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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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少年は少年と出会う

 オレが知る限り、この3人組が所属していそうな組織に心当たりは一つしかなかった。


 真っ黒い服で全身を統一し、人目から逃れて行動する隠密のような集団。


 話に聞いたことはある。

 だが、その存在は謎に包まれていた。


「ミラージュ……」


 そのたった一言で、3人組が分かりやすく顔色を変える。

 隠密には程遠い反応だけど、大当たりだったようだな。


『てめえ……』


 その中で一番、ガラの悪い女が分かりやすく、牙を剥く。


「その反応だけで十分だ」

「え? ど~ゆ~こと?」


 すぐ傍で、彼女のどこかのんきな声が聞こえてきたが、今は無視して、オレはようやく行動に出ることにした。


 目晦ましを放った上で、その間に3人を無力化する。


 相手が油断していたこともあるが、時間にして10秒もかかっていないだろう。


 こう言っちゃあ悪いが、正直、かなり楽だった。

 3人もいるんだから、分散するとかもっと他に対処だってできたはずなのに。


 同じ場所で固まっていたら、オレにとっては一つの的にしかならない。


「もう終わったぞ」


 その場で動けるのはオレと彼女だけとなっている。


 例の空中に浮いていた3人組は、地面に転がした。

 少し動いているから息はあるだろう。


 もっともアレぐらいで簡単に死なれても困るけどな。


 もしかしなくても、この後に死んだ方がマシと言う目に遭うかもしれないが、その辺りはオレの仕事じゃない。


 敵に遭遇した後の取扱いまでは任されてはいないんだ。


 そういった後始末が得意なのは別の人間である。

 後は、そちらに任せることにした。


「え? 何がどうなったの?」


 状況を見ていない彼女は、呆然としていた。


「その前に……」


 これでようやく、隠れているヤツと話ができそうだ。


 これだけ手駒をあっさりと減らされても黙って見ているだけ。


 そんな不気味な存在が、姿を見せない状態を維持しているのは油断を誘っているのか、単なる傍観かこのままでは分からんからな。


「いるんだろ? そこに……」

「へ? 誰もいないよ?」


 あの存在は、彼女には見えていないらしい。


 それは仕方がないだろう。

 だが、オレにははっきりと見えていた。


「いるんだよ。黒い服着たヤローが1人」


 ずっと高みの見物を決め込んでいたヤツが。


「え? そんな人、見えないよ」


 オレはそこを睨み続ける。


 それでも出てこない気なら、なんとか引きずり出すつもりだったが、相手はあっさりとオレの言葉に応えた。


『思ったより勘がいいようだな』


 その気配から、同じくらいの年齢だと思ったが、顔は少し年上に見える。


 アレが本当の顔かは分からんけどな。

 変装をしている可能性もある。


 紅い髪に紫の鋭い瞳。

 コスプレ向きの派手な顔だと思ったのが、コイツの第一印象だった。


「外人?」


 紅い髪のそいつの外見を見るなり高田はこう言った。

 ……コスプレよりそっちかよ。


『それもあながちはずれてはいないがな』


 ふっと苦い笑いを浮かべながら、ヤツは答える。


 ……キザなヤローだ。

 オレとは絶対、気が合わないな。


「あんたが、こいつらの言ってた『あの御方』なのか?」

『だったらどうする?』

「こいつとオレを家に帰してもらいたいところだな」

『断る。簡単に帰すつもりならばこんな回りくどいことはしない』

「だろうな」


 さて、どうするか。

 思ったより面倒なことになりそうだ。


 しかし、姿を隠されたままの方がもっと手に負えなくなった可能性がある。

 だから、ここで声をかけないという選択肢はなかった。


「あなた……、どうしてわたしたちを?」


 目の前で見ても、信じられないことが連続で起きているはずなのに、彼女は気丈にも男に向かって声をかけた。


『「わたしたち」というのは正確ではないな。俺は、あんただけで良かったんだから』

「へ?」

『こいつらからも聞いていただろ? 俺は、こっちの男には用はない。あんたさえ手に入れば問題なかったんだ』


 彼女に向かって声を掛けるその男の姿に、どこか妙な苛立ちを覚えるのは何故だろうか?


『それなのに……』


 紅い髪の男は、オレに向かって穏やかでない種類の視線を送る。


「悪かったな。邪魔したようで」


 そして、それも仕方ないよな。

 同じ日に行動しようとしたんだから。


 状況を見た限りでは、オレの方は悪くない方向に転がっている。

 ヤツはそれも気に食わないんだろう。


 紅い髪の男はスッと目を細めて、無感情なまま口にする。


『ああ悪かったさ。あんたさえいなければもっと楽に事は運んだだろうに。わざわざ俺が出てくることになろうとは……』

「よく言うぜ。ずっとそこで見てたくせに」


 そこまで、あの3人を信用できなかったのだろう。


 オレが邪魔をしなくても、あの3人では巧くいったとは思えないけれど。


「え? 見てたの?」

「おお。ずっとそこで見てたぞ」

『ほぅ。それも気づいていたか』

「こいつほど鈍くもないんでね」


 本当は彼女が鈍いというわけではないんだが。


 普通の人間に見えないものを視ろと言っても簡単にできるわけがない。


「失礼な。大体、姿も見えないのに分かるわけ……」


 そう正論を言いかけて、彼女は何かに気付く。


「なんで九十九には分かったの?」

「お前ほど鈍くないからだろ」


 そんなオレたちの問答を見て……。


『おいおい。あんたはどこまでとぼける気だ?』


 姿を見せた以上、黙ったままではいないと思ったが、やっぱり、余計なことを言い出してきやがった。


「何のことだよ」

『確かにその娘はこちらも呆れるほど鈍いが、そうそう誤魔化しきれるもんでもないだろ? 俺が一言でも答えを言えば、それで先ほどから不自然なまでにあんたが隠そうとしていることは全部バレちまうぞ』


 うるせ~よ。

 オレにはオレの事情があるんだ。


「オレは何も……」

『いいや。あんたは隠そうとしてるね。そうでなければわざわざ目くらましを使う必要もないだろ?』


 そんなこと、お前に言われなくても分かってるよ。

 ちゃんと自覚もあるんだ。


 それでも、できるなら先延ばししたい。

 ただ、それだけのことなんだよ。


「目くらましってなんですか?」

『あんたは不思議に思わなかったのか? あの光を』


 ヤツは明らかに誘導を始めた。


「光……? そういえば……、さっき、九十九の近くで光ったような気はするけど……」

『「光ったような気がする」? あんた、本当にのんきだな』

「のんきって?」

『発光源はそいつだぞ』

「え? 九十九が発光源?」


 驚いたように彼女はその大きな瞳をオレに向けた。


 それをヤツに言われるまで考えつかなかったところは逆にすごいと思う。


 これは一般的な反応というより、彼女がオレのことを「自分と同じ普通の人間」だと信じてくれていたということなんだろう。


「どういう意味ですか?」

『俺の言ってる意味分からねえ? そいつが光ったんだよ』

「光った?」

『さっきの強い光はこいつが出したって言ってるんだ。あんたに見せたくなかったから』


 ヤツも先ほどの3人組同様、少しばかりおしゃべりのようだ。


 だが、こちらが欲しがりそうな情報をよこす気は一切ないようで、オレの話ばかりで彼女の興味を引き付けている。


「何を……ですか?」

『黙ってるけど言っていいのか? 第三者の口から』


 明らかにヤツはオレを挑発していた。


 阿呆か。

 そんなミエミエの手に乗るほどの男に見えるのか?


 なめられたもんだな。

 だが、好きにすれば良い。


 オレからの説明の手間が省けるし、ついでにお前が知っている情報もいくつか落としていけ。


「あの……、九十九が何かを隠していて、それを言いたくないならそれで良いです。でも……、あなたがわたしたちをここに連れてこさせた理由。それを聞く権利に関しては、わたしたちにはあると思います」


 ところが、何故か彼女の方から話を変えようとした。


 先ほどまで会話をしていた印象では、もっと知りたい、聞きたいと突っ込んでくることを覚悟していたんだが。


『へぇ、聞きたくないんだ?』

「聞きたいけど聞きたくないです。九十九が隠すなら、聞かないでいるのも友人の役目だと思います。言いたくなれば、自分から言ってくれると信じてますから」


 その言葉を聞いて……、オレの胸がチクリと痛んだ。


 彼女からすれば、三年前まで同じ小学校に通っていただけの関係しかない。

 再会したのもついさっきの話だ。


 その三年間は短いようで長いはずなのに、彼女はすっかりオレを信用しきっていた。


 これは……、オレも逃げずに覚悟を決めるしかない。


 絶対に、オレの口から本当のことを話をしてやる。

 だが、今はこの男をなんとかする方が先だ。


『……あんたはのんきなのか。それとも俺が思っている以上に大物なのか。まぁ、いい。俺の目的はあんたを手に入れること、だ。それさえ果たせれば問題はない』


 ヤツも思考を切り替えたようだ。


「その点に関しては問題大ありです! なんで見ず知らずのあなたに……」


 だが、その言葉で、一瞬だけヤツの顔に変化があった。


 それに気付いたのか彼女も言葉を止めてしまう。


 この男……、もしかして……?


『あんたは、その「見ず知らずの者」からすれば、大変価値のある人間なんだよ。尤も……』


 ちらりとオレを横目で見ながらヤツは言葉を続けていく。


 探られてんな、コレ。

 だが、オレは、さっきのお前みたいに分かりやすい反応はしてやんねえぞ。


『「見知った者」からしても価値があることには変わりないんだがな。だからこそ、護衛が付いたわけだろ?』

「護衛って……、九十九のことですか? それは違うと思いますよ。彼は偶然巻き込まれただけですから」


 彼女の方は、その部分を信じている。


 だから、オレは自分の胸の痛みを押さえつけた。


 ギリギリまで我慢する。

 後で、どう思われようと、今だけは何も言わない。


『へ~、偶然ねぇ。偶然で魔界人がかかるとは思えないんだが。なぁ、あんたも魔界人だろ?そうじゃないとおかしいよな』

「さぁな」


 本当に分かりやすい挑発だな。


 これぐらい流せないと思うのか?


『あくまでとぼける気か。いいだろう。この状況だけで十分なんだが、だがその化けの皮。この娘の前で剥がしてやるのも一興だ』


 そう言うと奴は、黒いグローブをはめた左手を上に掲げた。

 そして、その左手に黒い炎が揺らめきだす。


「黒い……、炎?」


 彼女が信じられないものを見たかのように呆然と呟く。


 ちょっと待て。

 まさか……、こいつの目的はオレじゃなく……。


闇炎魔法(ダークフレイム)


 ヤツの低い声がして、その炎は()()()()()()()激しく爆ぜた――――。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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