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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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自分の行動に後悔が多い

 これまでに、自分の出自にどれだけ振り回されてきたことだろうか?


 始めは、生まれた時から、父親がいない母子家庭というだけだった。


 それが、実は別の惑星(ほし)の王さまの一人だったってだけでも漫画や小説のような話だというのに、実は人間であるはずの母親にも秘密があって……なんて、本当に設定としても詰め込み過ぎだと思う。


 しかも、さらに追加されていく、ありえない話。


 この世界に生まれる前からいろいろあったとか、自分の両親の話以上にどうしようもないことだけはよく分かった。


「つまり、わたしの魂には、元々の魂に、破壊の神ナスカルシードさまより加護を賜り、さらには、導きの女神ディアグツォープさまから御力を分け与えられたと同時に、母の胎内にいた頃に、セントポーリアの王族の意思(思念)が宿ったということだけは分かりました」


 でも、それはモレナさまの言葉の確認でしかない。


 個人的には「どうしてそうなった!? 」という言葉を10回連続で叫びたいほどだ。


 この世界の人間の魂が、肉体形成のどの段階で宿るかは分からないけれど、多分、神さまたちの意思の方が優先される気はする。


『本当にラシアレスは言動だけ聞いていると混乱しやすいようにみえるのに、思考はかなり冷静だよね』


 モレナさまはそう言いながら、優雅にお茶を口に含んでいる。


「思考も混乱していますよ」


 これまでの言葉を整理すればするほど、正直言って分からなくなっていく。


 衝撃的な言葉が多すぎて、それらの単語は頭に残っているけれど、その意味を自分の中で消化しきれていない。


 それならば、文字情報をできるだけ頭に残して、後は雄也さんや九十九に検証してもらうしかないだろう。


『いやいや、十分、十分。本来、何の前置きも、心構えもない状態で、いきなりこれだけのことを初対面の女から告げられたら、大混乱は必至だよ? でも、その程度でしょ? そして、それなのに、ワタシの言葉を疑わない。適応能力がかなり高いと思うよ』


 モレナさまはくすくすと笑う。


『さて、そんなラシアレスに一つ、確認しても良い?』

「はい」

『貴女はディドナフという男について、どれだけ知っている?』

「えっと、封印の聖女さまの想い人で、六千年前のイースターカクタスの王子ですよね?」


 それ以外だと銀髪に青い瞳でかなり整った顔立ち。


 正義感に溢れ、当時の世界とセントポーリアの王女を守るために、彼女を置いて旅立ってしまった人。


 そして、かなり好みの顔と声なのである。


 でも、あの聖女さまのように、一目惚れするほどかと言われたら、似たような系統の顔が身近にいるから、なんとも言えないところではある。


 わたしは、九十九が自分の初恋だと認識しているが、それは一目惚れではなかったから。


『おっけ~。影響は消えたっぽい』

「え?」


 これで?


『念のために確認。激しい動悸、息切れ、発汗、発熱、眩暈はないね?』

「ないですね」


 なんだろう?

 さらに、何かの病気の確認?


『悪いね。ラシアレスの魂を一時的に「境界」へと隔離したために、隙あらば、「境界」に現れて貴女に接触を図ろうとする「封印の聖女」と少しだけ共感性が高まっていたみたいだ』


 モレナさまが言う「境界」は、人界と聖霊界を繋ぐ世界のことだと思う。


 人間界で言えば、あの世とこの世の境……、黄泉路みたいなものかな?

 もしくは此岸と彼岸の間にある三途の川?


『貴女がよく夢に視る「白い世界」のことだよ』

「ほあっ!?」

『夢は「境界」に繋がりやすいんだ。だから、たまにシシャが貴女に言葉を伝えるために現れるだろう?』


 それは「使者」ですか?

 それとも、「死者」でしょうか?


 いや、どっちもだね。


 「聖霊界」に繋がっているという時点で、亡くなった人が現れることが可能なのだろう。


 実際、夢の中に、わたしが覚えていないはずのミヤドリードさまが現れたことがある。


 それだけではなく、「聖霊界」に繋がっているということは、そこにいる精霊族や神さまだって現れることができるのだ。


肉体(うつわ)に護られていない魂は無防備だ。だけど、まさか、あんな短時間で、影響を受けるなんて思わなかったよ。どれだけ、ラシアレスの中に「封印の聖女」が根付いちゃっているんだろう』


 一ヶ月に一度はお目にかかる気がするから、相当、わたしの夢の中がお気に入りだと思われる。


月一(つきいち)か……。死んだ人間が生者に関わるにはちょっと多すぎる頻度だね』


 やはり多いのか。

 そして、例の過去視を含めれば、もっとお会いしている気がする。


「なんで、そんなに現れるのでしょうか?」


 死者は生者に触れることはできない。


 できることは、夢で接触を図り、言葉を伝えるぐらいだ。


『それだけ、あの娘は自分の行動に後悔が多いんだろうね』


 モレナさまも具体的には分からないらしい。


『だけど、その業を自分の子孫にまで背負わせるのはちょっと違うと思うんだよ。ラシアレスも無視した方が良いんじゃないかな?』


 わざわざ現れるご先祖さまに対する子孫の対応としていかがなものかと思うけれど……。


「でも、夢の中に勝手に現れるので、防御のしようもないんですよ」


 しかも、一方的に言いたいことを言うし。


『まあ、一途な思い込みってある意味、最強に面倒だから、今のラシアレスの精神力じゃ跳ね除けられないのは仕方ないね』


 一時期、どうにかしようと思ったこともある。


 枕の下に絵を置いたりとか寝る前に本を読んだりと、自分で思いつく限りのことはやってみたのだ。


 だけど、彼女は現れる。


 わたしの努力など自分の前では無意味だと嘲笑うかのように微笑みながら。


 だから、最近では諦めつつあった。

 現れて、勝手なことを言うだけで、わたしには害がない。


 起きた直後に、「またあの夢か」と思うけれど、それだけだし、基本的に夢は忘れるようにできている。


 今のように思い出せているのが不思議なぐらいだ。


『無断侵入者については、色男に相談かな』

「雄也に?」

『あの色男は、他人の夢に入れるだろ? だから、いろいろと調べているし、ある程度、対策も知っている』


 なるほど。

 確かにそれは考えもしなかった。


 わたしは、夢のことを忘れやすいせいかもしれない。

 そして、夢の中で、思い出すのだ。


 少し前の夢で、こんなことがあったと。


『もしくは、誰かと一緒に寝なさい』

「ほあっ!?」


 まさか、また九十九を寝具にしろってことでしょうか!?


 いや、イチャイチャしなさいって言われなかっただけマシ?


『別に一緒に寝るのは坊やじゃなくても良いから。あの赤の姫さんたちでも良いんだよ。要は、強い他者の気配が近くにあれば、死者は迷うから』


 ある意味、死者って迷わせたらいけない気がするけど、それ以上に……。


「でも、以前、彼らが近くにいても、亡くなった方がわたしの夢の中に現れたことはありますよ?」


 ミヤドリードさまがその例だろう。


 雄也さんは、わたしの夢の中で彼女に会うために、九十九と一緒にわたしの傍で眠ったのだ。


 いや、それは起きてから気付いたのだけど。


 流石に始めからあの状態って、いろいろ無理です。

 眠れる気がしません。


『黄の姫さんは、もともとあの光の兄弟に会うつもりだっただろ? だけど、「封印の聖女」は違う。基本的にラシアレスの魂にしか興味がないから』

「え?」

『あの「封印の聖女」は、本当に自分の興味がないものには目もくれない。だから、他者の気配は邪魔で不快でしかないんだよ。ああ、黄の色狂いなら、その見た目だけなら、ディドナフに似てなくもないから、傍にいても、喜んで現れそうだけどね』


 情報国家イースターカクタスの王子殿下はあの美形な王子によく似ているらしい。


 そっか~。

 あのわたしの好みにドンピシャなお顔は、現実に存在するのか。


 まるで人間界のゲームに出てきた大好きだったキャラクターのような(かんばせ)のあの人は。


 六千年前とはいえ、あの方は、イースターカクタスの王族。


 今のイースターカクタスの王族に同じ血が流れているのだから、似ていても驚くことはない。


 でも、今のところ、近付く予定はないな。


 雄也さんもあの国を避けたがっているし、九十九も、その王子殿下に攫われかけていると聞いている。


 それだけで、あまり気は進まない。


 そして、やはりモレナさまはその王子殿下のことをお嫌いのようだ。


 恭哉兄ちゃんに対する「クソ坊主」よりも、もっと嫌悪を感じる。


 いや、寧ろ……?


『じゃあ、「封印の聖女」の影響がなくなったところで、恋バナを再開しようか?』


 わたしの思考を断つかのように、モレナさまはこれまでにないほど笑みを深めるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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