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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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神さまの愛憎劇

『ああ、実は、「聖女候補」って、近年にもう一人いたんだよ。ラシアレスより数年、先に生まれた濃くはないけど、橙の姫さんだった娘だ。そう言えば、あの娘も、逃げるように、人間界へ行ったっけ』


 モレナさまは不意に思い出したかのようにそう言った。


 そして、その人にも心当たりがある。


 セントポーリアの隣国にあるユーチャリスの王女殿下が、もう長い間、行方不明になっているって話だ。


 でも、その方も人間界に行っていたなんて知らなかった。


 わたしとの年齢差は確か5歳。


 それだけの年の差があるために、多分、会ってはいないと思うけど、この世界と人間界って広くて狭いから、分からない。


 実際、その王女さまと同じ年代である恭哉兄ちゃんと楓夜兄ちゃんに、わたしは会っているのだから。


『ラシアレスと顔立ちもちょっと似てたかな。興味があるなら、調べてごらん。ルキファナって娘については、1歳にも満たなかったから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだけど、「ユリアノ」については、12歳で()()()()()、姿絵はいくつか残っているはずだよ』


 顔立ちが似ている……。


 この世界の人たちは「祖神」の影響を受けるために、似ている顔の人がいたって、そこまで驚くべきことではない。


 そして、こちらも、逃げたのか。


 考えてみれば、その王女殿下は一人娘だった。

 言うなれば、王位継承権第一位。


 だから、例の王族たちによる5年間の他国滞在は、本来、許可が下りないはずだ。


 そうなると、ワカと同じように自分の意思で向かったってことになる。

 本来、10歳から行くはずの他国に12歳で行っているなら、そういうことだろう。


『それだけ、その左手首に宿っている神は執念深いんだよ。破壊の神なら、破壊だけしておけば良いのにさ。どうしても、僅かでも「導き」の気配があれば、惹かれてしまうらしいね』

「はあ……」


 本当に迷惑な話だ。


 神さま同士の恋愛沙汰は素直に神話の中だけで完結して欲しいのに、どうして、「祖神」が導きの女神というだけで、人間であるわたしたちまで目を付けられてしまうのか?


 そして、それらの話から、亡くなったルキファナさまも、人間界へ逃げたというユリアノさま? も、わたしと同じ導きの女神ディアグツォープさまが祖神である可能性が高い。


 この世界で生まれた人間にとって「祖神」とは魂の素。


 その祖神は魂に影響を与えるため、それが顔や体型などの外見的な特徴や、性格、性質などの内面的な特徴にも繋がるらしい。


 だから、人間の魂というのは、「神の欠片」や「神の残滓」などと神官たちの間では言われている。


 そして、破壊の神ナスカルシードさまと導きの女神ディアグツォープさまの微妙な関係は、恭哉兄ちゃんから聞いたことがある。


 その昔、破壊の神ナスカルシードさまは、導きの女神ディアグツォープさまに一目惚れをしたそうだ。


 ここまでは神にも人間にもよくある話。


 だが、破壊の神ナスカルシードさまは、自分の傍に彼女を置こうとして、かなり手厳しい反撃を食らったらしい。


 実は、導きの女神ディアグツォープさまはその穏やかな外見とは異なり、意外と好戦的らしく、そんな逸話が多かったりする。


 下手すれば、異性の神が近付くだけで、容赦のない攻撃を食らうこともあるらしい。


 神官たちには、貞節であると言われているが、同時に、それだけ男嫌いともされている。


 そんなところが、創造神アウェクエアさまに気に入られているようで、割と、創造神と導きの女神の話も多いそうだ。


 主に創造神に振り回される導きの女神ディアグツォープさまの苦労話だけど。


 因みに創造神アウェクエアさまに性別はなく、無性らしい。

 だから、その外見が男性にも女性にも見えてしまうのだろうね。


 そして、そんな導きの女神ディアグツォープさまの中で、唯一の例外である異性の神が、努力の神ティオフェさまなのである。


 その例外というのも、努力の神ティオフェさまが生まれた時、たまたま近くにいた導きの女神ディアグツォープさまが取り上げることになったらしく、その縁で、我が子のように溺愛していたとかなんとか?


 つまり、導きの女神ディアグツォープさまの方がかなり年上ってことだね。


 だけど、努力の神ティオフェさまは、そのために様々な神々から嫉妬を受けて、最終的には冤罪を着せられ、神の祠と呼ばれる罪人ならぬ、罪神たちの牢獄に封印されてしまうのだ。


 勿論、濡れ衣を晴らすために導きの女神ディアグツォープさまは頑張るのだが、時間が足りず、「忘却の刑」と呼ばれる刑が執行されてしまう。


 無実だというのに努力の神ティオフェさまは、()(さら)な状態にされ、近くで護ってくれていた導きの女神ディアグツォープさまのことを綺麗さっぱりと忘れてしまうのだ。


 そして、導きの女神ディアグツォープさまは自分にとって大事な存在を失ったために、失意の中、独り身を貫く決意をする。


 自分が異性に好意を持つことが、許されざる罪として。


 愛憎劇があるのは、神も人間も同じらしい。


 その二人の間に男女間の愛があったかは分からないけれど、神官たちの間では悲恋として伝えられている。


 神さまの恋愛につきものの、子の誕生は珍しく詠われていない二人なのに。


 個人的には、大事な人に忘れられたなら、そこで諦めず、再び傍にいる努力をするかなとはわたしは思っている。


 自分を完全に忘れてしまったような相手の傍にいるのはかなり辛いかもしれないけれど、それを実行してくれた人たちがいるのをわたしは知っているから。


『嫉妬深く髭面で無遠慮に乳や尻を触ろうとしてくるおっさんどもより、顔も良く自分に好意を隠さないけど適度に距離を保ってくれる若いツバメの方が女としては好ましいよね?』

「…………」


 わたしはなんとなく、明言を避ける。


 でも、若いツバメって……、人間界の表現じゃなかったっけ?

 しかも、女性から見て年下の愛人って意味だよね?


『そんでもって、破壊の神は髭面でもオッサンでもなかったけどさ。愛情表現がかなり曲がっていて、惚れた女の全てを手にして、自分の近くに置物として置きたい系の男なんだよね。だから、「神の欠片」を集めようとしているんだけどさ』

「……だよねと言われましても……」


 そんな神の趣味や性癖までは流石に知らない。


 でも、それなら確かに全力でお断りしたくなるのは分かる。


『あれあれ? クソ坊主から聞いていない? これって、かなり大事な部分なのに』

「聞いてないですよ」


 わたしの左手に宿っている神が、破壊の神ナスカルシードさまというのは聞かされている。


 実際、わたしが当人、いや当神から聞き出したらしいけど、その時は仮死状態だったためか、よく覚えていない。


 そして、偶然にもあの紅い髪のライトの中にいるという神さまも、その破壊の神ナスカルシードさまだってことは知っている。


 でも、そっちについても、どこで知ったっけ?


 神さまが絡むと記憶の混濁がいつも以上に激しくて、嫌になるね。


『貴女に宿っているのはごく一部でしかない。あの紫の坊やの中にいるのも一部ではあるけれど、ラシアレスよりはずっと多いかな』


 モレナさまは補足するかのようにそう口にする。


『「封印の聖女」の封印を解き放って、その意識が流れ込んだ状態だからね。人間の身では相当、辛いことだと思うよ。今も苛まれているんじゃないかな。まあ、親の因果が子に報いってやつだけどさ』


 そんな言葉で片付けて良いものだろうか?


 アレはライトの意思ではなく、ライトの父親が勝手にやったことだ。

 しかも、そのことで父親が逆恨みしているとも聞いたことがある。


『破壊の神を利用しようとした「魂響族(こんきょうぞく)」の一部の阿呆が、当時の赤の姫さんを唆して、神の器となるものを創り上げた。そして、破壊の神の意識を降臨させ、受肉に近い形でその器へと送り込んだ』


 その話も一部を知っていると言えなくもない。


 魔力が強すぎて魔法が使えないと悩んでいた当時の魔法国家の王女を、言葉巧みに唆して、水差しに魔力を吸わせる話。


 その精霊族が、「魂響族(こんきょうぞく)」だったのか。


 結果として、王女は魔法が使えるようになったけれど、魔法国家の王族としてはそこまで強くない魔力になってしまう。


 そして、それが後の世に「大いなる災い」と呼ばれる天災……、いや、神災へと繋がってしまうのだ。


『破壊の神が人界へ降り立つことは、この世界の浄化を意味する。その「魂響族(こんきょうぞく)」の目的はそれだった。地上から人類を全て消し去り、「神扉(しんび)」を開けて、精霊族たちの新たな世界を創る。正気じゃないよね』


 本当にそう思う。


 結果として、その精霊族がどうなったかは知らない。


 でも、「大いなる災い」は「聖女」と呼ばれる存在によって封印され、人界は表面上の平和を保った。


『「封印の聖女」によって封印されたのは、その神の意識だけで、意識(どうりょく)を失った器は、この世界に還った。あの紫の坊やの中にあるのは、その意識。そして、ラシアレスの中にいるのは、世界に溶け込み切れなかった神の意識(妄執)の一部』


 次々に繋がっていく話と明かされていく事実。

 これ、わたしは全て覚えていられるだろうか?


 切実に、脳に糖分が欲しい。


『ワタシも欲しいな』


 モレナさまが先ほどまでわたしが座っていた場所に置いてある籠をじっと見つめた。


 これは、わたしから言い出せってことだろうね。


「少し、お茶にしましょうか」


 わたしがそうお誘いすると、モレナさまはにっこりと笑ってくれたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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