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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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護衛の本音

 雄也さんのいない場で、九十九の考えを尋ねようとして……。


「本音で良いか?」


 そんな言葉を返されたら、わたしはどんな反応をすべきだっただろうか?


「おおう」


 実際に口から出た言葉はいつものようにどこか力の抜ける言葉だった。


「どうぞ」


 だけど、九十九が本音を語ってくれるなら、わたしとしても嬉しい。


 あれ?

 でも、それって雄也さんに聞かれても大丈夫?


 この場にいなくても聞いている可能性はあるんだよね?


「お前が王位を継ぐって話なら、オレは反対だ」


 さらにはっきりと告げられる意見。

 そして、兄弟で意見が割れたことになる。


「なんで?」


 一応、その理由を聞きたい。


「お前がやりたがってないから」

「おおう」


 さらにわたしの意思をくみ取っての言葉だという。

 でも、それじゃあ、意味がない気がした。


「もう一つ、言わせてもらうなら、お前は後悔しないだろうけど、絶対に苦労する」

「ほへ? それはわたしが(まつりごと)を知らないから?」


 苦労はすると思う。

 でも、後悔しないってどういうことだろう?


 普通は、苦労するなら「選ばなければ良かった」と、後悔をすると思うのだけど……。


「それは学べばなんとかなるし、国王陛下と違って、ある程度は人に任せることもお前ならできるよ」

「国政は少しかじったぐらいでなんとかなるとは思えませんが?」


 わたしが人任せにするのは納得できる。


 つまりは傀儡政治。

 違う、摂政政治。


 それでは、即、乗っ取られることは間違いないだろう。


「なんとかなるんだよ」

「ふ?」

「お前には周囲を黙らせるだけの魔力、魔法力がある。それだけで、ほとんどの人間はそれに従う」

「つまりは力尽くは黙らせろと!?」


 まさかの恐怖政治!?


「それに近いな。結局、この世界は強者に従うようになっている。それだけ、力の差ってやつは大きい」

「戦国時代かな?」


 言いがかりに近い大義名分を掲げ、周囲を武力で制圧していくスタイルのイメージが強い。


「お前は女王になっても我が道を行くよ。それは間違いない」

「わたし、そこまで我が強い?」

「自覚がないのか?」


 九十九が苦笑する。


「言葉を変えてやる。民を導く理想的な王になれるよ。それも間違いない」

「ほへ?」


 あれ?

 今、褒められた?


「だけど、栞は弱者を切り捨てられない。私情で政治をするタイプではないが、そのために現実と理想と感情に挟まれて絶対に苦しむ」

「それは、博愛主義に見えるから……ってこと?」


 そう言えば、モレナさまがそんなことを言っていた。

 わたしは周囲から「博愛主義」に見えるって。


「いや、栞は博愛主義じゃねえだろ?」

「……だよね?」


 わたしをよく知る九十九はそう言ってくれる。


「それでも、自分に助ける力があれば、助けられない現実を嫌がる」

「それって普通じゃないの?」

「自分が大金を持っているからって、何の条件もなく無関係な乞食に金をやることができるか? ……って話だ」

「……やらないねえ」


 そんなことをすればキリがない。

 全てを救うことなんてできないのだ。


「その乞食が空腹で行き倒れて、死にかけていれば何かを施したくなるだろう? 全てを救えないと分かっていても、目の前で死なれたくないから」

「それだけ聞くと勝手だとは思うけれど、恐らく、そうしたくなるとは思うよ」


 でも、それも普通だと思う。

 人が目の前で死にかけていて平気なふりなんてできない。


「個人の立場なら、それは許される。一時凌ぎに過ぎなくても、善意、奉仕の精神は問題ない。だが、国王となればそれも許されない。誰かに施しを与えるというのは不公平になるからな」

「不公平なの?」


 そんな弱者を護ってこその王だと思うけれど。


「働かざる者、食うべからずって言うだろ? 国王の目の前で倒れているだけで金や食い物がもらえるなら、皆、働かずに倒れる道を選ぶ。しかも、その金や食い物は、働いている人間たちから納められた租税だ。そんなことを続ければ国は荒れるだろう?」

「間違いなく一揆が起きるね」


 自分たちが納めた年貢……、いや、税金を、働かない人たちに渡せば、納得いかなくて蜂起するだろう。


「つまり、必要なのは働けない人たちを働けるようにする国造り……」


 全ての人が怠けて働けないとは思わない。

 病気などの事情もあるだろう。


 でも、それを考えると仮病を使うような人も出てくる……。


「そこで、そう考えようとするから……、上に立つ人間としてはマシだ」


 九十九は溜息交じりにそう言った。


「だけど、結局、栞は感情を捨てられない。そして、できるだけ多くを救おうとする。そんな人間が様々な方面からの意見集約、調整、その他諸々の政務を行えば、精神が疲弊してどうなるかは分かるだろ?」

「ああ、精神的な疲労はあるだろうね」


 九十九が気にしているのは健康らしい。


 普通、気にするのって政治的な手腕とかだと思うのだけど、どこまでも彼らしいとも思える。


「でも、それってどの国でも一緒でしょう? それに中心国の会合を見た限り、その国の王たちも、完全に感情を捨ててはいなかったっぽいよ」


 寧ろ、感情的な国王すらいた。


 いや、国王陛下のほとんどは感情を制御していたとは思う。

 必要以上に私情を見せなかった。


 だけど、仕えている従者……、あの場にいた補佐的な方々は別だ。


 完全に意表を突かれてしまったのか、情報国家の国王陛下が最初に出した試験の前後で結構、感情を見せていたと思う。


 それを含めての文官の試験だったのかもしれないけど。


「安定を図る国と、立て直しをしなければいけない国を同じにするなよ?」

「なるほど」


 確かにそれだけでも随分と違う。

 それがあの会合での余裕の差にもなったかもしれない。


 フレイミアム大陸の中心国となったばかりのクリサンセマムは、あの会合で国王陛下も文官も明らかに浮いて見えた。


 クリサンセマムは新興国ではないけれど、中心国としては、新参(未熟者)扱い。


 経験の差もあったと思うけれど、今から、あの国々と肩を並べるために奮闘しなければならないのだ。


 それはもうシャカリキに、必死にならざるを得ないだろう。


「それ以外の理由としては、栞は夢中になると周囲が見えなくなる。そこも怖い」

「まあね」


 その自覚もある。

 わたしは視野が狭いってことだ。


「寝食を忘れて政務に熱中されるのは国民としては喜ばしいかもしれないけれど、仕える人間としては不安しかない」

「そっち!?」


 しかも、また健康が絡む理由だった。


「絵を描き始めると食うのも寝るのも忘れるだろ?」

「流石に、絵と政務は違うと思うよ?」


 だが、否定はしない。


 絵を描くことに夢中になって九十九から注意を受けたこともあるわけだし。

 それも、一度や二度じゃないのだ。


「まあ、それ以外にも理由はいろいろあるが、オレはお前が体調を崩す可能性がある以上、王位継承には反対する」

「オカンがいる」


 思わずそう口に出ていた。


「人の性別を勝手に変えるな」

「でも、母親以上にお母さん属性の強い人はなんと呼べば良い? お母さま?」

「お前は人の話をちゃんと聞け~~~~~っ!!」

「ふぐうっ!?」


 九十九から両頬を摘ままれ、そのまま左右に引き延ばされて、離される。


「痛い」


 両頬を(さす)りながらそう抗議する。

 護衛が主人を傷付けるって酷い話だ。


 でも、口の両端が裂けるような痛みとは違うのでまだマシだ。

 両頬を摘まんで引っ張るぐらいではあの痛みには届かないらしい。


 まあ、九十九が手加減してくれたのかもしれないけど。


「今のはお前が悪い。オレの性別を忘れるな」


 そう言いながらも治癒魔法を使ってくれる護衛。


「忘れているわけじゃないんだよ。でも、どうしても、『オカン』と呼びたくなってしまって……」

「まだ言うか?」

「もう言わないよ」


 ギロリと睨まれるけど、怖くはなかった。


 何故だろう?


 さっきもそうだったけれど、九十九と話していると、本来なら真面目な話、深刻な雰囲気になってもおかしくないようなことでも、軽い気持ちにさせられる。


 当人の性格が軽いわけではない。


 寧ろ、真面目だ。

 だからこそ、いろいろ真剣に向き合ってくれる。


 それなのに不思議だよね。


「でも、まあ、王位継承なんて面倒なものまで背負いたくはないので、九十九が王位継承に反対してくれるなら助かるかな」

「お前が本気で背負う覚悟があるなら、反対する気はない」


 それは背負う覚悟を持てなければ、反対してくれるということで……。


「うん、ありがとう」


 状況によっては、兄の雄也さんと敵対する覚悟を持ってくれると言うことでもあるのだった。


 勿論、そうならないように、わたしも努力する必要がある。


 九十九と雄也さんの仲良し兄弟が、ちょっとした方向性の違いで敵対してしまうなんて、やっぱり嫌だった。


 だから、できるだけ、誰の負担もかからない方法を今のうちに考えておこう。


 そうこっそりと決意したのだった。


 だけど、そんなわたしの考えは甘かったと言わざるを得ない。


 かの国の問題は、多くの人間たちの感情を丸呑みにしても尚、解決できるものではなかったのだ。


 それに気付いていたからこそ、わたしの大事なあの人は、この時点、いや、恐らくもっと前から既に手を打っていたのだろう。


 確かに解決策としては一番、穏当ではあった。

 わたし以外の誰もが納得できる形に収まったのだ。

 その策は本当に見事だったと思う。


 だけど、事前に教えておいて欲しかった。


 少なくとも、多くの人の前で、わたしの絶叫が響き渡ることだけはなかったはずだから。


 結果として、かの国は、他国の人間が多く集まる場において、自国の「浄化革命」を強制決行することになったことだけは間違いないだろうけど。

この話で93章が終わります。

次話から第94章「過去と未来の間には」です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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