなっている。


 だが、何故、わたしは九十九の機嫌が良いとそう思ったのか?


「ああ、朝ご飯が妙に美味しいからだ」

「それは、お前の気分が良いだけなんじゃねえのか?」


 わたしの出した結論に対して、どこか呆れたような九十九の声。


 でも、本当に美味しいのだ。


 いや、九十九が作ってくれる料理に外れはないのだけど、今日のご飯は、なんか食べるだけで、妙に心が浮き立つような?


 九十九が言うように、わたしの気分の問題なのかな?


「自分自身は疲れているような感じがするんだけど……」

「昨日、あれだけ歌えばな」


 そう言えば、森の中で歌った覚えがある。

 しかも、結構な遅い時間帯に。


 人間界なら近所迷惑だと訴えられていたことだろう。


 でも、九十九も同じように歌ってくれたし、以前、「音を聞く島」で歌ったほど曲数……、いや、歌数もそんなに多くない。


 実際、喉もお腹も痛くないのだ。

 ただ疲れているだけ。


 あの「ゆめの郷」での魔法勝負で、魔法を使い過ぎた時のような状態によく似ている。


 「ゆめの郷」と言えば……。


「ねえ、九十九」

「なんだよ?」

「この世界ってスポーツはないよね?」

「あ?」


 突然のわたしの問いかけに対して、九十九が怪訝な顔をした。


「いや、野球みたいなものがあれば楽しいなって思って……」

「お前が好きなのはソフトボールじゃなかったのか?」

「この際、類似品……、類似競技でも良いかなと」


 何故か、そう思った。


 これまでに考えたこともなかったけど、もし、スポーツがあれば、この世界に娯楽が増えるかもしれない。


 魔法は禁止の方向で。


 いや、魔法を使うからこそ、新たな可能性が生まれるかも?

 「魔法(マジック)野球(ベースボール)」みたいな名称で流行るか?


「キャッチボールぐらいで良ければ、オレでも付き合えるぞ」

「え?」

「小学校の時、兄貴に付き合わされた覚えがある」


 そう言えば、雄也さんは野球少年だった。


 イメージは違うが、実際に何度もその姿を見てきているから否定はしない。


 それよりも……。


「今日は無理だが、時間があれば、湖のところでやるか? 野球用になるが」

「ふわあっ!!」


 その言葉が嬉しくて、思わず変な声が出た。


 ちょっと本当に!?

 九十九とキャッチボールができるの!?


「右利きなら、グローブもあ……」

「内野用? 外野用? 投手用? 一塁手用? 捕手用?」


 思わず、食い気味に確認する。


 グラブ大事。

 ああ、でも、野球用は使ったことがない。


 それでも、ソフトボール用と基本は同じはずだ。


「お、オールラウンド用って書かれていたはずだから、全部じゃねえのか? 詳しくなくて悪いが」


 わたしの勢いに九十九が珍しくやや引き気味に答えた。


「おっけ~!!」


 思わず気合を入れてガッツポーズ。


 内外野兼用グラブはポジションが固まっていない初心者向けのものだ。


 だが、趣味の範囲ならそれはちょうどいいし、キャッチボールするだけならば、何も問題ない。


「ホントに、ソフトボールが好きなんだな」

「うん!!」


 あの頃はそれが全てだったから。


「ところで、今日は無理って、今日は何かご予定が?」

「ああ、ちょっと城までな」


 九十九は食べ終わったお皿を片付けながらそう言った。


「城?」


 わたしも同じようにお皿を重ねて、彼に手渡す。


「流石に城下まで来て、陛下に全く挨拶もしないわけにはいかないだろ?」

「わたしも行った方が良い?」

「いや、お前は来るな。今日はここで、休んでろ」


 わたしの護衛はわたしからあっさりと離れて行動すると宣言をする。


「でも……」

「この場所なら、安全だ。それに通信珠もある。何より、城からこの場所なら、オレは上から飛べる」

「それはちょっと目立っちゃうんじゃないかな?」


 わたしたちがいる「城下の森」は、森の中に入ってしまうと方向感覚が狂ってしまい、移動魔法も難しいのだが、真上から真下に落ちる分にはそんなことはないらしい。


 そして、城と同じ高さなら、その方向感覚の狂いも発生しないそうだ。

 範囲は、木の高さらしい。


 本当に森そのものが結界だと言うことだろう。


「目立っても、オレはお前が無事なら問題はねえ」


 いつものように他意のない護衛の言葉。


 大丈夫。

 誤解などしない。


「昨日まで城に行くって言ってなかったよね?」

「気が変わった」


 気が変わるほどの何かがあったことは分かった。


「時間はどれぐらい?」

「陛下に仕事を押し付けられなければ、二時間もかからん」


 国王陛下はいつからそんな酷いキャラクターにって、この前、城にわたしを迎えに来てからだね。


 あの時、確かにわたしも手伝ったし、迎えに来た九十九も手伝う羽目になった。


 それだけ、お仕事が大変なのだろう。


「お前を待たせているって分かれば、すぐに解放されると思う」

「国王陛下にアポなし訪問って可能なの?」


 少し前に短期間お世話になっただけだが、この国の国王陛下は大変、忙しい。

 国内のお偉いさんたちの面会をいろいろ断るほどに。


 それなのに、昨日の今日で突撃陛下のお宅訪問って可能なのだろうか?


「急ぎの面会方法を兄貴から聞いている。そして、もうアポもとった」

「仕事が早いよ」


 しかも承諾済みとか。

 相手の反応も早すぎるよ。


 今、朝ご飯の時間帯だよね?


「夜中に目が覚めて、思い立って、『伝書』したら、即、返答が来た」

「…………」


 どうしよう?

 どこから突っ込めば良いの?


 まず、夜中に目が覚めたって、ちゃんと九十九は寝たのだろうか?


 そして、思い立ったからって、「伝書」……、ご本人宛に直接、しかもすぐに届くようなお手紙を書くなんて、行動力がおかしい。


 さらには、それに対して、即、お返事されたってことは、国王陛下はそんな時間に起きているの!?


 そうじゃないと、手紙を受け取って、すぐに返事なんて書けないよね!?


「兄貴が言うには、夜中が一番、即答されやすいそうだ」

「…………」


 同じことを、兄弟揃ってしているってことかな!?


「そんなわけで、少しだけ、留守にして良いか?」

「良いも、悪いも、既に決定事項じゃないか」


 国王陛下から返答されている時点で、わたしが口を挟めるはずもない。


「オレとしてはお前を置いて行くことに不安はあるが、この建物に侵入できるような命知らずがいるとは思えん」

「命、知らず?」


 なんですの?

 そのかなり不穏な言葉は……。


「その辺の王族なら返り討てるぞ。流石に陛下は無理だと思うが」

「なんで、そんな物騒なものを使っているんですかね!?」


 この辺の王族って、セントポーリア城内にいる方々のことですよね!?

 しかも、陛下は無理ってことは、陛下以外なら可能ってこと!?


「護るのも王族なんだから、当然だろ?」

「ぐっ!!」


 正論だが、認めたくない。


 彼らは護ると決めたら、わたしが王族でなくても、過剰な防衛対策を打ち立てる気がするから。


「大丈夫だ。その最終防衛形態システムは、オレがいない時だけ動かすから」

「なんなの!? その、微妙に心ときめいちゃう形態システム名称は!?」

「ときめくなよ。しかも、微妙なのかよ」


 勢い余って口から出てしまった変な言葉に対しても、律儀に突っ込んでくれる。


 わたしの護衛はこんなにも良い男です。


「ああ、でも、お前は出掛けたかったか?」

「ん~?」


 確かに出掛けたかったかと言われたら、今日はそこまでとは思う。

 昨日、存分にふらふらしたし。


「読みかけの本があるから、今日はまだ良いかな」


 あのセントポーリアの歴史書は本当に読みにくいのだ。

 言い回しが古いのもあるが、見事なまでに素材が古い。


 そんなところまで再現しなくてもと思うが、雄也さんの話では完全複製魔法ではないので、素材は違うらしい。


「せっかく、他国……、いや、自国に戻って来ているのに、早々に閉じ込めて悪いな」


 別に閉じ込められている気はないのだけど……。


「いや、挨拶は必要でしょう? 本当はわたしも行った方が良いのだけど」


 挨拶は大事。

 でも、自分がそれをできないのが、申し訳なく思えてしまう。


「お前を連れて行くには、受け入れ側に準備が足りないな、『聖女の卵』様」


 そう言って、九十九はその青い目を細めて柔らかく笑ったのだった。

毎日投稿を続けた結果、ついに1800話となりました。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではいいねをくださった方々と、何より、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげです。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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