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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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呼び名にすら意味がある

「それで? 九十九のいない場所で、栞ちゃんは、一体どんな言葉を俺にくれるんだい?」


 なんとなく、他の人が聞いていたら誤解されそうな台詞ですね、雄也さん。


 でも、深い意味はないと分かっているのでわたしは特に気にしないことにする。


「モレナさまからのお言葉の確認を」


 わたしはそう笑いながら言うと、雄也さんもその笑みを深める。


「九十九を排除したことにも理由が?」


 排除って、そこまでしたつもりはないのだけど、九十九のいないところで確認したかったことがあるのは事実だ。


「はい。情報国家のことなど、わたしでは判断が付きかねる話もあったので、まず、雄也さんにお伺いをと思いまして」


 雄也さんは自分たち兄弟と情報国家の繋がりを隠したいらしい。

 周囲だけでなく、弟である九十九にも。


 それが分かっているから、情報国家の話については、先に雄也さんに話した方が良いと思ったのだ。


「そうか。気を使わせてしまって悪いね」

「雄也もいつも気遣ってくれているでしょう? お互い様ですよ」


 わたしの護衛たちはいつでも気を遣ってくれている。

 できるだけ、悪いことから遠ざけようとしてくれているのだ。


 ……過保護とも言える。


「まずお茶でも淹れようか。何か、リクエストはある?」

「それでは、眠気が覚めるようなものを」


 まだ眠くはないが、わたしは突然、眠ってしまうことがある。


 九十九から、居眠り病(ナルコレプシー)を疑われるほどだ。


「それではスッキリするお茶を淹れよう」


 そう言って準備してくれる。


 この世界は料理することも難しいが、お茶を淹れることも難しい。


 わたしも手順が少なく、気を遣う必要がない特定のお茶ぐらいしか淹れることができないのだ。


 まあ、それでも水尾先輩や真央先輩には難しいとは聞いている。


 そんな世界でも、九十九や雄也さんは話しながら、別の方向に目をやりながらも完璧にお茶を淹れることができるのだ。


 トルクスタン王子が言うには、味だけでなく効能まで気遣えてしまう彼らは異常らしい。


 尤も、そのトルクスタン王子は薬の作成をするのが好きなのに、その素材と薬草と毒草の区別も付かないほどの困ったさんだから、その評価が正しいとは言えない。


 さらに恐ろしいのは、その区別がつかないために、結果としてこれまでにない効能の薬を創り出してしまう部分だろう。


 カルセオラリア城にいた時、九十九が疲れた顔をしながらそう言っていたことを思い出す。


「はい、どうぞ」


 差し出されたのは紅茶っぽい橙赤色のお茶。


「いただきます」


 そう言って口を付けると、スーッと清涼感が広がった。

 味は違うけど、その感覚はミントみたいな感じ。


 確かに目が覚める気がした。


 そして、雄也さんは対面に座って、同じように口を付ける。


 うん。

 絵になる。


 思わず紙と筆記具を取り出して、この姿を描きたくなるぐらい。


 確かに王族という血筋もあるのだろう。

 でも、この仕草は、雄也さんの自己研鑽の果てにあるものだと思う。


 上手く言えないけれど、計算されているもののような印象も受けるのだ。


 いくらなんでも考え過ぎかな?


 そんなことを考えながら、お茶を飲む。


 うん、美味しい。

 今回はお茶請けもなく、お茶だけのようだ。


 まあ、お菓子を食べると眠くなってしまうからね。


 そうして、人心地付いた後。


「それじゃあ、話してくれるかな?」


 次のお茶をカップに注ぎながら、雄也さんから促された。


「はい」


 わたしは新たにお茶を注がれたカップを手に取る。


「モレナさまは雄也のことを『色男』、九十九のことを『坊や』と呼んでいましたが、二人一緒に呼ぶ時は、別の呼称だったんですよ」

「へえ」


 興味深そうな表情を浮かべる雄也さん。


「『聖女の護衛』……かな?」

「いいえ。『光の兄弟』です」


 光属性の大気魔気で溢れるライファス大陸。


 その中心国である情報国家イースターカクタスの現国王陛下も、現王子殿下も兄弟はいない。


 いや、正しくは、国王陛下の御兄妹は、もういなくなってしまったのだけど。


 だから、モレナさまから「光の兄弟」という呼称で呼ばれそうな人間は、アストロメリアとオルニトガルムの王族ぐらい?


「そうか……。やはり、あの方はご存じなんだね」


 だけど、雄也さんは疑うことなく受け入れた。


「でも、不思議だったのは、二人のことを『黄の兄弟』とは言わなかったことですね」

「黄?」

「わたしのことは『橙の姫さん』。ミヤドリードさんのことも『黄の姫さん』と呼んでいました。そして、水尾先輩と真央先輩のことは『赤の姫さん』。ワカは『緑の姫さん』でした。他には、トルクスタンのことは『藍の坊や』と言うように、王族を色で呼んでいたのです」


 さらに言うなれば、ライトのことを「紫の坊や」とも言ってた。


 だから、基本的に王子を「坊や」、王女やそれに等しい存在を「姫さん」と呼んでいるのだと思う。


 そう言えば、「坊や」に対して「嬢ちゃん」ではなかったんだな、今更だけど。


「それは王族の認知……かもね」

「でも、わたしも非公認ですよ」


 認知って、確か、父親が公式的に実子として認めるとかじゃないっけ?


 でも、そういった意味では、わたしはセントポーリア国王陛下から認知されている子ではない。


 確かに、セントポーリア国王陛下の直系血族でなければ抜けないはずの神剣は抜けたけど、セントポーリア国王陛下は、わたしのことを実子と公言はしていないのだ。


「でも、セントポーリア国王陛下は栞ちゃんを実子と認めておられる。母親である千歳様の方が王の子であることは否定しているけどね。対して、俺たち兄弟は王族からその存在を認められていない。判定基準の違いはそこじゃないかな?」


 ああ、そうか。

 情報国家の国王陛下は、雄也さんと九十九の存在は知っていた。


 だが、それが王族として認められているかは別の話なのだ。


 あの情報国家の国王陛下が、雄也さんと九十九のことを自分の兄の子と知っているかははっきりと断言されていない。


 ミヤドリードさんから聞いていたかもというのも、推測でしかないし、そもそも、ミヤドリードさん自身が二人を甥と認識していたのかも確認してはいないのだ。


「それでも『光の兄弟』という言葉になるのは不思議だね」

「そうですよね」


 恐らく、その呼び名すら意味があるのだろう。


 あの方はそういう人だった。

 その呼び名にすら、何らかの意味を持っているのだ。


 でも、雄也さんすら「不思議」と言った。

 それならば、今、ここで考えても答えが出ない気がする。


 雄也さんもそう考えたのだろう。


「他には何を言われていた?」


 そう話を変えてくれたから。


「モレナさまは、ライファス大陸出身者だそうです」

「へえ、そうなんだ」


 ちょっと意外そうな返事。

 だが、話はここからである。


「だから、嘘を吐けないと言っておられました」


 わたしがそう口にしても雄也さんの表情は変わらない。


「ライファス大陸出身者が嘘を吐けない理由は聞いた?」

「黄の大陸の精霊たちは、嘘を嫌う……正しくは、その魂が自らを否定するような言葉を口にすることを嫌う……そうです」


 ライファス大陸の精霊たち……光属性の大気魔気が、人間の嘘を嫌うということだと思う。


「それは、ライファス大陸出身者限定の話かな?」

「いえ、仮に、嘘を口にすれば、光属性の影響が強い人ほど、六感にいずれかに影響が出るとも言っていたので、光属性の気配が強い方ほど、何らかの影響があるのだと思います」


 モレナさまの場合は「精霊たちがめっちゃ、やかましく飛び交うから困る」と言っていた。


 それがどんな現象かは分からないけれど、目が見えないモレナさまでも、大気魔気は視える気がする。


 あの嫌そうな顔から、かなりの状態だとは思った。


「それを俺に話した理由は?」


 でも、雄也さんからそんな意地悪な問いかけをされたので……。


「ご想像にお任せします」


 笑顔でそう返答した。


 この人は本当に素直じゃない。


 情報国家イースターカクタスの王族の血を引いている事実が嫌で、しかも、わたしがそれを知っているのを承知しているのに、わざわざ言わせようとする。


 それなら、わたしも自分からは言わない。


「それと、九十九の前でその話をしなかった理由は?」

「その方が、雄也の心に添うでしょう?」


 質問を質問で返す形になるが、ここは仕方ない。

 あえて、断言は避けたかった。


「そうだね。確かにその判断は正しい」


 雄也さんは素直にそう頷く。


 そして……。


「一体、俺はどこまでキミに弱みを握られてしまうんだろうね」


 どこか妖しい雰囲気を漂わせながら、そう息を吐くのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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