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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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「救いの神子」とその子孫

『その礎となったものが、風の神子であり、知識の神子とも言われる「ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン」が作った暦だと言われている』


 フラテスさまはそう言いながら、落ち着きのある笑みを見せる。


「ほ?」


 まさか、ここで、その名前を聞くことになるとは思わなかった。


『つまりは、シオリの遠い祖先になるかな』


 確かに「救いの神子」は、王族たちの祖先である。


 だから、一応、セントポーリア国王陛下の血を引いているわたしの祖先と言うことに間違いはない。


 尤も、気が遠くなるほど昔の話だから、その血はかなり薄まっているだろうけどね。


「そうなると、『救いの神子』の一人が暦を作ったということですか?」


 そうだとしても、そのこと自体に特別な驚きはない。


 現代日本を生きていた少女なら、暦……、日付や時間の確認をしたくなるのは自然なことだろう。


 そう思って、そのまま自分の世界の暦とこちらの世界の暦を整合させたものを作り出してしまう才は単純に凄いと思ってしまうけど。


 そして、わたしはここで、「ラシアレス」さまの名を口にしようとは思わなかった。


 いろいろと違和感を覚えるからである。


 つい最近、あれほど自分のことをその名で呼ばれたのだ。

 これは仕方がないだろう。


『流石は「聖女の卵」だ。その名の繋がりに違和感はないらしい』


 フラテスさまは興味深そうにそう笑った。


 まあ、普通は「救いの神子」という言葉と、「ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン」さまの名は繋がらないだろう。


 だけど、これでもわたしはフラテスさまが言うように「聖女の卵」だ。

 その二つが繋がっているのを知っていること自体は、全く不自然ではない。


 いや、そもそも「救いの神子」というもの自体がそこまで有名ではないのだ。


 それぞれの大陸に生きる王族たちの始祖とも言える存在なのに、その歴史上に名前は残されていないことは、セントポーリア王族史でも確認している。


 まるで、「封印の聖女」のように、セントポーリアの始まりは、「大陸神」と当時の「風の大陸」の代表である「王」(シルヴァーレン)の娘との間に生まれた「御子」からとなっている。


 その「王」(シルヴァーレン)の娘が「ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン」さまだと思われる。


 そして、彼女の「御子」の数は7人。


 一人で産むにはかなり多い気がするけど、同じ時期の他大陸にいた「王」の娘と大陸神との間に生まれた子の数は二桁らしいので、「救いの神子」としては少ない方ではある。


 その7人を王族として、それぞれが国を興し人口衰退期を乗り越え、シルヴァーレン大陸の歴史は新たに始まったらしい。


 その長子がセントポーリアの最初の王さま。


 どこまでが本当の史実かはわからないけれど、セントポーリアの史書と合わせれば、そんな話になる。


 今、シルヴァーレン大陸には三つしか国がないので、その他は吸収されたのかな?


 いや、歴史の中では最古であり、わたしにとっては最新の知識などはどうでもいい。


「『救いの神子』の名は教えられましたので」


 わたしはそう答えた。


 「救いの神子」と呼ばれる火の神子「アルズヴェール=ヒカリ=フレイミアム」。


 風の神子「ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン」。


 光の神子「シルヴィクル=レイ=ライファス」。


 地の神子「マルカンデ=セナ=グランフィルト」。


 水の神子「トルシア=ミャコ=ウォルダンテ」。


 空の神子「キャナリダ=アラタヌ=スカルウォーク」。


 そして、闇の神子「リアンズ=ミカゲ=ダーミタージュ」。


 それぞれの神子の名と属性さえ繋がれば、サードネームは現在の大陸の名でもあるため、カタカナが苦手なわたしでもなんとかなった。


 セカンドネームも短い人ばかりだったために覚えられたし。


 これらは、雄也さんが動けず、大聖堂でお世話になっていた期間に、大神官である恭哉兄ちゃんから習ったものだ。


 尤も、「聖女の卵」としての知識ではなく、何かの雑談のついでに耳にした感じだったけどね。


 日本語の話をしている時だった気がする。

 あまり他人に読まれたくない手紙に書く文字に相応しいとかなんとか。


 そのためか、恭哉兄ちゃんは、楓夜兄ちゃんとの手紙の遣り取りを日本語でしているらしい。


 恭哉兄ちゃんは、ストレリチア生まれのストレリチア育ちで、情報国家の人間ではないのに、どうして、どこかの兄弟に似たようなそんな発想になるのだろうか?


 割と謎である。


『それを俺の前で躊躇なく口にできる点も凄いね』

「隠すほどの知識ではないので」


 それに、既にあなたも知っていることでしょう?


 その内容も、わたしにその知識が備わっていることも。


『本来なら、垂涎ものだよ?』

「でも、フラテスさまが知ったところで、どこに伝えるというのですか?」


 既に、この世界にはいないのに?


 別世界にいるなら、この世界の知識など何の役にも立たない。

 そして、この世界の別の人間にそれを伝える術などないだろう。


 夢の中に侵入できる人ぐらい?


『なるほど。シオリはかなり頭が回るらしい』

「そうでもないですよ。わたしは単純な考え方しかできないので」


 どこかの兄弟のように、情報を前にした駆け引きなど、わたしにできるはずもない。

 その上、彼らは会話の些細な部分からも情報を取り出すことができる。


 わたしにできることは、思ったことを口に出すだけという単純なことだ。

 会話術と言えるものですらない。


 でも、目の前の人はわたし以上に様々な知識と教養を持っていることは分かっているし、わたしから新たな知識を得ることができたとしても、それをどこかに触れ回るようなことができない。


 だから、自分の警戒心は薄れていることは認めよう。


 これが、情報国家の国王陛下が相手なら、あまり変わらないか。


 情報国家は情報の交換をする際に、一定の守秘義務があるとは聞いている。


 だから、仮にとんでもない情報を渡したとしても、その使い道に困るだけだろう。


 尤も、わたしが持つ知識など、「聖女の卵」としても、セントポーリアの王族としてもかなり偏っている自覚がある。


 それ以外にこれまでの出会いで知りえたこともあるけれど、自分に関わること以外を誰かに向かって口にする気もない。


 その基本さえ押さえていれば何も問題ないのだ。


 自分自身のことにしても、この目の前の男性も、情報国家の国王陛下も、わたし以上に知っている気がするしね。


『それでは、これは知っているかな?』


 意味深な笑みを浮かべるフラテスさま。


 何やら、情報開示をしてくださるようです。


『「救いの神子」たちは、未来の異世界から来たと言われている』

「そうなのですか?」


 異世界とは、この場合、人間界のことだろう。

 そうでなければ、人間界とこの世界の暦を合わせようとは思わないはずだ。


 でも、未来、未来か~。

 どれぐらい未来から来ているのだろうか?


 以前、恭哉兄ちゃんが「神子文字」から判断した限り、自分たちが人間界にいた時代と大きな差はないだろうと言っていた。


 書かれた日本語は、文語体ではなく、口語体だったらしいし。


 でも、フラテスさまが亡くなったのは既に15年以上昔だ。

 そうなると、その時点では現代でも未来に変わりはない。


 それに、フラテスさまがその情報を得たのは多分、亡くなってからではない気がする。


『あまり驚かないのだな』

「『救いの神子』たちが、人間界から来たことは知っていますから」


 それがどんな手段だったのかは分からない。


 だが、わたしの母と似たようなものだと思っている。


 恐らくは、「創造神の気まぐれ」……、違う、「創造神に魅入られた魂」のような状態だろう。


 当人たちの意思とは無関係にこの世界に連れて来られ、その方々は元の世界に戻ることもなく、この世界で一生を終える道を強制的に選ばされた。


 しかも、この世界を救う手段、神の血を引く人間たちを多く産ませるためだけに。


『それならこれは知っているかい?』


 今度はどこか挑発的で怪しい笑みを浮かべられた。


 雄也さんがよくする表情に似ている。


 ちょっと警戒しておこう。


 こんな顔をした後、いつも、あの人はとんでもないことを言うのだから。


 だが、いつだって、その次に続く言葉で、わたしが驚かなかったことなど一度もないのだけど。

この話で「あれ? 」となった方。

お気付きいただき、ありがとうございます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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