不確定な未来
「オレとしてはずっと気になっている文があるんだが、そろそろソレを聞いても良いか?」
「良いよ」
順番からして、次の文章だろう。
ずっと気になっている文章が会ったのに、兄と同じように順を追っている辺り、九十九は本当に真面目だと思う。
「ここから先、明らかに毛色が違う文が並んでいる気がするんだが、特にこの『わたしの存在が星の未来の存続にかかる』ってなんだ?」
「なんだろうね?」
思わず質問に対して質問で答える形になってしまう。
「おい?」
九十九は分かりやすく不満顔を見せるが……。
「正直、モレナさまから話を聞いてもよく分からなかったんだよ」
実際、そんな感じだったのだ。
「そこから話がいきなり飛んだし……」
「いや、そこで飛ばすなよ!? もっと追求すべき部分だろ?」
「興味がなかった」
「そこは興味を持てよ!!」
そう言われても、本当に深く考えたくなかったのだ。
「モレナさまからは逃げるなって言われたよ。でも、いきなり、そんな重そうな話を聞かされて、さらに、深く掘り下げるなんてできると思う?」
わたしの言葉に、九十九が押し黙った。
それに気付いたから、モレナさまもそこまで深く追求しなかったのだと思う。
「もう済んだことだ。今更、言っても仕方ない」
「それは、分かっているけど……」
わたしの護衛たちは基本的に過保護で、かなり心配症だ。
九十九は分かりやすく、雄也さんは隠しているけれど滲み出るようになった。
だから、そんな二人が、少しでも懸念があれば、事前に対応したいと思うのは当然だろう。
自分の護るべき主人の存在が自分の生まれ育った星の未来の存続にかかると聞いて、心穏やかでいられるはずもない。
「多分、内容的に、この左手首に宿っている神さま関係だとも思ったんだよね」
「あ?」
「ほう?」
わたしが左手首を二人に見せる。
そこにはいつものように紅い珠や白い珠が付いた「御守り」が光っていた。
寧ろ、この左手首にシンショクしている神さまのこと以外で、わたしがこの惑星の未来を左右することになるとは思えない。
何故なら……。
「この左手首にいるのは、『破壊の神』ナスカルシードさま。六千年前、『大いなる災い』と呼ばれたのは、その神さまが受肉した姿だと聞いている」
それは、この惑星に住む人間や精霊族たちを含めた生命の全てを滅ぼそうとした天災の伝承。
この惑星で生まれ育った人間たちは、一度は聞いたことがあるような、遠い昔の物語。
「栞の手に宿っている神の名は初めて聞いたぞ? しかも、『大いなる災い』の素となった神だと?」
「そうだっけ?」
九十九と話したことはなかったっけ?
ああ、確かに大神官である恭哉兄ちゃんと、ライトとしかその話をしたことはないかもしれない。
「因みに、ライトの中にいるのが、その破壊の神の意識……、というより、例の聖女の封印から解放された『大いなる災い』そのものらしいよ」
「「は!? 」」
これには九十九だけでなく、雄也さんも驚いたらしい。
二人の驚きの声が重なった。
「一応、このことについては中間ぐらいに書いているんだけど……」
「ちょっと待て? この文章からでは、分かりにくい」
九十九はわたしに紙を突きつける。
「言われてみると、そうだね」
確かに、「この左手首に宿っている神は執念深い」、「破壊の神なら、破壊だけしておけば良いのに」、「ライトの中にいる神も同じ」とかだけじゃ伝わるはずもない。
改めて要点の箇条書きは難しいと思った。
「多分、主題はその話だったんだと思うよ。どうする? その話を先にする?」
もしくは、聖女の話。
でも、その根っこは同じようなものだった。
「いや、このまま順番通り確認したい。前後を行き来すると、前半に書かれた部分を見落とすかもしれないからな」
どこまでも真面目で慎重な護衛。
「俺としては、この次の『不確定で危うい未来』という文も気になったかな。これは、この星のこと? それとも……」
「ああ、わたしのことです。これについては、その弟子であるリュレイアさまからも似たようなことを言われたと記憶しています」
雄也さんに尋ねられて思い出す。
あの時は確か……。
「リュレイアさまからは、数奇な運命とか、わたしの多岐に亘る未来は、可能性が多すぎるとか言われました」
「数奇……」
九十九がポツリと呟く。
うん、わたしと同じところが気になったらしい。
「『選択肢が多すぎるアドベンチャーゲームで、ランダムイベントも頻繁に発生し、さらに気が遠くなるほどの数のマルチエンディングが用意されているために、伝えるルートの説明が難しい』らしいよ」
「なんだ、その俗な例えは!?」
「それより、『選択肢の多いアドベンチャーゲーム』という言葉の方に突っ込むべきだろう」
九十九と雄也さんは互いに気になったところに突っ込んだようだ。
「分かりやすいでしょう?」
「確かに分かりやすいけど!! それ以上に、なんで、あの時の占術師が、人間界のゲームなんかを知っているんだよ!?」
雄也さんの言葉に九十九の突っ込みは軌道修正されたらしい。
あの占術師が人間界に行ってはいないし、そんな九十九曰く「俗な知識」を人間界に行っていた楓夜兄ちゃんが伝えるはずがないとも気付いたのだろう。
「モレナさまもそうだけど、リュレイアさまもわたしの心を読んでいたみたいで……」
心が読めるという言葉に大変驚いたのだ。
だから、その後に心が読める系の人が何人現れてもそこまで驚くこともなくなったのだけどね。
癒し系スマイルを浮かべる神秘的な女性の口から紡がれる「アドベンチャーゲーム」という単語以上の言葉は今後、聞く機会もないだろう。
「つまり、占術師は読心術が標準装備ってことか?」
九十九は眉を顰める。
「そのようだ。今後は気を付けよう」
それに対して、雄也さんは涼し気な顔をした。
「また防御は無意味だと言われるぞ」
「逆にその発言は『読心術を使っている』と取れるから問題ない」
何の話だろう?
読心術……ねえ。
人間は読心系魔法や法力は知られていないらしいけれど、精霊族なら持っていてもおかしくはない術だと聞いている。
長耳族の血を引くリヒトや、魂響族であるモレナさまが使えるのはそう言うことだろう。
ただ綾歌族の血が濃いスヴィエートさんは使えなかったし、あの島に現れた綾歌族も使えた様子はなかったから、精霊族の標準装備というわけでもないようだ。
ぬ?
それでは、モレナさまの血を引いている恭哉兄ちゃんはどうなる?
何度か、心を読まれている気がすると思ったのは、実は、気のせいじゃなかったということ?
「しかし、その言葉をそのまま鵜呑みにするなら、栞ちゃんの未来は選択肢が多すぎるから、未来の予測が難しいということかい?」
「そうらしいです。しかも、わたしの選ぶ選択肢が普通ではないらしいので、余計に未来が予想しにくいとも言っていました」
雄也さんの言葉にわたしがそう返すと、雄也さんは困ったかのように笑い。
「普通の人間は、魔法が使えないのに魔法を連発するような人間の前に立ったりしないし、魔法がまだ上手く使えないのに崩れている城の、更に奥深くに潜ろうなんてしないよな」
九十九は、わたしが書いた紙を見ながら、具体例を出した。
卒業式とカルセオラリア城のことだと思う。
あの頃は確かに魔法が今ほど使えなかった。
卒業式の時期は魔力を封印されていたし、カルセオラリア城にいた頃は、自分の意思で仕えるのは風属性のふっ飛ばし攻撃のような魔法のみ。
でも、カルセオラリア城は崩れ落ちてくる物に対してもそれらが通じなかったのだから、魔法が使えても意味がなかったとは思うけれど、そこではない。
普通は選ばないような選択肢を迷うことなく選ぶわたしが問題なのだ。
いや、違うな。
迷うことなく選ぶのではなく、迷わないから選んでしまうのだ。
危険な状況に陥った時、普通の人は自分の行動を吟味していろいろ結果まで考えて行動すると思う。
でも、わたしはそれをせず、迷う時間が無駄だとばかりに行動してしまうことがあるのだ。
まさに猪突猛進!
いやいや、毎回じゃないから!
たまには迷うから!
もしくは、近くにいる護衛たちに諭されるから!!
「そうなると、栞ちゃんの未来は変えにくいってことになるのかな?」
雄也さんが少し迷いながら、そんなことを言った。
「へ?」
「あ?」
わたしが間の抜けた声を出し、九十九が短い疑問の声を上げる。
「その次の文章『確定された未来は変えられる』とある」
雄也さんは紙を指しながら、わたしの文章を読む。
「それならば、『不確定で危うい未来』は、簡単には『変えられない』と言えないかい?」
そんな考えもしなかったことを口にするのだった。
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