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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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入り乱れた話題

 どうやら、雄也さんと九十九は聞きたい順番ではなく、わたしが箇条書きにした順番で話を聞くことにしたらしい。


 だが、問題は、わたしが箇条書きにした順番は、重要度よりも、一部を除いて、あの時、あの方の口から出てきた言葉を時系列順に並べていることだろう。


 普通は重要度順に書き連ねるべきなのに、順番に書き出さなければ思い出せなかったのだ。


 つまり、重要な話とそうでもない会話が入り乱れている。


 そして、そこには、その時わたしがどう思ったのかという主観的な言葉はあまり書いていない。


 最初の一文である「フードを外したその顔は凄く美人さんだった」という言葉を除けば、ほぼ、あの方の言葉だ。


 それでも10枚越えてしまったのだから、わたしの感想とかを全て書けば、膨大な文章量となっていただろう。


 それは彼らも承知しているようだが、それでも、箇条書き順に内容の詳細を確認することにしたらしい。


 まあ、彼らが既に知っているような情報については、そこまで確認するつもりはないみたいだけど。


 そして、この調子だと、話が長くなることは間違いないようなので、九十九がいつものようにお茶の準備をしてくれて、確認作業は再開される。


 ずっと話していると喉が渇くから助かるね。


「あの彫像は、やはり創造神のものだったのか……」


 雄也さんが難しい顔をしてそう呟いた。


「はい。自信はなかったのですが……」


 わたしがそう言うと、雄也さんは一瞬、動きを止めて……。


「ああ、違うよ。栞ちゃんの言葉を疑っていたわけではなくて、()()()()()()()()()()()()()()()の話」

「ほ?」


 困ったように笑いながらそう言った。


「キミが創造神だと思ったなら、あの像は間違いなく創造神だよ。それとも、『聖女の卵』である栞ちゃんの()()を俺が信じないと思ったかい?」

「でも、わたしは創造神の姿を知らなかったんですよ?」

「そうなのか?」


 今度は九十九が確認する。


「うん。創造神って神官でも知らない人ばかりだって聞いてる。その姿を知っているのは、大神官さまと数名ぐらいじゃないかな?」


 そして、姿を見てもそれが本当の姿かは分からないそうだ。

 結局のところ、神さまは人間の目に映る外見はどうにでもできるから。


 尤も、それでも基本的な姿はあるし、それを基にストレリチア城にある彫像のほとんどは作られている。


 そういう意味でも、「選定の間」にある神々から贈られた姿絵は本当に参考程度のものなのだ。


「だから、俺は信じたよ。アレは創造神で間違いないって」


 さらに、雄也さんが力強い笑みを浮かべてくれた。


 ああ、うん。

 拝んで良いですか?


 雄也さんのそんな顔はありそうで実はない。

 稀少な拝顔を賜り、光栄に存じます。


「栞……、また阿呆なことを考えてないか?」

「ぎくっ?」


 何故、九十九にバレた?


「栞の返答には奇妙なものが多いが、今回は奇妙かつ正直な言葉だな」


 九十九は飲み物を口にしながら、眉を下げる。


「驚愕や緊張を表す擬態語としては、分かりやすいね」


 そう言う雄也さんは肩と唇を震わせていた。


 うぐぐぐ……。

 確かに、どんなに動揺しても、自分で「ギクッ」と口にするのは阿呆だと思う。


 だが、咄嗟に出てしまったから、仕方ないじゃないか!!


「それで? 結局、その創造神があの場所に自分の像を設置したことに何の意味があったんだ? 栞が書いたこの文章からじゃ、ちょっと分からないんだが……」

「これじゃないか? 『神力の強化か、連れに加護を押し付ける』」


 九十九と雄也さんが自分の手にした紙を見ながら、それぞれ意見を出し合っている。


 あの時にあの方が口にした言葉をできるだけ順番に書き出したつもりだったんだけど、わたしの文章はやはり、分かりにくいらしい。


「オレもそう思ったんだが、それにしては、ちょっと文章が離れすぎてないか? 間に大神官のこととか入っているぞ?」

 

 ―――― あ~、そっちが気になっちゃったか


 そう言えば、モレナさま自身も、わたしが気にするところが違うみたいなことを言っていた。


 でも、会ったこともない創造神のことよりも、何度も会ってお世話にすらなっている人がどうして「クソ坊主」と呼ばれるのか? と引っかかったのだから仕方ないよね?


「ごめん。その文章、モレナさまが口にした言葉を順番に書き出したから、ちょっと前後が入り乱れているんだよ」

「それだけ、あちこち話題が飛んだってことか」


 モレナさまの言葉を思い出す限り、その原因はわたしの方にありそうではある。


「創造神の彫像があの場所に置かれた理由は聞いた?」

「はい。あれは、『創造神の気まぐれ』と呼ばれる現象だと聞いています。創造神アウェクエアさまは、人の世に、何の意味も意図もなくご自分の像を送ることがあるそうです」

「「創造神の気まぐれ……」」


 九十九と雄也さんが何故か茫然と呟いた。


「大神官さまからの話ですが、『創造神の気まぐれ』は人類の行く末を左右するほどの時もあれば、本当に何の意味もないこともあるそうです。その彫像が何故その場に現れ、そしてその結果、何を齎すのかは本当に後になっても分からない、と」

「なんだ? そのランダム性。人間界の福袋か?」

「人間界の福袋は『福』もあるが、その話だけ聞くと、『福』が存在するかも怪しいな」


 わたしの補足に、九十九と雄也さんがそれぞれ自分の意見を口にする。


 だけど、今回の、モレナさまの言葉を聞いて、わたしは一つの結論を出している。


「人間にとって()()()()()()()()()も、創造神アウェクエアさまにとっては()()()()()()()なのかもしれない」

「あ?」


 わたしの言葉に九十九が短い疑問を返す。


「モレナさまの言葉を聞くまで知らなかったことなんだけど、あの彫像って、『神力』所持者にしか視えないんだって」


 そんなわたしの言葉に……。


「それが、『本来は、「神力」所持者に触れるか、「神力」所持者と長時間一緒にいなければ視ることができない』ってことか」


 雄也さんが紙を見ながら呟いた。


 わたしの分かりにくい文章をよく理解できるなと感心する。


「だから、あの像がオレにも兄貴にも視えたのか」

「へ? 九十九も視えたの?」


 あの時、あの場にはいなかったはずなのに。


「視えたんだよ。悪いか?」

「いや、別に? それだけ九十九がわたしと一緒にいる時間が長いってことでしょう?」


 わたしがそう言うと……。


「……は?」


 九十九が何故か、驚いたように目を丸くする。


 ―――― 人類で言う魔力の感応症のようなもんだよ


「えっと、あの像を視ることができるのは、通常、『神力』所持者のみなんだって。でも、『神力』って、魔力の感応症のように、『神力』の所持者に近しいと、一時的に僅かだけど移るってモレナさまは言っていた」

「それは、魔力の感応症のように相互に?」


 雄也さんの言葉にわたしは首を振って否定する。


「片方にしか『神力』がなければ、一方的なものになるそうです。だから、体内魔気で『印付け(マーキング)』のように、『神力』を持たない相手を染めてしまうという方が近いのだと思います」

「つまり、オレは()()()()()()ってことか?」


 九十九が真顔でとんでもないことを口にする。


「どうしてそうなった?」

「いや、本来、体内魔気で『印付け(マーキング)』ってするのは、所有者の証だからな?」

「九十九は物じゃないでしょうが」


 そして、モレナさまは「印付け(マーキング)」とは言わなかった。


 単純に相互に影響しあう「魔力の感応症」よりは、「印付け(そちら)」の方が近いとわたしが感じただけだ。


「似たようなもんじゃないか?」

「全然、違う!!」


 なんてことを言うのか、この護衛は……。


 わたしは九十九や雄也さんのことを、自分の物だと思ったことは一度もない!!


 誰かに渡したくはないと思ったことはあるけど、それは、所有物としての意味では絶対にないのだ!!


「どちらにしても、栞ちゃんに触れていれば、俺たちも一時的に『神力』の影響があるということなのは確かなようだね」


 そう言いながら、雄也さんはわたしの手を握った。


「ほげっ!?」

「どれぐらいこうして握れば、『神力』が移るかは聞いた?」

「い、いいえ!!」


 そんなこと、考えもしなかったから。


「じゃあ、できる限り握っていた方が良いのかな?」

「勘弁してください!!」


 楽しそうに笑う雄也さんに、これは揶揄われていると分かっていても、わたしは赤面してしまう。


「なるほど」

「ほがあっ!?」


 さらに別の方向から握られる手。

 思わず、女性としてどうなのかと思うような奇声を上げてしまった。


 九十九もそう思ったのか……。


「お前ほど、残念な女はそういないよな」


 わたしの手を握りながら、心底、残念そうにそう呟いたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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