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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 過去との対峙編 ~

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1600/2806

他の女性には言わない

祝・1600話!

 ――――運命の女神は勇者に味方する


 ――――今代の聖女は、光がなければ神域に至らない


 ――――やがて聖女は左手に宿る闇に呑まれ、世界は影に覆われる


 ――――光を得た聖女が希望を歌う時、この世界は導かれるだろう


 オレがあの魔石売りの女から伝えられた言葉を口にした時、最初の一文で、栞の顔色が変わった。


 当然だ。

 栞が、記憶を封印する前も、再会後も、よく口にしている言葉だったから。


 この時点で偶然だとは思えないだろう。


 さらに言葉を続けると、栞は自分の左手首を見た。

 その細い手首についている「御守り(アミュレット)」の銀の鎖が微かに揺れた。


「左手に、宿る闇に呑まれ……?」


 栞は蒼褪めたまま、そう呟いた。


 オレは昔、「水鏡族」という名の精霊族の力を借りて、その左手首から染み出る黒いモノを見たことがある。


 あれが「神のご執心」という名の呪いだと。


 あの黒いモノがいつか、栞の身体や心まで蝕んで、魂まで染め上げてしまうということまで聞いている。


 それは大神官によって抑えられることはできたが、進行を防ぐことしかできていないのだとも。


 栞が不安に思うのも当然だ。

 だから、オレは栞の手に触れた。


「大丈夫だ」

「ふ?」


 固くなっていた左手が少しだけ緩んだのを確認して……。


「根拠なく言ってるわけじゃねえぞ」


 オレはさらに強く握る。


「『聖女』が『闇に呑まれた』後も、言葉が続いている。だから、その『聖女』にはちゃんと未来がある」

「…………」


 その前の「光」とか「神域」も気になるが、それよりもこちらの方だ。


 少なくとも、その「神言」はもっと続いていた。


「『今代』の『聖女の卵(聖女候補)』は現時点で2人もいるわけですが……」


 栞がそんな反論をするが……。


「それなら、『聖女の卵』の護衛にわざわざ伝える必要はねえだろ?」

「ぬう」


 わざわざオレに伝えたことに意味があるのだろう。

 そして、その役目を兄貴ではなくオレに選んだことも。


 まあ、オレに伝われば、必然的に兄貴にも伝わることまで予測されている気もするが。


 それに、もう一人の「聖女の卵」は、栞以上に変則的(イレギュラー)な存在だと聞いている。


 さらに言えば、歌は上手いが、「希望を歌う」ような人物でもない。

 あのもう一人の「聖女の卵」は、分かりやすく若宮の類似品だ。


 だから、自分が敵対する相手に向けて「絶望を(うた)う」イメージなら存分に湧き出てくる。


 何より最後の一文にある「導き」は、現状、栞を差すことが多い。

 当人は否定しているが、「導きの聖女」と呼ばれるほどだ。


 だから、これらは間違いなく目の前にいる「聖女の卵(高田栞)」を意味しているとオレは確信している。


 だが、当人にそこまで言う気もない。


 栞は「聖女」を望まない。

 周囲がどれだけ認めて望んでも。


 だから、オレは別の言葉を口にする。


「それに万が一、お前が闇に呑まれるなら、その先までちゃんと付き合ってやるよ」


 みすみす誰かの手に渡すものか。


「ほへ?」


 だが、栞は奇妙な声を出す。


 ん?

 伝わらなかったか?


「オレも一緒にその闇に呑まれてやる」


 それがどんな形になるかは分からない。


 だが、栞のいない世界に価値があるとはどうしても、今のオレには思えなかったのだ。


 そんなオレの気持ちなど、全く知りもしない残念な主人は……。


「ほげええええええええええええっ!?」


 何故か雄叫びを放った後、そのまま、机に突っ伏した。


 そして、そのまま動かない。

 いや、微かに震えている?


「し、栞……?」


 恐る恐る声をかける。


 オレは何か変なことを言ったか?


「命大事に!!」

「は……?」


 いきなりそんなことを叫びながら勢いよく顔を上げる。


「安全第一!!」


 さらに続けられるが、そんな言葉は頭に入ってこない。


 それだけ、顔を真っ赤にして目を潤ませている栞は凶悪な兵器なのだ。


「ガンガンいっちゃダメ!!」

「いや、そこは『いこうぜ』じゃないのか?」


 その言葉で急に頭が冷えて、思わずそんな突っ込みをしていた。


 聞き覚えのある言葉が少しでも変わると微妙に気持ちが悪いよな?


 いや、このタイミングと表情で「いこうぜ」とか言われたら、逆に誘われているとしか思えないが。


「栞……。今の流れではオレは理解できん」

「九十九はおかしい!!」

「待てこら」


 何がどうすればそんな酷い結論に結び付くのか?

 確かに栞ほど語彙はないことは認めるけれど、それでも、今の流れはおかしいよな?


「えっと、九十九の言葉はおかしい!!」

「今のお前ほどではない」


 そして、そんな酷い謂れを受ける覚えもない。


「付き合うとか、一緒に闇に呑まれるとか簡単に言わないでよ」

「……ああ」


 それで理解した。

 そして、栞が何も理解してくれていないことも。


「あのな、栞」

「何?」


 少し刺々しい声。

 よく分からんが、警戒されていることは分かった。


「オレが『ゆめの郷』で言ったことを覚えているか?」

「ふおっ!?」


 さらに叫ばれた。


 まさか、忘れているのか?

 オレの方が叫びてえ。


「えっと、あの『重い誓い』のことだよね?」

「重いって言うな」


 良かった。

 覚えてはいるようだ。


 あれだけ思いを込めた誓いをあっさりと忘れられてしまうのは、流石にオレの扱いが軽いにも程があるからな。


「あの時、オレは言ったよな? 『最期の時まで守り抜く』って」


 それならば、先ほどの反応はおかしくねえか?

 それだけの覚悟はしているって伝えたよな?


「言ったけど、それに対するわたしの言葉の方は覚えている?」


 だが、オレの言葉に対して、さらに言葉が重ねられる。


「『わたしを庇って命を無駄にすることだけは絶対にしないでね』ってわたしは答えたはずだよ?」


 言っていたな。

 だが、それを聞き入れる気はない。


 それに栞を庇うことは命を無駄にすることとは全く違う。

 寧ろ、命の使い方としては最上だろう。


「駄目だ。その部分を理解してくれていない」


 オレの表情で察してくれたようだが、あまり嬉しくはない。


 そして、その台詞はオレも同じだ。

 そこだけは譲れないことを理解してくれない。


「後ね、九十九」

「あ?」

「他の女性に、さっきみたいなことを言っちゃ駄目だよ?」


 まるで、聞き分けのない小さな子供を窘めるような言い方だった。


「お前以外に言うはずがないだろう?」


 目の前の机がかなり激しく揺れて、傾きかける。

 乗っていた茶器が音を立てて弾んだのだから、相当な打撃だったことだろう。


 いや、それよりも……。


「大丈夫か!?」


 栞がかなり強く頭を打ち付けたことだけは分かった。


 ヘッドバットをするにしても、かなり強すぎる一撃だ。


「うぐぐぐ……」


 中ボスのような呻き声を口にしながらも顔を上げた栞は、かなり赤かった。


 赤い顔の中でも、打ち付けたと思われる額が痛々しいほどに紅かった。


「ほら、中ボス。顔をこちらに向けろ」

「ちゅ、中ボス!?」

「中ボスでご不満なら、小さな(little )上司(boss)か?」

「り、リトル!? なんとなく格下げしてない!?」


 単に「小柄(small)」と言わずに「可愛い(little)」と言った部分に少しぐらい反応して欲しいもんだな。


 いや、そこに気付くのなら「高田栞(my master)」ではない気がするけどな。

 そう思いつつも、栞の額に治癒魔法を施す。


 だが、額の赤みは引いたが、顔の赤みは引かない。


「熱があるか?」

「ないよ」


 栞はそう言うが、その顔の赤さは熱がある時のような気がする。


 そう言えば、さっきから目が潤んでいた気もするな。

 栞が可愛いなどと浮かれている場合ではなかった。


 主人の体調不良に気付かないなど、護衛失格じゃねえか。


「寝るか?」


 オレが自分の座っている寝台を軽く叩くと、栞の顔から赤みは引かないが、かなり奇妙な顔をされた。


 これはどういう表情なのだ?

 目は恨めしく見えるのだけど、でも、口元は笑っているような?


「えっと、寝ちゃうとこれ以上話が聞けそうにないから寝ない」

「話ならいつでもできる」


 栞の体調以上に優先すべき話はない。


 それに出会った2人のうち重要なのは「占術師」の方だ。

 もう一人の女については、記憶から消したい。


「九十九は本当に真面目で頑固だよね」

「お前ほどではない」


 真面目にしても、頑固にしても、オレは人並だ。


 そこで赤い顔してふらふらしている女ほどではない、絶対に。


「オレの手で、強制的に布団に突っ込まれたくなければ、自分で寝れ」

「まだ日は高いんだけどな~」


 そう言いながらも、栞は素直に布団に収まってくれたのだった。

毎日投稿を続けた結果、もう1600話となりました。

それを記念すべく、予定では、もう少し甘くなるはずだったのに、ままなりません。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではいいねをくださった方々と、何より、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげです。


心から感謝しております。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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