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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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特殊な条件下

 わたしは歌うことで、魔法とはちょっと違う力が発動することがある。


 その名も「神力」。

 読んで字のごとく、神から分け与えられた力らしい。


 だが、その歌による「神力」の発動条件は、はっきりと分かっているわけではない。

 大体、こんな感じで発揮されている気がする……というような曖昧な状態であった。


 そのためだろう。


「今回は、その特殊な条件下を狙ったからな」


 あっさりした護衛の言葉に、わたしは唖然とするしかなかった。


「なななな?」


 何故? なんで? という疑問が上手く言葉にならない。


「なんで? って……、お前の『神力』の発動条件をはっきりさせた方が良いだろ?」


 だが、九十九はわたしの動揺も気にせず、かつ、わたしが疑問を口にしていることを理解した上で、そう返答した。


「発動条件って、歌でしょう?」


 わたしは大神官である恭哉兄ちゃんのように神力を自由に扱えない。


 何度か、いろいろと検証してみたが、わたしから神力っぽいナニかが出るのは、歌っている時がほとんどだった。


 だから、神力が出ないようにするには、歌わなければ良いだけの話ではないだろうか?


「確かに歌が基本だとは思う。だが、単純に歌うだけではなく、発動しやすい条件があると思っている」


 だが、九十九はそれを少し否定する。


「歌以外の条件なら、大気魔気の濃い所ってことになるかな?」


 このセントポーリア城下の森は、風属性の大気魔気がかなり濃い。


 だから、先ほどの光る道が出来上がったり、ミタマレイルの花が一斉に光ったりしたのではないだろうか?


「少し違う」

「ほへ?」


 あ、あれ?


 でも、九十九はさっきそんなことを言ってなかったっけ?

 この城下の森は風属性の大気魔気が濃密だから、わたしと相性が良いって。


 だから、何が起きても不思議じゃないとも言っていた気がするけど、違った?


「単純に大気魔気だけの話なら、『音を聞く島』はちょっと条件が違うだろ?」

「……と、言うと?」

「あの島は精霊族の血を引く『狭間族(きょうかんぞく)』たちが棲んでいたが、大気魔気が濃かったわけじゃない。魔法がかなり制限されたあの自然結界の中も外も、そこまで大気魔気が濃密というわけではなかったとオレは感じていた」


 九十九から言われて思い出す。


 確かに、あの島は変な結界があったり、精霊族の血を引く人たちがいっぱいいたけれど、大気魔気が濃かったか? と聞かれたら、普通だったと答えるぐらいのものだろう。


「つまり、大気魔気の濃度が発動条件ではなかったってこと?」

「大気魔気が濃い方が発動しやすくはなるだろう。そうでなければ、この城下の森は目に見えるほどの現象が起こるとは思えない」

「うぬう。分からぬ」

「また武士化してるぞ」


 彼が言う武士化とは一体……。

 そんなものになった覚えなどないのに。


「あの島で、大神官も言っていたんだろ? 精霊族の近くだと発動しやすくなるって」

「ああ、確かに言ってたねえ」


 恭哉兄ちゃんはあの島で、わたしが歌う時に、神官の素養が高い人間や、神の遣いである精霊族がいると、少しばかり神力が強く放出されやすくなると言っていた。


 何でも、神力が純化されるらしい。


 だが、その話は恭哉兄ちゃんがいた時に、雄也さんには伝えてあるが、九十九は傍にいなかったために言えなかったのだ。


 それでも知っているのは雄也さんから伝わっているのだろう。

 本当にこの兄弟は報連相が徹底している。


「大気魔気が源精霊や微精霊のことを差しているのなら、精霊族だけじゃなくて、精霊の気配そのもので、発動しやすくなる可能性がある」

「……おお」


 精霊族に限らず、精霊全般に反応するということか。


「でも、それじゃあ、尚のこと、わたしは歌うことができなくなるんじゃないの?」


 この世界の大気は、大気魔気と呼ばれる魔力に満ちている。


 その正体が下級精霊である源精霊や微精霊だということは聞かされた。


 そして、大気中の酸素のように、大気魔気が薄い場所はあっても、全くない場所なんてこの世界にはないように思える。


 少なくとも、大気魔気を感じられるようになってからは、その気配の濃度はともかく、全く感じない場所に行ったことがないために、余計にそう考えてしまうのだろう。


「いや、それなら大神官は反対するはずだ。だが、大神官は銀製品を身に着ければある程度は抑えられると言っていたんだろ? それなら、大神官自身が知らないか、気付いていない条件があるはずだ」

「知らないか、気付いていない条件?」


 なんだろう?


 神や精霊に関することは、この世界で恭哉兄ちゃん以上の知識や教養を持っている人って少ないと思う。


 仮にそれ以上の人となれば、モレナさまぐらいではないだろうか?


「お前が大神官の前で歌う時は、ほとんど義務……、または、誰かからの要請であることがほとんどじゃないか?」

「ふぬ?」


 確かに「聖女の卵」として聖歌を習っている時は、恭哉兄ちゃんからの要請だったし、例の「聖女の卵」になるきっかけだったストレリチア城門前の聖歌の大合唱の時も、恭哉兄ちゃんからのお願いだった。


 他にも、あの正神官が経営していた酒場で恭哉兄ちゃんたちと歌った時も、あの人から頼みこまれたからだ。


 あの「音を聞く島」でも恭哉兄ちゃんの前で歌っているが、それは状況確認の意味で歌ったものだった。


「言われてみれば、頼まれてばかりだね」


 尤も、滞在期間が長いストレリチア城にいた時や、幾度となくお世話になっている大聖堂内で無意識に歌ってはいたことはあるかもしれない。


 周囲の話では、わたしは機嫌がよくなると歌っていることがあるらしいから。


 でも、恭哉兄ちゃんの前で無意識に歌うことはあまりないと思う。


 恭哉兄ちゃんが大聖堂にいる時は、ほとんど大神官モードなので緊張するから。


 そして、そんなお偉いさんの前で、いつもの自分でいられるはずがないだろう。


 親しき仲にも礼儀ありって言うしね。


「だから、神力の発動条件は、お前の気分が大きいんだと思う」

「気分? 感情を込めるかどうかってこと?」


 でも、無感情で歌うことってできないよね?


 あれ?

 無意識に歌っているってことは無感情になるの?


「歌に感情を込めるほど、神力が発動しやすいというのは大神官も認めていたが、オレが言うのはそっちじゃない」

「ほへ?」


 そっちじゃない?


「お前が歌いたくなった時に歌った歌が()()ってことだ」

「……はい?」


 今、何か変なことを言われた気がする。


 いや、九十九の言っている意味が分からないわけではない。


 自分が心の底からとまでは言わなくても、歌いたいなと思って歌った時の方が、その効果も高いってことだろう。


 確かにそう言われたら納得できるものがある。


 実際に、あの島で薬を混ぜながら歌ったのも、無意識に歌っていたことが始まりだった。


 それに対して近くにいたスヴィエートさんが反応したために、連続で歌って実験することにしたのだから。


 そして、今回も九十九と暗い森を歩いていたら、その雰囲気にあった歌を歌いたくなった。


 その結果が、仄かに光る真っ暗……だった森に変化した。


 だが、歌に対して「最強」という文句はどうなのだろうか?


 褒められた気はしないことは確かだった。


「あの港町でおっさん……、いや、正神官からスカウトされたのも、海を見て歌っていたときだっただろ?」

「うぬう……」


 思い出せば出すほど、九十九の言葉に説得力が加算されていく。


「それは、歌いたいと思っちゃダメってこと?」


 でも、綺麗な海を見たら歌いたくなるし、落ち着く森に入っても歌いたくなる。

 何なら、晴れた空を見ても歌いたくなるし、気分が良くなっても歌いたくなる。


 こうして意識してみれば、思ったより、わたしは歌が好きだったらしい。


 どちらかと言えば、音楽よりも美術の方を選択しているような人間だったのに、それが不思議だった。


 あ……。

 でも、絵を描く時にも結構、歌っているかもしれない。


 陰影を付けたり、色を塗ったりする時は、結構、歌っていた気がする。


「いや、お前は歌いたいときに歌えば良い」


 九十九はあっさりとそう結論付ける。


「周囲の状況を見て、ダメな時はちゃんとオレや兄貴が止めてやる。『今は止めておけ』ってな」


 わたしに気付かないことでも、その傍にいる九十九や雄也さんが気付いてくれることは多い。


 そして、その上で判断してくれる。

 それは凄く心強いことだね。


「そっか……。ありがとう」


 わたしは素直に御礼を言うと……。


「それぐらい気にするな」


 いつも気遣ってくれる護衛は、わたしに青い瞳を向けながら、いつもと違った笑みを見せるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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