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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 過去との対峙編 ~

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【第88章― 花と芸術の都 ―】咲き誇る町

この話から88章です。

よろしくお願いいたします。

「ふわああああああっ!!」


 リヒトと別れ、あの島を出た後、わたしたちは再び港町マルバから、船でウォルダンテ大陸に上陸した。


 最初の港町は、スカルウォーク大陸の港町マルバほどの喧騒はなくひっそりとしていたのだけど、雄也さんの提案でトルクスタン王子を待つために滞在することになったその町は、とても大きく、近付いただけで叫んでしまった。


 まさに田舎者丸出しである。


 でも、これは初めて見た人は叫びたくなると思うのですよ?


 街道の横に添うように花壇が並び、色とりどりの花が咲き乱れていたのだ。


 その花壇に植栽されている花々は瑞々しく、生命力に溢れている辺り、ちゃんと誰かが管理しているのだろう。


 この世界でも町の中に街路樹が立ち並ぶ場所はあったが、街に入る前の街道から花々を植栽している町なんて初めて見た。


 人間界を思い出して、なんとなく心が弾む。


「花だな」

「うん、花だね」


 だが、水尾先輩と真央先輩はわたしのように叫ぶことなく、すぐ傍の花壇に目もくれずに真っすぐ歩いて行く。


 え?

 この凄さに感動したのってわたしだけ?


 人間界ならともかく、この世界でこの光景ってかなり凄いことだと思うのだけど……。


 そう思いつつ、なんとなく、近くを歩いている九十九を見ると……。


「キットピットスと、ヴィタスカール……」


 入り口の門を飾り立てている赤く大きな花とカスミソウのように細かい黒の花々を見ながら、何やら呟いている。


「ぬ?」

「止血効果のある薬草と整腸剤にもなる薬草だな。なんで、こんな使い方をしているんだ?」

「……」


 薬師志望青年の視点はおかしい。


 違う。

 おかしいのはわたしなの?


 一番後ろを歩いている雄也さんを見ると、困ったように微笑んで……。


「この先にある『リプテラ』は『芸術の都』と言われている町だよ。その門を通り抜けるともっと凄いから、見てみると良い」


 そう言ってくれた。


「芸術の都……」


 人間界にもそう言われている首都があったよね?

 大きな美術館とかがいっぱいあるのかな?


 この世界では娯楽が少ない。

 だから、それはちょっと意外な気がした。


 もしかしたら、街中に絵画とか、彫刻で溢れているのだろうか?


「ストレリチア城内にある神々の彫像は全て、この町で作られていると聞いたかな」

「それは凄いですね」


 言われるままに雄也さんと並んで、街に入ると……、分かりやすく空気が変わった。


「これは、結界?」


 真央先輩がそう呟いた。


「魔法制限系だな。身体強化も無効化されそうだ。移動魔法ぐらいは大丈夫だと思うけど、建物内にはありそうだな」


 水尾先輩も難しい顔をしている。


 わたしは未だに結界の種類は分からない。

 周囲の空気が変わったからなんとなく結界があるっぽいな~って思う。


 でもわたしはそれよりも、前にある街路樹の見事さとか、その近くに可愛らしく並べられている花壇とかの方に目が行く。


 この世界でこんなに花を見るのって……、この前の島?

 いや、あれを数に入れてはいけない気がする。


「栞は花が好きなのか?」

「見るのは好きだね。でも、育てるのは全くダメ。小学校の時、朝顔はなんとか育ったけど、ミニトマトは収穫前に枯らしちゃった」

「あ~、ミニトマト、あったな~」


 同じ小学校出身の青年は思い出したかのようにそう言った。


 こんな時、同級生って良いよね。


「高田たちの学校ってそんなのがあったんだ」

「あれじゃないか。一年や二年が夏休みに持ち帰っていたやつ」

「ああ、あの重そうなやつね。鉢に支柱とかを刺したまま持ち帰るから、身体がまだ小さいから大変そうで、近所の子を手伝った覚えはあるよ」


 小学校が違っても、教材はそう変わらないらしい。


 水尾先輩や真央先輩は10歳で人間界に行ったはずだから、小学校も中学年、高学年になっている。


 もう家に持ち帰って観察日記の年代ではなかったってことだろう。


「この町には花束だけでなく、フラワーアレンジメントができる花屋もあるよ」

「……フラワーアレンジメントってなんだ?」


 雄也さんの言葉に水尾先輩が不思議そうな顔をする。


「西洋風生け花のことですよ。花器を使う点は同じですが日本の華道が植物を使って空間や間を楽しみ、精神を洗練させることに対して、たくさんの数や種類の花を使って隙間なく華々しい雰囲気を作る技術ですね」


 そして、何故か雄也さんの替わりに答えた雑学青年は、こんなことにも詳しかった。


 わたしは、フラワーアレンジメントって言葉は知っていたけど、西洋風生け花ってことは知らなかったよ?


 花々を可愛らしくもゴージャスに使って、見た目を楽しむ……、ってイメージだった。

 あと、なんか器に入った丸っこく作られた花束って感じかな。


「九十九は、その知識をどこで使うつもりで頭に入れていたんだ?」

「兄貴がやっていたから……、ですかね?」


 その言葉で雄也さんに注目が集まる。


「そんなに疑問に思うことかな? ブーケも、フラワーアレンジメントも、リースも、ドライフラワーも、可愛らしいから興味を持っただけなのだけど……」


 困ったように雄也さんは笑うけれど……。


「それらのほとんどは、この世界に不要な技術じゃないか?」

「まあ、そういった可愛いものなら確かに若い女の子に受けるとは思うけどね」


 水尾先輩と真央先輩には不評なようだ。


「人聞きの悪いことを言わないで欲しいな。仕えるべき主人が可愛い女の子だと分かっているのだから、できる限り、女性が好む方向性の知識を入れるのは当然のことだろう?」

「「「可愛い女の子? 」」」


 ちょっと待って?

 水尾先輩や真央先輩はともかく、九十九がそこで疑問形なのは何故?


 あなたの主人は、雄也さんが仕えている対象と同じ人物ですよね?

 それなのに、「可愛い女の子」という言葉で疑問を持たれるのって凄く複雑なんですけど!?


「高田がちっこくて可愛いのは認めるけど、世間一般で言う女性好みの趣向に興味を持つか?」

「確かに高田は小さくて可愛いけど、巷で言われている女らしい趣味からは少しばかりかけ離れている気がするね」


 同じ顔で似たような言い回しをしないでください。

 傷が深くなります、先輩方。


「これ以上、オレは何も言うまい」

「その態度は言ってるも同然だと突っ込んでも良い?」


 中途半端な優しさは却って傷付くんですよ?


「少なくとも、この中では花を愛でる程度の嗜みはあるとは思っているけど」

「当人に飾り気はないけどな」


 雄也さんの言葉に棘のある返しを九十九はした。


「栞ちゃんは自分を着飾ることに興味がないだけで、綺麗な物は好きみたいだよ?」


 言われて改めて考えてみる。


 綺麗な物は確かに好きだ。


 ただ自分に似合わないと思っているだけで、店先で服や装飾品を見ることだって嫌いではない。


 九十九から髪型を変えられたり、化粧をされるとそれなりにテンションも上がる。


 漫画や小説の絵だって、可愛かったり綺麗だったりすると感嘆の息が漏れる程度の意識はある。


「この町は退屈しない町とも言われている。暫く滞在するには丁度良いかな」

「退屈しない町……ですか?」

「先ほど言った花屋だけでなく、様々な宝飾店、洋品店、武器屋、防具屋、魔法具屋、魔石屋、魔法書屋など、ありとあらゆる専門店があちこちにあるんだ。それらを全部回るには、一週間では全然、足りないとも言われている」


 カルセオラリア城下は大きな建物に纏まって百貨店(デパート)商店街(ショッピングモール)みたいな感じだったけど、どちらかというと……、ジギタリス国内にあった行商人の村に近い感じかな?


 でも、その規模は段違いである。


「魔法書は気になるな~。フレイミアム大陸とは違った発見がありそう」

「私は魔石かな。ウォルダンテ大陸の石はどんなものがあるんだろう」


 雄也さんの言葉を聞いて、真央先輩と水尾先輩がそれぞれ目を輝かせた。


「その前にまずは拠点となる場所を探してからだね。あと、結界があるから危険は少ないだろうけど、少なくとも、男女二人以上での行動を基本としようか」


 この場所に魔法制限の結界があるなら、確かにその方が良いだろう。


 雄也さんも九十九も魔法だけでなく、物理攻撃もできる。

 しかも、武器を選ばず、その場にあるものを使えるし、いざとなれば体術だってできるのだ。


 この2人なら、護衛として不足がない。


「「男女二人以上……」」


 でも、真央先輩と水尾先輩は雄也さんのその提案に引っかかりを覚えたらしい。

 何故かお互いを見ている。


「ミオはどちらの邪魔をしたい?」

「邪魔?」


 真央先輩の言葉に、水尾先輩が眉を顰めた。


「私はユーヤと一緒に行動するつもりだけど、そうなるとミオは私たちと高田たちのどちらかの邪魔をすることになるでしょう?」

「う……」


 何故か、水尾先輩は言葉を呑みつつ、わたしと九十九を見て、また真央先輩を見た。


 水尾先輩は雄也さんに苦手意識がある。

 そうなると、真央先輩と雄也さんと一緒に行動はしにくいだろう。


「ああ、高田がユーヤと行動するつもりなら、私がお邪魔ってことになるかな?」

「ふへ?」


 そうか。

 わたしの護衛は九十九だけでないのだ。


 だから、雄也さんとわたしが一緒に行くなら、真央先輩と三人で行動するってことでも良いのか。


 そして、この場合、お邪魔虫は多分、わたしだと思うのです。


「俺は誰と一緒でも問題ないよ」

「オレも別に構いません」


 そして、護衛たちはいつものように選択を委ねる。


「私はユーヤと一緒の方が面白そうだし、ミオは勿論、九十九くんだよね?」

「そうなるかな」


 真央先輩と水尾先輩はそれぞれの理由から、護衛とする方を決めている。


「じゃあ、高田はどちらの護衛を選ぶ?」


 真央先輩のそんな言葉に、わたしは何故か、妙な緊張感を覚えたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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