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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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確定された未来は

 わたしの未来は不確定で危ういと、モレナさまはそう言った。


 でも、本来は、未来ってそんなものじゃないのかな?


 どれだけ予測を立てても、思わぬ方に転がっていく。

 脚本(シナリオ)どおりにいかないのが人生。


 少なくとも、わたしはそう思っている。


『まず。誤解があるようだから言っておくけど、確定された未来というものは変えられる』

「え!?」


 それは、意外なものだった。

 でも、それって逆に確定されてないってことじゃないのかな?


『考えてもみなよ。食えば腹を壊すと分かっている料理を食う阿呆が世の中にどれだけいる?』

「身分が高い方からの(めい)……いえ、お願いなら、ある程度、やむを得ないかと」


 なんとなく、魔法国家の王女殿下たちを思い出した。


 他意はない、他意は。

 彼女たちの料理は、ちょっと独創的で独自路線で独特な味と効果があるだけだ。


 だから、他意はない。


『でも、普通は食わない』

「……そうですね」


 できるなら、ご遠慮願いたい。

 具体的に思い出せてしまうナニかを頭に残しつつ、そう答える。


『その時点で、その人間の腹の運命は変わる』


 腹の運命とはなかなか聞かない言葉だ。


『誤解の原因となるのはさ。その料理を回避しても、結局、別の料理で腹を壊すことがあるからだよ。だから、その人の腹はどんなに回避しても、腹を壊す定めにあると考えられちゃうわけだね』


 タイムトラベルものでたまに見る「歴史の強制力」ってやつの考え方かな?


 どんなに歴史を改変しようとしても、微妙に変わるだけで、その大筋は変わらないって話だった。


 その逆で、物語の登場人物たちが奮闘し、何の影響もなく話が進むこともある。

 それどころか、その主人公の人生においては大筋が変わってしまうものだってあった。


 人間界で、わたしが生まれる以前から放映されている国民的アニメの未来から来た猫型ロボットがその代表例だろう。


 初期設定過ぎて忘れがちだが、あの話って、途中で主人公の結婚相手が変わってしまっているのだ。


 わたしは原作漫画の第一話を読んで、かなり驚いた覚えがある。


 しかも、改変を勧めたのは、その主人公の未来からきた子孫によるものだったというのが、衝撃的すぎたのだ。


 しかも、その子孫の言い分は、その結婚相手が変わっても、次世代がその結婚相手の予定だった子の子供と結婚するために、未来から来た子孫にとっては血筋としては影響ないという話だったが、そのあまりにも無茶すぎる考え方にゾッとしたものである。


 次世代同士の結婚が変わった時点で、既に遺伝子的には大分変っているのに。


『いやいや、そこは架空の話に頭を悩ませても仕方なくない?』

「分かっているんですけど!!」


 わたしが初めて触れた歴史改変の話がそれだったから、余計に引き摺っているのかもしれない。


『ただ現実には過去改変を認識するのは難しい。いや、そもそも、改変自体が本当にあったかも分からない。少なくとも、その世界の正史は一つだけだから』


 そう言って、モレナさまはわたしを見て、とんでもないことを口にする。


『即ち、赤の姫さんたちの料理で腹を壊した歴史は無事に回避したけど、自分の料理で腹を壊してしまった歴史が進んでいく世界』

「例えが酷過ぎます!!」


 思わずそう突っ込んでいた。


『光の兄弟の料理で腹を壊す可能性はほぼないからね』

「それはそうですけど!!」


 でも、自分の料理で腹を壊した歴史が進んでいくのもちょっと嫌だ。


『赤の姫さんたちの料理で腹を壊せば、姫さんたちの心理や光の兄弟たちの警戒心も変わってくる。でも、ラシアレス自身の料理で腹を壊せば、光の兄弟たちの警戒心が強まるだけで、赤の姫さんたちには影響は少ない』

「その話はまだ続くんですね」


 さらにその歴史は続けられるらしい。


『自分の料理で腹を壊せば、坊やは貴女に料理をさせなくなるだろうし、色男もやんわりと遠ざけようとするだろうね。その結果、ラシアレスの未来の夫は貴女の手料理を食う機会が永遠に失われる』

「話が一気に飛んだ!?」


 これも一種のバタフライ効果ってやつだろうか?

 小さな羽ばたきがやがて大きな気候変動に繋がるとかそんな話だった気がする。


 そして、やっぱりその例えは酷いままだった。


 でも、同時に悔しいが納得できてしまうのも事実だ。


 一度でも、自分の料理でお腹を壊してしまえば、九十九も雄也さんも、それとなく、わたしに料理をさせなくなるだろう。


 わたしの作った料理の味が不味くても、自分の身体に影響はないが、体調を崩せばそれは「害」と見なされるだろう。


 だが、一度目の失敗で取り上げず、もっと練習ぐらいさせてくれとは言いたくなる。


『この話を聞いて、貴女はどう思った?』

「料理をもっと練習する必要があると感じました」


 今のところ、身体が不調になるほどの料理は出来上がっていない。


 だが、この先は分からないのだ。


 そして、わざわざこんな例を出したと言うことは、今後、そんな可能性があるということだろう。


 それが遠い未来か、明日のことかは分からないけれど。


『そして、この時点で、ワタシに視える未来は変化する』

「え……?」

『きっかけは些細なこと。でも、それによって今、貴女の意識が変わったんだ。それによって訪れる未来も少しだけ別の方向へ向かうことになる』


 モレナさまはわたしに顔を向ける。


『過去改変は神の領域だけど、未来を変化させるのは、自身の強い意思』


 それは、神さまなら、()()()()()()()()()と言うことだろうか?


『神たちはこの世界の時の流れと別の世界にいるんだ。人間の時間のように進むこともあれば、遡ることすらあるとも言われている。だから、創造神にとって、『救いの神子』の話は、()()()()()()()()()()()()()()()ワタシは驚かないよ』


 それでも、そこは驚くことだろう。

 どんな手段を使えば、気の遠くなるほど昔の話が、まだ見ぬ未来の話となるのか?


 いや、時の流れ方が違うって言うのはそんな話になるのか。


『それだけ神の世界は、人間の世界と違いすぎるんだ。神が人界を覗くたびに、それは以前覗いた時よりもずっと未来だったり、もっと過去だったりすると言われている』


 えっと、文字通り次元の違う世界って話で良いのだろうか?


 そう言えば、平面世界である二次元、物理空間である三次元に対し、四次元は時空間だという話をどこかで聞いたような?


『まあ、本当のことは分からないよ。細かいこともね。ワタシは神ではないのだから』


 モレナさまはそう言いながら意味深な笑みを零す。


『それでも、ラシアレスの決心が、自身の未来に少しだけ影響を及ぼしたことは分かってもらえるかい?』


 それはなんとなく分かる。


 自分の料理でお腹を壊す未来を全力回避するために練習を重ねる。


 確かにそれでお腹を壊す可能性がゼロになるわけではないけれど、自分が努力をすることでリスク回避はできるし、それを見ている周囲の人たちの意識も変化する。


 初期に料理を作ってお腹を壊していたら流石に料理は止めろと言われるだろうが、お腹を壊す前に、何回かの成功実績を積み重ねていれば、その時がたまたま失敗しただけという認識に変わるだろう。


 まあ、それでも、お腹を壊せば結局料理禁止令は出そうな気がするけれど、頭ごなしに取り上げられる形ではない気がする。


『壊すことを避けるために、始めから一切の料理をしないという手もあるよ。その場合、ラシアレスの未来の夫は結局、手料理を食えないままになるかもしれないけど、もしかしたら、久しぶりのラシアレスの手料理で腹を壊す犠牲者になる可能性もある』

「やっぱり、例えが酷過ぎます!!」


 何度か料理はしたけれど、まだ犠牲者は出してない!!


 それに、人間界なら料理は普通に食べられるものができていた。

 悪いのは、この世界の料理法則だ!!


 大体、未来の夫なんて……、夫なんて?


 ……いるの?


()()()

「ふぎゃ!?」


 なんかあっさり口にされた。


『まあ貴女がこのまま、()()()()()()だけど』

「ふぐおっ!?」


 さらに衝撃的なことを言われた。


『ワタシには、貴女が進もうとする未来がいくつか視えるんだけど、笑えるぐらい死ぬ確率が高いんだよね』


 いや、それ、笑えませんから。


『どうしても、貴女は自分が大事にしている人たちが死ぬのは見たくないらしい』

「…………」


 そう言われては押し黙るしかなかった。


 それは、わたしが死を選ばなければ、大事な人たちが死ぬってこと?


 しかも複数形。

 自分一人と複数の人間。


 (はかり)に掛けるなら……?


『違うよ、ラシアレス』


 だが、それをモレナさまは否定する。


『自分一人と世界。果たして、貴女はどちらを選ぶ? ……って話さ』


 さらにそんな選択を提示したのだった。

国民的アニメの設定は、個人的にかなり衝撃的でした。

しかも、結婚相手が変わったことによって、次世代の子供の数が変わっているとか。

つまり、生まれなかった子もいるということです。

それでも良しと思えるあの子孫が素直に怖いと思ったものでした。


その部分を気にしなければ、子供の頃から大変好きな作品ではあります。

時間旅行できるマシンはいろいろ怖いので要りませんが、どこでも行けるドアは凄く欲しい。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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