走馬灯のような記録
「神々のことについては、どうしても、憶測が多くなる。それに、俺も九十九もあの時、あの場でその御手を取らなかったことには変わりない。だから、今は、それ以外のことを確認しようか」
雄也さんの言葉に頷く。
大神官である恭哉兄ちゃんも、占術師の能力を持つモレナさまも、神本人……、本神? ではない。
だから、本当のことは分からないだろう。
「それでは、次のこの『兄弟を引き離した理由』という詳細を聞いても良いかい?」
「その次の一文にあるように、モレナさまとしては、『二人の前で話をしても良かった』らしいです」
「そうなのか?」
九十九が意外そうに問い返す。
「うん。ただ、『隠し事はできないよ』と言っていた気がする。相手が隠したいことは承知していても、話し出すと勢いでポロっと出るとか?」
「うわあ……」
九十九がげんなりとした顔を見せた。
「それが、『相手の隠したいことなんて知ったこっちゃない』と、『話したくないことまでうっかり口にしちゃう』、『勢いがつくと止まらない』に繋がるんだね?」
わたしの書いた文章を指し示しながら、雄也さんが確認する。
「はい。だから、余計なことを話しても大丈夫なように、雄也と九十九を外させたそうです」
「余計なこと……」
雄也さんが呟く。
「因みに、お前はその『余計なこと』は聞いたのか?」
「どれが余計なことかは分からないけれど、ほとんどはそこに書いたとおりだよ」
「ほとんど?」
「全部は書いてない。文章に残さない方が良いと思ったことは、書いてないよ」
わたしがそう口にすると、分かりやすく雄也さんと九十九に緊張が走った。
その反応を見て、どれだけ、彼らは隠し事をしているんだ? と、思ってしまったわたしは悪くないと思う。
「それも、後で話してもらえるのかな?」
「忘れない限りは……。自分にも関わることですし、雄也と九十九は知っていた方が良いと思うので」
書いていない文章の中にはそんな話もある。
だから、嘘は言っていない。
「本当だな?」
「……うん」
何故か、雄也さんではなく九十九が念を押した。
何を話したと思われたのだろうか?
だが、多分、彼らの予想とは違う方向性の話になるとは思っている。
「だから、その繋がりで、この『御守り』以外の魔力が付加された装飾品は外す指示をされようです。わたしと話す中で、他者の魔力の気配を混ぜたくはなかったらしいので」
それは、後に繋がる話。
他者の魔力で相手を視るモレナさまにとって、存在感の強い他者の魔力の気配というやつは邪魔な存在だったのだろう。
九十九専用通信珠もそうだけど、特にわたしの髪で光っている装飾品に付いている魔力珠は、九十九の魔力そのものである。
これを着けていると、わたしでも濃縮された九十九の気配が強すぎて落ち着かないことがあるのだ。
だから、あの場では、邪魔、だったんだろうな。
魔力珠は、九十九の強い意思が込められたものだから。
「本当に邪魔されたくなかったということだね」
雄也さんが苦笑し、九十九は不服そうな顔をする。
「次の『魂が邪魔だったから、引っこ抜かれた』というのは……?」
「ああ、雄也と引き離された時のことです」
雄也と古書店に行って、例の創造神の彫像を見た後、聖歌を歌おうとしたら、魂を引っこ抜かれたらしい。
そして、目が覚めたら九十九が手を握っていた。
―――― 貴女は意識を失っていても、その魂が周囲の様子を覚えていることがある
「わたしは意識を失っていても睡眠学習をしちゃうので、雄也との内緒話のためにこの世界から強制退場させたそうです」
正確には「光の兄弟」と言っていたが、あの場に九十九はいなかった。
だから、モレナさまは雄也と話をしたかったのだと思う。
あれ?
でも、伝言は九十九から聞いたような?
「睡眠学習か。なるほど、分かりやすい表現だね」
雄也さんがそう微笑んだ。
「その結果、次の次の行にある『魂を本の中に閉じ込めた』に繋がります。完全にこの世界から離れた場所に放り込まれていたらしいですね」
「なんか、人間界で聴いた夜の美術館の歌を思い出すような話だな」
「九十九も、アレ、知ってるの?」
「おお。アレを聴いて、人間界、怖ぇって思ったからな。それが例え大好きな絵の中でも、嬉しくねえよな?」
「だよね?」
九十九が聴いていたことも意外だったが、移動魔法が使えても、アレって怖いんだね。
「それで、本の中で、自分の『人生の記録』ってやつを見せられていたみたい」
その辺については曖昧だ。
本棚の世界で自分の周囲にシルヴァーレン大陸言語と日本語が混ざった文章が流れていたことは覚えているけど、その内容についてははっきりしない。
「それが、栞が仮死状態から戻った時に言っていた、兄貴がいない『本棚の世界』ってやつなのか……」
そうか、九十九には目が覚めた直後に首を捻りながら話している。
「栞ちゃん、その『人生の記録』ってどんなものかを聞いても良い?」
「はっきり覚えていないけれど、自分の出生? から、現在、そして不確かな未来まで……だったはずです」
確か、モレナさまがそう言っていた。
そちらは覚えている。
「ですが、わたしはその時のことをほとんど覚えていません。夢の中みたいに曖昧で、シルヴァーレン大陸言語と日本語と不鮮明な文章が混在して、字幕のように自分の周囲を文章が流れていたことはなんとなく覚えているんですが……」
「走馬灯みたいだな」
「その時は、わたしもそう思ったよ」
はっきりしない記憶の中でそれだけは覚えている。
まるで「走馬灯のようだ」と思ったのだ。
「どうせ走馬灯なら、映像で見せろと」
「いや、走馬灯って言葉を素直に受け入れるな!! あれは、語源はともかく、一般的には死ぬ前に見せられるやつだよな!?」
「走馬灯の語源を知っている九十九に驚きだよ」
わたしのように、人間界で育った母から教えられているならともかく、九十九は生粋の魔界人だ。
まあ、わたしと人間界にいる期間は同じくらいらしいけどね。
「自分の人生が二種類以上の言語で書かれていたなら、そこに何か意味があるんだろうね」
「モレナさまからは、不確かな未来は読めないって言われていました」
「占術師の能力を持っている女性から言われると、別の意味にも聞こえるな」
おお、言われてみれば!!
わたしは目を丸くしたのだろう、雄也さんが笑った。
「文章の内容については、はっきりと覚えていないのですが、人間界に行く前の出来事については、シルヴァーレン大陸言語で書かれていた気がします。人間界に行っている間が日本語。そして、こちらの世界に来てからは、シルヴァーレン大陸言語だったかと」
「なるほど。自分の母国語ってことだろうね。なかなか興味深い」
「その走馬灯の文字は、出生から現在までの全てだったのか?」
九十九は、とうとう走馬灯って言い出しちゃったよ!?
「分かんない。全部を覚えていないし。現在に近い年代は自分の記憶のこともあって覚えているのだけど、記憶を封印している時のことはほとんど覚えられなかった」
結構、頑張って覚えようとしたのだ。
だけど、そのほとんどはどうしても記憶することができなかったのだ。
「そうか……」
何故か、九十九が寂しそうな顔を見せる。
「ああ、でも、九十九たちと会った日は書かれていた気がする!!」
「あ?」
「夏だったんだね。『巨月宮』の2日!!」
九十九との出会いは、雄也さんとは別々に書かれていた。
出会った日付は同じだったから、多分、出会ったタイミングが違うのだろう。
そして、そのことだけはちゃんと覚えて帰ろうとしたのだ。
大事な幼馴染たちのことを忘れてしまったことを申し訳なく思いながらも……。
「そうだったか?」
「そうだったよ」
九十九が雄也さんを見ると、雄也さんは頷く。
「俺はあの日のことを忘れてないからね」
「オレだって、日付以外は忘れてねえよ」
ちょっと子供っぽく拗ねているような言葉。
まあ、その当時は三歳だったらしいから、日付なんか覚えてなくても仕方ないよね。
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