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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 暗闇の導き編 ~

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創造神の彫像

『さあ、ワタシを存分に楽しませてくれるかい? 「導きの聖女」ラシアレス』


 モレナさまはそう言いながら片手を広げる。


 でも、楽しませてくれるか? と問われても、どうすればいいのか分からない。


『なあに、今からこのワタシが様々なことを一方的に話すから、それに反応してくれるだけで良いんだよ』

「一方的に?」


 しかも、様々ってことは、色々な話題があるってことか。


『そう。貴女がワタシの言葉に口を挟みたければ挟んでも良いし、黙って思考したままでも構わない』

「それは、わたしの反応が見たいだけってことですか?」

『そう捉えてくれても良いけど、貴女の反応だけでなく話を聞いたことによる思考の変化とか、そのことで()()()()()をワタシは知りたいだけなんだ』


 そう言いながら、モレナさまはわたしを見る。


 いや、わたしの……()()を見ている?

 なんとなく、モレナさまは少しだけ視点がずれて、別の所を見ている気がする。


 背後霊的なナニかが視えているのだろうか?


 まあ、占術師を自ら名乗らなくても、占術師と同じような能力を持っているこの方なら、それでも不思議ではないのか。


 できれば、霊とかそういったモノには、神さま以上に関わりたくはないのだけど。


『まず、貴女たちの誤解から先に解いてこうか』

「誤解……ですか?」


 なんだろう?

 それも、わたし……「たち」?


『あの古書店にあった創造神の彫像の方は、ワタシではないよ』

「え……?」


 不意に告げられた言葉に、理解が追い付かなかった。


 あの創造神の彫像は、この方が設置したわけではない?


『「今代の聖女」なら承知だと思うけれど、あそこまで神を生き写したかのような影像(えいぞう)を、それも、彫像を作るって、普通の人間には無理とは思わなかったかい?』


 確かに。

 姿絵すら本物の神々の姿を知らない人間たちには描くことができない。


 それにも関わらず、あの場所にあった創造神の彫像は、まさに神を模した神像だったと思う。


 いや、それ以上に、創造神の姿を知らないはずのわたしが、一目見て、あの姿は創造神以外、あり得ないと思いこんでしまうほどのものだったのだ。


『あれはね。「神力」がないと視ることができない代物なんだよ

「え? でも……」


 あの時、一緒にいた雄也さんにも視えていたはずだ。


 記憶が混在して、どこまでが夢で、どこまでが現実かを思い出せないが、雄也さんとあの彫像を視たところまでは記憶にある。


 そして、雄也さんには「神力」はなかったはずなのに、何故?


『あの色男は、あの時、「神力」に……、いや、「神力」所持者に触れていただろう? もしくは、長い時間一緒にいたか。そのどちらかに該当してないかい?』


 この場合の「神力」所持者って、どう考えても、わたしのことですよね?


 そして、「あの色男」というのは、あの時一緒にいた雄也さんのこと……、なのかな?


 そうなると、先ほど言われた「坊や」の方は、やはり、九十九のことだったんだろう。


 改めて思い起こせば、わたしは確かに雄也さんと手を繋いでいた覚えがあった。


 それがなければ、雄也さんには視えなかった?


『人類で言う魔力の感応症のようなもんだよ。「神力」所持者に近しいと、一時的で僅かなものだけど、「神力」が身体に移るんだ。まあ、どうしたって、片方にしか「神力」がないから、一方的なモンになるけどね』


 知らなかった。

 「神力」って、少しだけ移るのか。


 そして、魔力の感応症との違いは、お互いに影響し合うわけではないという点だろう。


 そうなると、感応症よりも、体内魔気での「印付け(マーキング)」のように、一方的に「神力」を持たない相手を染めてしまうという方が近いかもしれない。


「でも、そうなると、あの彫像は何だったのでしょうか?」

『ああ、あれ? 気になっちゃうよね~。ワタシも正直、あんなところに()()()()()()から驚いたんだよ』


 勝手に……、って……。


 でも、雄也さんが午前中に行った時にはなかったと言っていたのだから、本当に突然、現れたのかもしれない。


『アレは本物の神物だよ。どこかの創造神がいつものようにちょっと気まぐれを起こしてね。あの場所に置いたんだ』

「どこかの創造神って……」


 人間界なら、「創造神」という神さまは、宗教や神話ごとにいたけれど、この世界では、その地位にある神さまはたった一人しかいない。


『創造神アウェクエア。あの怠惰でやる気のない神の像は、この世界で気まぐれに現れるって、あのクソ坊主からも聞いているだろ?』


 多分、「クソ坊主」は、恭哉兄ちゃんのことだと思うけど……。


 え?

 なんで、そんな名称で呼ぶの?


 そんな成分、どこにも……ないよね?


「何故に、大神官さまが『クソ坊主』なのでしょうか?」


 あまりにも気になったので、思わず、尋ねてしまった。


『あ~、()()()()()()()()()()()()()。まあ、良い。それぐらいは答えてあげよう。「坊主」たちの(ちょう)だから、「クソ坊主」って呼んでやってるんだよ。「(だい)坊主」じゃ言いにくいだろ?』


 モレナさまは胸を張って当然のように言っているが、結構、酷い謂われだった。


 恐らく、「坊主」というのは神官たちのことだと思う。

 そして、恭哉兄ちゃんはその頂点の「大神官」。


 だが、その呼称は、言いにくい以前の問題だと思うのはわたしだけだろうか?

 まるで「海坊主」みたいじゃないか。


 もしかしなくても、神官嫌いなのかな?


『まあ、今回はその創造神の気まぐれってやつが、あの古書店に現れただけのことだよ』

「何故に?」


 その「創造神の気まぐれ」というのは、恭哉兄ちゃんから聞いたことはある。


 しかし、古書店に現れるってなんか、不思議。


 人間界で言えば、古本屋に行ったら、いきなり「神の子」や「聖母」の像などが現れたようなものだ。


 場違いにも程があるだろう。


『「今代の聖女」との接触狙いだね。運よく、貴女がご神像に触れていたら、「聖女」として、「神力」がかなり強まっただろう。もしくは、いつも傍にいる「色男」や「坊や」が代わりに触れていたら、彼らに加護を押し付けるってとこかな』


 それにしても、加護を押し付けとか、凄いことを言うな~。

 しかも、創造神なのに。


「わたしに加護を与えるというわけではないのですね」

『ラシアレスには既に母親繋がりで、創造神は縁付いているからね。母親ほど強い加護ではなくても、加護はあるよ。意外と強運だと思ったことはないかい? 何度も死ぬような目に遭っても生きているだろ? もしくは、結果オーライだったこともあるんじゃないかい?』


 その台詞で、これまでの数々のことが思い出される。


 うん。

 わたしは、創造神に感謝した方が良いのかもしれない。


 遠い目になりながら、そう思った。


 確かに、これまで、何度か死にそうな目にあっても、なんとか生き延びている。


「そうなると、あの像には触れていた方が良かったのでしょうか?」


 あの場で雄也さんと話して、結局、近付かないことにしたのだ。


 触れていた方が良かったのならば、ちょっと勿体ないことをしたかもしれない。


『ん~? 神の加護って、早い話、退屈しのぎのための観察対象になるってことなんだよね。しかも、創造神は人生を狂わせる系統の神。さらに、強運だけでなく試練と言う名の悪運を与える神でもあるから、普通は嫌じゃないかな』


 あれ?

 先ほど、わたしにはその神のご加護があるって言いませんでしたか?


 そんなわたしの考えを読んだのか、モレナさまはクスリと意味深な笑みを零す。


『いやいや、創造神の縁や加護に関係なく、貴女は無謀な選択肢を平気で選んじゃうからね。多分、何の神の加護があっても関係ないよ。創造神の加護によって、ちょっとばかり他者より死にやすい場面が多いのに、意外と他者よりも死ににくいって差ぐらい? 誤差、誤差』


 それって、十分大きな違いだと思うのだけど……。


『結果として、生きているから良いんじゃないの? えっと……、人間界で言えば、「死中に活を求める」ってやつ?』

「そこまで、絶望的な状況を生き抜いていた覚えはないのですが……」


 それって、歴史漫画でよく見る言葉ではないでしょうか?


『カルセオラリア城は間違いなく、その言葉が相応しくないかい? 本来、崩れ落ちている建物の、さらに地下へ潜るのはかなり無謀なことだとワタシですら思うことだよ?』


 カルセオラリア城が崩壊している時のことを言っている。


 あれは、確かに無謀な行いだったとは思うけれど、それは、雄也さんの手を振り払い、さらに地下へウィルクス王子殿下を探そうとした所までだ。


 それ以降、わたしを追いかけてくれた雄也さんが、再び合流してからの行動については、そこまで無謀だったとは思っていない。


 あの時は、確かに上からいろいろな物が降ってきていたけど、地上に向かうよりも脱出経路がある地下へ向かう方が生き残る確率は高かった。


 尤も、あれは転移門のことが頭にあった雄也さんが、ある程度、指示してくれたということもあったのだけど。


『まあ、そんな風に周りを巻き込むぐらいの強い思い(激しい思い込み)がなければ、貴女は、「導きの聖女」になることなんてなかったか』


 モレナさまはそう肩を竦めたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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