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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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恋愛をするならば

『その辺についても、ちゃんと考えようか、ラシアレス』


 モレナさまはそう言って、笑いながらわたしの手に触れる。


『これまでの経験などが邪魔して、臆病になる気持ちも分かる。激しい恋ばかり見てきたから不安になるのも理解できる。だから、まずは、自分と向き合って、素直になりなさい』

「素直に……?」


 わたしはぼんやりとその手を見つめながら言葉を返す。


『そうそう。世の中、半分は異性だ。だから、自分の心を揺らし、抱かれたくなるような男なんて存在は、何人、現れてもおかしくはない。実際、女が純潔を捧げた相手と最期まで一緒にいる方が稀だからね』


 なかなか凄いことを言われている気がする。


 それでも……。


「抱かれかけた相手がいながら、別の男に身を任せようとするのは何か違うと思います」


 頭にあるのは「ゆめの郷」のことだ。


 わたしは九十九の「発情期」の時、一度は流されかけたにも関わらず、その数日後にはソウに口説かれ、やっぱり流されかけた。


 あの時、思ったのだ。


 自分はかなり浮気性だと。


『そうかい?』


 だが、モレナさまは不思議そうな顔をする。


『自分にとって良いと思える男が同時に現れただけだろ? 少なくとも、抱かれても良いと思える程度の男に』


 その表現はどうかと思うし、自分ではそこまでの感情はまだないと思っている。


 九十九の「発情期」がきっかけではあるけれど、誰かとそういった行為をする自分が全く想像できないわけじゃない。


 寧ろ、それに伴う熱も、感覚も、感情も、何も知らなかった頃よりはもっとずっと生々しく理解できていると思う。


 でも、いや、だからこそ、どうしても怖さの方が先立ってしまう。


 あれ以上、あんな自分が知りたくない。

 あんな制御不能の感覚と感情に振り回されたくはないのだ。


『真面目だね~。もっと動物的になれば楽なのに』

「動物的って……」


 いくら何でも、そんな簡単に考えられない。


『誰かから与えられた熱も、感覚も。それに伴う自分の感情も、結局のところ、本能的なものだ。そこに変な理由を求めるから、混乱するんだよ』

「つまり、何も考えるなと?」


 それはなかなかに難しい。


『そこまでは言ってないよ』


 だが、モレナさまはあっさりと否定する。


『そうだね~。その3人以外なら、リュレイアの弟なんてどうだい?』

「雄也以上に難しいと思います」


 楓夜兄ちゃんのことは嫌いではない。


 でも、一人の男性として見ることができるかは別だ。

 そして、わたしには多分、無理だと思う。


 あんなにも優しい人なのに。

 あんなにも助けてもらったのに。


 それでも、楓夜兄ちゃんは友人以上には思えない。


『それなら「クソ坊主」は?』

「無理です」


 ワカに殺されてしまう。


『他者を理由にしない』

「ほあっ!?」


 まさか、この状況で思考に突っ込まれるとは……。


 でも、そうだね。

 それはワカにも恭哉兄ちゃんにも失礼だ。


『それに、あの姫さんは迎え撃つ方じゃないかな? 「ベオグラが欲しければ、私を倒していきなさい!! 」みたいに?』


 すっごく、似てた……。


 違う。

 確かにワカはそう言いそうだ。


 口調だけでなく、恭哉兄ちゃんの愛称まで存じていることに結構、びっくりだけど、この方なら不思議ではない。


『「ああ、まさか、私に遠慮するとか? このケルナスミーヤさまが随分となめられたものね、高田」』

「ふぎゃっ!?」


 どうしよう?

 ワカが憑りついたかのように、すっごく似ている。


 そして、似合い過ぎる。

 全然、違う顔なのに、どうして、こうも似るのか?


 そして、ワカがわたしのことを「高田」と呼ぶことまでご存じらしい。


 だけど、もし、わたしがワカにそう言われたら?


「ワカに、いえ、ケルナスミーヤ王女殿下に遠慮する気なんか全くないですよ」


 そんなことをすれば、ワカは絶対に怒るだろう。

 彼女のことだから、「ふざけるな! 」って叫ぶかもしれない。


 それでも、どうしても心に引っかかる。


 それも事実だ。


 何より、わたしは恭哉兄ちゃんも好きだが、それ以上にワカの方が好きなのだ。


 恭哉兄ちゃんも今も昔も、ずっと助けてくれている人だ。

 特にあの人に護られなければ、わたしは今も生きていないだろう。


 それでも、わたしはワカの方を選んでしまうと思う。

 これは、ワカをなめているとか、そんな次元の話じゃない。


 ワカは、人間界でずっとわたしを支えてくれた友人だ。

 本当に大事な友人なのだ。


 そして、わたしは恭哉兄ちゃんに対しては、ここまで強い感情は持っていないし、持つこともできない。


『クソ坊主は友人を越えられないってことだね』

「そうなりますね」

『それじゃあ、藍の坊やは?』


 あっさりと切り替えられた。


 愛じゃなくて、藍……、トルクスタン王子のことだろう。


「トルクスタン王子は始めから無理だと思っています」


 これまでで一番、迷わずに答えが出る人。


『ほほう? それは何故だい?』

「ちょっと言動が軽すぎますし、水尾先輩や真央先輩以上に想われる気がしません」


 王族としてのトルクスタン王子は思ったよりもしっかりしているが、自分を支えてくれるという安定感と安心感はない。


 わたしは一方的に支えられてしまうのは嫌だが、自分を全く支えてもらえないというのも嫌なのだ。


 それに、わたしに対して、求婚してくれた人でもあるが、あの人からは水尾先輩や真央先輩に向けているような高熱を全く感じていないことも理由の一つだ。


 これは他人を理由にしているのではなく、単純に熱意の話である。


「でも、王命で婚姻の要請があれば、受ける程度の意識はあります」


 勿論、嫌いではないのだ。

 何より、顔が良いと思っている。


 そして、誰かからの願いによって、あの不安定な人を支え続けろと言われたら、なんとか頑張ろうとは思う。


『それでは、あの黄の好色男は?』

「イースターカクタスの国王陛下のことだと思いますけど、好色って時点で、絶対に無理です。同様にその息子の方も」


 イースターカクタス国王陛下は自分にとっては父親よりも年上って時点で、いろいろ無理だと思ってしまう。


 いや、確かにあの方とはそんなに大きな年の差を感じないけれど、わたしのような小娘でもおっけ~と本気で思えるなら、いろいろと引きたくなる。


 それに、あの方が気にしているのはどう見ても、わたしではなく母だ。


 自分が誰かに重ねられたまま、好意を向けられるのは、これまでの経験からも自分はあまり好きではないらしい。


 そして、息子は「色狂い」。

 会ったこともないけれど、「好色」よりも酷い時点で関わりたくもない。


 自分以外の女に触れるなとまでは言わないが、それでも限度ってものがあるだろう。


 九十九のように強引に攫われかけても嫌だ。

 そんなことをする相手は、どんなに好みの顔にドンピシャでも、無理だと思う。


 何より、相手の言い分に耳を傾けることもせず、自分の意思だけが正義だと思い込むような人はかなり苦手なのだ。


『なるほどね。それでは、今度会う予定の婚約者候補は?』


 まさか、ここに来て、その人が出てくるとは思っていなかった。


 でも……。


「あの人とは、あまり会話したことがないので、よく分かりません」


 人間界で面識があっても、その時すらまともに話していないのだ。


『確かに』


 モレナさまは苦笑した。


 あの頃は、顔に惹かれた面はあるけれど、それでも、それを恋愛だったかと言われたら、多分、違うと言えるだろう。


『これまでワタシが言ったのは、これまでにラシアレス自身が触れることを拒まなかった異性で、なおかつ、既に定められた配偶者や番いを持たない相手だよ。ああ、今度会う予定の婚約者候補はちょっと違うけどね』

「はあ……」


 その中には婚約者がいる方もいらっしゃった気がするけど、それは良いのだろうか?


『婚約者はまだ婚儀を交わしていないからね。その気になれば解消、破棄も可能だ。だから、青の坊やに仕えるあの婚約者候補にラシアレスが会うことになったんだろ?』

「それでも、現時点で、婚姻の約束を交わした相手がいるような殿方が、例に出てくるのは良い気分ではありませんよ」

『でも、「神力」と立場の強化、さらに次世代のことを考えれば、あのクソ坊主が一番理想なんだよね』


 まあ、大神官ですものね。


 神官がえっちすることによって、強化されることは知っているし、それが互いに「神力」所持者なら、もっと強まることもさきほど聞かされた。


 そして、「大神官」と「聖女の卵」の婚姻なら、誰もが認めるだろう。

 少なくとも、わたしはセントポーリアの王子殿下から狙われることもなくなると思う。


 でも、その人と結ばれる未来はどうしても、思い描けなかった。


 ……あれ?


「その中に何故、セントポーリアの王子殿下がいなかったのですか?」


 一応、わたしに触れたことがある異性ではある。


 一応、義兄だし、これまでの評判を聞く限りでは、恋愛感情を抱く予定はないので、別にどうでもよい話だが、ちょっとだけ気になったのだ。


 だけど……。


『何故、あの蛆虫が候補に上がると思っているんだい?』


 それは、これまでにないほど、冷たい声だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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