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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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意思疎通は難しい

 自分が歌ったことによって、真っ暗な夜の森に光の道ができた。


 その道に導かれるように九十九に手を引かれながら進んだその先には、確かに湖のある広場に出たが、その辺り一面が光り輝いていたのだ。


「これは凄いな」


 それを見た九十九が思わず……といった様子で呟いた。


「行先は湖だと思っていたが、もしかして、本命はこっちだったのか?」


 九十九が周囲を見回しながらそう言う。


 この様子だと、ここまで湖のほとりが光ることも珍しいのだろう。


 この城下の森にある湖の周囲には、丸い電球のような光がゆらゆらと揺れていた。

 その正体はミタマレイルの花。


 昼間はタンポポの綿毛のようなポワポワした毛玉のような状態だが、夜になると光り出すという不思議な花だ。


 でも、以前見た時はここまでビッシリと光っていなかった気がする。


 なんとなく、以前、「ゆめの郷」の模擬戦闘で、九十九から見せられたカーテンのような光弾魔法を思い出した。


 あの光弾魔法のように、無数の光の球(ミタマレイル)が布のように張り巡らされ、絨毯のようだ。


 いや、絨毯は波打たないけれど。


「こんなにこの花が光ったことはある?」

「光るも何も、普通はここまで一斉に咲くことはない。栞は昼間にここを通った時、光らない状態を見ているだろ?」


 言われてみれば、昼にここを通った時には綿毛状態の花を見たが、こんなにびっしりというか、みっしり咲いてはいなかった気がする。


 そもそも、自然界の植物って、ここまで敷き詰められたように自生はしないよね?


 単純に日光とか、土の栄養分とかの取り合いや、地中の根の衝突などのために、どうしても、動けない植物同士でも生存競争は発生する。


 そのために、畑で野菜を育てたりする時は、間引きというのをするはずだし。


 いや、この世界の植物が人間界と同じような常識で生えているとも思っていないのだけど。


「こんなに花が咲いた上で、ここまで光っているのはオレも初めて見るよ」


 この森をわたしよりも知っている九十九はそう言った。


 彼は確かに10年間、一度も人間界から戻らなかったらしいし、それからさらに3年以上国から離れている。


 その間に生態系が変わっていないとは言い切れないけれど、この城下の森自体がそう大きく変化するものでもないとも聞いたことがある。


 自然結界に護られ、精霊たちも棲んでいるのなら、確かに大きな変化はないだろう。


「これも、わたしの歌のせい?」


 先ほどわたしが歌った場所は、当然ながらここから結構、離れていた。


 ある程度、演劇経験者であるワカからボイストレーニングを仕込まれて鍛えてはいたが、それでも素人だ。


 一応、「聖女の卵」として聖歌を歌うために、ちょっと広めの会堂と呼ばれる場所ぐらいなら自分の声を響かせるぐらいはできるが、大きなホールがいくつも入りそうなこの森全てに響かせるほどの歌声は無理だろう。


 しかも屋外だから、反響もしない。


 木々に囲まれてはいても、隙間がある以上、音は外に逃げ出す。


 自然結界で音は外に漏れないらしいけれど、それは逃がさないだけで、内部で響かせるわけでもない。


 それぐらいはわたしでも理解できる。


「さあな」


 そして、九十九にも分からないらしい。


「気になるなら、明日、ここで歌えば良い」

「ほふ?」


 だが、彼は更なる提案をした。


「明日まで咲きっぱなしの可能性もあるが、歌うことによって、さらに咲くことも考えられるし、ここまで咲いたら、これ以上の変化は全くないかもしれん」

「ふむ……」


 一日でこの量の花々が消えてしまう可能性もあるし、変わらないかもしれない。

 それは理解した。


 でも、もし、これ以上の花が咲けば、それはそれで怖い。


 成長速度がどうなっているの?


「それに、歌ったことで変化したとしても、お前に害はない」

「自分にはないけど、森の生態系を乱しちゃうことになるよ」


 それはそれで恐ろしいことではないだろうか?

 こう環境破壊みたいなものだよね?


「もし、乱れても、オレたちの管轄じゃねえ。この森については、国、もしくは、精霊たちだ」


 九十九はそう言ってくれるけど、自然の摂理を壊すことって怖いよね?


「嫌ならこれ以上、歌わなければ良い。そうすれば、この謎は謎のままだ」

「ふぐっ……」


 その言い方はちょっとずるい。

 原因が全く分からないのも怖いではないか。


「面倒なヤツだな」


 わたしの煮え切らない反応を見て、九十九は溜息を吐いた。


「何も知らずに壊すのは嫌なんだよ」

「じゃあ、聞けば?」

「ほぐ?」


 聞く?

 誰に?

 何を?


「どんな返事だよ? ここにいるのが小精霊たちで、道を光らされたのがソイツらの仕業なら、昼間、コンテナハウスを建てた時のように呼びかけに応えてくれる可能性はあるだろ?」


 言われてみれば納得だ。


 確かに道を光らせた以上、何かの理由……、意図はあるのだろうし、声をかければ、また反応があるかもしれない。


 でも、わたしには小精霊たちのように、あまり姿がよく視えない下位精霊たちの声は聞こえない。


 昔、楓夜兄ちゃんの呼びかけに応えて下位精霊たちが集まった時に、精霊たちの声として微かなモノを聞いたことがあるぐらいだ。


 でも、呼びかけに応じてくれるのは、昼間、コンテナハウスを建てた時に知った。

 声は聞こえなくても反応は分かる可能性はある。


 そうなると……。


「なんて呼びかければ良い?」

「好きに呼べば良いんじゃないか? 挨拶でも、なんでも試しにやってみろ」


 九十九も大気魔気の流れは分かっても、源精霊や微精霊たちの姿がはっきりと視えるわけではない。


 その辺り、わたしと変わらないのだ。


 尤も、わたしたちの眼に映っている大気魔気の流れが同じであるという保証も全くないのだが。


 昼間にコンテナハウスを建てた時も、彼は漠然と呼びかけただけだった。


 この森にそんな存在が居ると知っていても、その姿は視えないのだから、どう対応して良いのか分からないのは同じだろう。


「うぬう……」


 でも、九十九が言ったように挨拶は大事。


 最初の一言は何が相応しい?


 本来ならば、「初めまして」だが、わたしは既に何度かここを通っている。


 その時にここにいた精霊たちが、今もここにいるのかは分からないけれど、わたしたちを見るのが初めてではない精霊だっているかもしれない。


 そうなると……。


「こんばんは~」


 夜のご挨拶の代表を口にしてみる。


 目の前にあった光の絨毯と、それを映している湖面が、さざ波のように揺れた。

 風もなかったから、これは反応があったと考えるべきだろうか?


 判断に困って、九十九を見ると、彼は難しい顔をしている。


 だが、わたしの視線に気づいて……。


「反応はあったな。お前の呼びかけは無駄じゃねえ」


 そう言ってくれた。


 だけど、挨拶には反応があっても、それ以降の光る道やこの咲き誇っているミタマレイルの花についての問いかけに対して明確な答えは得られなかった。


 反応がないわけではないのだ。


 わたしの様々な言葉に対して、光が揺れたり、風は吹いたりはするのだが、その意味がさっぱり分からなかった。


 無反応よりは良いのだけど、向こうからの意思確認ができないというのは問題だと思う。


 そう言えば、昔、精霊遣いである楓夜兄ちゃんが、小精霊は呼びかけに応じてくれるけど、意思疎通は難しいって言っていた覚えがある。


 あれは魔力の封印を解く前のストレリチアへ向かう船の中での話だったか。


 なんとかならないものかな?

 このままでは本当に謎しか残らない。


 わたしの歌でこうなったのか?

 それとも別の要因だったのか?


 せめて、それぐらいは知りたいのに。


「お前でも小精霊との意思疎通は難しい……か」

「精霊遣いであるクレスノダール王子殿下だって、小精霊との意思疎通は難しいらしいからね」


 わたしは光を見つめながら、息を吐く。


 頭に浮かんでいるのはとある思い付きだ。

 そして、それを実行したところで、本当に変化があるかどうかは未知数である。


 だが……。


「ねえ?」

「あ?」

「九十九は明日って、言ったけど、今、ここで、もう一度、歌ってみても良い?」


 わたしは思い切って、そう提案してみたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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