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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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重なっていく違和感

 なんだろう?

 先ほどよりもずっと強いものを感じるようになった。


 だが、それを口にせず、会話を続ける。


「モレナさまが言いたかったのは、わたしの暴走の危険性よりも、『運命は強い意思で変えられる』という点だったようです」


 そんなわたしの言葉に……。


「どういうことだい?」


 当然のように問いかけたのは雄也さんだった。


「あの方は言っていました。わたしの『強い意思を伴う選択によって、それだけの人間たちの運命が変わっている。それは、理解してくれるかい? 』と」


 それに対してそう答えると……。


「なるほど」


 雄也さんはそう短いながらも納得してくれた。


 でも、もう一人。

 九十九の方はどこか納得いかないような顔でわたしを見ている気がする。


 訝しむような黒い瞳。

 だが、何故、そんな目を向けられているのかが分からない。


 わたしの言葉に嘘を感じた?

 いやいや、そんなことはないはずだ。


 あの時のモレナさまの言葉をできるだけ、しっかり覚えた上で、思い出せるだけ口にしているつもりだ。


 その中に嘘や偽りはない。


 自分にしては妙に覚えているなとも思っているけれど、それはそれだけ気合を入れてあのお話し合いに臨んだ結果だと思っている。


 それなら、何を彼は気にしている?


「ところで、この『汚染は止まっている』というのは?」

「ああ、このシンショク……、魂の汚染のことです。モレナさまが視たところ、やはり、進行は進んでいないと言われました」


 わたしは左手首を見せながらそう答えた。


 これは恭哉兄ちゃんの力だろう。

 見事なまでの「神隠し」だということだ。


 でも、その力をもってしても、ライトの方は止められないとも聞いている。

 だから、素直に喜べないものはあるのだけど。


「それなら良かった」


 雄也さんは笑ってくれるけど、九十九の方は笑わない。


 一緒に喜んでくれると思ったのに、難しい顔をしたままだった。


 先ほどの、わたしの魔力の暴走について考えているのかな?

 それとも、その魔力の暴走を止められなかった自分のこと?


 でも、実際、起こってもいないことではあるのだ。


 それに、この世界に戻ることを選んだ後の彼はわたしをしっかり護ってくれているし、魔力の暴走、それも「祖神変化」を伴うようなものですら、最近では止めてくれたらしい。


 尤も、その方法はちょっとどうかとも思ってしまうけれど、それでも、彼は止める手段を見つけたことに変わりないのだ。


 その時点で、確実にモレナさまが視た未来とは大きく変わっている。

 それだけでもわたしは嬉しいのに。


「その先に書かれている『ルキファナさまは理不尽な死に納得できなかった』、『残留思念がその場所にずっと残っていた』という文章も気になるのだけど、それ以上に……」


 だけど、雄也さんは特に気にせず、話を進めていく。


 いや、多分、これは……。


「『そこに母登場! 』という文章と、『母は「聖女候補」が転落した場所に行った時、その娘の残留思念に出会った』という流れがかなり気になるんだよね」


 さらに先の文章を指し示した。


 やはり雄也さんは「母」という単語が気になるようだ。


 それだけ、気にしているんですか?


 だけど、わたしは別のことが気になった。


 これは、一体どういうことだろう?


「これは千歳さんがどうこうじゃなくて、栞の書き方が問題なんじゃないか?」


 難しい顔をしていた九十九が雄也さんの言葉に反応する。


「問題って……。わたしはモレナさまとの会話を順番にそのまま書き記しただけだけど?」


 まあ、要約の仕方が下手だとは思う。

 もう少し要勉強だね。


「それに、なんで、お前と『盲いた占術師』の会話はこんなにあちこち飛んだり戻ったりしてるんだよ!!」

()()だから?」


 九十九の言葉に対して、特に何も考えずに答えた。


 多分、モレナさまが口にした「女子会」なる謎単語がどこかにあったためだと思う。

 もともと女性同士の会話って結構そんなものだ。


 気付いたら結構、妙な方向に話が行き来しているよね?


「……女()?」


 やはり、九十九はそこに反応してしまうようだ。

 まあ、それはいつも通りだ。


 基本的に気遣いできる護衛なのに、どうしてこうも、異性としては残念になってしまうのか?


 だけど、そんな残念な彼は、自分の呟きと同時に、何故か、その表情を変えた。


「九十九?」


 その変わりように思わず声をかけてしまう。


「い、いや、今、悪寒が……」

「は?」


 オカン?

 九十九のこと?


 いやいやいや、この状況でそれはないし、イントネーションが違った。


 多分、「悪寒」だ。

 寒気だ。


 つまり嫌な気配を九十九が感じたということになる。

 よく見ると、彼は震えているようだ。


 だが、今更、少し寒くなったぐらいで九十九が震えるとは思えない。


 そのことから導き出される結論は……。


「雄也、今、九十九限定で殺気を飛ばしました?」


 九十九の横にいた雄也さんに確認する。


 可能性として高いのはこれだろうと思って。

 彼ら兄弟は対象だけに殺気を飛ばすことができるという器用なことができるのだ。


 だから、限定で殺気を放たれると、近くにいてもわたしが気付けないこともある。


 彼らと違って、わたしは鈍いからね。


「この状況で真っ先に疑うのが俺だという部分に、ある種の信頼を感じてしまうけど、今回は俺じゃないよ。まあ、九十九はもうちょっと考えて発言しろとは思ったけどね」


 雄也さんはそう言って笑った。


 ぬ?

 今回は俺じゃないと言われた。


 しかも、どこかから九十九に殺気が飛んだことは否定されなかった。


「あと一応、無学な九十九に伝えておくけれど、『女子(じょし)』は『女児』や『少女』を指す言葉ではなく、『女性』のことだ。『女子(おなご)』とも言うだろう? だからそこに疑問を持つこと自体がおかしいと知れ」


 ああ、確かに日本では「女子」ゴルフ、「女子」テニス、「女子」バレーって言ってたもんね。


 そこに疑問を持つ人はいない。

 語呂的にも「女性」ゴルフよりは「女子」ゴルフの方が言いやすい。


 だが、毎回思う。


 言語の脳内変換……って、この場合、本当にどうなっているんだろう?


「さっきの兄貴じゃなかったのか」

「俺が殺気を放つ前に、お前が震えたからな」


 やはり放とうとしたのですか、雄也さん。


「……そうなると、栞か?」

「ほへ?」


 何故に?


「この場にいる三人で当事者のオレ以外となればそうなるだろ?」

「いくらなんでも、九十九が『女子? 』って疑問符を浮かべたぐらいで殺気なんて放てないよ」


 大体、その反応は予測していたのだ。


 普段から、九十九は18歳以上の女性に対して「少女」、「女の子」という単語はおかしいと認識している。


 そして、わたしは18歳以上。


 今回のお話した相手のモレナさまに至っては、精霊族の血が入っているとはいえ、その十倍は超えているらしい。


 だからこその疑問符だったのだろう。


 まあ、雄也さんが言うように「女子」という単語は「女性」を表すなんてわたしも意識していなかったしね。


「栞じゃないんだな?」

「うん。少なくともわたしではないよ」


 九十九の真横にいる雄也さんに気付かせないほどの技術って難しいと思う。

 わたしは二人の対面にいるのだから。


 そもそも、殺気の放ち方は教えられたけど、無理だと思う。


 相手を殺したくなるような気持ちって一体、どんな感情なのですか?


「まあ、九十九に向かって殺気を放たれただけのようだから、何も問題はない」

「いや、そもそもこの部屋の会話が別の人間に聞かれている可能性があるという事実から目を背けるなよ、兄貴」

()()()()

「……そうかよ」


 ぬ?

 妙に「問題ない」という言葉が強調された気がする。


 でも、九十九は引いた。

 これ以上、追及しても雄也さんが答えないと判断したのだろう。


「阿呆な弟の話で遮られたけれど、先の千歳さんに関する部分についてはどういうことか聞いても良いかい?」

「もっと包み隠せよ」


 九十九は眉を顰める。

 わたしは、雄也さんが指し示していた紙の文章を確認する。


「えっと、これらは一連の繋がりがあります」


 雄也さんが読み飛ばしかけた文章を差し、そのまま指を下にずらす。


 まるでPCのマウスで範囲指定するかのように。

 まあ、PCなんて、学校の授業でしか触ったこともなかったけれど。


「一連の……」

「繋がり?」


 雄也さんと九十九が綺麗にそれぞれの単語を引き継ぐ。


 うむ。

 見事な受け渡しである。


「モレナさま曰く「聖女候補」だったルキファナさまは、幼くして亡くなった自身の死を理不尽なモノとして受け止め、亡くなった場所に暫くその想いが留まっていたそうです」

「それが残留思念……か」


 雄也さんの言葉にこくりと頷く。


「それで、まあ、十数年後に、その場所に母が現れたらしいです」

「千歳さんが!?」

「昔は、西の塔や東の塔までは自由に動けたらしいからね。かの令嬢が亡くなった場所にも行く機会はあったのだろう」


 九十九は驚いたようだが、雄也さんにとっては、そこまで驚くことではなかったようだ。


 そして、二人とも気付かないのか?


 わたしは、この文章に決定的な言葉を書いていたのに。


「今は、東西の塔だけでなく、中央にも出入りできているそうですよ」


 流石に王族の血を引く貴族たちの住まいである北の塔は駄目らしいが、他の大臣、文官たちが住んでいる南の塔は条件付きであれば動けるそうだ。


 まあ、一応、国王陛下の執務補佐の役目を担っているからね。

 文官たちと遣り取りできないと困るのだ。


「ああ、そうか。千歳さまの地位は、あの頃とはもう違うんだったね」


 だけど、そう呟いた雄也さんはどこか寂し気に見えたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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