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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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この森で歌わせたかった?

「特殊な条件下を狙ったってことは、もともと、わたしにこの森で歌わせる気だったってこと?」


 湖のほとりで九十九と二人、並んで座りながら会話を続ける。


「まあな」


 九十九は湖を見ながら、あっさりと答えた。


「まさか、あの曲を選ぶとは思わなかったが……」


 九十九が言うのはわたしがこの森で歌った歌のことだ。


 人間界の公共放送でたまに流れていた暗い森を歌った歌だ。


 まあ、確かに気分よく歌う歌詞ではないが、曲調は意外とノリよく、感情を込めて歌いたくなる歌ではある。


 だから、母もよく歌っていた。


 九十九はトラウマソングの一つだと言っていたが、そこまで怖い歌でもない。


 不思議な歌だとは思うけど、不気味に思えてしまうのは、映像で使われた絵本のような絵の神秘さとか、歌っている人の感情の込め方が上手過ぎることが理由だと思う。


「雰囲気、ピッタリでしょう?」

「合い過ぎて怖えよ」


 わたしの言葉に九十九が苦笑する。


「それで、話を戻すけど、それが目的でこの森に来ることにしたの?」


 そんな話は聞いていなかった。


 わたしの神力の発動条件の調査と、検証は確かに大事だが、当事者に知らされていないのはどうなのか?


 今回は、九十九がセントポーリア城下でいろいろ確認したいことができたからと言っていたが、まさか、こんな目的があったなんて思わなかったのだ。


「いや、それは別だ。この森に来たのは、暫くの間、セントポーリア城下で生活するなら、宿を借りるよりは、ここの方が隠れやすいと思ったからだな」


 確かにその理由は納得できるものだと思う。


 でも、何故、九十九はわざわざセントポーリア城下に来てまで何かを調べようとしているのだろうか?


 人間界にいた時だって、一度も戻らなかったような場所なのに。


 それってつまり……。


「でも、九十九はわたしにこの森で歌わせたかったんだよね?」


 こちらが理由として大きいのではないだろうか?


 最近、神とか精霊とかに関わることが増えた。


 だから、この辺でなんとかしないと思った?


「歌ってくれて、何か変化が起きればラッキーだと思っていたが……」


 そう言いながら、九十九は周囲に目をやる。


「まさか、こんな変化があるとは予想外だった」


 最初に歌った時に現れた光の道はもう消えている。


 あの光の道だったモノたちは、歌っているわたしに向かってきた後、消えてしまったのだ。


 だが、一度、咲いて光を放っているミタマレイルの花からは、その光は失われず、今もまだ光っている。


 つまり、ミタマレイルの花の光とあの光の道の光源は、やはり別物だということになるだろう。


「そんな目的があったなら、先に言ってくれたら良かったのに」


 先に知らされていれば、こんな不思議な現象を起こす前に、最低限の心の準備はできたはずだ。


 今も揺れているミタマレイルの花を見た。

 本来は綿毛のような花なのに、光っていてその綿毛部分がよく分からなくなっている。


「ある程度、お前が神力を使える条件は分かっている。だから、先ほどから言っているが、歌うことを強制する気もなかった。無理に歌わせても意味がないだろ?」


 九十九は肩を竦めてそう言った。


「意味がない?」

「魔法以上に、お前の感情に左右される力なのに、歌う気分でもない時に歌わせて何の意味がある?」

「うぬう……」


 九十九が言いたいことも分かる。


 この森で、わたしが歌う気分になってから歌った時の効果を知りたかったのだろう。


 でも、こんな風に不思議現象に遭遇すると分かっていたら、ああ、それだと九十九が言うように意味はないのか。


 次からこの森で歌う時は、どうしても光の道を作ったことや、ミタマレイルの花が一斉に咲いたことが頭をちらついてしまうことだろう。


 わたしがこの森で歌うことによって、何らかの変化が起きることが証明されてしまったわけだから。


「それで、何か分かった?」


 どこか釈然としないけれど、九十九の立場からすれば、歌うだけで漏れ出してしまうわたしのこの神力について調べるのは当然の話だということも分かっている。


 自分で自在に操れないのだから、思わぬ所での暴発は避けたいという気持ちもあるのだろう。


「お前の神力が行使される条件は大体分かった気がするが、その効果はよく分からん」

「効果?」

「魔法のように結果が分かりやすくない」

「今回は、森が光ったよ?」


 それは、曖昧なものではなく、目に見えてはっきりとした効果だと思う。


「別の場所で同じ歌を使っても同じように周囲が光ると思うか?」

「思わない」


 今回は暗い不思議な森の中で、暗い不思議な森の歌を歌った。


 だが、これが別の場所で、例えば、あの「音を聞く島」で暗い森の歌を歌っても、今回のように光の道ができるとは思えなかった。


 あの「音を聞く島」だって、森はあったし、夜なんて完全に光がなく真っ暗な場所だった。

 それでも、先ほどわたしが歌った歌のイメージは全く湧かなかったのだ。


 ある程度感情を込めて歌ったとしても、九十九が言う通り、同じ効果が出るとは思えない。


「つまりはそういうことだ。魔法のように同じ詠唱(うた)を口にしても、同じ結果は出ないとオレは思う」

「うぐう」

「厄介なのは、現状、条件を満たして発動しても、魔法以上にその効果が分からないってところだな」


 九十九はそう言いながら、苦笑する。


「だから、栞の意思とは違う部分があるのだと思っている」

「ふぐぇ……」

「お前、さっきから言葉が変だぞ? どこの言葉だ?」

「日本語で話しているつもりだけどな」


 実際、口から出ている言語が本当に日本語なのかは分からない。


 この世界では自動翻訳が働くから、それぞれがどの言語で話しているか、本人たちですら知らないのだ。


 わたしがこの世界に来て、既に三年が経っている。


 そして、記憶を封印するまでが五年。

 日本で過ごしたのは十年ぐらい。


 それらを比較すれば、結構、同じぐらいになるだろう。


「まあ、神力については、もう少し検証しよう。だから、お前は歌うことは止めるな」

「でも……」


 それでも、今回は歌うだけで、森に光の道を作ってしまった。

 誰が見ても分かる奇跡(神力)の行使だ。


 それだけで、厄介ごとに繋がりそうな予感しかない。

 こんな現象を見て、わたしが無害を主張しても誰も信じないだろう。


 今までは何とかなっているけど、今後もなんとかできるなんて楽観視はできなかった。


「お前が気にしているのは、神力が出ることか? その結果か?」

「その二択に限れば、結果かな」


 神力が出ることは仕方ない。

 魔法と違って、わたしの意思ではない以上、それはどうにもできないことだから。


 でも、誤魔化しきれないような結果が伴ってしまうのは本当に困る。


 誰にも分かる現象なら、わたしをセントポーリア王族や、「聖女の卵」と結び付けてしまう人だっているかもしれない。


 わたしはそう九十九に説明した。

 九十九はわたしの考えを黙って聞いた後……、暫く考え込む。


 そして……。


「今回の結果だけに限れば、『神力』とすぐに結びつけるヤツは、多分、いない」


 そう結論付けた。


「ほへ?」

「森を照らす。光の道を作る。そんな現象は、ある程度、魔力に自信があれば誰でもできることだ。それぐらいのことは、オレにもできる」

「ふえ?」

「照明魔法などの光属性魔法ができれば簡単だな。地面を光らせるって発想があれば……の話だが」


 考えてみれば、この世界には魔法がある。

 九十九は光の球を宙に浮かせて周囲を照らす魔法をよく使うからそれは理解できた。


「それ以外にも道具を使えばもっと簡単だな、人間界にもあるだろ? 足元を照らすやつ」


 確かに足元照明(フットライト)は人間界でも珍しくない。

 夜の階段とか危ないからね。


「それにクレスノダール王子殿下のような精霊使いだってできるだろうし、大神官のような法力を使う神官たちにだってできるようなことだぞ」

「そこでその人たちを例に出したら、ダメだと思うの」


 楓夜兄ちゃんは精霊遣いで、魔法は得意じゃなくても、精霊たちに協力要請して手伝ってもらうことができる人だ。


 そして恭哉兄ちゃんは大神官。

 法力を使う神官最高峰である。


 しかも、神力所持者だ。


 でも、九十九が言いたいことも分かった。


 確かに、似たような現象なら魔法でも起こせる。


 多分、今のわたしなら、魔法を使ってこの暗い森を照らすことは可能だろう。


 だから、わたしが神力を持っていることを見抜ける人じゃない限り、不思議な現象を起こしても言い逃れは可能なのだ。


 世の中には無詠唱で魔法を使う人はいるし、魔法を使う前の大気魔気の変化や流れを完全に視える人間は魔法国家の王族ですら難しいらしい。


 あの真央先輩だって、相手が使う魔法は、詠唱から判断するしかないと言っているぐらいなのだ。


「歌うことを無理に止める必要はない」


 九十九は改めて言った。


「まあ、お前のことだから、絵を描くのと同じように、歌うことも止めることはできないと思っているけどな」


 そう笑いながら。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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