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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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表には出せない話

「先ほどの話は、かなりの醜聞だと思うのですが、わたしに告げて大丈夫なのですか?」


 その正体も、生まれた子に関しても、そして、その経緯についても、他人であるわたしが知って良いことは何一つとしてなかった。


 秘密を知る人間は少ない方が良いのに、何故、わたしに伝えたのか?


 それが分からなかった。


『ん~? 一応、大事なことだからね』

「大事な……、こと……?」


 どこをどう聞いたって、表には出せない話だとは思う。


 それが、誰かに知れる可能性を上げてでも、わたしに言わなければいけないことだっただろうか?


『それだけ「神力」を持っている人間ってやつは、相手を選ばないといけないってことさ』


 モレナさまの言葉は、そのままわたしに当てはまることだ。


『つまり、あのクソ坊主の「発情期」にあわせてラシアレスが近付けば、似たようなことが起こる可能性もあるってことだね!!』

「ふぐっ!!」


 それを、あなたの立場で口にするのはどうなのでしょうか?


 そして、大丈夫。

 恭哉兄ちゃんなら、そんなヘマをしない。


『まあ、あの姫さんからクソ坊主を奪うってなら、ソレが確実かな!!』

「さらに、お勧めしないでください!!」


 そして、どちらかと言えば、ワカにお勧めしてください。


「いやいや、あの姫さんには勧められないんだよ。何よりクソ坊主も全力で拒否する。まだ、その時期じゃないからね」


 法力国家ストレリチアの女性王族は、婚姻までその相手と結ばれてはいけない……、だっけ?


 男性王族は良いのに、女性王族は駄目っていうのが、ちょっとどうかと思う。

 体面的には分からなくもないけれど、男女差別ちっくな話だよね。


『あの地には神との約定が今も残っている。それを果たすために、クソ坊主はそれを律儀に護ると思うよ。それがどんなに苦しくてもね』


 嬉しそうですね、モレナさま。


 そして、やっぱり苦しいのか、恭哉兄ちゃん。


『あと、確かに黄の好色男辺りが喜びそうな話ではあるけれど、ラシアレスは他言しない。あの光の兄弟にすら話す気はないだろ?』

「話せないですよ」


 本来なら、わたしが知らないはずのことだった。


 それなのに、こんな形で知らされるなんて……。


『でも、ま、あの光の兄弟には伝えなさい。多分、貴女よりも危機感を覚えるから』

「え……?」

『「聖女」が周囲にとってどれだけの影響力を持つかが分かりやすいだろ? いや~、過保護っぷりにますます拍車がかかりそうだね』


 それは……嫌だな。


『まあ、そこらの坊主に犯されたぐらいじゃ、せいぜい、黒が茶に上がるぐらいだけど、始めから(せい)(こく)だったら、相手によっては七色までは上がるかもね。ああ、勿論、初回限定だよ』

「わたしの処女を、どこかの通販商品みたいに言わないでください!!」


 だけど、悔しいが今の言葉だけで分かりやすく理解できてしまった。


 それだけ、わたしの最初の相手って重要なのか。

 この場合、見習神官なら、下神官ぐらいの法力を得るってことだろう。


 それって、もしかしなくても、結構な出世では?

 しれっと、準神官を越えていますよ?


 さらに始めから「(せい)(こく)」、正神官級の法力所持者ってことだと思うけど、それが、七色……、「七羽(しちう)の神官」、つまりは上神官をすっ飛ばしての高神官。


 いくらなんでも、それは上がり過ぎじゃないかな!?


 どれだけ、神官にとっては価値があるの?

 わたしの処女って!!


『二回目以降でも坊主たちの能力は上昇するよ。初回ほどじゃないだけさ。「神力」所持者ってのはそれだけのモノを持っているんだ。そこは自覚しておいてほしいかな?』


 それは恭哉兄ちゃんにも言われていたことだ。


 だが、具体的に、それもその経験者から口にされるのは心に与える衝撃が段違いだった。


 ああ、そうか。

 それだけのことだから、ライトが助かる確率が上がるのか。


 ライトは茶色……、下神官まで上がった後で還俗したと聞いている。


 でも、それは事情があって辞めただけで、彼の法力の才が実際はそのもっと上、正神官や上神官並だったとしたら、わたしを相手にすることで、高神官、下手すると、恭哉兄ちゃんに並び立つ可能性も出てくる。


 それならば、神の意識程度なら封じ込めることは可能になるかもしれない。


 でも、何故、彼はそれを選ばなかったのだろう?


 ミラージュの人間なら、女性と性行為を行うことで多少、法力が上がることは知っていると思う。


 だからこそ、アリッサム城だった場所が利用され、いろいろと酷いことに使われてしまったと聞かされているのだ。


 流石に、行為の内容までは聞かされなかったけど。


 だから、そのミラージュの王子であるライトなら、法力や神力を持っている女性を相手にすれば、より効果的だということも知っているはずだ。


 だけど、彼は一度も、その手段を選ばなかった。

 その機会は何度もあったはずなのに。


 口ではそれに近しいことを言われるが、実際、身の危険を感じるほどのことはされたこともない。


 それは……、どうしてだろうか?


 そこまでやっても、全身をシンショクし続ける神には届かないと思っていたから?


「モレナさまの、その……、お相手の方も、法力が強くなったのですか?」


 手段はともかく、モレナさまが最初の相手と選んだ人も神官だという話だった。

 少なくとも、大聖堂の「禊の間」を使えるほどの方だ。


 それならば、かなり能力が急上昇すると思ったのだけど……。


『あ~、ヤツは()()()()()()()()()からね~』


 聞かなきゃ良かった!!

 しかも、その時点で、お相手が特定されてしまった。


 生まれた子の年齢を逆算するまでもなく、その時、その地位にいた人はわたしでも知っている。


 結構な年齢だと記憶していましたが、確かに外見は壮年でも通じる年代に見える方ですね?


 でも、そんなに元気な方だとは存じませんでした。


 殿方って、本当に分からない。

 ……って、ちょっと待って?


 あれ?

 それって……?


『そっちより、我が子の話をそろそろ聞きたいのだけど……』

「会えば良いのでは?」


 いろいろ混乱しすぎて、思わず、そんなことを口にしていた。


 実際、わたしの口から聞かなくても、十分すぎるほど知っている気がするのだけど。


『ん~、会うことはできないかな』

「何故!?」


 それは、占術師の能力的な何かだろうか?


 それとも、精霊族の血が流れていることに理由が……?


『あの男は遠くからおちょくる方が楽しいから』


 滅多なことは怒りを覚えないはずのあの人のこめかみに、くっきりと青筋が立てられたような気がしたのは何故だろうか?


『それは半分、冗談として』

「半分は本気ですよね?」


 嘘が吐けないのだから、そういうことだろう。


 そして、あの人から話に聞いていたとおりの人だったことは理解した。


『へ~、あの男はラシアレスにワタシの話をしていたのかい? 物心ついてから会ったのは一度きりだったんだけどね』


 この世界は独り立ちするのがかなり早い。


 それでも、親を求める淋しさは同じではないだろうか?


『全てはあの男を座に就かせるため。それだけのお膳立てはしてやったつもりだよ』


 それは分かっている。

 実際、あの人はそれだけの地位にあるから。


「全ては、アナタの手の内なのでしょう?」

『おやおや、そんな()()()()()まで知ってたの?』


 あれは、祝いの言葉らしいですよ?


『実は言うとさ。ワタシにはこの世界で、あの男だけが視えないんだよね』

「え……?」

『異名のとおりさ。ワタシの瞳は光を映さず、この視界は常に闇に閉ざされている。そのために、通常の人間たちとは違うものが視えているかな』


 だから、視点が少し違ったのか。

 ずっとわたしを見ているようで、ずれている気がしていたのだ。


 考えてみれば、モレナさまは「暗闇の聖女」だ。


 そのもう一つの異名は……。


『ああ、他の人間は気配でその輪郭(すがた)は分かるんだよ。ラシアレスみたいに鮮烈な気配を放つ人間は特にね。でも、あの男は、ワタシの血を引くためか、その気配すら視えないんだ』


 あの男には内緒だよと、モレナさまは笑う。


 でも、どうして、笑えるのか?


『相手の思考を読む時に、それが音声を伴う映像として思い描いている光景を見せてくれる。それに気配で人間たちの容姿も視える。ラシアレスが黒髪、黒い瞳の愛らしい容姿だってこともちゃんと視えているんだ』


 モレナさまはふっと軽く息を吐いた。


『これが、あの男に会えない理由だよ。納得してくれたかい?』


 そうわたしに向き合ってくれたモレナさまの瞳は、光を映さないはずなのに、どこか力強い輝きを持っている気がしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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