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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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創造神の気まぐれ

「ところで、人間にとって無意味に見える行動も、創造神にとっては意味があることなのかもしれないと、栞ちゃんが思ったのは何故だい?」


 一頻り、揶揄ったことで満足したのか、兄弟揃って、わたしから手を離した後、雄也さんが問いかけた。


 いや、これ以上揶揄うと、話が進まないと思ったのかもしれない。


 仕方ないでしょう?


 ある程度、揶揄われることに慣れたとは言っても、同時というのはかなり心臓に負担がかかるのだ。


 そして、美形な兄弟から同時にスキンシップを受けるって、女の子向けのゲームとか、少女漫画のように逆ハーレム系ジャンルでなければ許されない話だよね?


「少なくとも、『神力』の所持者の前に彫像を見せているようなので、本当に手あたり次第というわけではないとは思います」

「単純に、あちこちに置いた結果、神力を持っているヤツの目に止まっただけの話かもしれないぞ」


 確かに、九十九の言うことも一理ある。


「創造神にとっては、それでも、良いのかもよ?」

「あ?」

「手あたり次第に置いて、神力を持った人の目に止まること自体が目的なのかもしれないでしょう? 創造神の彫像と分かる人ならば神官の可能性が高いから、神力を高めるために触れるだろうし、分からない人でも、確認のために像に近付く可能性はあると思うんだよね」


 実際、それを見た時、わたしも近付こうとしたのだ。

 雄也さんが止めなければ、触れていたと思う。


「近付いたらどうなるんだ?」

「聖跡みたいなものだから、わたしなら神力が強化されるっぽいよ」


 神官たちにとって、聖跡、神物に籠った神力に触れることは、法力や神力を高める効果があるため、とても大切な行いなのだ。


 だから、巡礼と呼ばれる期間に、世界各地の旅をする。


 あの恭哉兄ちゃんも、巡礼の時期には、大聖堂から離れ、まだ触れていない聖跡を探すらしい。


 まあ、大神官だから昔ほど長い期間は離れられなくなったとは言っていたけどね。


「そうなると、あの創造神の彫像は、栞ちゃんの神力の強化が目的だったということかい?」

「それもありますが、モレナさまが言うには、わたしの傍にいる護衛たちが触れていたら加護を押し付けられていた可能性があるそうです」


 わたしは母ほどじゃなくても、既に創造神の加護があるらしい。

 だから、神力の強化はできても、加護が新たにつくことはない。


「狙いは、オレたちだったのか?」

「それは分からないよ。モレナさまも、創造神の目的を代弁する気はないって言っていたし」


 人間に神さまの考えなんか分からない。


 それでも、モレナさまは「創造神を代弁してやる気はさらさらない」と言っていた。

 その言葉からは、彼女には創造神の思惑が分かっているとも考えられる。


 そして、その方は言っていた。


 ―――― 貴女がご神像に触れていたら、「聖女」として、「神力」がかなり強まった


 ―――― 「色男」や「坊や」が代わりに触れていたら、彼らに加護を押し付ける


 つまりは、そういうことなのだと思う。

 あれは、可能性の話ではなかったのだ。


 確定に近い未来の話。


 わたしが触れていたら、「聖女」に近付き、彼らが触れていたら、創造神の加護が与えられたのだろう。


 普通は喜ぶはずの最高神の加護。

 だけど……。


 ―――― 強運だけでなく試練と言う名の悪運を与える神でもある


 うん。

 その言葉だけでわたしは嫌だと思う。


 尤も、わたしは母の影響もあって、既にちょっとした加護はあるらしいけれど。


 少なくとも、創造神は、人間界で平凡に生きていて、生きていく予定だった母の運命を捻じ曲げた神さまであることは間違いない。


 それがなければ、自分はこの世界にいないと分かっていても、複雑な心境にはなるだろう。


「栞ちゃんは『創造神の気まぐれ』は、実は、気紛れではないと考えているってことだね」

「はい」


 多分、モレナさまだけじゃなくて、恭哉兄ちゃんもそう考えているのだと思う。


 恭哉兄ちゃんは自分の考えではなく、神官としての常識、「神官たちはこう教えられている」という形でわたしに神官の知識をくれている。


 それを知らないと、神官たちとの会話する時に、微妙な食い違いが生じてしまうから。


 仮にも「聖女の卵」として、大聖堂の庇護とまでは言わないまでも、多少の補助を受けている身である。


 それならば、ある程度は、神官たちの教養も必要なのである。

 その上で、自分で考えて判断しろ……と、そう言われている気がしてならないのだ。


 自分にも他人にも厳しい人だからね。


「創造神アウェクエアさまは未来も過去も見通す神さまです。だから、人間の視点では意味のない行いに見えても、その実、深い意味があることもあるでしょう」


 ただそれが、神官と呼ばれる者たちすら気付かないほどの意味だから、無意味と思われている気がする。


 実際、「創造神に魅入られた魂」である母の存在を知っている神官たちが、この世界にどれほどいるというのか?


 この世界において、「チトセ=グレナダル=タカダ」と呼ばれる女性は、現状、カルセオラリアの中心国の存続について話し合う場で出てきたセントポーリア出身の知識人という位置づけでしかないだろう。


 下手すると、あの場で情報国家の国王陛下があの場で口にした「セントポーリア国王陛下の愛人」と認識している人だっているかもしれない。


 だが、あの母は、セントポーリア国王陛下とイースターカクタス国王陛下にそれぞれ影響を与えているとも聞いている。


 それだけ、創造神の行いの意味を理解できる人間がいない。

 いや、創造神の行いに気付けない人間の方が多いのだ。


「あるいは、今回のように『創造神の御手(みて)』に気付いても、無視する人間が多いだけかもしれませんけどね」


 その意味を見出せないまま、差し伸べられた手を取ることができる人間の方が少ないだろう。

 誰だって、見知らぬ者には警戒をするものだから。


 だが、創造神にとってはそれでも構わないのだ。

 何故なら、結果を強制しないからこそ「創造神の気まぐれ」なのだから。


 気まぐれに差し伸べられた「創造神の御手(みて)」を取るも取らないも「相手の気まぐれ」。


 その結果、どうなってもそれは、「運命の気まぐれ」ということになる。


 それらを全て含めて、皮肉の意味もあり「創造神の気まぐれ」と呼んでいる気がするのが、わたしの考えである。


 まあ、それが正しいかは誰にも分からない。

 それこそ、「神のみぞ知る」というやつである。


 そして、その神は何も語らない。


 ただ面白そうに笑いながら、人間たち(こちら)を見るだけ。

 この世界はそういう世界なのだ。


 いや、もしかしたら、気付かなかっただけで、実は人間界も似たようなものだったのかもしれないね。


 自分のことを知らない誰かが見ているなんて、恐ろしいことなのだけど、実は当たり前のことなのだから。


「その様子だと、栞ちゃんは、俺たちに創造神の加護がつかなくて良かったと思っているみたいだね?」

「はい。モレナさまが言うには、神の加護というのは、その神の退屈しのぎのための観察対象になるということらしいです」


 それは事実だと思う。

 神々は常に飽いているのだから。


「そして、創造神は人生を狂わせる系統の神で、強運だけでなく試練と言う名の悪運を与える神でもあると言っていました」

「悪運もか……」


 雄也さんは無言のまま難しい顔をし、九十九は嫌そうな顔をしながらそう言った。


「そして、母だけでなく、娘のわたしにもその加護はあると聞きました」

「「なるほど」」

「納得された!?」


 しかも、二人同時に大きく頷かれた!?


 この場合、母の方に加護があるって部分?

 それとも、わたしに加護があるって部分?


「いやいやいや! 創造神の縁や加護に関係なく、わたしは無謀な選択肢を平気で選ぶらしいので、何の神の加護があっても関係ないとも言われましたよ!?」

「お前、それはそれで、大きな問題だとは思わないか?」


 九十九が呆れたように問いかける。


「え? でも、創造神の加護によって、ちょっとばかり他者より死にやすい場面が多いのに、意外と他者よりも死ににくいらしいよ?」

「他者よりも死にやすい場面って時点で疑問を持て!!」

「疑問は持ったんだけどな~」


 でも、わたしが気にしたのはそこじゃなかった気がする。


「栞ちゃんが行く先々でトラブルに巻き込まれやすいのは魔力が強い王族というだけではなく、神々の影響もあったということか」


 恐らくは、神々というよりも、創造神の加護だろう。

 創造神アウェクエアさまはこの世界を創った神であり、神々の頂点に立っている神でもある。


「いや、加護とかに関係なく、それはこいつの性格じゃねえか?自分からトラブルに突進して行く時点で、神々だって対応しきれねえだろ?」


 ああ!?

 わたしの護衛が酷いことを言った!!


 だが、否定できない!!


 思わず、もう一人の護衛に顔を向けると……。


「その厄介事への猪突猛進に救われた人間も少なくないから、なんとも言えないね」


 苦笑しながらも、雄也さんは九十九の言葉を完全には否定しないのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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