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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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いろいろと解けていく謎

『ツクモを産んでラビアが死んだ後、チトセは自分がツクモに乳をやると言ってくれた。それが、チトセがツクモの乳母となった経緯だな』

「そうですか……」


 なんとなく想像していたことが、話を聞いて、しっかりと形作られた気がした。


 当時の母の気持ちも、九十九を産んで死んでしまったラビアさまの気持ちも、二人の息子と共に生きることになったフラテスさまの気持ちもそれぞれ考えると胸が痛くなってしまう。


『ああ、あと……。シオリが産まれた直後に、胸元に「王家の紋章」が現れた。俺が立ち会って正解だったよ。城下や別の場所であんなものが晒されては、確実にセントポーリアに見つかるところだった』


 そう言いながら、フラテスさまは、自分の胸部の中央を手のひらで押さえた。


「王家の紋章!?」


 それは雄也さんの身体に浮かび上がったもの。


 ああ、そうか。

 あの時、雄也さんは言っていたではないか。


 王族の血を引く人間は、生まれた時と、20歳以降に魔法を使った時、湯を浴びた時に身体のいずれかに、このような紋章が現れるって。


 この話から、わたしは胸に浮かぶらしい。


 その位置ならば、服を着ていれば、見えない場所だ。


 胸元の空いた服で魔法を使わない限りは大丈夫だと思う。

 そして、わたしはそこまで襟ぐりの深い服を着る予定はない。


 谷間はほとんどないけれど、本来なら谷間が見えるような部分。


 目立つ場所でなくて良かった。

 少なくとも、周囲にはバレにくい。


 そうなると、未来の旦那さまには驚かないように告げておく必要はあるが、それ以外に教えなくても良いだろう。


 そんな呑気なことを考えていたわたしだが、現実で初めてそれが浮かび上がったのを見た時、いろいろととんでもない事態になることを、当然ながら、この時は知らない。


 さらに、その後、多くの人たちの前で曝け出すことにもなるのだが、この時は露にも思っていなかった。



 そして、それらは少しだけ先の話。



「フラテスさまがワタシを取り上げてくださったから、誰にも知られることはなかったのですね」

『そうなるかな。さらに、その時、魔力の封印もさせてもらった。生まれたばかりの嬰児にしては、あまりにもシオリは魔力が強すぎたからね』


 ワタシは覚えていない間も、多くの人に助けられていた。


『不自然ではないように、少しずつ解けるようにしていたのだが、まさか、そこから何度もシオリの魔力が封印されることになるとは俺も思わなかったよ』

「ワタシ自身も思っていなかったと思います」


 だけど、いろいろ謎が解けていく。


 そのことに少しだけ安堵するとともに、それを自分は覚えていられないのだろうなとも思った。


 夢の中の記憶は現実の高田栞(わたし)はあまり覚えていない。


 何度も見せられたら少しぐらい覚えていることもあるけれど、そのほとんどは記憶が薄れてしまうのだ。


 この方には感謝してもしきれないほどの恩があることを知ったのに。


「でも、本当にありがとうございました。母もわたしも、あなたのおかげで、今も生きています」


 わたしはイースターカクタスの礼をとる。

 この方にはこれが相応しいと思うから。


『礼を言われるほどのことはしていない。それに、俺たちもチトセやシオリには返しきれないほどの恩がある。お互い様だ』

「恩? 母はともかく、わたしも……、ですか?」


 心当たりがない。


『あの悪童どもの命を救ってくれたことだろ?』

「悪童って……」


 もしかしなくても、九十九と雄也さんのことだろうか?


 18歳と20歳の青年たちも、この方にかかれば、まだまだ悪戯盛りの子供にしか見えないらしい。


 彼らが、頼りになることも知っているはずなのに。


『それに、シオリのおかげで、ヤツらにも明確な目標ができた。そのために、俺が予想もしなかったほど成長してくれている。親として、これ以上、嬉しいことはないよ』


 そんな風に言われるとちょっとだけ照れくさい。


 わたし自身は何もしていない。

 明確な目標ができたのは、彼ら自身がそれだけしっかりしている証拠だ。


 そんな彼らだから、わたしは頼ってしまうのだけど。


『まあ、少し、依存心が強い所がどちらも大きな問題ではあるな』

「そうですか?」


 自分のことを言われているのかと思ったが、違うらしい。


『まさか、気付いてないのか?』

「わたしの方が甘えていると思っているのですが……」


 何故か、酷く驚かれたが、わたしの方が甘えていると思うのは本当のことだ。


『いや、シオリは寧ろ、もっと男に甘えた方が良い。せっかく、()()()()()()()()()()()をしているのだ。それを使わないのは、勿体ない』

「はあ……」


 えっと……?

 それは、わたしがちっこいからでしょうか?


 確かに小さい子って護りたくはなるけど、この年齢でそれはちょっと違う気がする。


『なあ、()()()?』

「ほげ?」


 突然、そう言われて、思わず、後ろを振り返ると、そこには黒髪の青年が立っていた。


 え?

 こんなに接近されても気付かなかったなんて、わたしは鈍すぎる!?


「お久しぶりです、フラテス=ユーヤ=イースターカクタス殿()。気付かぬうちに現れた上、我が主人に()()()()()()()()()()()()()()()()()、相変わらずですね」


 あ、あれ?

 今……?


『久しぶりだな、ユーヤ。相変わらず()()()()()()()()()()か。ツクモを少しぐらい見習え』


 おおっ!?

 ちょっと待って?


 フラテスさまの方もなんか……。


「貴方に可愛がられるぐらいなら、可愛くねえガキ扱いされている方が気楽ですよ」

「ふぎゃっ!?」


 雄也さんはそう言いながら、わたしを後ろから引き寄せる。


『悲鳴、上げられてるじゃねえか』


 呆れたようにフラテスさまはそう言うが、これは感覚がなくても、悲鳴を上げてしまうのは仕方がないでしょう。


 どこの九十九ですか!?

 いや、兄弟だから、行動が似通っているだけ!?


 でも、先ほどから言動がいつもの雄也さんとも違う気がする。


 そこがちょっと違和感を覚えるので、わたしの頭が作りだした雄也さんなのかもしれない。


 ここは夢の中だから、そんなこともあるよね?


「栞ちゃん、大丈夫だった? この()()()()()()()()()()()()?」

「え? エロ……?」


 この方にエロ親父ってイメージは全く、感じなかった。


 双子の弟である情報国家の国王陛下の方なら分かるのだ。


 あの人は言動がちょっとえっちくさい雰囲気を持っていたから。


『ホンットに可愛くねえな。大体、俺が自分の娘も同然のシオリに何をするっていうんだ?』

「俺は貴方のことを信用していませんから」


 実の父親に対して、結構な言葉だ。


「あの『好色男』の兄と知った以上、それも納得ですが……」

『ああ、それ。シオリに言ったあの「暗闇の神子」の言葉だろ? ウケるよな~。すっげ~、グリスに合ってる』


 そして、フラテスさまが返す言葉もどこか若さを感じる。


 まるで、九十九のような口調。

 いや、それよりも軽い気がする。


 もしかして、こちらが素なのだろうか?


『そんな話はどうでもいいか』


 フラテスさまは微笑ましいものを見るかのように笑った。


『まさか、ユーヤがここに来るとは……。ここは栞の夢と繋がっているだろ? つまり、お前の方がエロくないか?』

「主人の身を心配しただけで、俺には邪な意思はありません」


 あれ?

 もしかしなくても、本物?


 わたしの夢だから、空想の産物かとも思った。

 それほど雄也さんがいつもとは違うから。


 でも、雄也さんは夢に入れる。

 だから、今回も夢に入って……?


『主人ったって、シオリが未婚で可愛らしい女性であることに変わりはないぞ? 気を付けろ、シオリ。この男はある意味、()()()()()()()()()ぞ?』

「ほ?」


 九十九以上に?

 雄也さんは、そういった方向性の話なら、九十九よりも安心だと思っているけど?


「阿呆なことを口にして主人を無駄に警戒させないでください」

『いや、シオリはもっと警戒した方が良いと思う』

「その点については同感ですが、今、言う必要はないと思います」


 なんか父子で分かられてしまった。


 でも、亡くなった父親が目の前にいることに対して、雄也さんに思うところは何もないのだろうか?


 普通なら、もっとビックリするよね?


 そんなどこか明後日な感想を、わたしは後ろから雄也さんに抱き締められた状態で考えていたのだった。

解けていくけど、深まるものもある。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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