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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界新生活編 ~
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全てを言えなくて

 突然の水尾先輩からの問いかけ。

 もしも、水尾先輩がただの貴族じゃなかったら?


「え? やっぱり王女さま……とか?」


 九十九や母の話ではかなりの魔力を持っているらしい。


 それならば、わたしが王さまの血をひくのと同じように、水尾先輩が王女さまとかでもおかしくはない気がする。


 なんとなく、食事をする仕草とかも綺麗な動きだと思った。

 食べる量は多いし、わたしよりもペースはかなり早いけど。


「え? あ? いや……、王家に近いその辺りの身分だったらどう思うかって話なんだが……。ほら、この国で言う大臣閣下の娘……とか」

「この国の大臣閣下の娘……」


 その言葉は少し苦手だった。


 何故なら……、わたしの存在を面白くなく思っているはずのこの国の王妃さまは、現在の大臣の娘さんらしいから。


「もしそうなら、思わず平伏しちゃうかもしれませんね」


 震えそうになる声を何とか抑えつつ、そう答える。


「なるほど……。この国の王妃殿下って……、そこまで怖いのか……」

「ふえ?」


 だが、わたしの動揺はあっさりと水尾先輩に見抜かれていたようだ。


「他国にいても聞こえるよ。傲慢で我儘な王妃殿下の噂。現大臣閣下の娘にして現国王陛下の唯一の妃。加えて王位継承権第一位のご生母様。そりゃ~、誰も逆らえない話だよ。……ってことは、貴族や騎士団が言いなりという噂も大袈裟ではないってことか……」

「水尾先輩?」


 他国にまでって……、そんなに有名な話なの?

 それって、国としては心配されてしまうような話なのではないか?


「大方、高田の父親に当たる貴族もその王妃殿下の目があるから、表立って庇うこともできないんだろ? この国では重婚が駄目だという話はなかったはずだから、普通なら問題ないのに。そうなると、父親自身か、その正妻が王妃殿下のお気に入りってことか……」


 どうやら、先輩はわたしの反応からいろいろと想像してくれた上で、納得してくれたみたいだ。


「わたしはよく知りませんけど、父親もその正妻も、揃って王妃殿下にかなり気に入られているみたいです」


 そして、彼女はわたしがこの国の王の娘だという可能性についてはまったく考えられていないみたいなのも分かる。


 それも当然か。

 聞く所によると、この国の王はかなりの堅物だと評判らしい。


 でも、会って話した感じではそこまで堅いとは思わなかった。


 いや、だって、セーラー服がかなり好きみたいだったよ?

 最初に会った時、わたしの顔より着ていた服に目が釘付けだったから。


 そして、王妃はその立場を守るために王を手放すことはしないだろうし、かなりの自分大好き人間だと聞いている。


 だから、この場合、嘘は言ってませんよ?

 ……うん。


「そりゃ、かなり厄介だな。この国から離れようとする理由も分かる。でも、それならなんでまだいるんだ? 相手は権力者だ。一刻も早く、国抜けしたほうが良いだろ?」

「いろいろな準備をするのには、この国にいた方が身動きやすいとの事です」


 九十九が頑張ってくれている保存食作りも、材料とか設備とかを考えれば、この国にいた方が作りやすいみたいだし。


「ああ、あの先輩の都合ってわけか。どれくらいの身分かは分からねえけど、あの人もお貴族様なんだろ?」

「いえ。当人は城勤務の使用人だと言っております」


 そこにも嘘はない。

 雄也先輩は自称城仕えの使用人だ。


 ちょっと王子に気に入られたり、王に信用されたりしているみたいだけれど。


「嘘だろ? あれだけ凶悪な魔気を振りまくような人間が一般人であるわけがない」

「凶悪?」

「ああ、高田は知覚できないんだったな。あの笹ヶ谷兄弟の魔力は一般人よりかなり飛び抜けてるんだよ。アリッサムでも貴族級で通じるから結構、この国でも王族に近い貴族だと睨んだんだが」

「は~、あの二人が……」


 そう言われてもわたしにはぴんとこなかった。


 雄也先輩は城に通っているけど、九十九は基本的にこの家にいて雑務をこなしている。

 そして、どちらもお貴族……って感じは全然しないのだ。


 特に弟である九十九はかなり庶民的だと思う。

 料理好きだし、特売大好きだし。


「あ。でも、さっき、少年が自分には両親がいないって言っていたな。じゃあ、没落貴族みたいなもんか?」


 没落貴族……。

 そんな単語がすっと出てくるとは……。


「その辺は分かりませんね~。わたしは記憶がないので、彼らが今言っている言葉も嘘か本当なのか分からないんですよ」

「そうか……」


 そこで、水尾先輩はわたしに手を伸ばす。


「水尾先輩?」

「……ああ、こりゃ、確かに面倒そうな封印だな」


 九十九も雄也先輩もそう言っていた。


 わたしには分からないけれど……、やっぱり魔界人には分かるみたいだ。


「随分、念の入った封印みたいだな。少し感じる表面的な部分でも、魔法と法力が見事に解け合っているのが分かる。法力国家じゃないと解けそうもないような……。でも、この気配……、どこかで? でも、まさか……な」


 水尾先輩が首を捻る。


「雄也先輩も似たようなことを言っていました。その辺の神官クラスでは解けないだろうって。えっと少なくとも、上神官……とか?」


 神官の階級? みたいなのはよく分からないのだけど。


「正神官でも無理ってのか……? どんなヤツがした封印なんだろうな」

「過去のわたしじゃないと分かりませんね」


 封印したのは、人間界に行った時らしい。

 そうなると……、わたしがとんでもない封印魔法を使ったと考えるべきだろう。


「……いや、5歳そこらの幼児にできるような芸当じゃねえよ。その後にさらに封印されたって考えるべきだな」


 雄也先輩もそんなことを言っていた。


 母とわたしに施されていた封印の種類は違うものだったと。


「でも、そんな覚えがないんですよね~」


 先輩たちの言葉を信じるなら、わたしは人間界でもう一度、誰かに封印されたということになる。


 でも、そんな記憶はない。

 いや、記憶が封印されているのだからその記憶すらもあてにはならないのだろうけど。


「でも、ま、今のところ支障はないんで、いっかな~、と」

「それが凄いよ。私がもし、魔法や魔界に関する記憶なしでこんな世界にいたら、不安で仕方ないと思う」


 記憶がないから不安も感じようがないのかもしれない。


 尤も、この先もそうであるとは限らないのだけど。


「ま、悪いが、暫く世話になる。よろしく頼む」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 わたしたちはお互いに礼をし合う。


「でも……、申し訳ないのですが、割とすぐにわたしたちの事情に巻き込んでしまうかもしれません」


 既に、わたしがこの国の王子と接触している。


 そう遠くない未来に、確実に巻き込む気がしていた。


「何言ってんだ?」


 水尾先輩はきょとんとする。


「高田たちはとっくに、私の方の事情に巻き込まれてるんだ。それなら、これからそっちの事情に私が巻き込まれたところで大して状況は変わらねえよ」


 そう言って、水尾先輩は爽やかに笑った。


「それに……これだけ美味いもの、食い放題。かなり、条件は良い」


 そう言いながらもさらにクッキーを食べる水尾先輩。


 もしかしたら、お腹が異次元空間につながっているのかもしれない。


「……いや、食い放題にすると、九十九が怒りますよ」


 だからこそ、一度は反対の姿勢を見せたのだろう。


「ああ、エンゲル係数なんて随分、懐かしい単語を口にしていたからな」

「ああ、そう言えば久し振りに聞いた気がしますね」


 知識としてはあるけど、今ひとつど~ゆ~時に使うのかはよく分かっていなかった。


 食費の割合が高くなるとどうなるんだっけ?

 ……太る?


「まあ、その辺は先輩に任せりゃ良いだろ。あの人、金管理も上手いからな」

「雄也先輩のこともご存知なんですね」


 お金の管理なんて、ある程度親しくなければ知らないことだと思うけど。


「自分の高校の生徒会副会長を、同じく生徒会役員が知らなくてどうする?」

「おおう。そんな繋がりが」


 そう言えば、2人は同じ高校だったね。


「性格はともかく、能力は認めてる」

「雄也先輩、性格も良いですよ?」

「……………………高田には、な」


 な、なんだろう?

 今の不自然な間は。


「基本的に自分の敵に容赦しねえだろ? それに……、まあ、いろいろと悪い人間との付き合いも深そうだし」


 確かに、あちこちでスパイ活動をしているような人間は、綺麗とは言えない気がする。


 いや、それって主にわたしのせいだけど!


 でも、わたしが下手なことを言うとますますこじれそうだよね。

 それなら、成り行きに任せてみようか。

 いつかは水尾先輩も、雄也先輩は悪い人じゃないって気付くだろうから。


 そんな風に能天気にわたしは考えていた。


 もし、この時点で、水尾先輩に視えていたものを、わたしが視えていたら何か違っただろうか?


 後になって、何度もそう思う。


 この時には既に……、雄也先輩は、この国の闇に深くどっぷりと関わっていたのだから。

先輩が視えていたものを後輩が視えるのはかなり後の話になります。

そこまで頑張りますね。


そして、次話は本日18時更新予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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