夢への侵入防止対策
「夢の侵入者対策?」
わたしの言葉に雄也が不思議そうに問い返す。
「はい。モレナさまが言うには、雄也に聞くのが一番だろうって」
わたしの夢には本当にいろいろな人が現れるのだ。
過去の人間から、亡くなった人、何より神さまが現れたこともあるっていろいろおかしいと思う。
「えっと……、それは俺への対策ってことかい?」
「ふ?」
少し戸惑いがちにそんなことを言われた。
雄也さんへの対策?
そこで思い出す。
そう言えば、雄也さんもわたしの夢に入り込める人だったことに。
だから、モレナさまも雄也さんが適役だと判断したのだったのだけど……。
「雄也は意味なくわたしの夢の中に何度も入ってはいないでしょう?」
「そうだね。必要だと判断した時だけ入るようにしているかな」
そのことにほっとする。
まあ、他者の夢に意味なく侵入する人というのもどうかという話だ。
そして、雄也さんは基本的に無駄なことはしない人だと思っている。
だから、わたしの夢に入ってくる時は、同じく夢に入ってくるライトを警戒している時とかだろう。
ミヤドリードさんの時は、本人から呼ばれたから仕方ないよね?
「わたしは、例の『封印の聖女』さまの夢を、あまり見たくないのです」
「それは、過去視を視たくないということかい?」
雄也さんが難しい顔をしながらわたしに問いかける。
それだけ過去視を視ないようにするのは難しいということだろう。
だが、違う。
わたしは過去視を視る分にはそこまで問題だと思っていない。
「いえ、過去視のついでに『こうならないように気を付けて』とか『この道は選ばないで』とかそんな感じの言葉を言うためだけに本人がお出ましになるのです」
過去に起きた出来事を視る分には問題ないのだ。
だが、過去の人間から話しかけられるのはどうだろうという話である。
「それは、忠告みたいなもの……かな?」
「それも月一単位で」
わたしがそう言うと、雄也さんが目を見開いた。
「モレナさまが言うには、封印の聖女は、隙あらば、わたしの夢に現れて接触を図ろうとしているらしく、そのためにわたしとの共感性が高まっているそうです」
「共感性が高まるとどうなるのかは聞いたかい?」
「『封印の聖女』の感情に引きずられ、その影響を受けやすくなると言っていました。具体的には、彼女の想い人を恋い慕うような症状が出ていたようです」
そんな症状が出ていることにモレナさまから言われるまでは気付かなかったけれど、あの時の激しい動悸や身体の熱さはそういうことだろう。
九十九から甘い言葉をかけられた時よりも、雄也さんから艶めかしい表情を向けられる時よりも、熱いだけではなく、もっと切なく、息苦しさも覚えた。
「それは厄介だね」
「はい」
本当に厄介すぎて困る。
夢の中だけの話ならまだ良いのだけど、現実の思考に影響があるなら別だろう。
「他者が夢に入ってくる時は、周囲に気配があるから分かりやすいけど、過去の人間からの干渉……か」
「今のわたしの精神力では、跳ね除けられないのは仕方ないそうです」
一途な思い込みはある意味、最強に面倒だとモレナさまが言っていた。
あれだけ周囲を見ずに真っすぐ貫きすぎた感情に勝てる気は確かにしない。
「なるほど。精神力の強さでなんとかなるなら、精神系魔法と同じ扱いということか」
「ぬ?」
精神系魔法?
感情に作用する魔法だったっけ?
「普通なら体内魔気を強めて防御すればある程度は外からの干渉も防げるとは思うけれど、眠っている栞ちゃんの体内魔気の護りを貫くのだから、かなりの精神の強さだと考えるべきかな」
「相手は六千年の時を超える封印をするような方なので」
それだけの精神力って相当だよね?
「言われてみれば、確かにそうだね」
雄也さんは苦笑する。
「ただ六千年前の出来事を過去視できる栞ちゃんの思いの強さも、かなりのものだと俺は思うよ」
「アレが本当に過去視かは分かりませんよ」
単純に「封印の聖女」さまが見せているだけの、ただの夢の可能性だって否定できないのだ。
「伝え聞いている話とは全然違うので」
「違うの?」
「はい。結構な箇所が違います」
世間一般で広まっている聖女伝説も、恭哉兄ちゃんから教えてもらった神官世界に残っている聖女の言い伝えも違うのだ。
「それで、栞ちゃんは例の聖女の話をあまり読まないんだね?」
「そうですね」
それも気付かれていたか。
まあ、わたしが持っている書物のほとんどは、ガイドブックを含め、雄也さんが他大陸言語の勉強用にと渡してくれたものである。
それらは九十九に保管をお願いしているけれど、その中でも好んで近くに置いているものだってあるのだ。
その逆に保管をしたままの本もあるわけで……。
いや、繰り返し読まないだけで、全部、一度はちゃんと読んでいるよ?
その中で聖女伝説系は目が滑るというか、頭に残らないだけなのだ。
あまりにも綺麗に描かれ過ぎていて、彼女の生命力や思いの強さが全く書かれていない。
当時の王族としてもかなりぶっ飛んでいて、ある意味、わたし以上に究極の我儘を貫き通したお姫さま。
「雄也でも対処法は分かりませんか?」
「夢の中に入ってくる人間を排除する方法なら分かるけど、亡くなった方の意識にソレが通じるかどうかはやってみないと分からないかな」
確かに事例が少なすぎるかもしれない。
「雄也の知っている方法を試してみてもダメなら、モレナさまが言うように、誰かと一緒に寝るしかないのか」
「え……?」
「モレナさまが言うには、強い他者の気配が近くにあれば、死者は迷うらしいのです」
あの封印の聖女が現れるのは毎日ではない。
だから、そこまでしなければならないのかどうかも謎ではある。
そして、強い他者の気配となれば、ある程度限られてくるのだ。
「ああ、そういう……」
雄也さんはわたしから目を逸らして考え込んだ。
「栞ちゃんは九十九専用の通信珠を持っているよね? アレは寝る時どうしている?」
「通信珠を寝る時に?」
少し前までは枕元とかに置いていたけれど、最近は、魔力珠のヘアーカフスとともに首に下げている。
下手すれば寝返りで首が締まってしまう可能性もあるけれど、落ちる前には流石に気付くだろうと考えた。
俯せになったり、うっかり、上に乗ると痛いけどね。
「最近では寝る時も身に着けるようにしています。お風呂に入る時だけは濡らさないように外していますが」
よくよく考えれば、お風呂に入っている時こそ危ない気がする。
奇襲の基本じゃないか。
お風呂に入っている時に、誰かに襲われて殺されたり、攫われたりするよりは、九十九に裸を見られた方がずっとマシだ。
既に上半身はしっかり見られたし、直接、触られたことすらあるのだから、今更だというのもある。
そうなると、袋を防水に変えないといけないかな?
ああ、お風呂に入る時だけ、防水魔法をすれば良いのか。
なんで、今までそれを考えてなかったのだろう。
「その時もその聖女の夢を視る?」
「そう言えば……」
見ていない気がする。
「常にあの通信珠に魔力を補給させておこう。恐らくは、それで問題は解決するはずだ」
「おおっ!!」
思ったよりもあっさり解決?
「ああ、それとも、俺と一緒に寝るかい? それでも多分、大丈夫だよ」
「ふぎょえっ!?」
鼻血が出るかと思った。
なんで、そんな台詞を意味深な笑みで言えるのか?
しかも雄也さんが言うと、別の意味に聞こえてしまうのは何故!?
これが大人の色気ってやつ!?
「それとも、九十九の方が良い?」
「ほ?」
雄也さんの言葉に思考が停止する。
「栞ちゃんの夢対策」
「ああ、そうか。九十九も話せば引き受けてくれるかもしれませんね」
また「オレを寝具扱いするな」とか言われる気がするけど、最終的には肩を落として引き受けてくれる気がする。
「感応症の効果も高いから、悪くはないかもです」
そして、同じ風属性でも雄也さんほど心臓に悪くない。
「でも、まずは暫くは通信珠の方で様子を見ることにしますね。流石に、いろいろ問題だとは思いますから」
引き受けてくれるだろうけど、それが快くではないことも分かっている。
そして、「お前はオレの性別を考えろ!! 」とまた叫ばれることも。
彼はわたしの護衛だけど、同時に、お年頃の青年でもある。
「発情期」の心配はなくなっているけれど、これ以上、余計なストレスを溜めさせない方が良いだろう。
「そうだね。お互いのためにも、それが良いと思うよ」
そう言って雄也さんも笑ってくれたのだった。
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