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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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過去に起きた不幸

「ところで、九十九はセントポーリアのルキファナさまのことはどれぐらい知っている?」

「あ~、さっき兄貴のいた時に話していたセントポーリアの王族ってやつだろ? 正直、よく知らね。オレが城に来るずっと昔の話らしいからな」


 確かに自分たちが生まれる前に亡くなっているのだ。

 九十九の返答におかしさは感じない。


「でも、名前は知っていたよね?」

「確か、ミヤドリードから聞いた覚えがあったんだよ。しかも、()()()()()()()()()()()()だ。聞いたのは昔だったけど、そこだけが妙にはっきりと覚えている」

「へ?」


 その言葉がいろいろ予想外過ぎて、思考が止まりかけた。


「ついでに、その王族が生まれたのが、シオリの……、いや、栞の誕生日だ。それだけ偶然が続くと、忘れにくいよな?」

「え? ルキファナさまって、わたしと同じ誕生日だったの?」


 それは、初めて知った。


 母からルキファナさまのことを聞いた時にもそんなことを言っていなかったし、モレナさまも祖神が同じということしか聞いていない。


「記憶違いでなければ、双月宮14日生まれだったはずだ。だから、オレもその、ルキファナって名前の女のことは覚えていた。まあ、王族ってこと自体は、兄貴に言われるまで意識してなかったし、王妃の妹だったってことは今日、知った」

「九十九はルキファナさまのことをどう覚えていたの?」


 それだけ聞くと、自分と幼馴染の誕生日に関わっているとしか覚えていない気がする。


「オレが知っているのは、塔から()()()()()()()()()()()()だったってことか」

「ほげ!?」


 ちょっと待って?


 それって、ミヤドリードさんは、ルキファナさまの死が、ただの転落事故でもないってことを知っていたってこと!?


 確かにモレナさまからは、公式的な病死ではなく、転落したもの……、塔から落とされたものだとは聞いていた。


 でも、投げ落とされたとまでは聞いていない。


 落とすにもいろいろな種類があることを今更ながら意識する。


「この城では過去に()()()()()()()()()()()()()()()、シオリをしっかり護れと言われた」

「えっと、もっと詳しく聞いても?」

「面白くはねえ話だぞ? それに、聞いたのは、3,4歳ぐらいの時だ。間違って覚えている可能性もある」


 そう言いながらも九十九の口から語られたことは、わたしの知らない話だった。


 九十九がミヤドリードさんから聞かされたのは、九十九がワタシと出会うずっと昔に、城で女の赤ちゃんが塔から落とされたことがあったらしい。


 だが、その赤ちゃんの身分が高かったために、それは事件でも、事故ですらなく、病死として扱われたそうだ。


 だけど、そんな話を聞かされても当時の九十九は疑問しかなかった。


 何故、身分が高ければ、死んだ理由が変わってしまうのか?


 塔から落とされたなら、落とした人間は誰なのか?


 何故、落とした人間が罪に問われず有耶無耶になってしまうのか?


 それをミヤドリードさんに聞いたそうだ。

 勿論、実際の言葉は違うだろう。


 でも、当時、3,4歳で、そんな疑問を持ったって、やはりこの世界のお子さまの成長はおかしいと思う。


「そんなオレの疑問に対して、ミヤは、『疑問を全て口にするな』、『そういった理不尽を呑み込むのが護衛の務め』だと言いやがった」


 ミヤドリードさ~ん!!


 間違ったことは言っていないかもしれないけれど、当時、幼児の九十九に対して、なんて厳しい教えをしているんですか!?


 幼児の九十九って、雄也さんから見せてもらったアルバムよりももっと小さい時期だよね?


 あんなに愛らしくて幼気(いたいけ)な子にも容赦がなかったってことか。


「だが、本来なら、オレはもっと別のところに疑問を持つべきだった」

「ほ?」


 だけど、九十九自身が当時の自分に厳しかった。


「身分の高い人間の死因を誤魔化すのは、それが周囲にとって不都合だからだ。だから、もしかしたら、死因だけでなく死んだ日付もずらされている可能性はある」


 それは別に不思議でもない話だ。


 事実を闇に葬り去るなど、身分の高い人間が関わっているならば、周囲を混乱させないためにも多少なりとも必要なことだろう。


 ましてや、本来は安全なはずの城という場所だ。

 そこでの事件など、公にできるはずもない。


 腹立たしいけれど、大人の事情というやつだ。


 だけど、それを幼児にそこまで理解しろというのは無理だとわたしは思う。


「現在の九十九はどこに疑問を持ったの?」

「そのルキファナ……様は投げ落とされたってことを何故、ミヤが知っていたのか? という部分だ」


 それはわたしも今、思ったことだ。

 それだけ不自然なことだった。


「栞の話……、『盲いた占術師』の話では転落死だったんだよな?」

「事故と断言されたわけではなかったよ」


 どちらかと言えば、事件を匂わせていた。

 目撃者の話とかそんな話もしていたし。


「塔から投げ落とされたとしても、死因は転落によるもの……ということだ。投げ落とされた後に転がり落ちれば、確かに『転落死』だよな」


 九十九はそこで息を大きく吐いた。


 どことなく震えているような気が……?


「本来、隠された理由を知っているのは、当事者だけだ。ミヤが落とした人間である可能性もある」


 それは考えなかった。

 確かに犯人ならば、その理由を知っていてもおかしくない。


「特にミヤは情報国家の王族だったらしいからな。国ぐるみで隠す理由としてはおかしくない」


 確かにその考えに矛盾はない。


「いやいやいや、待って待って?」

「なんだよ」

「九十九は大事なことを忘れている」

「あ?」


 わたしの言葉に九十九は片眉を上げる。


「通常、事件に関わるのは、被害者、加害者。そして、その他にもいる」

「他? 事件を解決する探偵や警察とでも言う気か?」


 どこまでわたしは阿呆だと思われているのか?


「違う、違う。目撃者」

「あ?」

「塔から落とされた被害者(ルキファナさま)。落とした加害者(はんにん)。そして、それらを見た目撃者。まあ、事件を隠匿、隠蔽した周囲は共犯者ってことになるけどね」


 某有名な探偵ものでは列車に乗り合わせた人間のほとんどが犯人だったとかいうとんでもない話があったけれど、あれは例外だろう。


 ほぼ全員が犯人とか、本来なら探偵泣かせだと思う。


「なんでミヤが犯人ではないって思うんだよ?」

「本当に犯人なら、多少の時が経ったところで愛弟子たちに自供しないと思うんだよ」


 それは信頼を失う行為だから。


 尤も、それをあえて話して、謎解きをさせた上で、愛弟子たちを成長させるという意図があった可能性もあるけれど、わたしの思い描くミヤドリードさんという女性像とかけ離れているのだ。


 なんとなくだけど、もし、犯人なら逃げも隠れも、逃がしも隠しもせずに堂々と名乗り出て公表するイメージ。


「それに、そのルキファナさまがいつ亡くなったのかははっきりと分からないけれど、セントポーリア国王陛下とそこまで年齢の差がないってことは、母と同年代のミヤドリードさんとも同じぐらいの差だよね?」

「確か、ミヤはセントポーリア国王陛下と同じ年だったはずだ」

「そうなると、ある程度、魔法制限のあるセントポーリア城で、11カ月の乳児を投げ落とすってかなり無理じゃない? 1歳数カ月でしょう?」


 もしくは、2歳になるかどうかというところだと思う。

 どんなに早熟なこの世界の人間でも、魔法が使えなければ結局は物理的な方法しかない。


 仮に2歳だったとしても、投げ落とすって難しすぎるだろう。


「だから、目撃者ってことか?」

「わたしはそう思う」


 この世界の人間でも2歳前後なら証言が認められない可能性は高い。

 モレナさまも言ってたじゃないか。


 ―――― それが何を意味しているかを理解できないほど幼かった


 それは、ミヤドリードさんが目撃者だったことの裏付けってことじゃないだろうか?


「イースターカクタスの王族が目撃していたとしても、亡くなったのがセントポーリアの王族で、事件だったなら、その事実を揉み消すとは思うんだよね」


 死人に口なしと同時に、よく分かっていない幼子の口を塞ぐぐらいはできるだろう。


「だから、犯人がセントポーリアの高位の人間なんじゃないかな」


 同じ王族か、もしくはそれに近しい立場の者。

 だから、事件は闇に隠された。


 そう考える方が、適切ではなかろうか?


「他の場所では言うなよ。脳を疑われるぞ」


 九十九の声が鋭いものに変わった。


「分かってるよ。これは脳内妄想だから誰にも言わない」


 これらはわたしが脳内で考えた妄想に過ぎない。


 でも、万一、これが事実でその犯人が王族などの立場にある人だったなら、口封じされる可能性がある。


「兄貴にその話をしたのか?」

「そう言えば、転落の話はしたけど、こんな話にはならなかったかな」


 それどころか、どこから聞いたのかは隠された。


 でも、この様子だと、ミヤドリードさんの可能性が高い。


「九十九がポロっととんでもないことを言ったから、わたしの妄想が暴走して、探偵漫画のような発想になった気がする」

「オレのせいかよ?」

「そんなわけじゃないんだけど……」


 さっきは、九十九が、ミヤドリードさんを疑った気がしたから、それは違うと言いたくなっただけだ。


 信じている人を疑いたくはないよね?

 そして、九十九が信じたい人を、疑って欲しくもないのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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