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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 過去との対峙編 ~

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新たな出会い

「その石たちはあんたたちにあげるよ。無料(タダ)で良い」


 明らかに値の張りそうな魔石を前に、店員はそんなことを言った。


「「は? 」」


 オレと水尾さんのそんな反応が楽しかったのか、店員はクツクツと笑いながら、何かを払うように片手を振る。


「これらの石があんたたちを呼んだ。そして、そこの坊やはその石にかなりの価値を見出した。そしてワタシは()()()。対価としては十分だ」

「で、ですが……」


 これらの石はかなりの価値がある。

 それを無料(タダ)だと!?


 裏がありそうで警戒してしまう。


「どうせ、()()()()()だからね」


 元手がタダだからだと言う。


 それならその大盤振る舞いにも納得はできるが……。


 だが……。


「それなら、そこの『黄水晶』と、『緑柱石』を追加で買いましょう」

「おや、良いの?」

「これらを無料というのは、いくら何でも頂きすぎです」


 相手が承知してくれても、オレ自身が納得できなければ、それは対価が吊り合っているとは思えない。


 天然魔石は発見、採掘するのも大変だが、管理も慎重にする必要があるのだ。


「それじゃあ、1ロゼで」


 それはボり過ぎだろう。


 ロゼはドランの100万倍だ。

 そして、このウォルダンテ大陸の貨幣の中では一番、価値の高い通貨でもある。


 そんな単位を露店で耳にするなんて思わなかった。


「流石に持ち合わせがないですね」


 オレは笑顔で断りを入れる。


 何よりオレは相手の()()()()()()()()()()()()()()()()


「それでは坊やはそれらの石にどれだけの価値を付ける?」


 今度は「見出す」ではなく、「付ける」ときたか。


「石自体は『黄水晶』に1ドラン、『緑柱石』には1.7ドランですが、その前の三つの石の代償も考えれば、全部で10ドランですかね」


 それでも安いぐらいだ。

 先の「赤玉髄」、「藍柱石」、「紅玉」の価値があまりにも大き過ぎる。


「坊やは真面目で融通が利かないってよく言われない?」


 よく言われるけど、初対面で言われるのは初めてだと思う。


「これは、彼女も苦労するね」

「「はい?」」


 オレと水尾さんの声が重なった。


「おや、一緒に魔石を選ぶのに彼女じゃないの?」


 ああ、水尾さんのことか。

 言われ慣れていないので、反応が遅れた。


「私は彼女の護衛です」

「違うね」

「へ?」


 何故か、即答された。


「少なくとも、この嬢ちゃんは坊やの()()()()()()()()()。違う?」

「……そうですけど」


 そんなに分かるものなのか?


 目深に被られたフードの奥に強い光を見た気がした。

 そんなはずはないのに。


「ああ、魔石は全部で5ドランだね。それ以上はワタシの方が貰い過ぎになる。納得できなくても納得しなさい。こちらにも坊やの知らない事情があるんだよ」


 そう言われては承知せざるをえない。

 オレは財布から、5枚の紙幣を取り出す。


()()()()()()()()()()()()()ね」


 紙幣を渡す時、そう小さな声で囁かれた。


「覚えておきなさい、坊や」


 それは耳よりも先に脳に届く。


「『()()()()()()()()()()()()()』」


「なっ!?」


 その聞き覚えのある言葉に思わずオレは顔を上げる。


 薄紫色の髪の……女は光の無い瞳をオレに向け、さらに……。


『今代の「聖女」は、「光」がなければ「神域」に至らない』


 その声色を変えた。


 それでも、オレは動けない。


 その光の無い瞳と感情のない機械的な声に魅入られたように、身体が固まってしまった。


『やがて「聖女」は左手に宿る「闇」に呑まれ、世界は「影」に覆われる』


 そんなオレにできることは……。


『「光」を得た「聖女」が希望を歌う時、この世界は導かれるだろう』


 少しでもこれを覚えておくことだった。


 何故か、身体が震えている。


 それは紙幣を渡す程度の微かな時間だったのだろう。


 だけど、何度も頭の中で反響し続ける。


 まるで、これらの言葉を忘れないようにと。


「まあ、これが坊やへの対価ってことだね」


 その言葉で金縛りのようなものが解けた。


 額から汗が流れ落ちる。


「わ、私が支払うべきでは?」


 今のはオレの考えが間違っていなければ、「神言(しんげん)」ってやつだ。


 つまり、この店員は、いや、この女は商人ではない。

 だから、魔石の価格に、いや、儲けに拘らないのだ。


「今のは、他者が聞いても意味がないものだよ。分かるだろ?」


 いや、その割に「世界」とか言ってなかったか?


「じゃあ、これが魔石ね。お買い上げありがとうございます」


 まるで、会話を打ち切るかのように、店員はオレに魔石を押し付けて、そのまま、店ごと姿を消した。


「「なっ!? 」」


 水尾さんと驚きの声が重なる。

 だが、それでも目の前にあった店はもう姿を現さない。


 水尾さんがしゃがみこんで、地面に手を当てて……。


「魔力の、残滓すらない……、だと?」


 そう茫然と呟いた。


「九十九、今の店員に何かされたか?」

「何かされたというか……」


 手渡された魔石は間違いなく本物だった。


 しかも、魔力が漏れないように内側に魔封じの処置が施された袋に入っている。


「あの店員……、占術師です」

「なんだと!?」

「『神言(しんげん)』のような言葉を……」


 そこで、オレはすぐに紙と筆記具を取り出して、先ほどの言葉を書き留める。


 店が消えた衝撃で頭が真っ白になったために、忘れていないかと心配したが、意外にも覚えていた。


 それだけ、オレにとっては忘れがたい言葉だったのだろう。


「なんだ、それ?」

「オレにもよく……分かりません」


 だが、内容的に「聖女」に関することだった。


 ―――― 運命の女神は勇者に味方する


 ―――― 今代の聖女は、光がなければ神域に至らない


 ―――― やがて聖女は左手に宿る闇に呑まれ、世界は影に覆われる


 ―――― 光を得た聖女が希望を歌う時、この世界は導かれるだろう


 文章にすればたった四行。

 それでも、そこに重大な意味が隠されているような気がしてならない。


 占術師はジギタリスのように国に雇われている者ばかりではない。


 それこそ行商人のように世界中にいると言われているが、その中に本物と呼ばれる者はほんの一握り……、いや一摘(ひとつま)みらしい。


 先ほど、オレが言葉を交わした相手がその一摘みの人間かは分からない。


 だが……。


()()()()()!?」


 そんな言葉が背後から聞こえて、オレの思考は掻き消された。


 聞き覚えのある単語だったが、いつも聞いている声とは全く違うもの。


 そもそも、その気配は近くにない。

 もっと離れた場所にある。


「あ!?」


 どこか不機嫌そうに答える水尾さん。


 だが……。


「まさか……、こんなところでお会いできるなんて!!」


 そう言いながら、黒い短い髪の女が水尾さんに飛びついた。


「まさか、『アッコ』か!?」

「はい!! 『菊』の花に、江戸の『江』と書いて、『菊江(あきこ)』と読む、『アッコ』です!!」


 水尾さんの驚く言葉に、張り付いたまま、満面の笑みで女が答えた。

 どうやら、知り合いらしい。


 だが、その言葉に突っ込みどころしかない。


 「菊」って「あき」と読むのか?

 「江」の方はなんとなく分かるのだ。

 「長江」とかあったから。


 その漢字ではほとんどの人間は「きくえ」って読むと思うぞ!?

 そして、「あきこ」なのに呼び名は「あっこ」なのか?


 その呼び名だと、背の高い歌手しか思い浮かばねえ!!


 しかもここにいるってことは魔界人だよな?

 何故、わざわざその漢字を当てたんだ!?


 「あきこ」と読ませたいなら、他にも漢字はいっぱいあっただろ!?


「アッコも、魔界人だったのか」

「はい!! 富良野先輩も魔界人だったなんて、すっごく嬉しいです」


 そう言って、ようやく女は水尾さんから離れた。


 だが、水尾さんの目を掻い潜っていたなら、相当な潜伏能力だと思う。

 人は見かけによらないというやつか。


「まあ、あの学校……。魔界人が多かったからな」

「はい!! 木の葉を隠すなら、なんとやら……ですよね!!」


 そう言えば、あの漫画描きな男もそんなことを言っていた気がする。


「それにしても感動~。まさか、富良野先輩にお会いできるなんて~」


 顔を赤らめて水尾さんと会話する女。


 なんだろう?

 このオレの場違い感。


 なんとなく、女子校に迷い込んだような気がする。


「私、()()()()()()()()()()()()()んですよね~。富良野先輩、会ったことありません? 魔界人なのは間違いないと思うんですけど、この大陸のどこにもいないんですよ~」


 ちょっと待て?

 ()()ちゃん……、先輩?


 塩田先輩とか、汐崎先輩とかか?


 勿論、オレの頭の中には、別の名前が頭をよぎっているが、オレは無関係だと思いたかった。

 いや、おかしいだろ?


 この大陸のどこにもいないって、既に大陸中探した後ってことだよな?

 どんな探し方をしたかは分からないが、いろいろおかしいと思わないか!?


 そんな風に脳内で大量に突っ込みを入れ続けているオレをよそに。


「アッコは本当に昔から、()()()()だよな」


 水尾さんは容赦なく、現実を突きつけてきたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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